遺言書を作成した方がいい12の状況をケースごとにわかりやすく紹介!
民法では、相続人の相続分を定めています。
例えば、「子及び配偶者(妻)が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする」というように定められています。これを具体的に表すと被相続人(父親)の遺産が1,000万円だったとき、この場合に民法に従って遺産を分けると、子どもと配偶者(妻)で、2分の1なので、500万円ずつ相続することになります。
しかし、遺言者の療養看護に努めてくれた相続人に対して多くの財産を遺したいといった場合や親孝行してくれた子供に多くの財産を遺したい場合など、特別な人に多く遺産を残したいという希望もあるでしょう。そういった場合に遺言書が有効な手段となります。
この記事では、特定の人に財産を残したい場合など遺言書を作成した方がいい12の状況をケース別に沿って解説していきます。是非参考にしてください。
遺言書とは
そもそも「遺言書」が何か?と聞かれると正確に答えられる方は少ないと思います。
「遺言書」は一般的には残された遺族の方に向けたメッセージとしての意味合いで使われているかもしれません。
自分の死後に自分の財産をどのように分けるのかを意思表示する書面を「遺言書」といいます。
遺書と遺言書の違い
「遺言書」と「遺書」の違いは、法的効力があるかないかです。
「遺書」は、遺族の方に向けたメッセージであって、法的効力はありません。一方、遺言書は、法的効力をもつ公式な書類です。
遺言書を作成した方がいい12のケース
相続は、金銭的価値のあるものを分けることから肉親間であっても争いが生じやすいのも事実です。
そこで、遺言書がどのような状況のときに作成してあるとよいか、以下の12のケースをご紹介します。
- 妻(配偶者)に全財産を遺したい
- 妻が自宅に住み続けられるように配偶者居住権を設定したい
- 両親に財産を多く遺したい
- 兄弟姉妹に財産を多く遺したい
- 孫に財産を遺したい
- 未成年の子供に財産を遺したい
- 甥や姪に財産を遺したい
- 養子に出した子に財産を遺したい
- 親の後妻に財産を遺したい
- 生前世話になった友人や知人にも財産を遺したい
- 廃除された相続人にも財産を遺したい
- 内縁の妻に財産を遺したい
1.妻(配偶者)に全財産を遺したい
相続人として妻と子どもがいる場合、妻と子どもは法定相続分としてそれぞれ2分の1の権利があります
ただ、子どもと疎遠だったとき、自分亡き後、将来しっかり妻の面倒をみてくれるかどうかあてにならないから、妻に全てを相続させたい。
こういった要望がある場合には、遺言によって妻に多めに相続させることができます。
全てを相続させることができないのは、子どもには遺留分があるからです。
「遺留分」とは、一定範囲の法定相続人に認められる最低限の遺産取得割合です。したがって、遺留分侵害額請求をされた場合には、全財産を相続した妻は遺留分を返さなければなりません。そのため、遺留分を考慮して妻への相続分を検討するとよいでしょう。
どうしても全てを妻に残すと書きたい場合は、子どもたちへの被相続人の希望として、遺留分の主張をしないように遺言書に書き添えておくとよいでしょう。法的効果はありませんが、付言事項といって遺言者の願いを伝えるという意味での効果は期待できます。
2.妻が自宅に住み続けられるように配偶者居住権を設定したい
1の例のように、相続人として妻と子どもがいる場合で、遺産は自宅だけだったとき。不動産を2つに分けることができませんから、子どもが売却してそのお金を分けるよう迫ってくるかもしれません。このように法定相続分で遺産分割をすると、妻の住むところがなくなってしまうという心配があるときなどは、遺言書で「配偶者居住権」を設定することで妻はずっと住むことができます。
配偶者居住権とは、自宅の持ち主が亡くなってもその配偶者(妻もしくは夫)が引き続き自宅に住むことができる権利です。妻に配偶者居住権を設定する場合には、遺言で妻に配偶者居住権を遺贈することで配偶者居住権を設定することができます。
遺贈とは、遺言によって相続財産の全部または一部を譲り渡すことをいいます。したがって、遺言書に「その建物を妻に遺贈する旨」を記載する必要があります。もっとも、その遺言で妻が配偶者居住権を取得するためには、相続開始時にもその建物に妻が居住していなければいけません。
配偶者居住権についてもっと知りたい方は「配偶者居住権とは?メリット・デメリットや制度の概要を徹底解説」を参照してください。
3.両親に財産を多く遺したい
相続人が妻と親の場合、相続分を指定しないと法定相続分に従って妻に3分の2、親に3分の1という割合で遺産が振り分けられます。もし、親に法定相続分以上の財産を遺したい場合には、遺言で法定相続分を超える相続分を指定することができます。
ただし、1の例の妻に全財産を遺す場合と同様に、遺留分を配慮した遺言書を作成します。
もし、妻の遺留分が侵害された場合、妻が遺留分侵害額請求を行使してくる可能性があります。そこで、遺言者は、遺言書の付言事項に親に財産を多く遺そうとした事情や妻への感謝の気持ちなどをつづり、妻が遺留分侵害額請求を行使しないように配慮した方がよいでしょう。
4.兄弟姉妹に財産を多く遺したい
被相続人に子がおらず、親がすでに亡くなっている場合には、兄弟姉妹が被相続人の相続人となります。
また、被相続人に配偶者(妻または夫)がいる場合で子どもや親がいない場合の兄弟姉妹の法定相続分は4分1ですので、法定相続分に従うとほとんどの遺産は配偶者に相続されることになります。
しかし、被相続人によっては兄弟姉妹にもっと多くの財産を遺しておきたいと思うこともあるでしょう。その場合、遺言書を作成することで兄弟姉妹に法定相続分を超える財産を遺すことが可能です。
もっとも、1や3の例と同様に、配偶者には遺留分がありますので、遺留分侵害額請求を行使されないように配慮した方がよいでしょう。
5.孫に財産を遺したい
孫はその親である子どもが存命の場合は、基本的には相続分がありません。そのため、孫に相続をさせたい場合は、遺言書で指定します。
しかし、条件を満たせば法律上で相続できる権利が発生する場合もあります。
たとえば、自分の子が既に死亡しており、死亡した子には子ども(孫)がいるというケースです。この場合、孫は自分の親つまり被相続人の子に代わって代襲相続することができます。
「代襲相続」とは、被相続人よりも先に相続人が亡くなっている場合に、被相続人から見て孫などが相続財産を受け継ぐことをいいます。
仮に、孫が、未成年者の場合、親権者である子どもの配偶者等が孫の財産管理を行います。そのため、孫の親権者のことが信用ならない場合には、遺言で第三者を財産管理人に指定することができます。そうすれば、親権者は財産の管理に関与することができなくなります。
6.未成年の子供に多めに財産を遺したい
相続人となるのが子どもと妻の場合には、先述のとおり双方の間で被相続人の財産を分割することになりますが、法定相続分とおりに相続しない場合で子どもが未成年の場合は特別代理人が必要になります。
どういうことかというと、子どもの親は法定代理人として子どもの代わりに様々な契約等の法律行為をしますので、相続人が未成年の子どもと母親(妻)であった場合に、母親が自分の相続分を多めに取ろうとするかもしれません。このように母親(妻)と未成年の子は利害相反関係を生じるため、法定相続分とおりに相続しない場合は特別代理人を選任しなくてはならないわけです。
特別代理人を選任するには家庭裁判所に請求しなければならず手間がかかります。
しかし、遺言書に遺産分割の方法を遺しておけば、その記載の通りに遺産を分割する限り妻と子の利害関係は衝突しないので特別代理人の選任が不要となります。
特別代理人についての詳細は「未成年者の特別代理人とは?選任が必要なケースや手続きの流れ、注意すべきポイントまで」で詳しく説明しています。
7.甥や姪に財産を遺したい
被相続人に子や孫、父母や祖父母などもいないという場合には、兄弟姉妹が配偶者と共に相続人となります。
兄弟姉妹の子である甥や姪には、原則として相続権はありません。甥や姪が相続できるのは代襲相続できる場合に限られてきます。
しかし、兄弟姉妹に相続させるのではなく、直接甥や姪に遺産を譲り渡したい場合には、遺贈によって遺産を分け与えることができます。
なお、兄弟姉妹に遺留分はありませんので、遺留分侵害額請求を行使されることはありません。
甥や姪に相続する方法は「おひとりさまが甥や姪に財産を残したい!相続と贈与どちら?代襲相続のしくみを解説」で詳しく説明しています。
8.養子に出した子に財産を遺したい
子を養子に出した場合、養子には実父母と養父母の2組の父母がいることになります。
養子には、普通養子と特別養子の2種類があります。
「普通養子」とは、血の繋がった実の親との親子関係を残したまま、養親と新しく養子縁組を行うことです。
「特別養子」とは、養子縁組の日から子としての身分を取得する点は普通養子と同じですが、この時点で実の親との親子関係がなくなってしまうことが特徴です。
普通養子の場合は、遺言に記載しなくても問題なく実父母の財産を養子に相続させることができるのですが、特別養子の場合には、遺言に記載しないと養子に出した子に財産を遺すことができないのです。
養子については「養子縁組による相続税対策と養子の相続権や法定相続分を完全解説!」で詳しく説明しています。
9.親の後妻に財産を遺したい
親の後妻は、遺言者と養子縁組をしていなければ、血縁関係もなく、法律上の親子関係もありません。
しかし、法律上の親子関係がないだけで、事実上親として面倒をみてもらい、財産を譲りたい場合もあります。
そこで、遺留分を有する相続人がいる場合、血縁関係のない親の後妻に遺贈する理由を明記しておいた方が争いを防止できるのでしょう。
遺言者の親の再婚相手には遺言者の財産を受け取る権利がありませんので「遺贈する」旨を明記します。
相続人以外の者に遺贈する場合には、遺言執行者を選任しておくとよいでしょう。
遺言執行者とは、各相続人の代表として遺言の内容を実現するために必要な手続きをする人のことをいいます。遺言執行者が指定されていなければ、登記申請や預貯金の解約の際に、相続人全員の協力が必要になり、非協力的な相続人がいると手続きが円滑に進まなくなるからです。
遺言書執行者についての詳細は「遺言執行者とは?どんな場合に必要?遺言執行者の選び方と役割、報酬」を参照してください。
10.生前世話になった友人や知人にも財産を遺したい
例えば、被相続人が、生前に娘の夫に世話になっており、娘の夫に財産を遺したいといった場合があります。被相続人と娘の夫とは、法律上親子関係にありませんから、遺産を相続させることはできません。
このような法律上の相続人ではない人に自分の死後、財産を渡したい場合には、遺贈という形で財産を譲ることができます。どの財産を与えるのかを遺言書で明らかにしておくとよいでしょう。
もし、相続人がいる場合は遺留分に配慮して作成しましょう。
11.廃除された相続人に財産を遺したい
「廃除」とは、将来相続人になるであろう人(推定相続人)から虐待をうけたり、著しい非行が相続人にあったときに、家庭裁判所に請求して相続権を奪うことです。
廃除の審判確定の後に、その相続人の素行が改まったために、廃除を取り消したいと思いが生じることもあるでしょう。
相続人の廃除を取消したい場合には、いつでも廃除の取消しを家庭裁判所に申し立てることができます。遺言で取消しを求めることも可能です。
ただし、遺言によって取消をおこなう場合は遺言執行者が家庭裁判所に申立てを行うことになります。
廃除についての詳細は「相続欠格・廃除とは?特定の相続人に相続させない方法を詳しく解説」で説明しています。
12.戸籍上の妻とは別に内縁の妻に財産を遺したい
「内縁」とは、事実上は婚姻関係にあるものの、婚姻届が未提出であるために、法律上では配偶者として認められていない関係をいいます。
配偶者は、常に相続人となりますが、内縁の妻は法律上の配偶者ではありませんので相続権がありません。どれだけ事実上の婚姻関係があっても、戸籍上の配偶者でない限り、相続権は一切認められません。
しかし、本妻とは別居中で事実上婚姻関係が破綻している場合には、自分の遺産、特に一緒に居住している土地・建物は内縁の妻に譲りたいということもあります。そのようなときは、遺言で土地・建物を遺贈すると良いでしょう。
もっとも、配偶者には遺留分がありますので、遺留分を超える遺贈は、配偶者から返還を求められる可能性があります。本妻とは、事実上、婚姻関係が破綻していたとしても、遺言で遺留分侵害請求を行使しないように記載してもそれは難しいかもしれません。
まとめ
今回は、遺言書を書いたほうがよい12のケースを紹介しました。各家庭関係・財産状況等多くの複雑な事情がありますので一律にこのやり方がよいと断言することは難しいでしょう。しかし、言葉の意味や制度を少し理解しているだけでも全く違います。
また、折角作成した遺言書が形式的に無効になってしまう場合もあります。法的に有効な遺言書の作成は行政書士などの専門家にサポートしてもらうのがよいでしょう。
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