相続税の配偶者控除は1億6000万円まで非課税の方法!要件や必要書類、計算例やデメリットも解説
相続税の負担を軽減する制度の中で最大級の効果があるのが配偶者控除です。配偶者控除が適用されると、配偶者が相続した財産のうち少なくとも1億6,000万円までは、相続税はかからないことになります。
配偶者にとってはメリットの大きい制度ですが、安易な使い方をすると後に子供に思わぬ税負担がかかることもあります。2次相続まで考慮した節税対策が必要です。
この記事では、相続税の配偶者控除の概要や計算方法、留意点、さらにデメリットについてもご説明します。
この記事はこんな方におすすめ:
「遺産分割の方法を考えている人」「2次相続まで踏まえた相続対策をしたい人」
- 配偶者控除によって、配偶者が受け取る相続財産の1億6,000万円まで相続税がかからない
- 配偶者控除を利用することで2次相続で相続税が多くかかることがある
- 配偶者控除を受けるためには、相続税の申告書を税務署に提出する
相続税の配偶者控除とは?
相続税の配偶者控除とは正式には、配偶者の税額軽減制度といいます。
亡くなった方(被相続人)の配偶者が相続した財産(正味の遺産額)が、下記の金額のうちのいずれか多いほうの金額以下である場合には相続税がかからない制度です。
- 1億6,000万円
- 自身(配偶者)の法定相続分相当額
では、なぜ配偶者はこのような大きな額の軽減措置が受けられるのでしょうか。それは、以下の3つの理由からです。
- 配偶者の老後の生活を保障するため
- 配偶者が、故人の財産形成に大きく寄与しているため
- 短期間に相続が2回発生し、同じ財産に2回税金がかかることを避けるため
しかし、この配偶者控除を受けるには適用要件があります。
▼何をすればいいか迷っているなら、今すぐ調べましょう▼配偶者控除の3つの適用要件
配偶者控除を受けるためには、次の3つの要件を満たす必要があります。
1.戸籍上の配偶者であること
戸籍上の配偶者である必要がありますので、籍を入れていない、内縁関係や事実婚は適用されません。なお、婚姻期間の長さは定められていません。
2.相続税の申告期限までに遺産分割が完了していること
配偶者控除額は、配偶者が実際に受け取った遺産の額をもとに計算します。そのため、原則、申告期限までに遺産分割が完了していることが求められます。
3.相続税の申告書を税務署に提出する
配偶者控除は、相続税の申告書に必要事項の記載と一定の書類の添付がある場合に限り、適用されます(相続税法第19条の2第3項)。よって、配偶者控除の適用を受けるためには、必ず相続税申告をしなければなりません。
また、相続放棄した配偶者が遺贈によって受け取った遺産に対しても、申告書を期限までに税務署に提出すれば、配偶者控除の適用を受けることができます。
相続とは、何もしなくても自動的に発生します。配偶者や子供、親、兄弟姉妹など、一定の関係にある人のうち近い順位の人が相続人となり、亡くなった人の財産を承継することになります。
一方、遺贈とは、遺言による贈与のことです。相続が相続人のみを対象とするものであるのに対し、遺贈は相続人以外にも財産を譲ることができるというのが特徴です。もちろん、相続人に対しての遺贈も可能です。遺贈を受ける人のことを、受遺者と呼びます。
配偶者控除を受けるための必要書類
配偶者控除を受けるためには、相続税の申告書を被相続人の住所を管轄する税務署に提出しなければなりません。
配偶者控除の適用により税額がゼロになる場合でも、必ず申告書を提出しましょう。
必要書類
- 相続税の申告書
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写し(配偶者の取得財産が分かる書類)
- 相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書の写しを提出する場合)
なお、相続税の申告書は、税務署の窓口でもらうか、国税庁のHPからダウンロードできます。
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相続税の配偶者控除の計算式とは
相続税の配偶者控除とは、配偶者が取得した正味の遺産額が「1億6,000万円」または、「配偶者の法定相続分相当額」のどちらか大きい金額までは相続税がかからない制度ですが、超えた分に対してのみ相続税がかかります。
実際の控除額は、次の計算式で算出され、いずれか少ない額になります。
または
Aで、課税価格の合計額×法定相続分<1億6,000万円であれば、1億6,000万円に置き換えます。
※相続税の総額とは、法定相続人が法定相続分を取得したと仮定して計算した相続税の合計額です。
※課税価格の合計額とは、遺産のうち相続税が課税されるものの合計額です。
▼どの程度相続税がかかるか計算してみましょう▼配偶者控除の具体的な計算例
それでは、具体的な例を使って計算してみましょう。
法定相続人が配偶者のみ
【例】遺産総額3億円、法定相続人が配偶者のみ
1.課税総額を計算
基礎控除額:3,000万円+(600万円×1人)=3,600万円
課税価格の合計:3億円-3,600万円=2億6,400万円
2.相続人の法定相続分に基づく取得金額を計算
2億6,400万円×1=2億6,400万円
3.相続人の法定相続分に基づく相続税額を計算
2億6,400万円×45%-2,700万円=9,180万円
4.配偶者控除額を計算する
<A>相続税の総額×(課税価格の合計額×配偶者の法定相続分)÷課税価格の合計額
9,180万円×2億6,400万円×1÷2億6,400万円=9,180万円
<B>相続税の総額×配偶者の課税価格÷課税価格の合計額
9,180万円×2億6,400万円÷2億6,400万円=9,180万円
9,180万円=2,860万円なので、配偶者控除額は9,180万円となる
5.納付税額を求める
<配偶者の納付税額>
9,180万円×1-9,180万円=0円
配偶者の納税額は0円(9,180万円の相続税が軽減された)
法定相続人が配偶者と子どもの場合の具体例
【例】遺産総額3億円、法定相続人が配偶者と子ども2人の計3人のとき、法定相続分で遺産分割する場合
1.課税総額を計算
基礎控除額:3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円
課税価格の合計:3億円-4,800万円=2億5,200万円
2.各相続人の法定相続分に基づく取得金額を計算
<配偶者の取得金額>
2億5,200万円×1/2=1億2,600万円
<子供(一人当たり)の取得金額>
2億5,200万円×1/2×1/2=6,300万円
3.各相続人の法定相続分に基づく相続税額を計算
※取得金額×税率(速算表参照)-控除額=相続税額
<配偶者の仮の税額>
1億2,600万円×40%-1,700万円=3,340万円
<子供(一人当たり)の仮の税額>
6,300万円×30%-700万円=1,190万円
4.相続税の総額を計算する
3,340万円+1,190万円×2人=5,720万円
5.相続税の総額を遺産分割の割合で分けて、各人の相続税額を計算する
<配偶者の相続税額>
5,720万円×1/2=2,860万円
<子供(一人当たり)の相続税額>
5,720万円×1/2×1/2=1,430万円
6.配偶者控除額を計算する
<A>相続税の総額×(課税価格の合計額×配偶者の法定相続分)÷課税価格の合計額
1億2,600万円<1億6,000万円なので、1億6,000万円に置き換える
5,720万円×1億6,000万円÷2億5,200万円=3,631万円
<B>相続税の総額×配偶者の課税価格÷課税価格の合計額
5,720万円×1億2,600万円÷2億5,200万円=2,860万円
3,631万円>2,860万円なので、配偶者控除額は2,860万円となる
7.各人の納付税額を求める
<配偶者の納付税額>
5,720万円×1/2-2,860万円=0円
配偶者の納税額は0円(2,860万円の相続税が軽減された)
<子供(一人当たり)の納付税額>
5,720万円×1/2×1/2=1,430万円
子どもは一人1,430万円ずつ納税する
相続税の速算表
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | – |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
なお、相続税の税率は、国税庁のHPから確認できます。
▼相続税の目安を知りたい方はコチラ▼
相続税の配偶者控除のデメリット
相続において、配偶者は1億6,000万円または法定相続分相当額までは相続税が課されないことをご説明しました。しかし、とりあえず配偶者がすべて相続する、というような安易な遺産分割をすると、後々大きな税負担を負う可能性もあります。
二次相続で損してしまう恐れ
例えば、今回の相続(1次相続)では相続税を抑えることができても、その後、配偶者が亡くなったときの相続(2次相続)で相続税の負担がそれ以上に大きくなってしまうことがあります。
2次相続とは、例えば、両親と子がいる家族を考えたときに、始めに父が亡くなり母と子が遺産を相続したのち(1次相続と呼びます)、次に母が亡くなり子が遺産を相続することを2次相続と言います。
つまり、1次相続と2次相続の相続税の合計で考えると、節税になっていなかったというパターンです。これには、次の2つの理由があります。
①2次相続で相続人も基礎控除額も減り、トータルで損してしまった
2次相続では配偶者が亡くなっているわけですから、1次相続に比べて相続人が1人減ります。そのため、「3,000万円+600万円×法定相続人」から算出される基礎控除額が減ることになります。
②配偶者の固有の財産が追加されて、課税価格が増えるため損してしまった
配偶者がもともと持っていた固有財産もある場合には、遺産が増えます。相続税は累進課税なので、遺産が増えるのに伴って適用される税率も上がります。
【例】父の財産が1億円、母の財産が1億円で、子供が1人だとします。
父の相続発生(1次相続)後に、母の相続が発生(2次相続)し、2次相続では母の財産と母が1次相続で取得した父の財産をそのまま子が相続する場合の相続税
<1次相続で父の財産の100%を母が相続した場合>
母が取得した財産:1億円
- 1次相続にかかる相続税:
1億円<1億6,000万円なので、配偶者控除で相続税額は0円
- 2次相続にかかる相続税:
(1億円+1億円)-(3,000万円+600万円×1人)=1億6,400万円(課税遺産総額)
1億6,400万円×40%-1,700万円=4,860万円
- 1次相続と2次相続の相続税の合計額:
0円+4,860万円=4,860万円
<1次相続で父の財産の50%を母が相続した場合>
- 1次相続にかかる相続税:
≪母≫
取得した財産:1億円×1/2=5,000万円
5,000万円<1億6,000万円なので、配偶者控除で相続税額は0円
≪子供≫
1億円-(3,000万円+600万円×2人)=5,800万円(課税遺産総額)
5,800万円×1/2×15%-50万円=385万円
- 2次相続にかかる相続税:
(1億円+5,000万円)-(3,000万円+600万円×1人)=1億1,400万円(課税遺産総額)
1億1,400万円×40%-1,700万円=2,860万円
- 1次相続と2次相続の相続税の合計額:
385万円+2,860万円=3,245万円
以上のように、1次相続で相続税がかからないからといって、配偶者である母がすべての財産を取得することで、1次相続と2次相続を合わせると結果的に税負担が1.615万円も大きくなっていることが分かります。
1次相続で配偶者の取得分を決める際には、2次相続まで考慮したシミュレーションを慎重に行う必要があります。
▼今すぐ診断してみましょう▼相続税の配偶者控除を利用する際の注意点
相続税の申告までには思わぬトラブルが発生することも考えられます。
相続税申告漏れ
自分で計算し、配偶者控除の適用により税額がゼロになったので申告を忘れてしまうケースです。
無税になる場合でも、配偶者控除を受けるためには、相続税の申告書を被相続人の住所を管轄する税務署に提出しなければなりません。
遺産分割協議がこじれた場合
遺産分割の話し合いがこじれている場合や、遺言で一定期間遺産分割が禁止されている場合など、相続税の申告期限までに遺産分割ができないケースもあります。
この場合、配偶者控除を受ける要件の「2.相続税の申告期限までに遺産分割が完了していること」が満たせないことになります。
そのため、期限が過ぎても配偶者控除を適用させるためには仮の相続税申告をし「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して税務署に提出します。3年以内に遺産分割協議が終わったら配偶者控除を適用させ修正申告(少なければ更正の請求)をします。
3年を過ぎそうな場合は、一定の期限内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を税務署に提出して、承認を受けなければなりません。
▼相続税の目安を知りたい方はコチラ▼まとめ
配偶者控除は非常に大きな節税効果がありますが、申告期限までに遺産分割協議がまとまらなかったり、申告し忘れたりすると、この制度が使えなくなることもあります。また、1次相続だけでなく2次相続も考慮して、配偶者控除の活用を検討することも重要です。ほかの控除や特例も含め、全体像を把握したうえで遺産分割を考える必要があります。
相続税対策は、相続人の人数などケースによってさまざまなので、判断に迷われたら専門家に相談することをおすすめします。
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