遺言の執行に関する手続き|遺言執行者の義務と権限、遺言執行の流れ
親族が亡くなった場合に、遺品の整理をしていると「遺言」が見つかることがあります。遺言が見つかった場合に、どういった流れで何をすればよいのでしょうか。
今回は遺言の執行に関する手続きについて、遺言執行人の選任から、遺言執行者の義務と権限、遺言執行の流れについてご説明します。
遺言とは
まず、遺言とは何かを簡単に説明していきます。遺言とは、被相続人の最後の意思表示のことです。この遺言が残っていることのメリットとしては相続財産の承継について、被相続人の意思を反映させることができます。
例えば、土地は妻に相続させたい場合などに遺言としてその意思を反映させることができます。それでは、この遺言を実際に執行するために必要な手続きをみていきましょう。
検認とは
遺言の執行をするためには、そもそもの前提として遺言が法律で定められた方式として法的効力が認められる必要があります。
遺言作成の方式として代表的な方式なのが、以下の3つです。
- 自筆証書遺言
- 秘密証書遺言
- 公正証書遺言
自筆証書遺言と秘密証書遺言は、家庭裁判所に提出する検認という手続きをしなければなりません。検認とは、相続人に対して遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです。この検認手続きをすることによってはじめて遺言の内容を確認することができます。
一方、公正証書遺言は、2人以上の証人の立ち合いのもとに、遺言者が公証人に対して遺言の内容を口授し、公証人がそれを筆記して遺言書を作成し、遺言者と証人がその筆記を確認してそれが正しいことを確認して承認した上で各自証明押印し、公証人が法律に従って作成した旨を記述して署名押印するという遺言作成の方式です。公正証書遺言は、法的な強制力がありますので検認という手続きを経ないで遺言の内容を実現するための遺言執行ができます。
遺言執行の流れ
遺言の効力が認められたらいよいよ遺言内容を実現させる段階となります。遺言の効力が認められてもそれが執行されなければ被相続人の最終意思を反映することになりません。遺言の内容を実現するためには様々な手続きがあります。その手続きを1つずつみていきましょう。
遺言執行者の選任
まずは、遺言の内容を執行する人を決めましょう。
遺言の内容を円滑に執行するために遺言執行者を選任するのも一つの手です。
遺言執行者とは、各相続人の代表として遺言の内容を実現するために必要な手続きをする人のことをいいます。
具体的には、相続財産目録を作成したり、各金融機関での預金解約手続き、法務局での不動産名義変更手続きなどをおこないます。遺言執行者は遺言の内容を実現するために必要な一切の行為をする権限を持ちます。相続が開始すると、遺言執行者は、選任されたことについて承諾するか断るかの回答をしなければなりません。もっとも、承諾義務が発生したり、断るために特別な理由や手続きが必要ということはありません。
では、遺言執行者はどのように選任されるのでしょうか。
遺言執行者の選任方法
遺言執行者の選任の方法は、以下の3つです。
- 遺言書で指定する
- 第三者に遺言執行者を指定してもらうような遺言書を作成する
- 遺言者死亡後に家庭裁判所にて遺言執行者を選任してもらう
この3つ以外の方法でいつ誰でも選任できるわけではありません。
未成年者及び破産者は遺言執行者になることができません。つまり、未成年者と破産者以外なら誰でも遺言執行者になることができます。しかし、遺言執行者は遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人ですから適当に決めてしまっては後々争いになる可能性が高いです。できれば行政書士などの専門家に依頼した方がよいでしょう。
遺言執行者の選任されたものが遺言執行者になることを承諾したら就任承諾した旨を相続人全員に通知します。 そして、遺言の内容を実現するために具体的な手続きを開始します。
遺言執行者の権限
遺言執行者は、相続財産の管理や遺言の執行について必要な一切の行為をする権利及び義務があります。(民法1012条1項)。遺言執行者は相続財産の保存行為(例えば、不動産の修繕等)、利用行為(不動産の賃貸等)、改良行為(廊下の証明を明るくする等)ができます。
具体的な行為としてどういったことができるかというと
- 相続財産の引き渡し及び管理、相続財産の関係書類の引き渡し及び管理
- 遺言の執行で売買などの財産の処分が必要な場合に、その処分や換価。
- 遺言の執行に必要な訴訟行為
- 遺言の執行を妨害している者に対する排除
といった行為を行うことができます。
遺言執行人が選任され上記行為が認められていることにより、相続人は売買等の処分や、遺言の執行の妨害になるような行為はできません。そのような行為は無効になります。
財産目録
遺言執行者や相続人など遺言を執行する方が決まりましたら遺言の執行の具体的な手続きをみていきましょう。遺言の内容を実現するためにもまずは被相続人の財産を把握する必要があります。遺言の対象となる相続財産を明確に管理するために財産調査を行います。遺言執行人は、その財産調査の結果をまとめた財産目録を作成し、相続人に交付しなければなりません。
財産目録とは、相続財産を整理してまとめた表のことをいいます。これを作成することによって相続財産やその評価額などが明らかになり、遺言執行の際に相続人間でのトラブルを防止することができます。また、相続税を申告する際には財産目録の提出が必要になるので、財産調査が終了したらそれをもとに必ず作成しましょう。
財産目録を作成する際には、不動産や金融資産、その他の権利などのプラスの財産と負債などのマイナスの財産の調査結果を反映させて評価額を算出します。財産調査の際に取得した固定資産評価証明書や残高証明書などを証拠として添付して、くれぐれも記載漏れがないようにしておきましょう。財産目録には決まった様式はありませんので作成者が自由な形式で作成することができます。
分割方法の指定
財産調査をし、相続財産の確認・管理が終わり、財産目録を相続人に交付し終わったら、いよいよ遺言の内容に従って、相続人の相続割合や分割の方法等を指定し、実際に相続財産を分配します。
その分配する過程で、不動産を特定の相続人に相続させる場合などには不動産の所有権移転登記の申請、預貯金を払出し、金銭の支払い等を行うこともあります。遺言の内容によっては、不動産を金銭に変えるために売却などの処理が複雑になってしまうこともあります。
遺言執行人が遺言執行人であることを示して権限内の行為を行ったときには、これらの行為の法的効果は相続人に直接及びます。相続法改正により明確に規定されました。もっとも、遺産分割を禁止する内容の遺言を作成することも可能です。その場合は遺産分割を禁止することができるのは、相続開始の時から5年以内になります(民法908条)。
受遺者への明け渡し
遺言の内容によっては、被相続人は相続人ではない方に相続財産の一部を譲りたい場合があります。この相続財産を譲り受ける相続人ではない方を受遺者といいます。一般的に相続財産は相続人のみで相続するイメージが強いかもしれません。
しかし、こういった遺言によって相続財産を譲る行為である遺贈が行われることがよくあります。
受遺者には、相続人ほど権利が保護されているわけではありません。受遺者には、①受遺者を代襲することはできない➁他の相続人が相続放棄しても受遺者の受遺分は増えない③生命保険金の受取人が相続人の場合、受遺者は保険金を受け取れない等があります。
遺贈には「特定遺贈」と「包括遺贈」があります。
特定遺贈とは、不動産や預貯金などの具体的財産を遺贈する場合をいいます。受遺者が譲り受けた財産が必要なければ相続人や遺言執行者に放棄の意思表示を行うだけでその遺贈を放棄することができます。
包括遺贈とは、相続財産の全部または一部の一定割合を示して行う遺贈をいいます。例えば、預貯金も不動産も全てを譲り受ける場合などがあたります。包括遺贈の場合は、特定遺贈と違い遺贈を放棄するためには相続放棄と同同様に家庭裁判所で相続放棄申述書を提出という手続きをする必要があります。
このように受遺者がいる場合には遺言執行人は遺贈の執行を行わなければいけません。
仮に、受遺者に相続財産であるマンションという不動産を遺贈する場合は、不動産の所有権の移転登記の申請を行います。
認知
遺言の内容に認知するという意思がある場合があります。認知とは、婚姻関係にない男女から生まれた子(非嫡出子)について、その父親が、自分の子であると認めることです。
当然その子と母親は、分娩という事実から親子関係が認められます。認知によって、法律上、子と父親との間に親子関係が生じるので、親子という身分関係に関係する法律関係もまた認知によって生じます。
例えば、認知することによって父親の法定相続人や遺留分権利者になることできるのですが、この認知という行為を遺言によってすることができます(民法781条)。
子供を認知する遺言書が見つかった場合、遺言執行者は、就任から10日以内に認知の届け出をしなければなりません。
届け出は、遺言者(被相続人)の本籍地、子供の本籍地、遺言執行者の住所地のいずれかの市町村役場で行い、認知届出書に遺言書などの必要書類を添付して提出します。認知する子供が成人している場合は本人の承諾書が必要です。認知する子供が胎児の場合は母親の承諾書が必要で、届け出先は母親の本籍地の市町村役場に限られます。
相続人の廃除
相続人の廃除とは、相続人から虐待をうけたり、著しい非行が相続人にあったときに、家庭裁判所に請求して虐待などした相続人の地位をはく奪することをいいます。
相続人廃除の申立てをする主なケースは、①相続人が被相続人を虐待していた場合➁重大な犯罪行為を相続人が行い、有罪判決を受けている③被相続人の財産を相続人が不当に処分した場合④配偶者が愛人と同棲して家庭を省みないなどの不貞行為などがあります。
相続人の廃除は被相続人の生前に本人から申立てを行うこともできます。これにより排除の審判が確定していても、これを取り消す旨の遺言があるときには、遺言執行者が家庭裁判所に廃除の取り消しを申し立てます。取消しの審判が確定すれば、相続発生時に遡って相続権を有していたものとして扱われます。このように相続人の廃除、廃除の取り消しが遺言の内容となっているときは、その内容を実現するために執行しなければなりません。
相続人の廃除の手続きとしては、被相続人の住管轄する家庭裁判所に申立書を提出して廃除の請求をします。排除を認める審判が決したとしても、それで手続きが終わりではありません。審判が確定した後、市区町村にその旨を届け出る必要があります。具体的には、市区町村役場に、相続人廃除の審判書を添付して、廃除の届け出をしなければなりません。
遺言に従わなくていい?
被相続人の最後の意思である遺言の内容を実現するために遺言の執行を見てきましたが、実は遺言に従わないですむ方法があります。遺言者の意思が相続人と違った場合に、相続人全員で遺産分割協議をし、全員の承諾のもとに遺産分割協議書に署名して印鑑証明の印を押印すれば、遺言に従わずに遺産を分割できます。しかし、これは相続人の一人でも反対すれば、遺言の通りにするしかありません。
まとめ
今回は遺言の執行をみてきました。遺言の執行は、被相続人の最後の意思である遺言の内容を実現するためにとても大事なことです。しかし、執行の手続きだけでなく、遺言執行者を選任すべきか、そもそも遺言に従わず、遺産分割協議を全員で行って全く違う相続の分割をするのか、等難しい判断を迫られる場面がいくつもあります。
また、自分個人の話だけではなく、他の相続人や受遺者などの多くの方がかかわってきます。全員が納得いく相続にするためにも、法的知識、多くの経験を兼ねそろえた行政書士などの第三者の専門家にサポートしてもらうのがよいでしょう。
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▼実際に「いい相続」を利用して、行政書士に相続手続きや遺言書の作成を依頼した方のインタビューはこちら
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