生命保険の非課税枠を活用した相続税の節税対策|死亡保険金の受取人を誰にするかがポイント
相続税の節税対策のために生命保険を活用する方法があります。生命保険の死亡保険金には、相続税がかからない非課税枠があり、それを活用することで相続税の節税効果が期待できます。
この記事では、生命保険を活用した節税対策の具体的な方法として、生命保険の種類や、生命保険に関連する税金の種類、生命保険金の非課税枠、そして生命保険を活用した生前贈与と相続税対策などについてご説明します。
目次
相続税対策で知っておきたい生命保険・死亡保険金の基本
相続税対策は、以前は一部の富裕層や資産家の話だと思われていました。しかし、2014年の民法改正によって相続税の非課税枠が下げられたことで、相続税の納税者となる人が増えました。
相続税の節税対策としては生前贈与の上手な活用や、各家庭の状況に応じてさまざまな特例を活用する方法がありますが、そのひとつに生命保険の非課税枠を活用した相続税対策があります。
生命保険にもいろいろなタイプがありますが、被保険者が亡くなった時に受け取る死亡保険金を相続税対策に活用する方法です。
生命保険が相続税対策になる理由
生命保険が相続税対策になる理由として、以下のことが挙げられます。
- 生命保険の支払いで、被保険者の総資産を減らすことができる
- 死亡保険金の非課税枠を活用して、相続税の課税対象となる額を減らすことができる
死亡保険金とみなし相続財産
死亡保険金は、被相続人の財産ではなく、保険金を受け取った保険受取人の財産です。したがって相続税の課税対象とは縁遠い印象がありますが、実際には被相続人の死亡によって受け取る財産であるため、相続税の課税対象となります。
このような相続財産をみなし相続財産と言います。みなし相続財産には、生命保険金のほか死亡退職金などがあります。
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生命保険における相続税の非課税枠について
生命保険の死亡保険金には、相続税の非課税枠が設けられています。法定相続人1人につき500万円と民法で定められています。
生命保険の死亡保険金にかかる相続税
【例】配偶者、子供3人の家族構成の被保険者が亡くなり、生命保険の死亡保険金で3,000万円受け取った場合
死亡保険の相続税の課税金額
このように死亡保険金に設けられた相続税の非課税枠を活用する方法が、一般的な相続税対策としての生命保険の活用方法です。
相続放棄人がいた場合の死亡保険金の非課税枠
法定相続人の中に相続放棄をした人がいた場合も、その人の分の死亡保険金の非課税枠は残ります。
例えば、子供3人のうち2人が相続放棄していたとしても、相続放棄した人の分も加えた人数×500万円が非課税になります。
【例】配偶者、子供3人(うち2人は相続放棄)の家族構成の被保険者が亡くなり、生命保険の死亡保険金で3,000万円受け取った場合。
死亡保険の相続税の課税金額
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相続税対策で活用できる生命保険のタイプ
相続税対策にも活用できる生命保険ですが、どのような生命保険でも相続税対策に効果が期待できるわけではありません。そもそも生命保険にはどのようなものがあるのか、詳しく見ていきましょう。
すでに生命保険に入っている方は、自分が入っている生命保険のタイプをご確認いただき、納税の際に損をすることがないよう、必要ならば契約内容の変更をご検討ください。
また、これから生命保険に入ろうと考えている方は、相続税対策のことも考慮して保険サービスを選ぶことをおすすめします。
生命保険の種類
生命保険には、大きく分けると、主に以下の4つのパターンになります。
- 死亡保険
- 生存保険
- 生死混合保険
- その他の保険
1.死亡保険
保険金の支払いは、被保険者が死亡、または高度障害になったとき。主に「定期保険」と「終身保険」に分けられます。
- 定期保険
- 保障の期間は一定で、保険者が死亡、または高度障害になったときに保険金が支払われる保険です。契約に該当するケース以外には、保険金は支払われません。
期間がすぎて生存していた場合でも、保険金の支払いはない、いわゆる「掛け捨て保険」と呼ばれる保険のタイプです。その分、保険料が安いのが特徴です。 - 終身保険
- 保障の期間は被保険者の一生涯。解約しない限り、ずっと保障が続きます。
被保険者が死亡した場合には、死亡保険金が必ず支払われます。その分、保険料が定期保険より高めなのが特徴です。
終身保険の中には、特約として定期保険を上乗せし、死亡以外のリスクにも備えた「定期付き終身保険」もあります。
2.生存保険
保障期間満了後に生存していた場合、保険金が支払われる「学資保険」や「個人年金保険」などが生存保険と分類されます。学費や老後への備えなど、保険金の目的が明確なのが特徴です。
保険期間中に死亡した場合は、払い込んだ保険料相当分の死亡保険金が支払われるのが一般的です。
3.生死混合保険
死亡保険と生存保険が組み合わされた保険。代表的なものは「養老保険」です。
被保険者が保険期間内に死亡、または高度障害になったときには死亡保険金が支払われ、保険期間満了後に生存している場合には生存保険金(満期保険金)が支払われます。
貯蓄の要素も大きく、一般的に保険料は高めに設定されています。
その他の保険
「医療保険」や「がん保険」のように、病気やけがなどによる入院、手術などに備える保険や、「就業不能保険」などのように、病気やけがによって収入が減ることに備えた保険など、先述の死亡保険と生存保険、生死混合保険に該当しない保険も多種あります。
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生命保険の給付金は基本的に非課税
生命保険で支払われる保険金に関しては、給付金と保険金の2つに分けられます。
給付金に関しては、入院給付金や手術給付金など、病気やけがの治療などに掛かったお金を補填することが主な目的であるものは、所得税や贈与税は非課税です。
ただし生存給付金やお祝い金など、補填ではない給付金に関しては、所得税もしくは贈与税の課税対象になる場合もあります。
一方、保険金は基本的には課税対象ですが、病気やけがの保障のために支払われる保険金に関しては所得税や贈与税は非課税です。
死亡保険金、満期保険金に関しては、契約内容によって相続税・贈与税・所得税の3つのうちのいずれかが課税されます。
給付金と保険金の種類と非課税・課税対象の違い
- 給付金(非課税のもの)
- 入院給付金、手術給付金、通院給付金、がん診断給付金、先進医療給付金、特定損傷給付金
- 給付金(課税対象のもの)
- 生存給付金、お祝い金など
- 保険金(非課税のもの)
- 高度障害保険金、特定疾病保険金、介護保険金、リビングニーズ保険金など
- 保険金(課税対象のもの)
- 死亡保険金、満期保険金
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相続税対策と生命保険の契約の仕方
相続税対策は、総資産を減らして、相続税の課税対象額を減らすことが重要です。そのため、生命保険の保険金は、生きている最中に受け取るよりも、亡くなった時に受け取れるタイプが適しています。
保障の期間が定められておらず、被保険者が亡くなった時に死亡保険金を受け取れる「終身保険」が相続税対策に向いている保険だといえます。
保険の契約内容で税金の種類が変わる
終身保険に加入する場合でも、契約者が誰か、死亡保険金の受取人が誰か、という契約内容によって、課される税金の種類が、相続税・贈与税・所得税と異なります。
税率の高さは、高いものから低いものの順に、贈与税>相続税>所得税となります。
一番税率が高いのは、国税の中でも高い税率で知られる贈与税です。次に税率が高いのが相続税、一番税率が低いものが所得税です。
例えば同じ金額の死亡保険金を受け取った場合でも、かかる税金によって、手元に入ってくるお金の額は大きく変わります。
贈与税が課されれば、それだけ高い税金を納めなければならず、所得税が課税された場合は、比較的少ない額の税金を納めるだけですむのです。
すでに契約をしている方は契約内容の確認していただき、場合によっては見直しを検討されることをおすすめします。
生命保険の契約内容と税の種類
生命保険で受け取る死亡保険金は、契約内容によって異なります。死亡保険金と課税される税金の関係について一覧でご紹介します。
保険に関連する用語
- 被保険者
- 加入する保険の対象となる人のこと。その人が死亡した際に死亡保険金が支給されます。
- 契約者
- 保険会社と契約を結んだ人。ただし、生命保険を活用した節税対策を考える上では契約者ではなく、保険料を誰が負担したかが重要です。
- 受取人
- 死亡保険金を受け取る人のことです。
- *保険料の負担者
- 保険料を負担し、支払っている人。契約者だけでなく、被保険者や受取人と同じ場合もあります。
死亡保険金の課税関係
税の種類 | 被保険者 | 契約者 | 死亡保険金の受取人 |
---|---|---|---|
所得税 契約者=保険金受取人 |
父親 | 子 | 子 |
相続税 被保険者=契約者 |
父親 | 父親 | 子 |
贈与税 被保険者≠契約者≠保険金受取人 |
父親 | 母親 | 子 |
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生命保険で相続税がかかる場合
例えば、父親が自分に保険をかけて生命保険を契約し、死亡保険金の受け取りを息子や妻など、自分とは別の相続人に設定した場合です。
死亡保険金は、みなし相続財産として父親の遺産の総額に加えられ、相続税が課税されます。
ただし、相続税に関しては、相続人1人につき500万円の非課税枠があります。そのため、受け取った死亡保険金が非課税枠内に収まる額であれば、相続税は課税されません。
生命保険金に相続税が課される場合の課税方法
受け取った死亡保険金から、保険料の非課税枠の金額を差し引き、超過した分にだけ相続税が課税されます。
【例】夫婦と子供が3人いるケースで、被保険者であり契約者でもある父親が亡くなり、妻が3,000万円の死亡保険金を受け取った場合
この夫妻のケースでは子供が3人いるため、法定相続人は配偶者(妻)と子供3人の合計、4人となります。相続税は以下のような算出方法で課税されます。
死亡保険金保険料の非課税枠
なお、相続税に関しては、法定相続分がいくらになるかで、以下の表のように税率が変わります。
法定相続分に応ずる取得金額
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | – |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
相続税の基礎控除について
相続税そのものにも基礎控除額が定められています。基礎控除額は、3,000万円プラス、法定相続人1人あたり600万円までと定められており、その分は課税されません。
そのため相続税の課税対象は、死亡保険金も含めたすべての相続財産から、相続税の基礎控除額をひいた金額になります。
例えば、法定相続人が4人おり、被相続人の遺産が6,000万円あり、さらに死亡保険金の課税対象額が1,000万円だった場合、相続財産は7,000万円になります。
この相続財産の金額から、相続税の基礎控除額が引かれ、割り出されたものが相続税の課税対象額です。
相続税の課税対象額算出方法
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死亡保険金の受け取りを配偶者と孫にしない方が良い理由
死亡保険金の受け取りに関しては、配偶者や孫にしない方が良いと言われています。
配偶者には、そもそも相続税の軽減制度がある
配偶者が相続した遺産については、申告書を提出すれば、相続税が免除される制度があります(配偶者の税額の軽減)。総額1億6,000万円まで、もしくは配偶者の法定相続分の相当額までは、相続税が免除されます。
もともと相続税がかからないことも多い配偶者ではなく、税額の軽減制度を使えない子供を受取人に設定した方が相続税の節税効果が期待できます。
配偶者が亡くなった場合、二次相続の時に相続税が高くなる
また、配偶者が死亡保険金を受け取った場合、その人が亡くなり、子供たちが再度、遺産を相続する二次相続の際に、問題が生じます。
二次相続では法定相続人の数が減ったことで相続税の控除が減るため、高い相続税を収めなければならない可能性が高くなります。
子供がいる場合は、受取人は配偶者ではなく、子供にしておいた方が相続税を低く抑えらえます。
保険金の受け取りを孫にしないほうが良い理由
死亡保険金の非課税枠は、相続人に限って適用されます。
孫は法定相続人ではないので、孫が死亡保険金を受け取った場合は、非課税枠の適用がなくなり、死亡保険金がそのまま課税対象になってしまいます。
ただし、孫が相続人になっている場合は、非課税枠の適用があります。
孫が法定相続人になるケース
- 子供が亡くなっていて、孫が代襲相続人である
- 孫と養子縁組をしている
子供がいない場合や子供とは縁を切っているなど、特別な理由がない限り、死亡保険金の受取人は、配偶者や孫ではなく、子供にすることをおすすめします。
生命保険で贈与税がかかる場合
生命保険をかけている被保険者と契約者、死亡保険金の受取人がすべて異なる場合、受け取った死亡保険金には贈与税が課されます。
例えば父親に生命保険をかけ、妻が契約者(保険料の負担者)となり、息子が死亡保険金を受け取る場合が、このケースに該当します。妻から息子への贈与とみなされるため、贈与税の課税対象になるのです。
生命保険金に贈与税が課される場合の課税方法
受け取った死亡保険金から年間の贈与税の基礎控除額(110万円)を引いた額に、贈与税が課税されます。
受け取った死亡保険金が高いほど、贈与税の税額も上がってしまいますので、何か特段の理由がない限りは、避けた方が良い契約方法です。
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生命保険で所得税がかかる場合
契約者・死亡保険金の受け取りが同じ人の場合には所得税がかかります。
例えば、父親に保険をかけており、契約者(保険料の負担者)と死亡保険金の受け取りが、息子だった場合、受け取った死亡保険金は、所得税の課税対象になります。
この場合、受け取った死亡保険金は父親の資産ではなく、息子の所得とみなされるため、所得税が課税されるのです。
生命保険金に所得税が課される場合の課税方法
受け取った保険金から支払った保険料の総額を差し引いて、特別控除額(最大50万円)を引いた金額を2で割ります。それを息子の総所得にプラスして、所得税が決まります。
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生命保険で相続税対策をおこなう具体的な方法
例えば父親が子供に生前贈与で3,000万円の現金を渡そうとすると、税率の高い贈与税が課されてしまい、高額な税金を収めなければなりません。
ところが生命保険の保険料として、その金額を支払った場合、贈与税を免れることも可能です。
相続税対策に生命保険を活用!生前贈与で相続税対策
生命保険を活用した生前贈与の方法を簡単にご説明します。
例えば、父親が息子に生命保険を活用して生前贈与する場合、父親が自分を対象にした生命保険に入ります。この時、契約者(保険料の負担者)と死亡保険金の受取人を息子に設定します。
そして、生前贈与として保険料の金額とほぼ同金額を息子に毎年贈与するようにしていきます。この時、贈与する金額を暦年課税制度の非課税枠、110万円以下にしておけば、贈与税は課税されません。父親が亡くなった時に、息子が死亡保険金を受け取ります。
この方法であれば、保険料にも死亡保険金にも贈与税はかからず、死亡保険金に所得税がかかるだけで済みます。
生命保険を活用した生前贈与のメリット
- 保険料同等額の贈与で、被保険者の総資産を減らすことで相続税対策になる。
- 契約者(保険料の負担者)と死亡保険金の受取人を同一人物にすれば、死亡保険金に贈与税も相続税も課税されない。
- 年間110万円までの贈与税の非課税枠を活用すれば、贈与税もかからない。
- 受け取った死亡保険金は現金なので、相続人が換金したりすることもなく、確実に現金を受け取ってもらえる。
生命保険を活用した生前贈与の注意点
生命保険を活用した生前贈与は、メリットも多いですが、いくつか気を付けておかなければならない点もあります。
- 不測の事態が起きた場合に中途解約をすれば元本割れしてしまう可能性がある。
- 保険料の支払いが、暦年贈与ではなく、連年贈与とみなされた場合、支払った保険料の総額に贈与税が課される。
連年贈与とみなされないためには、あくまで一回一回の贈与であるという形式を取る必要があります。そのために、贈与の時期をずらす、年ごとに贈与契約書を作るなど、毎年一回一回の贈与であることを証明できる記録を残すことが大切です。
まとめ
生命保険の死亡保険金に関する税金について詳しくご紹介してきました。同じように受け取る死亡保険金でも、契約内容によって、課される税金が変わってきます。相続税対策で生命保険の活用する場合は、被保険者、契約者、受取人が誰に設定されているか、しっかりと確認する必要があります。
これから加入する場合はもちろん、すでに加入している場合でも、契約内容をきちんと把握することが大切です。契約内容について不安がある場合は、専門家に相談することをおすすめします。
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