土地や建物は生前贈与と相続どちらが得?生前贈与のメリット・デメリットをわかりやすく解説
今後、不動産を相続する可能性のある人は、相続の知識だけではなく生前贈与についても知っておきましょう。
生前贈与とは、生存している個人から別の個人へ財産を無償で渡すことです。生前贈与をすることで、財産を渡したい相手に確実に渡すことができます。
しかし、土地の生前贈与のメリットはなんとなくわかったとしても、不動産を生前贈与をした場合のデメリットについては、わからない方も多いでしょう。
今回は、土地や建物(不動産)を生前贈与した場合のメリット・デメリットについて解説します。是非、参考にしてください。
この記事はこんな方におすすめ:
「土地や建物の生前贈与を検討している人」「不動産を生前贈与して節税したい人」
- 生前贈与によって非課税で財産が贈与できる場合がある
- 財産の金額によっては、多額の贈与税がかかり節税にならないことも
- 生前贈与をする前に、税理士などの専門家に相談しておくと安心
生前贈与とは
生前贈与とは生きている個人から別の個人へ財産を無償で渡すことです。生活の援助や相続税を減らす目的で行われます。
しかし、生前贈与をした財産には、贈与税がかかることがあります。そのため、生前贈与を行う際は、相続税と贈与税を試算しどちらが税金が抑えられるか確認しましょう。
なお、生前贈与をする人を「贈与者」、財産を受け取る人を「受贈者」と言います。
▼相続対策は一人で悩まず専門家に相談しましょう▼土地や建物(不動産)を生前贈与するメリット
土地や建物(不動産)を生前贈与するメリットは、大きく2つ考えられます。
- 節税効果を期待できる(ただし、ケースバイケース)
- 渡したい不動産を渡したい人に確実に渡せる
節税効果を期待できる生前贈与の方法
生前贈与の課税方式である暦年贈与や相続時精算課税制度、非課税制度などを活用することで、財産の一部を非課税で渡すことができます。
また、それによって相続税が課される財産が減りその意味でも節税効果が期待できます。
暦年贈与を活用する
暦年贈与とは、受贈者1人につき、1月1日~12月31日までの1年間に110万円まで非課税で贈与できる制度です。
110万円以下であれば、税務署への申告の必要性もありません。
110万円を超えた場合、金額に応じて10~55%の税金が発生します。贈与には一般贈与財産と特例贈与財産があります。
特例財産は、親や祖父母などの直系尊属から、18歳以上(令和4年3月31日以前の贈与については「20歳」)の子や孫などの直系卑属への贈与するもので、税率が低く設定されています。
【一般贈与財産用】(一般税率)
基礎控除後の課税価格 | 200万円 以下 |
300万円 以下 |
400万円 以下 |
600万円 以下 |
1,000万円 以下 |
1,500万円 以下 |
3,000万円 以下 |
3,000万円 超 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
税 率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | ‐ | 10万円 | 25万円 | 65万円 | 125万円 | 175万円 | 250万円 | 400万円 |
【特例贈与財産用】(特例税率)
基礎控除後の課税価格 | 200万円 以下 |
400万円 以下 |
600万円 以下 |
1,000万円 以下 |
1,500万円 以下 |
3,000万円 以下 |
4,500万円 以下 |
4,500万円 超 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
税 率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | ‐ | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
相続時精算課税制度を活用する
相続時精算課税は、60歳以上の親や祖父母から、18歳以上(令和4年3月31日以前の贈与については「20歳」)の子や孫へ贈与する場合に選択できる制度です。
相続時精算課税を選択すると、受け取った額の合計が2,500万円を超えるまで贈与税が非課税となります。ただし、贈与された財産は相続が発生したときに相続財産として加算され、相続税が課税されます。
相続時精算課税は、贈与者一人から最大で2,500万円まで贈与税が非課税で贈与できる制度なので、父、母の両方から2,500万円ずつ贈与された場合でも非課税になります。
また贈与額が2,500万円を超えた場合は、超えた分の金額について一律20%の税金が発生します。
令和6年1月より新しくなった相続時精算課税制度
令和5年度の税制改正において、相続時精算課税制度に年間110万円の基礎控除が創設されました。年間110万円以下の贈与であれば贈与税はかからず、さらに、累計2,500万円までの特別控除に含める必要はありません。
相続時精算課税は有利な制度ですが、デメリットも存在します。よく検討してから利用するようにしましょう。
相続時精算課税制度のデメリット
- 一度でも相続時精算課税制度を利用すると、暦年贈与を使えなくなる
- 小規模宅地等の特例が使えなくなる
- 登録免許税や不動産取得税の負担が増える可能性がある
将来価値が上がる可能性が高い土地の場合、生前贈与することで節税対策になる
土地・建物(不動産)は、分割しづらい財産のため、相続時精算課税制度を利用するとスムーズに贈与できます。
相続時精算課税制度では、贈与した財産は贈与時の価格で相続時に精算されるため、今後値上がりする可能性が高い財産をその前に贈与することで、相続時の税負担を軽減できる可能性があるのです。
例えば5,000万円で贈与された財産が相続時に1億円になっていても、相続財産に加算される金額は5,000万円になります。
土地から収益が得られる場合、生前贈与によって節税対策になる
賃貸アパートなどの収益が出る不動産を所有している場合、早めに贈与することで家賃収入を子どもに渡すことができます。
親に行くはずの収入が子に貯まるため、親の相続財産が減り相続税も減ることになります。
生前贈与の特例制度を活用する
配偶者控除
配偶者に自宅を贈与したときに、配偶者控除を利用できます。
配偶者控除は、結婚して20年以上経過した夫婦の場合に夫婦間で2,000万円まで非課税で自宅を生前贈与できる制度です。おしどり贈与ともいわれています。
この制度は前述した暦年贈与と併用が可能のため、最大2,110万円まで贈与税を非課税にすることができます。また、この制度は相続時点から3年以内(令和6年1月1日からは7年)の贈与でも、生前贈与加算にはなりません。(生前贈与加算については後述)
配偶者控除の対象となるのは自宅、もしくは自宅購入のための資金となります。同じ配偶者からの贈与は一生に一度しか受けられません。
この制度を利用するには、受贈者が贈与を受けた年の翌年3月15日までにその不動産に住み、その後も住み続けるなどの条件があります。
また控除を受けるにあたり税務署への申告も必要です。
住宅取得資金贈与の特例を活用する
住宅取得資金贈与の特例とは、贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の子や孫に、住宅購入や増改築のための資金を贈与したとき、一定額まで贈与税が非課税になる制度です。
適用期限は令和6年1月1日から令和8年12月31日までに贈与されたものが対象で、非課税枠は、住宅の種類により異なります。
住宅の種類 | 非課税限度額 |
---|---|
耐震・省エネまたはバリアフリー住宅 | 1,000万円 |
その他の住宅 | 500万円 |
この制度は生前贈与加算の対象外です。なお、特例を受けるためには、必要書類を揃えて税務署への申告が必要です。
特例の利用にはいくつか条件があるので、国土交通省ホームページなどであらかじめ確認しておきましょう。
▼めんどうな相続手続きは専門家に依頼しましょう▼生前贈与の節税以外のメリット
生前贈与によって、誰に贈与するのかを選ぶことができるので、相続時のトラブルを未然に防ぐことができます。
相続のときに多いトラブルは、誰がどの財産をもらうかの部分です。あらかじめ誰がどの財産をもらうかわかっていることによって、無用なトラブルを避けることができるでしょう。
▼今すぐ診断してみましょう▼土地や建物(不動産)を生前贈与するデメリット
上での述べたとおり、生前贈与にはメリットがある反面いくつかのデメリットもあります。
節税で生前贈与を検討する方は、相続したときよりかえって費用がかかることのないよう、よく確認した上で意思決定を行いましょう。
不動産取得税、登録免許税などがかかる
不動産を誰かに譲渡する場合、不動産取得税や登録免許税などが発生します。
不動産取得税 = 不動産の価格(課税標準額) × 税率 – 特例
不動産の生前贈与を行うときは、節税効果が見合っているか、相続したときとどのくらい税金が変わるのかを判断してから決めるようにしましょう。
贈与税は相続税よりも税率が高い
暦年贈与や相続時精算課税制度によって非課税になれば問題ありませんが、贈与税が発生してしまうと、相続税よりも大きい金額となる可能性があります。
生前贈与を検討するときは、まず資産の金額を把握して、控除などを適用した上で相続税を試算してみることです。そして、相続税率より低い贈与税の税率の範囲で贈与を行えば、節税になります。
贈与税の税率
贈与税 | ||||
---|---|---|---|---|
基礎控除(110万円)後の課税価格 | 一般 | 18歳以上(令和4年3月31日以前の贈与については「20歳」)の者への直系尊属からの贈与 | ||
税率 | 控除額 | 税率 | 控除額 | |
200万円以下 | 10% | - | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 55% | 400万円 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
相続税の税率
相続税 | ||
---|---|---|
法定相続分人の取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
1,000万円超 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超 1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
基礎控除額は相続税のほうが高い
基礎控除とは、一定の金額までは税金がかからない制度を言います。相続財産の金額が大きくなければ、わざわざ生前贈与をする必要はないかもしれません。
贈与税の基礎控除額 受贈者1人あたり年間110万円 相続税の基礎控除額 3,000万円+600万円×法定相続人の数
小規模宅地等の特例が適用されない
小規模宅地等の特例とは、相続した自宅の評価額を330㎡まで8割減できる、メリットが大きい特例です。しかしこの特例が適用できるのは配偶者、同居の親族、家を持っていない親族のいずれかに限られます。
配偶者以外の人が 住宅取得等資金の贈与税の非課税枠を使って自宅を取得すると、小規模宅地等の特例を利用できなくなります。
維持費が受贈者の負担となる
土地・建物(不動産)は、所有しているだけでも固定資産税や管理費といった維持費が発生します。
相続だと被相続人の財産から支払われるため、課税対象の遺産が減りますが、贈与の場合は受贈者が維持費を払わなければいけません。
これでは相続税対策の意味がなくなってしまいます。
生前贈与が無効となる生前贈与加算に注意する
贈与を受けた日から3年以内に贈与者が亡くなった場合、その生前贈与はなかったとみなされます。贈与した財産は相続財産に加算され、相続税の課税対象となります。これを生前贈与加算と言います。
この生前贈与加算は、3年以内だったところが、2024年1月1日以後は7年以内となりました。つまり、相続税対策で生前贈与したつもりが相続財産になってしまい相続税の対象となり、かつ、遺産分割の対象となってしまうわけです。
なお、生前贈与加算されない贈与もあります。前述した配偶者控除や住宅取得資金贈与の特例、教育資金の一括贈与、結婚・子育て資金の一括贈与などは相続税に加算されません。
そのため、生前贈与を検討する場合は早めに、かつ慎重に検討する必要があります。 ▼めんどうな相続手続きは専門家に依頼しましょう▼
生前贈与を行うときのポイント
生前贈与をするときは、大きな金額になる場合もあるでしょう。いくつかのポイントを抑えておくことで、失敗しない生前贈与ができます。
計画的に行う
生前贈与は何年もかけて行う場合が少なくありません。また、緻密に計画を立てたうえで正確に行わないと、金額の誤りや漏れが発生する可能性があります。
一人で判断すると後で大きなミスに気がつくことも。税理士や金融機関も相談にのってくれるので、まずはじっくりと考えてみるのが良いでしょう。
贈与の証明書をきちんと残しておく
贈与は口頭でも成立します。しかし、口約束だと贈与される側も不安になるものです。
また、贈与したことを税務署に認めさせる必要があります。生前贈与が税務署に否認されてしまうと、相続税が課税されてしまう可能性があるからです。
現金の手渡しや名義預金など、きちんと贈与できたと思っていても税務署から認められないことも。贈与契約書を作成し、確実に証明できるようにしましょう。
領収書を取っておく
贈与されたお金を何に使ったのかを明らかにするためにも、領収書を取っておく必要があります。
また、税務署から生前贈与を認めてもらうためには「受贈者が贈与者からもらったお金などを使っていること」という条件があります。贈与したとしても、実質的には被相続人の名義借り財産と判断されてしまう可能性があるからです。
いつ指摘されても大丈夫なよう、領収書はまとめて保管しておきましょう。
▼めんどうな相続手続きは専門家に依頼しましょう▼まとめ
今回は、土地・建物における生前贈与のメリット・デメリットについて解説しました。
特に節税効果を期待する場合は「思ったより節税にならなかった」という場合もありますので、生前贈与をするかどうかは慎重に検討をする必要があります。
また生前贈与によって、家族の相続トラブルを防ぐことにも繋がります。
生前贈与を検討する場合は、贈与する金額やタイミングなどによっても節税の効果が大きく変わりますので、専門家に相談してから決めても良いでしょう。
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