タワマン節税が終わる?!マンションの相続税評価の仕組みとその他の特例
2015年の相続税法改正により、基礎控除額の引き下げと相続税の税率が引き上げられました。これにより脚光を浴びた節税対策がタワマン節税です。
しかし、この手法を使った租税回避があからさまな相続税申告に対しては税務署の目も厳しく、また、格差是正の観点から法律の改正もおこなわれており、令和5年の税制改正の大綱でもマンションの相続税評価の適正化を検討する、とあります。
この記事では、なぜタワーマンションは現金よりも相続税が安くなると言われているのか、また今後マンションの相続では、どのような対策を検討できるのかを説明していきます。
- 令和5年税制改正大綱が公表され、タワマン節税防止の検討が行われることが示された。
- タワマン節税とは金融資産を不動産に組み替えて相続税評価額を下げる節税手法の一つである。
- あからさまな節税対策のための購入では効果なし
目次
この記事を書いた人
鎌倉新書にパートタイマーとして入社。2020年チャレンジ制度をクリアし正社員に。
目前に控えたシニアライフを楽しく過ごすため、情報集めに奔走するアラカン終活ライター
資格:日商簿記1級・証券外務員二種・3級FP技能士
タワマン節税にメス!?令和5年税制改正大綱
2022年12月16日に令和5年税制改正大綱が公表され、かねてより問題となっていたタワマン節税防止の検討に入ることが示されました。
出典:自民党「令和5年度与党税制改正大綱」(5)マンションの相続税評価について
マンションについては、市場での売買価格と通達に基づく相続税評価額とが大きく乖離しているケースが見られる。現状を放置すればマンションの相続税評価額が個別に判断されることもあり、納税者の予見可能性を確保する必要もある。このため、相続税におけるマンションの評価方法については、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離と実態を踏まえ、適正化を検討する。
なぜ、このような検討をされるほどの問題になってしまったのでしょうか。
まずはタワマン節税とは何かを見ていきたいと思います。
タワマン節税とは
金融資産でタワーマンションを購入して財産の内容を組み替えることで相続税評価額を下げ節税をする方法をタワマン節税とよんでいます。
タワーマンションとは?
タワーマンションと呼ぶための法的な定義はありませんが、一般的には20階以上高さ60m以上の高層マンションをいいます。
なぜタワーマンションを購入すると相続税を節税できたのか
マンションの土地というのは所有者全体で共有しています。各人の持分の相続税評価額は、マンションの建つ土地全体の評価額を自分の居室に応じた持分で割って算出します。
つまり、各人が保有する部屋の広さに応じて平等に割り振られるわけです。
タワーマンションは普通にマンションと比較すると階数が非常に多いので戸数も多くなります。そのため、各人の持分割合が小さくなることから、負担する税額も小さくなるというわけです。
イメージしやすいように、ざっくりとした例で説明していきます。(わかりやすくするために、専門的な部分や詳細は割愛しています。)
- 1億円でタワーマンションの24階の一戸を購入
- タワーマンションの総戸数は1000戸
- タワーマンションの土地全体の評価額は100億円
上記のケースについて、持ち主が亡くなった場合のタワーマンションの相続税対象額は以下の計算で算出されます。
マンション全体の評価額×持ち主の持分=相続税対象額
100億円×1000分の1=1千万円
買ったときの値段よりかなり低い金額が相続税対象額になることがわかります。
もしタワーマンションを買わずに1億円を現金で持っていたら、まるまる1億円が相続税対象額になりますが、タワーマンションを購入したことにより9千万円を相続税の課税対象外にできたことになります。
このように、タワーマンションの場合は、地積(土地の面積)に対する延べ床面積(建物の各階の床面積の合計)の割合が大きくなるので、各戸の敷地権割合は小さくなることを利用して、金融資産を不動産に組み替えて節税することができたのです。
タワーマンションだけ?普通のマンションでは節税できないの?
マンションのような集合住宅は一戸建てと比較すると、土地部分を他の部屋の所有者と共有で持っているため評価額が安くなることが多いです。
タワーマンションが注目を浴びたのは、普通のマンションより総戸数が多いこともありますが、市場価格も高く資産価値があることで購入目的が投資用であったり、ターゲット層が富裕層であったこともあるでしょう。
ただし、立地するエリアによって資産価値が左右されるのは、マンションも一戸建ても同じです。
タワマン節税のデメリット
いいことづくしのように見えるこのタワマン節税も万能ではありません。以下のようなデメリットもあります。
あからさまな節税対策のための購入では効果なし
相続開始の直前に購入して相続後すぐに売却したようなケースでは、税務署で否認され、通常の方法で計算した相続税評価額ではなく購入金額で評価されてしまう可能性があります。
購入金額で評価されると、相続税対策としての効果はまったくありません。
タワーマンションの価値の下落
購入したマンションの価格が下落してしまい、節税効果以上の損失が生じてしまうリスクもあります。
路線価の高騰
路線価は相続税額や贈与税額に影響する重要な指標です。国税庁が毎年7〜8月ごろに公表しています。
路線価が上がれば相続した不動産の評価額が上がり、相続税額も増えます。
令和4年の全国平均は前年に比べ0・5%ほど上回りました。
タワマン節税の終わりへのあゆみ
タワマン節税は大きな金額を対象とする節税方法であることから一部の富裕層だけがトクをするのは不公平だとの声があがっていました。そのため今までもさまざまな対策がなされてきました。
平成29年度税制改正
平成29年度税制改正では、階層による固定資産評価額が是正されました。簡単にいうと、高層階になるほど固定資産税評価額が高くなるというものです。
ただし、2017年以前に新築時の引渡しがされたマンションは、この改正の対象外なので変わらず高層階の低層階の固定資産税評価額に差がなく相続税対策としての効果が高いままです。
令和4年4月最高裁でタワマン節税を利用した過度な節税が敗訴
被相続人が亡くなる3年前に約13億円で購入したマンションについてこのタワマン節税方法をつかうことで相続税の総額を0円と申告したところ、相続税額が低すぎると国税側が追徴課税しました。しかし相続人が不服を申し立て裁判となり最高裁まで争われた結果、国税側が勝訴しました。相続税更正処分等取消請求事件(令和2(行ヒ)283)
租税負担の軽減を意図してマンションを購入し、画一的な評価を行うことで過度な節税をおこない、実質的な租税負担の公平を著しく害すると判断され、税務署が財産評価基本通達の6項の例外規定を用いて不動産の価額を鑑定評価額に基づき評価判断をおこなったことは適法とされました。
「財産評価基本通達の6項」出典:財産評価基本通達の6項
この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。
令和5年の税制改正大綱
先述のとおり、令和5年の税制改正大綱では「・・・相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離と実態を踏まえ、適正化を検討する。」と検討開始の宣言がなされています。
本改正で具体的にどのようにすると決められたわけではありませんが、早ければ来年中にも何らかの通達が出される可能性もあります。
タワマン節税以外のマンションの相続税対策
不動産を所有している人が亡くなり、一緒に住んでいた相続人が相続税を払うために家を手放さなくなってしまうことになったらあまりにも酷です。不動産の相続によって生活が立ち行かなくならないように土地の評価減の制度は様々なものが用意されています。
マンションを賃貸する
マンションを第三者に貸した場合、その物件が立っている土地は貸家建付地となり、この貸家建付地の課税評価額は、住宅用の宅地に比べ価値が低くなります。物件に対して借りている人の権利が発生するため、その分を貸している人(持ち主)の価値から差し引くことができるからです。
人に貸すことによって、30%の評価減ができます。(令和4年12月時点の借家権割合)
配偶者の税額軽減の特例
「配偶者の税額軽減」は、被相続人の配偶者だけが利用できる制度で「相続税の配偶者控除」と呼ばれることもあります。
配偶者が遺産分割や遺贈により取得した遺産額から、配偶者の法定相続分相当額か1億6000万円のいずれか大きい方の金額を差し引いて、残った金額にのみ課税するという制度です。差し引く金額の方が大きい場合は課税されません。
家なき子特例
小規模宅地等の特例(通称:家なき子特例)は、被相続人が住んでいた宅地や事業を営んでいた土地などを相続した場合に一定の要件を満たすことで土地評価額を最大80%減額出来る制度です。
特定居住用宅地(住宅のために使われていた土地)については以下の要件を満たす必要があります。
- 故人や、生計を一にしていた親族が住んでいた土地を配偶者が相続する
- 同居の親族が、相続した土地に住み続ける
- 生計一親族が、相続した土地に住み続ける
また、被相続人が生前老人ホームに入居しており空き家になっていた場合でも、以下の要件を満たせば被相続人が居住していたとみなされます。
特定事業用宅地等、貸付事業用宅地等を相続した場合も一定の要件を満たせば規模宅地等の特例(通称:家なき子特例)が適用されます。
この記事のポイントとまとめ
本記事ではタワマン節税について説明しました。最後にこの記事のポイントをまとめます。
タワマン節税とは、金融資産を使ってタワーマンションを購入し、相続税評価額を下げる節税手法のこと
タワーマンションは階数が多く戸数が多いため、各人の持分割合が小さくなり税額が軽減され、節税対策が過度になると課税対象外となるリスクもあり、公平性に欠けるとの批判もあり、令和5年度の改正では相続税法の時価主義の下で、市場価格との乖離と実態を踏まえ、マンションの評価方法を適正化する検討が行われる予定。
節税対策を取る際は慎重さが必要であり、特典や制度の変更にも注意が必要
税制改正や相続税に関する特例など、相続を考えるときに考慮したいことは多岐にわたります。
相続税の計算には、相続税評価額を正しく算出する必要があり一般の方には難しい部分もあります。不安があるようであれば、税理士に相談しても良いでしょう。想定していたよりも相続税が少なくなる可能性もあります。
いい相続では、相続税に強い税理士探しのサポートを行っております。ぜひ、お問い合わせください。
▼実際に「いい相続」を利用して、税理士に相続税申告を依頼した方のインタビューはこちら
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