死後、何かを頼みたいときに必要な遺言書【行政書士執筆】
民法では、相続人の相続分を定めていますので、原則、これに従って遺産を分けることになります。この民法で定められている相続分を法定相続分といいます。例えば、「子及び配偶者(妻)が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする」というように定められています。被相続人(父親)の遺産が1,000万円だったとします。この場合には、子及び配偶者(妻)が500万円ずつ相続することになります。
また、遺言でできることが法律で15個決まっています。
- 認知
- 未成年後見人の指定
- 相続人の廃除
- 相続分の指定
- 特別の受益の持ち戻しの免除
- 遺産分割の方法の指定
- 遺産分割の禁止
- 相続人間の担保責任の指定
- 遺留分の減殺方法の指定
- 遺贈
- 一般財団法人の設立
- 信託の設定
- 遺言執行者の指定
- 祭祀承継者の指定
- 生命保険の受取人の変更
このように民法で規定されていても遺言書として記載されていなければ効果はありませんし、意味がわからないものが多いと思います。しかし、何かを頼んだり、指定する場合に遺言書の内容がとても大事になってきます。
今回は何かを頼んだり、指定する場合に遺言書が必要になる場面を具体的事例に沿ってみていきたいと思います。
遺言書とは
皆さん「遺言書」という言葉を知っていますか。イメージはあっても、「遺言書」が何か?と聞かれると正確に答えられる方は少ないと思います。
「遺言書」とは、一般的には残された遺族の方に向けたメッセージとしての意味合いで使われているかもしれません。しかし、この意味合いで使うのは「遺書」とう言葉になります。では、「遺言」と「遺書」の違いはなんでしょうか。この2つの違いは、法的効力があるかないかです。「遺書」は、遺族の方に向けたメッセージで法的効力はありません。一方、遺言書は、法的効力をもつ公式な書類です。この遺言書に記載されているのが「遺言」です。
遺言は、自分が生涯をかけて築き、かつ守ってきた大切な財産を、最も有効・有意義に活用してもらうために行う、遺言者(亡くなった方)の意思表示です。遺言がないことによって相続財産について争いが生じることがとても多いです。遺言は、そういった争いを未然に防ぐためにも大事です。しかし、遺言だったらなんでも良いというわけではありません。そこでこの遺言が示されている遺言書がどのような場面で必要になるかを理解することが大事になります。
①子に妻の老後の面倒を頼みたいとき
親の扶養は子の義務とされていますが、子に親の扶養をするつもりがなかったり、経済的な理由でできないということがあります。このような場合で、子に妻の老後の面倒を頼みたいときには、負担付遺贈という方法があります。「負担付遺贈」とは、遺言で財産を贈与(遺贈)する人がその財産を受け取る人(受遺者)に対して財産を贈与する代わりに、受遺者に一定の義務を負担してもらうことをいいます。
今回の場合でいうと、子に「母親の扶養をすること」という負担をつけて全財産を遺贈するのです。そうすれば、子は受け取った財産から母親の老後の面倒をみることができます。仮に、子が負担した義務を果たさない場合は、他の相続人は遺贈の取消しを請求できます。
➁特定の者に遺留分を放棄してもらいたいとき
まず、遺言書に「遺留分を放棄してほしい」旨を記載しても、相続人はこれに従う必要はありません。しかし、遺言者の意思を伝えることが大事です。したがって、相続人が納得して遺留分の放棄をしてくれるようにその理由とともに、「遺留分を放棄してほしい」旨の記載をしましょう。相続開始前に相続人が遺留分の放棄をする場合は、家庭裁判所の許可が必要になります。
③葬儀の指示をしたいとき
葬儀の取り決めや方法を遺言書で指示することはよくあります。例えば、「葬式は近親者のみでやってほしい」といった内容の遺言です。遺言書で葬式の方法などを細かく伝えることは大事です。
しかし、それは遺言者の希望に過ぎず、遺族に対する法的効力が生じるわけではありません。遺族はその指示に従う必要は全くありません。とは言っても基本的には、遺族は、遺言者の意思を尊重してくくれるものですから、やはり、遺言者はしっかりその意思を積極的に記載しておくべきでしょう。その際には、抽象的なわかりづらい記載ではなく、なるべく具体的に記載しましょう。
④ペットの世話を頼みたいとき
ペットを飼っているが、自分が死んだ後にペットの世話をしてくれる家族がいないという場合があります。
その場合に、ペットは法律上「物」に該当しますから、ペットそのものを誰かに遺贈するといこともできますが、世話をするにもお金も手間もかかるので、嫌がる人が多いかもしれません。その場合に、そもそも、遺贈を放棄されてしまう可能性も高いです。そこで、負担付き遺贈の形でペットの飼育を依頼するという方法がよいでしょう。
つまり、「ペットを飼育する義務を負う」という負担をつけて金品などの財産を遺贈するのです。現金や預金を遺贈すれば、そこからペットの飼育費用もまかなえますし、遺贈を放棄される可能性も低いでしょう。
⑤生命保険の受取人の名前を変更したい
生命保険は、保険金受取人が保険金の支払いを請求することになります。受取人は保険契約で決まり、保険契約書に記入されています。
保険金受取人が被相続人になっていて、受取人の変更をしないまま被相続人が死亡した場合、保険金請求権は相続財産の一部となります。そうしますと相続人が保険金を相続することになります。
相続人が複数いる場合には、相続分に従って保険金を相続します。保険金受取人が被相続人以外の人になっている場合には、受取人になっているその人が保険契約に基づいて保険金を請求できます。受取人の名義は遺言でも変更することができます。相続人の人以外になにか遺してあげたいときには、受取人をその人に変更すればよいでしょう。
⑥祭祀承継者を指定したいとき
「祭祀承継者」とは、系譜、祭具及び墳墓といった祭祀財産や遺骨を管理し、祖先の祭祀を主宰すべき人のことです。つまり、先祖代々の墓地や仏壇を受け継いで管理している人のことです。この祭祀承継者を誰にするかを遺言によって指定することができます。
祭祀には、費用がかかりますから、その資金をあわせて祭祀承継者に譲り渡しておくべきでしょう。なお、祭祀承継者に指定されたとしても墓参りなどを行わなければいけないという法律上の義務が生じるわけではありません。遺言書に「命日に必ず墓参りをする」などの記載があっても守る必要はなく、あくまでも遺言者の希望になります。
⑦永代供養を受けられるようにしたいとき
「永代供養」とは、お墓参りをしてくれるひとがいない、祭祀承継者を指定しても、その人が必ず供養をしてくれるかはわからない、といった場合に寺院や霊園が管理や供養をしてくれる埋葬方法をいいます。
そこで、信託銀行などに信託して、自分の死後、墓地の管理の費用である永代供養料を、信託財産の収益金で支払ってもらうというも1つの方法です。そうすることによって、信託銀行から寺院などに対して供養料が確実に支払われます。
⑧遺族の財産を管理してもらいたいとき
自分が死んだ後に、認知症などの精神的な障害で判断能力を失った配偶者の生活が心配であるという場合には、成年後見人を選任するのがよいでしょう。しかし、遺言で成年後見人を指定すること自体は可能ですが、その指定に法的拘束力はなく、遺言者の希望という扱いになります。
成年後見人は親族などの請求に基づき家庭裁判所が選任することになっています。しかし、特定の者に配偶者の成年後見人になってもらうことを、遺言者の意思として記載しておくことは大事です。
⑨事業承継をしたいとき
「事業承継」とは、会社の経営を後継者に引き継ぐことをいいます。個人で商店などの個人事業を営んでいて、その店を子に継がせたい場合があります。このような場合には、個人事業の財産は全ての個人財産ですから、遺言で後継者に子を指定して、店舗などの営業用の財産を譲り渡します。
相続人同士でのトラブルにならないように営業用の財産にどのようなものがあるか正確に遺言に書いておくべきでしょう。後継者に譲り渡す方法としては、遺贈または遺産分割方法の指定があります。
⑩債務の免除をしたいとき
債務の免除とは、例えば、遺言者が親友に100万円を貸していたとします。この100万円を遺言で返済しなくてよいと免除してあげることをいいます。債権者は、債務の免除を一方的にすることができます。
この免除に債務者の承諾は必要ありません。したがって、遺言で債務の免除をすることは可能です。債務を免除する場合には、遺言書に、誰の、いつの、どの債権か等の詳細を記載して、しっかり免除の対象となる債権を特定します。また、遺言とは関係ありませんが、時効で債権が消滅するので遺言書に書かないで請求しないままにしておく方法もあります。
しかし、時効前に相続が開始してしまったら、その債権を相続した相続人が債務の弁済を請求してしまう可能性がありますので、確実に債務の免除をしたい場合には、遺言で債務の免除をしておくべきでしょう。
⑪寄付したいとき
自分が死んだあとは、遺産を他人のため、世の中のために使ってほしいという人もいると思います。そのような場合には、公益事業や公益法人に財産を遺贈するのも1つの方法です。とくに、相続人がいないような場合には、国に遺産を持ってかれてしまいます。それならば、自分がよいと思った世の中のために活動している団体に寄付する方が、自分の意思を生かせるというものです。
また、相続人がいる場合には、相続人に自分の思いを伝えて、遺留分の遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)などをしないように伝えることもしておいた方がよいでしょう。遺言書には、どの団体に、どの財産を、何のために等を正確に記載して遺贈しましょう。
⑫自分の死後に遺族にしてほしいことを伝えたいとき
個人的な日記や手紙などは、本人の死後であっても、他人に見られたくないと思う方が多いと思います。このような物がある場合には、その処分を遺言にしっかり記載しましょう。
しかし、気を付けなければいけないことは、遺族の方が好奇心を抱いて見られてしまうことがないように簡潔な記載にした方がよいでしょう。例えば、「処分してほしい」と一言記載するなどにしましょう。
また、遺骨は海に散骨してほしいなどの自然葬を希望する方もいると思います。そのような場合には、「遺骨は海に散骨してほしい」という旨の遺言をすることもできます。自然葬については、法務省と厚生労働省から「節度ある方法による葬送であれば、違法ではない」との見解が示されています。節度ある方法というように、散骨することによってその周辺の方に迷惑がかからないように配慮する必要はあります。
もっとも、こういった私物の処分や散骨に関する遺言に法的効力はありません。遺言者の所有していた日記や手紙は遺族が相続していますからどのように処分するかは遺族の自由です。葬送の方法も最終的には遺族の方が決めることです。しかし、基本的には遺族の方は、遺言者の気持ちを尊重しようとしますから遺言書にはできるだけ希望をしっかり書いておきましょう。また。日ごろから自分の思いを家族の方に話しておくのも良いかもしれません。
まとめ
今回は、遺族に何か頼みたい場合の代表的なものを見てきました。遺言でできると規定されていること以外で法的効力が生じず、希望にとどまるものが多かったかもしれませんが、遺言者の最終的な意思なのでとても大事なことです。遺言者は、遺言をする際には、細かい希望をしっかり書くべきでしょう。
また、遺言書に書かないと法的効力が認められないものもあったので、そこはしっかり行政書士などの専門家と相談して記載に漏れがないようにしましょう。遺言書に書かれた遺言者の意思をしっかり尊重するためには、遺された遺族の協力が必要不可欠なこともわかったと思います。遺言者、遺族の方、どちらも納得いく相続にするためにも専門家にしっかりサポートしてもらうほうがよいでしょう。
▼実際に「いい相続」を利用して、行政書士に相続手続きや遺言書の作成を依頼した方のインタビューはこちら
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