相続の「特別受益」とは?計算方法や持ち戻し免除、時効などを解説
相続において「特別受益」というものが重要になる場合があります。これを耳にしたことはあっても、詳しく理解している人は少ないでしょう。
「特別受益」とは、被相続人(亡くなった人)から一部の相続人に贈与された特別な利益(生前贈与や遺贈、死因贈与で受け取った利益)をいいます。
このような贈与は、相続開始の際に相続財産と合算したうえで各相続人の相続分を決めなければなりません。今回は特別受益となる財産や、特別受益を受けた場合の計算方法などを解説します。
目次
特別受益とは?
特別受益とは、一部の相続人が故人が亡くなる前に受け取った特別な利益です。
一部の相続人のみが多額の贈与を受けていた場合、それを考慮せずに遺産分割をすると他の相続人は「不公平だ」と感じるでしょう。場合によっては、親族間のトラブルにもなりかねません。
特別受益は、このような争族の原因を取り除くために設けられた制度です。
▼まず、どんな相続手続きが必要か診断してみましょう。▼特別受益となる贈与
特別受益の対象となる贈与は、生前贈与、遺贈、死因贈与です。具体的には以下のとおりです。
しかし生前贈与が特別受益となるかどうかは、被相続人の収入や社会的地位、教育水準や生活状況などによっても判断される場合があります。「遺産の前渡しと言えるかどうか」が判断のカギになりますが、意見が分かれる場合は専門家に相談してみても良いでしょう。
生前贈与
生前贈与のすべてが特別受益に該当するわけではありません。以下の贈与が特別受益にあたるとされています。
婚姻のための贈与
結婚の際の持参金や支度金、嫁入りのための道具など、婚姻のための贈与は特別受益に該当します。これらは相続財産の前渡しとみなされるからです。
しかし、結婚式費用や結納金などの少額の金銭は特別受益に含まれない場合もあります。
養子縁組のための贈与
養子縁組には普通養子縁組と特別養子縁組がありますが、実親が養子に持参金を贈与したとき、この贈与は特別受益の対象となります。
生計の資本としての贈与
生計の資本としての贈与とは、親から独立して生活を営んでいる子どもなどへの多額の贈与をいいます。
例えば住宅購入のための贈与や、事業のための資金贈与など、扶養の範囲を超える金銭の贈与が特別受益となります。
また、居住用の不動産そのものの贈与も特別受益にあたります。ただし、配偶者間の居住用不動産の遺贈または贈与は、持ち戻し免除の意思表示があったと推定することとして、原則として持ち戻ししなくても良いことになりました(特別受益の持ち戻しについては後述)。
大学の学費は、場合によっては特別受益になり、その家庭や社会の状況などから総合的に判断されます。
遺贈
遺贈とは、遺言書によって財産を無償で譲ることです。遺贈によって受け取った財産は、原則として特別受益の対象となります。
死因贈与
死因贈与とは、贈与者が生前、「私が死んだらあなたに●●を贈与します」と特定の人(受遺者)と契約したものをいいます。双方の合意によって成立する契約行為です。この受遺者が相続人であれば特別受益になります。
▼まずはお電話で相続の相談をしてみませんか?▼特別受益の持ち戻しとは
上記のような生前贈与で特別受益が認められた場合、相続時には贈与された金額を相続財産に足して、遺産分割の計算をすることを「特別受益の持ち戻し」といいます。
▼あなたに必要な相続手続き、ポチポチ選択するだけで診断できます!▼特別受益の持ち戻し免除
特別受益があった場合、原則としては持ち戻しをされますが、「特別受益の持ち戻し免除」の規定もあり、以下の2つの場合においては特別受益の持ち戻し免除が認められています。
遺言書などで持ち戻し免除の意思表示がされているとき
被相続人の遺言書で「◯◯(相続人の名前)に生前贈与をしたが、これを相続財産に持ち戻して、遺産分割の計算をすることはしないでほしい」などと明確に意思表示がされている場合、特別受益の持ち戻しをしなくて良くなります。
このとき、意思表示の形式などは定められていません。遺言書や贈与契約書に記載するか、別の方法でも問題ありません。
婚姻期間が20年以上の配偶者間での贈与や遺贈(おしどり贈与)
おしどり贈与とは、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で居住用不動産の贈与があった場合に、2,000万円まで贈与税の対象から控除される制度です。贈与税の配偶者控除とも呼ばれます。
贈与税の基礎控除(年間110万円)とも併用できるため、最大2,110万円まで贈与税がかかりません。
改正民法によって、このおしどり贈与について特別受益に持ち戻さなくてもよいこととなりました。
特別受益者の範囲
特別受益があった人を「特別受益者」と言います。しかし贈与を受けた人すべてが特別受益者になるわけではありません。被相続人との関係によって特別受益者になれる人が決まっています。
特別受益者に該当するかは、生前贈与等がおこなわれた時点において、贈与等を受けた者が推定相続人であったか否かによって判断します。推定相続人とは相続人となる予定の人です。
したがって、祖母から孫(相続人ではない)の贈与は、原則、特別受益には該当しません。
相続人以外への贈与や遺贈
前述のとおり、特別受益の対象となる人は相続人に限られます。ただし、相続人以外の人におこなわれた多額の贈与が相続財産の一定以上なら、相続人はその人に対し「遺留分侵害額請求」をすることができます。
遺留分とは、一定の相続人に対して、遺言によっても奪うことのできない遺産の一定割合の留保分のことです。
▼相続手続きは一人で悩まず専門家に相談しましょう▼特別受益とみなされない財産
以下の金銭については、特別受益にあたらないとされています。しかし金額や生活状況によっては特別受益とみなされる場合もあります。
遺産の無償使用
被相続人の土地などを無償で利用(使用貸借)している場合、「実務上は特別受益と判断されない」というケースが多いようです。
生命保険金
生命保険金(死亡保険金)は、受取人固有の財産になり、遺産分割の対象にもなりません。そのため、原則として特別受益には該当しません。
ただし、被相続人の財産の大部分が生命保険であったり、その金額が多すぎる場合は、特別受益に準じて、持ち戻しを行うことがあります。
死亡退職金
死亡退職金も、生命保険金と同様に受取人固有の財産であり、遺産分割の対象でもないため特別受益にはあたりません。しかし相続人の一部が多額に受け取ったり、場合によっては特別受益とみなされる可能性があります。
ただし他の相続人から「特別受益ではないか?」と聞かれたときに判断に迷うようであれば、専門家に相談したほうが良いでしょう。
▼依頼するか迷っているなら、まずはどんな手続きが必要か診断してみましょう▼特別受益の計算方法
相続人に特別受益者がいる場合、以下のように相続分を計算します。
みなし相続財産(特別受益)の額の計算
【みなし相続財産 = 相続財産 + 特別受益分】
みなし相続財産とは、「故人が持っていた財産以外でも、相続財産の対象とみなす財産」のことです。特別受益の持ち戻しの計算には、遺産分割の対象となる【相続財産+特別受益分】として総額を計算します。
みなし相続財産を相続人で分割
みなし相続財産が求められたら、その総額を相続人で分割します。
特別受益者の相続分を求める
特別受益者の相続分は、②の相続分から自身が受け取った特別受益額を引いて求めます。
▼相続手続きは一人で悩まず専門家に相談しましょう▼相続が終わった後に特別受益が発覚した場合
遺産分割協議が終わった後に特別受益が発覚した場合、遺産分割協議のやり直しもしくは遺留分侵害額請求をするかの選択になります。
既に合意された遺産分割協議を再度行うのは、なかなか骨が折れる行為です。また遺留分侵害額請求についても、相続人間でトラブルになる可能性があるので、専門家に相談したほうが良いでしょう。
特別受益に時効はある?
特別受益に時効はありません。したがって古い贈与であっても特別受益として持ち戻しがされます。遺産分割協議をする際には昔の贈与でも持ち戻して相続分の計算することになります。もっとも、古い贈与は証明が難しいことも。
遺留分の計算に10年以上前の生前贈与は含めなくてよい
遺留分の計算には、原則として相続開始前10年の間にされた生前贈与しか持ち戻しの対象になりません。
そのため遺産分割協議をする場合には特別受益に時効はありませんが、遺留分の計算には10年間の期限がありますので、その扱いを区別して考える必要があります。
まとめ
今回は特別受益について解説しました。特別受益があった場合は遺産分割が複雑になるため、相続人間でトラブルにならないよう慎重に対応しましょう。
また、合わせて相続税申告が必要になるケースもあります。正確に計算して納めなければいけませんから、税理士などの専門家に相談してみても良いですね。
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