特定贈与信託とは?障害をもつ家族に6,000万円まで非課税で贈与できる方法
家族に障害がある人がいる場合、自分が亡くなるときのことがいっそう心配になるかと思います。
障害をもつ人の生活を支える方法として「特定贈与信託」があります。これを利用すれば、受益者(障害をもつ本人)の障害の程度に応じて最大3,000万円、もしくは最大6,000万円まで贈与税が非課税となります。
この記事では特定贈与信託の仕組みや利用条件について説明します。
特定贈与信託とは
特定贈与信託とは、障害をもつ人を受益者として信託契約(特定障害者扶養信託契約)をし、特定障害者の生活の安定と療養の確保をはかる制度です。
この制度を利用することで、障害をもつ家族で最大3,000万円、もしくは最大6,000万円まで非課税で贈与することができます。そのお金を利用して障害をもつ人の必要な支援やサービスを安定して受けられるようになります。
両親などの扶養者が亡くなった場合でも、信託財産から定期的に生活費や養育費が交付されます。
特定贈与信託の仕組み
まずは委託者(本人の親族など)が受託者(信託銀行など)に財産を託します。
信託した財産(信託財産)から得られる利益は受益者(障害をもった本人)に定期的に交付されます。交付された金銭は生活費や医療費以外の用途で使うことはできません。
障害の程度によって、非課税となる金額が異なります。
受益者の要件
特定贈与信託を受けるためには、受益者の要件があります。
- 特別障害者(身体障害者手帳1級2級、精神障害者保険福祉手帳1級所有者 など):6000万円
- 特別障害者以外の特定障害者(知的障害者、精神障害者保険福祉手帳所有者 など※):3000万円
受託者の要件
受託者は信託会社もしくは信託業務をおこなう銀行に限られます。
信託財産の条件
特定贈与信託で信託できる財産は、主に以下のとおりです。
- 金銭
- 有価証券
- 債券
- 収益不動産
- 障害をもつ人の自宅用不動産
なお、自宅用不動産はそれだけでは信託することはできず、金銭や有価証券、債券、収益不動産などとセットで信託する必要があります。
特定贈与信託のメリット
特定贈与信託を利用するメリットは、以下の3つです。
- 一定額まで贈与税が非課税となる
- 保護者の死後も障害者の生活を保全できる
- 相続開始7年以内に信託しても相続財産に算入されない
一定額まで贈与税が非課税となる
暦年贈与の場合、1年間に贈与された金額が110万円を超えた場合に贈与税がかかります。
ですが特定贈与信託を利用した場合、最大6,000万円まで非課税となります。したがって大きな金額でも贈与税がかからず、節税効果が得られます。
保護者の死後も障害者の生活を保全できる
財産の管理は、受益者が亡くなるまで受託者である信託銀行にまかせることができます。保護者や親族が亡くなったあとも安全に管理されます。
金銭を他人に流用されたり、悪用されるリスクも減るでしょう。
相続開始7年以内に信託しても相続財産に算入されない
相続開始7年以内の贈与は税法上、贈与されたものが相続財産として計算されますが(生前贈与加算)、特定贈与信託により非課税の適用を受けた金額については、相続税の計算の対象となりません。
特定贈与信託のデメリット
特定贈与信託のデメリットとして、以下が挙げられます。
- 信託財産の使い道が限定されている
- 受託者によって信託できる財産が限定される
- まとまった金額でなければ信託できない商品が多い
- 元本割れを起こすことがある
- 信託報酬が発生する
- 原則として途中解約ができない
信託財産の使い道が限定されている
特定贈与信託の目的は障害をもつ人の生活を安定させるためであるため、受益者が受け取った金銭は生活費や医療費にしか使えません。
一方、家族が受益者となる家族信託では、契約で定めた範囲で財産を使うことができます。場合によっては家族信託を検討しても良いでしょう。
受託者によって信託できる財産が限定される
特定贈与信託が利用できるのは、信託会社もしくは信託業務をおこなう銀行に限られます。
銀行によっては不動産を取り扱っておらず金銭のみの場合もあります。あらかじめ確認しておきましょう。
まとまった金額でなければ信託できない商品が多い
特定贈与信託で取り扱われている商品の多くは、最低信託財産を1,000万円と設定しています。そのため、1,000万円以上の財産を用意できなければ、特定贈与信託を利用できない場合が多いです。
元本割れを起こすことがある
信託財産に有価証券や収益用不動産を含んでいる場合、元本割れを起こすことがあります。元本割れを起こすと生活に必要なお金を確保できなくなるかもしれません。
信託報酬が発生する
特定贈与信託を利用するには、信託報酬を受託者に支払う必要があります。この信託報酬は信託設定時に設定した財産額の3.3%(税込)となる場合が多いようです。
また追加信託した場合にも信託報酬がかかります。何度も追加信託すると多額の信託報酬がかかるため、回数は控えめにしたほうが良いでしょう。
原則として途中解約ができない
途中で解約すると受益者の生活が安定しなくなることから、特定贈与信託は原則として途中解約ができません。
特定贈与信託のよくある質問
特定贈与信託について、よくある質問を集めました。
受益者が死亡すると、特定贈与信託の財産はどうなりますか?
特定贈与信託は、受益者が死亡した日に終了することとされています。財産が残っている場合は、受益者の相続人に交付されます。
なお、あらかじめ途中で終了した場合の交付先を決めておくことも可能です。
収益用不動産から収益が生じた場合、税金はかかりますか?
信託財産の運用により生じる収益は受益者の所得となり、所得税が課税されます。
信託期間を定めることはできますか?
あらかじめ信託期間を定めることはできません。信託期間は受益者の死亡の日まで、もしくは信託財産が亡くなるまでとなります。
まとめ
今回は、特定贈与信託について解説しました。障害をもつ人に対して最大6,000万円まで贈与することができるため、大きな節税効果をもたらすことができるでしょう。また、信託銀行が受益者が亡くなるまで定期的に金銭を交付してくれるので、家族が亡くなった後も安心です。
ただし、途中解約できない、信託報酬がかかるなどの注意点もあります。贈与をする前にきちんと計画を立て、家族の同意を得てから行うことが大切です。
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