遺言書の撤回(取り消し)・変更の方法を文例付きで解説!遺言書の種類ごとに説明【弁護士監修】
状況の変化などで遺言書の撤回や取り消し、変更をしたいという場合もあるでしょう。後々トラブルにならないよう、確実な対処が重要です。
本記事では、遺言書の撤回・取り消し・変更の方法を解説した後、それぞれの文例について紹介します。また、遺言の撤回とみなされるケース、遺言が効力を発揮した後の取り消し方法、総合的な注意点についても調査しました。遺言書の撤回や変更方法について確認して、確実に処理を進めたい方は、ぜひ最後までご確認ください。
この記事の監修者
京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻出身。東京弁護士会所属(登録番号49705)。宅地建物取引士。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。不動産や男女問題に関する相談のほか、相続問題等にも注力している。
目次
遺言書を撤回または変更する方法
遺言書の撤回方法について、以下の通り遺言の種類別に分けて解説します。
- 自筆証書遺言として作成した遺言書を撤回・変更する場合
- 公正証書遺言として作成した遺言書を撤回・変更する場合
- 秘密証書遺言として作成した遺言書を撤回・変更する場合
作成した遺言書の種類によって、必要な部分をご確認ください。
自筆証書遺言として作成した遺言書を撤回・変更する場合
遺言の撤回については、民法第1022条によって以下の通り定められています。
民法第1022条(遺言の撤回)
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
作成した遺言の全部あるいは一部を撤回するには、遺言を作成した当事者が新しく遺言を作成し、その遺言の中で遺言のすべてあるいは撤回したい部分を「撤回する」と明記します。新しい遺言書に明記することで、前の遺言は記載の通り撤回したものとみなされます。
遺言書を変更する場合、軽微な変更なら遺言書を直接変更します。変更手順は以下の通りです。
変更箇所が少ない場合の遺言書の変更手順
- 遺言の変更したい部分を示して変更
- 変更内容を書く
- 署名する
- 変更の場所に押印
これらの条件が揃っていないと変更と認められないので注意しましょう。変更箇所が多い場合は、新しい遺言書を作り直します。
自筆証書遺言とは、遺言者本人が自分で作成した遺言のことです。従来、すべて自筆で作成し、押印する必要がありましたが、2019年1月13日に施行された改正民法により、遺言書に添付される以下の資料は自筆でなくても認められるようになりました。ただし、遺言書の本文はこれまでどおり、遺言書の全文、日付及び氏名の自筆が必要です。
自筆証書遺言で自筆でなくても認められるもの
- パソコンで作成した「財産目録」の添付
- 銀行通帳のコピー
- 不動産登記事項証明書等を目録として添付
手元にある自筆証書遺言を撤回する方法は、上で説明した、新たな遺言書による撤回のほか、自分で破棄する撤回をすることも可能です。ただし、2020年7月10日に、法務局に自筆証書遺言を保管する制度が施行されたため、法務局に自筆証書遺言を保管している場合は所定の手続きが必要です。
法務局に預けている自筆証書遺言に対して、所定の撤回書を提出して「保管の申請の撤回」を申請し、自筆証書遺言を返却してもらいます。返却された自筆証書遺言を破棄することで、遺言の撤回とみなされます。
公正証書遺言として作成した遺言書を撤回・変更する場合
公正証書遺言とは、遺言者本人が公証人に遺言の内容を口頭で説明し、その内容に従って公証人が遺言者の真意をまとめて作成する遺言です。原本は公証役場に保管されていて、遺言者本人が依頼しても原本を破棄することはできません。また、遺言者本人の手元にある公正証書遺言を破棄しても、原本ではないので撤回とはみなされません。
そのため、公正証書遺言を撤回するには、新たに遺言書を作成して、その遺言の中で撤回する旨を記載する必要があります。
また、公正証書遺言で作成した遺言書を変更する場合は、新しい遺言書を作成します。変更の場合も、遺言者本人が所有している遺言書を変更しても意味がありませんので注意しましょう。
秘密証書遺言として作成した遺言書を撤回・変更する場合
秘密証書遺言とは、遺言者本人が作成した遺言内容に署名押印して、同じ印鑑で封印した上で、公証人と証人2人の前に提出し、所定の手続きを踏んで作成した遺言です。
所定の手続きを踏むことで、遺言の内容は誰にも知られずに遺言者本人の遺言であることを証明できます。秘密証書遺言の保管は遺言者本人が行い、公証役場では遺言書作成の記録だけ残る仕組みです。
秘密証書遺言は遺言者本人の手元にあるため、撤回方法や変更方法は自筆証書遺言と同じです。
遺言書の撤回・修正は種類に関係なく可能
遺言書の種類に優劣はありません。そのため、新しい遺言書を作成して前の遺言書を撤回または修正する場合、前の遺言書がどの種類であっても関係なく遺言書の撤回・修正は可能です。また、新しく作成する遺言は、どの種類で作成しても問題ありません。
遺言書を撤回する文例
遺言書に前の遺言書を撤回する場合の文例について、全部を撤回する場合と一部を撤回する場合に分けて紹介します。
遺言書の全部を撤回する場合の文例
遺言書の全部を撤回する場合の文例は以下の通りです。
文例1:前に作成した遺言書の日付を指定する場合
文例2:前に作成した公正証書遺言を指定する場合
遺言者は、平成31年4月1日〇〇法務局所属公証人〇〇作成平成〇〇年第〇〇号の公正証書遺言を全部撤回する。
令和2年9月23日
住所京都府京都市〇〇区〇〇町1-1-1
遺言者〇〇〇〇
いつ作成した遺言書を撤回するか明確に示し、後から撤回の意思を表明することで撤回したとみなされます。
遺言書の一部を撤回する場合の文例
遺言書の一部を撤回する場合の文例は以下の通りです。
文例1:前に作成した公正証書遺言の一部を撤回する場合
第〇条遺言者は、〇〇〇〇年〇月〇日法務局所属公証人〇〇作成平成〇〇年第〇〇号の公正証書遺言中、第〇条の「遺言者は、別紙1記載の建物を妻〇〇に相続させる」とする部分を撤回する。その余の部分は、すべて上記公正証書遺言記載のとおりとする。
令和2年9月23日
住所京都府京都市〇〇区〇〇町1-1-1
遺言者〇〇〇〇
文例2:前に作成した公正証書遺言の一部を撤回し、変更内容も記載する場合
第〇条遺言者は、〇〇〇〇年〇月〇日法務局所属公証人〇〇作成平成〇〇年第〇〇号の公正証書遺言中、第〇条の「遺言者は、別紙1記載の建物を妻〇〇に相続させる」とする部分を撤回し、「遺言者は、別紙1記載の建物を長男〇〇に相続させる」と改める。その余の部分は、すべて上記公正証書遺言記載のとおりとする。
令和2年9月23日
住所京都府京都市〇〇区〇〇町1-1-1
遺言者〇〇〇〇
いつ作った遺言書のどの部分を撤回、あるいは変更するのかを明確に示し、修正する場合は修正後の内容も併記します。その他の部分は前の遺言のままでいいという旨も記載します。
遺言書の撤回とみなされる3つのケース
遺言書の撤回を明示しなくても、以下の場合は撤回とみなされます。
・前の遺言書と後の遺言書が矛盾する
・遺言書作成後に遺言者が遺言書と矛盾する法律行為をした
・遺言者が故意に遺言書または遺贈の目的物を破棄
前の遺言書と後の遺言書が矛盾する
前の遺言書と後の遺言書が矛盾する場合は、民法第1023条第1項にて規定されている通り、後の遺言書で前の遺言書を撤回したものとみなされます。
民法第1023条(前の遺言と後の遺言との抵触等)
1.前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
(以下略)
遺言書作成後に遺言者が遺言書と矛盾する法律行為をした
民法第1023条第2項では、遺言書作成後に遺言者が遺言書と矛盾する法律行為をした場合は、その法律行為によって前の遺言書が撤回されたとみなされます。
民法第1023条(前の遺言と後の遺言との抵触等)
2.前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
例えば、遺言で「長男〇〇に〇〇の土地を相続させる」と記載した後、その土地を他の人に売却した場合、遺言に記載された相続の部分は撤回したこととなります。
遺言者が故意に遺言書または遺贈の目的物を破棄
遺言者が故意に遺言書または遺贈の目的物を破棄した場合は、民法第1024条の規定により、破棄した部分について、遺言書を撤回したものとみなされます。
民法第1024条(遺言書又は遺贈の目的物の破棄)
遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。
遺言が効力を発揮した後の取り消し方法
遺言者が死亡すると遺言書は効力が発生します。ただし、その遺言書が相続人や受遺者に脅されたり騙されたりして作成していたことが判明した場合、他の相続人は遺言を取り消すことが可能です。ただし、子どもの認知など身分に関する事項は取り消せません。
悪意による遺言書の取り消しを未然に防止する方法
遺言者が心身ともに弱ってきたときに、遺言の取り消しや変更を求める親族が出てくる場合があります。きちんと考えて作成したはずの遺言書も、気持ちが弱ってくると強く言う人の言葉に従わざるを得なくなる場合もあるでしょう。
このようなケースを未然に防ぐための方法として、2つの契約を事前に取り交わしておくやり方があります。
- 家族信託契約 遺言者が財産を譲る人と信託契約を締結しておくと、遺言の取り消しがあっても財産を譲る旨の契約の効力は失われません。
- 任意後見契約 遺言者の身の回りの世話や財産管理に関して本人に代わって取り仕切る後見人を法的に定める契約です。この契約を結んでおくことで、関係のない親族があれこれ財産管理等に口出しできなくなります。
今は問題なくても、後々トラブルに発展する可能性を考え、遺言書を作成する際、これらの契約を締結しておくことも検討しましょう。
遺言書の撤回・取り消し・変更に関する注意点
最後に、遺言書の撤回(取り消し)・変更に関連する注意点について説明します。
遺言書の撤回は公正証書遺言の方式でおこなうと安全
遺言書を撤回する場合は、公正証書遺言の方式でおこなうのがおすすめです。自筆証書遺言や秘密証書遺言は、第三者のチェックが入らないため、形式や記載内容の不備などで無効になるケースがあります。作成した遺言書が無効になると、前の遺言書が有効になり、遺言書の撤回ができません。
公正証書遺言の場合は、作成過程で公証人が法的に効力のある遺言書かどうかのチェックするため遺言書が無効にならず、確実に前の遺言書を撤回できます。
遺言書の撤回権は放棄できない
遺言者が遺言書を撤回する権利を放棄できないことは、民法1026条により定められています。遺言者はいつでも自由に遺言書を撤回する権利があり、他人によってその権利行使を阻害されることはありません。
一度撤回した遺言は一部の例外を除き復活しない
民法1025条には、一度撤回した遺言書は復活しないと定められています。遺言書の撤回をさらに撤回したとしても前の遺言書は復活しません。
ただし、遺言書の撤回が詐欺や強迫などによってなされた場合、撤回された遺言書は復活します。さらに、遺言書の撤回の撤回をした遺言者の意思が、明らかに元の遺言書を復活させたいものだと分かっている場合は、例外的に前の遺言書が復活するケースもあります。ただし、原則として子どもの認知など身分に関する事項は取り消せません。
遺言書の撤回とみなされる部分以外は有効
遺言書の撤回とみなされる部分以外、遺言書の内容は有効のままです。遺言書を全部撤回する場合は、その旨を明記しておきましょう。遺言書を変更する場合や一部撤回するのではなく、前の遺言書を全部撤回して最初から遺言書を作成しなおす方がトラブル防止になります。
まとめ~遺言書の作成は想定されるケースも盛り込んでおく~
遺言書の撤回・変更の方法について解説しました。状況が変化すれば、遺言書もその都度見直して作り直さなくてはなりません。
遺言書を何度も新しく作り直すのが大変だと感じる場合は、妻〇〇が遺言者より先に死亡した場合などの不測の事態をいくつか想定して遺言書に記載しておく、という考え方もあります。しかし、自分ではなかなか想定できないケースもあるため、中立の第三者である法律の専門家に相談して遺言を書くことで、何度も遺言の撤回をせずに済むこともあります。
遺言書をこれから作成する場合や書き直しを検討している場合は、専門家に相談して内容を確認してもらうことを検討してみてはいかがでしょうか。
▼実際に「いい相続」を利用して、行政書士に相続手続きや遺言書の作成を依頼した方のインタビューはこちら
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