相続税の申告・納税はいつまで?期限を過ぎた場合の罰則やリスクを詳しく解説
相続税の申告・納税期限は定められており、期限を過ぎると追徴課税など相続人にとってさまざまな不利益が起こりえます。手続きは煩雑なため、事前によく調べて対策や準備をおこなっておかなければなりません。
この記事では、相続税と申告・納税の期限をテーマに、相続税申告に必要な知識や、上手に活用することで相続税対策にも効果が期待できる特例などをご紹介。さらに、相続税の申告・納税までの流れを時系列でご説明します。
目次
相続税とは
あなた(相続人・受遺者)が故人(被相続人)の財産を受け継いだとき、財産総額が一定以上の金額になると課せられる税金が「相続税」です。申告および納付の期限を守ることができないと、いくつかの特例が適用できなくなったり、さらに税金が加算されるといったデメリットが生じます。
相続税の申告が必要なケースは?
受け継いだ財産に相続税の申告が必要かどうかを判定するには、まず財産総額を算出しなければなりません。基本的には金額が判明した時点で基礎控除と比較し、結果が下回っていれば申告や納付は不要です。
ただし、ある種の特例や税額控除を適用している場合は申告が必要になるケースもあるため、特に重要な2つの事例を取り上げて説明します。
▼どの程度相続税がかかるか計算してみましょう▼基礎控除を超えたケース
相続税は故人の財産総額から基礎控除を差し引いた金額に対して課税される税金です。基礎控除は財産を相続する権利を持つ法定相続人の人数で変動し、3,000万円を基準に法定相続人1人あたり600万円を加算する計算式で求められます。
法定相続人が多ければ多いほど、基礎控除される金額も増えていく仕組みです。最低金額の3,600万円を財産総額と比較する際の目安として覚えておくと良いでしょう。
基礎控除の計算式
「小規模宅地等の特例」を適用するケース
故人が居住していた土地(特定居住用宅地等)、または事業を行っていた土地(特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等)、貸していた土地(貸付事業用宅地等)などを相続する場合、一定の要件を満たしていれば、それらの評価額を減額できるのが「小規模宅地等の特例」です。
相続税の申告が適用要件に含まれるため、財産の総額が基礎控除を下回っていたとしても、必ず申告が必要となります。
「配偶者に対する相続税額の軽減」を適用するケース
故人の戸籍上の配偶者が相続する財産の総額が、民法で定められた法定相続分以下になる場合、相続税は課税されません。
分割確定財産に限定されますが「1億6,000万円」または「民法に定める法定相続分」のどちらか多い方が適用されます。なお、この恩恵を受けるためには、ほかの法定相続人との遺産分割協議を終え、期限内に相続税の申告が完了していなければなりません。
相続時精算課税制度を利用した場合
相続時精算課税制度は生前贈与のやり方です。被相続人から生前に受けた贈与に対する贈与税を相続が発生したときにかかる相続税と精算する制度となっています。特別控除額2,500万円を超えた贈与分に対して一律20%の贈与税がかかります。のちに相続が発生したときに、この制度の適用を受けた贈与財産額を相続財産に加算し相続税額を計算します。
相続財産に生前贈与財産を加算しても基礎控除以下となる場合、相続税申告は不要です。ただし、申告によりすでに納めた贈与税の一部が還付される場合があるため、該当する場合は忘れずに申告しましょう。
▼何をすればいいか迷っているなら、今すぐ調べましょう▼相続税の申告期限と納付期限
税金には申告と納付、2つの期限がありますが、相続税も例外ではありません。前者・後者ともに「相続開始の翌日から10ヵ月後」と定められています。
10ヵ月後と聞くとしばらく猶予がありそうに思えますが、実際には時間があるとは到底言えません。故人の財産総額の調査や算出には難しい面も多く、あっという間に期限が近づいてきます。財産の多寡に関わらず、早め早めに行動することを心がけてください。
原則は「相続開始の翌日から10ヵ月後」
相続税の申告および納付期限は、原則として「相続開始の翌日から10ヵ月後」です。「相続開始の翌日」をわかりやすく言えば、一般的には「亡くなられた次の日」となります。お通夜や葬儀、告別式などでバタバタしているときになりますが、頭の片隅に置いて忘れないようにしてください。
例外1:申告期限が土・日・祝日のケース
「相続開始の翌日から10ヵ月後」に当たる日(応当日)が土・日・祝日だった場合、税務署で執務が行われない日(閉庁日)となるため、申告期限はその次の最初の平日(翌開庁日)となります。特に年末年始に重なりそうなときは、事前に確認しておくと安心です。
最近の特殊事情としては、コロナの影響で期日までに申告できない状況にあった相続人の場合には、その申告できない状況が解消してから2ヵ月後までの延長が可能です。
例外2:死亡日と相続開始を知った日が異なるケース
法定相続人の立場によっては、何らかの事情で故人の死亡をすぐに知ることができなかったというパターンも出てきます。
この場合は「相続開始の翌日から10ヵ月後」というルールに基づき、死亡を知った日を起点として、10ヵ月後に当たる日が相続税の申告および納付期限となります。
例外3:法定相続人以外へ遺贈のケース
遺産相続権のない内縁関係の人やお世話になった人へ財産を贈る「遺贈」でも「亡くなられた次の日」という原則は適用されません。故人の遺言により、自分が財産を譲られることを知った日を起点として、10ヵ月後に当たる日が相続税の申告および納付期限となります。
例外4:死亡日が特定できないケース
近年、孤独死などの増加により、目立つようになってきたのが、死亡日が特定できないケースです。
戸籍上の死亡日が「令和◯年◯月◯日から◯日間」「令和◯年◯月頃死亡」「推定令和◯年◯月◯日死亡」のように記載されている場合でも、死亡を知った日を起点として、10ヵ月後に当たる日が相続税の申告および納付期限となります。
▼今すぐ診断してみましょう▼申告期限を過ぎてしまった場合
「相続開始の翌日から10ヵ月後」という相続税の申告および納付期限を守ることができなかった場合は、いくつかのデメリットが発生します。
具体的には、ある種の特例や税額控除の適用ができなくなるほか、無申告加算税などをペナルティとして支払わなければなりません。相続税はその性格上、どうしても高額になる税金です。実質的な減額となる制度が使えなくなったり、さらに支払いが増えるケースはできるだけ避けるようにしましょう。
相続税の特例が適用できないケースがある
期限が過ぎてから相続税の申告および納付を行う場合、いくつかの特例が適用できなくなります。
例えば、期限内の申告が要件となっている「農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例」と「非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除」の2つ。「小規模宅地等の特例」に関しては、遺産分割協議が申告および納付期限までに完了しているかどうかで明暗が分かれることがあります。
ケース・バイ・ケースともいえる部分が大きいため、事前に税務署へ確認するか、専門家に相談しておくと良いでしょう。
さらに複数の税金を支払う必要がある
期限内に相続税の申告および納付ができなかった場合、ペナルティとして追加の税金が課せられます。必ず支払わなければならない「無申告加算税」は、状況によって金額が変動する点に注意してください。
延滞税の税率は2段階になっており、納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて、最初の2ヵ月が年2.6パーセント、それを越えると年8.9パーセントで計算されます。
無申告加算税の計算式
- 税務署の調査前:相続税×5パーセント
- 税務署の調査通知到着~調査開始前:相続税×10パーセント(50万円を超える部分は15パーセント)
- 調査終了後:相続税×15パーセント(50万円を超える部分は20パーセント)
さらに期限の翌日から納付する日まで利息に相当する「延滞税」が課されます。年によって税率に変動がある点に注意してください。現在は「平成30年1月1日から令和2年12月31日まで」の期間となるため「年率2.6パーセント」となります。
また「相続する財産を隠蔽、または仮装した」と税務署が判断した場合には35パーセントの「重加算税」が課せられることがあります。無申告では重加算税の税率は40パーセント。非常に大きなペナルティだといえるでしょう。ちなみに、重加算税が課せられた場合には無申告加算税は課税されません。
▼何をすればいいか迷っているなら、今すぐ調べましょう▼相続税申告までの流れ
相続税の有無に関わらず、故人の財産を相続するには、非常にたくさんの手続きが必要になります。まず着手すべきは「誰が財産を受け継ぐ権利を有しているか」を確認すること、次に「財産を受け継ぐかどうか」を決定しなければなりません。
ここでは、相続税を申告・納付するために重要な手続きを時系列でピックアップして説明します。
遺言書の確認と遺産リストの作成(目安:2ヵ月以内)
最初に遺言書の有無を確認しましょう。遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。そして、同時にやらなければいけないのが、遺産リストの作成です。
故人が遺した財産をすべて洗い出す作業となりますが、注意すべきは預貯金や不動産だけではなく、負債や未払いの税金などもチェックしておく点。プラス・マイナスのどちらも遺産であるという意識を持つようにしてください。
遺言書の確認
遺言書はいくつかの方式があります。
故人が自分で書いた「自筆証書遺言」は、保管場所の見当をつけて探さなければなりませんが、それ以外の「公正証書遺言」と「秘密証書遺言」は、公証役場の「遺言検索システム」で検索が可能です。
また「自筆証書遺言」と「秘密証書遺言」には、家庭裁判所で法定相続人全員立ち会いのもとで開封する「検認」と呼ばれる作業が必要です。検認を経ずに開封した場合は、過料(罰金)が科せられることもあるため、注意してください。
なお、2020年7月より始まった自筆証書遺言の保管制度に基づいて法務局で保管されていた自筆証書遺言については、法務局で検索をおこなうことが可能で、検認も必要ありません。自宅で保管していると紛失・亡失の恐れがありますし、相続人による遺言書の廃棄、隠匿、改ざんの恐れもありました。
遺産リストの作成
遺された財産と一言で言っても、その内訳は多岐にわたります。気をつけておきたいのは「積極財産」と呼ばれるプラス面と「消極財産」と呼ばれるマイナス面の両方がある点です。
前者は大きく「預貯金・有価証券・金融商品(資産)」「車・宝石・貴金属・美術品(動産)」「土地(不動産)」に分けられます。後者は「金融機関からの借金・住宅ローン(負債)」と「未払いの家賃・所得税・住民税(未払金)」など。どちらも権利書類を中心に探していきましょう。この作業を相続財産調査といいます。
郵便物やメールなどから調査する方法も効果的です。
遺産継承の判断(目安:3ヵ月以内)
遺言書の有無やその内容によって相続人が確定し、遺産リストの作成で内容が判明したら、3ヵ月以内に遺された財産を受け継ぐかどうかを判断しなければなりません。
負債や未払金といった「消極財産」と呼ばれるマイナス面の方が大きい場合は「相続放棄」をすれば、一切の財産を受け継ぐ権利がなくなるため、それらを肩代わりすることもなくなります。また、財産の総額がわからず、判断に迷ったときは「限定承認」という手続きが有効です。
相続放棄とは
遺された財産の相続を拒否する場合は「相続放棄」の手続きを取ることで「財産を継承しない」という選択が可能です。「相続放棄申述書」を作成し、戸籍謄本や住民票などの必要書類と一緒に家庭裁判所へ申述します。約一週間から10日程度で「相続放棄申述受理通知書」が家庭裁判所から郵送され完了となります。
相続放棄の申述は「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内」で、手続きが受理された後で撤回はできません。しかし期限が過ぎた後に相続放棄することは難しく、慎重に検討して相続放棄するか決めましょう。
また、相続放棄の申述書を提出した場合には相続の順位が異なってきますので、次の相続人に自分が放棄した旨を伝えてあげる必要があります。役所から自動的に次の相続人に連絡がされるわけではありません。
相続放棄を選択するケース
一般的に相続放棄を選択するケースに多いのは、負債金額が大きく「故人の借金を引き継ぎたくない」という理由です。また、親族間で相続争いになる可能性がある場合は「巻き込まれたくない」と考える方も少なくありません。
限定承認とは
限定承認とは、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続するという方法です。不動産を手元に残しやすかったり便利な制度に見えますが、相続人全員の同意が必要なうえ、譲渡所得税の支払いが発生するなど、手続きが煩雑になる傾向があります。申述は相続放棄と同じく「相続開始から3ヵ月以内」と決まっており、どちらかといえば、あまり選ばれることのない方法です。
相続の放棄は相続人一人でもできますが、限定承認は全相続人が一緒に申請する必要があります。一部の相続人だけが限定承認の申請をすることは認められていません。
遺産分割協議と準確定申告(目安:4ヵ月以内)
相続人が確定次第、全員で財産の分け方について話し合う必要があります。これが「遺産分割協議」です。話し合いを進め、全員の同意が得られて成立した時点で「遺産分割協議書」を作成します。
また、故人に所得があった場合は「相続開始から4ヵ月以内」に相続人が代理で「準確定申告」と呼ばれる確定申告を行わなければなりません。
遺言書があるケース
遺言書がある場合は、原則としてその記述にしたがって、遺された財産を分割することになります。内容によっては遺産分割協議そのものが不要になることもありますが、最低限の「遺留分」に関しては民法で保証されているため、その点はしっかり話し合っておきましょう。
遺言書がないケース
遺言書がない場合は、法定相続人全員が集まって遺産分割協議を進めることになります。法定相続分の割合に準じた分割が基本となりますが、中には平等に分割できない財産も出てきます。できるだけ不公平感が出ないように話し合って決めていきましょう。
準確定申告とは
故人に収入があった場合、相続人が代理で確定申告を行う必要があります。次の3点に注意しましょう。
- 亡くなられた年の1月1日から死亡日までに発生した分が対象となる
- 対象者が複数になる場合は全員が署名・押印して共同で申告する
- 申告・納付期限は「相続開始から4ヵ月以内」
準確定申告に必要な書類
源泉徴収票や保険料控除証明書、医療費の領収証など、基本的には確定申告と変わりません。注意してほしいのは、故人の代理として準確定申告を行う相続人のマイナンバー関係書類が必要になる点です。対象者が複数になる場合は、全員分が揃わなければなりません。
期限内に準確定申告をしなかった場合
「相続開始の翌日から4ヵ月以内」という準確定申告の申告および納付期限が守れない場合は「延滞税」と「無申告加算税」が課せられます。前者は納付する税金の金額に年率で最高14.6パーセントを乗じた金額、後者は自ら申告したときは5パーセント、税務署が実施する税務調査後では20パーセントを乗じた金額を納付しなければなりません。
相続税の申告・納付
すべての作業が完了した時点で相続税の申告および納付となりますが、原則として現金による一括納付が求められます。「物納」や「延納」を申し出ることはできますが、どちらも厳しい要件が設定されており、残念ながら現実的な手段とは言えません。
また、代表者による一括納付は贈与と見なされるため、相続人それぞれが納付する必要があります。全員が期限内に納付できるように進めていくようにしましょう。
▼依頼するか迷っているなら、まずはどんな手続きが必要か診断してみましょう▼分割財産の名義変更を忘れずに
相続した財産の名義は、故人から自動的に自分の名義になるわけではありません。遺産分割協議が成立した時点で、なるべく早めに名義変更をしておきましょう。
特に忘れがちなのは、手続きが煩雑で敬遠されがちな不動産。通常、土地や建物は名義変更をしなくても特に困ることがないため、放置されるケースが多いと言われています。この機会に漏れのないように処理をしておくことが大切です。
相続した不動産の名義変更(相続登記)は手続きの義務化が決定しています。令和6年4月1日から施行され、相続によって不動産を取得した相続人は、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならないこととされています。
▼何をすればいいか迷っているなら、今すぐ調べましょう▼専門家への依頼も検討しよう
相続税の申告および納付には、さまざまなルールが存在する上、難解な法律用語も数多く登場します。特に専門家の力を借りた方が良いケースとしては「相続人の人数が多い場合」「不動産・宝石・貴金属・美術品など、分割が難しい財産がある場合」「相続人の中に親族ではない人がいる場合」などが挙げられます。
相続税だけの問題であれば、その分野に強い税理士に依頼するのが一番ですが、司法書士や行政書士など、状況に応じて相談しましょう。いずれの場合も、相続に関する経験が豊富で、実力のある専門家を見極めることが必要となります。
まとめ
相続税の申告および納付は、故人の財産総額の算出をはじめ、誰が財産を受け継ぐ権利を有しているか、財産を受け継ぐかどうかなど、やらなければならないことが山のようにあります。
「相続開始の翌日から10ヵ月」という期限までの時間を無駄にせず、できることから手分けして始めてみてください。
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