相続登記の期限は令和6年4月1日から3年に。放置した場合のデメリットを8つの事例で解説【司法書士監修】
不動産を相続したら、名義変更手続きに当たる相続登記が必要です。
相続登記の義務化が決定されたことにより、令和6年4月1日からは期限が設定され3年内に手続きをしなかった場合は罰則が科されます。
罰則以外にも、相続登記せずに放置した場合、相続人にとってどんなデメリットがあるかを8つの事例で解説します。また、期限がある相続手続きもご紹介しますので、是非参考にしてください。
この記事の監修者
2017年事務所開業。地元密着で相続・遺言や会社設立手続、各種契約書作成など様々な業務に関わる。地域の発展や安心できる暮らしづくりのため、依頼者のニーズに応え、信頼される事務所を目指して業務に従事する。
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相続登記とは?
不動産登記は、土地や建物のひとつひとつについて、所在地や面積、所有者の情報などを法務局で記録することをいいます。
登記を行うことで不動産に関する情報が誰にでも分かるようになり、安全な不動産取引が図られます。
不動産登記のうち、相続した不動産を相続人の名義に変更することを相続登記といいます。法務局で相続登記を行うことで、不動産の所有名義が亡くなった人から相続人へと移転します。
相続登記の期限は3年に
民法と不動産登記法の改正により相続登記の義務化が決定されました。令和6年4月1日より開始されます。そのため相続人は土地・不動産の取得を知ってから3年以内に相続登記をすることが必要になります。
今までは相続登記には、相続税申告のようにいつまでに行わなくてはいけないといった期限はありませんでした。また、不動産登記は義務ではな、罰則もありませんでした。 このため、相続登記せずに放置されることも少なくなく、登記が義務化されました。
相続登記の義務化についての詳細は「【令和6年4月1日から施行】相続登記の義務化で違反の場合は罰則!必須知識をまとめて解説」で解説しています。
相続登記はしなくてもバレない?
相続登記しないからといって、直ちに不都合が生じるわけではありません。
例えば、被相続人が所有していた土地を配偶者が相続し、相続登記を行わずに住み続けることも実際には可能です。
しかし、放置し続けると徐々にデメリットが生じ、場合によってはトラブルの原因にもなりかねません。
相続登記を放置したときのデメリットの8つの事例
それでは相続登記を行わずにいると、以下のデメリットが生じるおそれがあります。具体的な事例を交えてご説明します。
- 権利関係が複雑になる
- 必要書類を集めるのが大変になる
- 土地の一部が売却されてしまうリスク
- 相続人の高齢化
- すぐに売却したり、担保に入れたりできない
- 抵当権が抹消できない
- 不動産賠償を受けられなくなる
- 義務化により罰則も
1.権利関係が複雑になる
相続登記を行わないまま次の相続が発生すると、相続する権利を持つ人が増えてしまうことがあります。
どのように増えていくのか、図で説明していきます。
下の図の名義人が死亡し、Aが土地を相続することになったとします。
すぐに相続登記が行われれば、3人の子ども、A、B、Cのみ話し合い、相続登記を完了することが可能です。
また、相続登記してあれば、Aが亡くなり再度相続が発生しても、この際の相続登記はAの配偶者と子ども2人の合計3人のみで話し合って手続きを行うことができます。
相続登記して死亡した場合
しかし、相続登記を行わないまま相続人のA、B、Cが死亡すると、Aの配偶者と子どもの他に、Aの兄弟に当たるBとC、そしてBとCそれぞれの配偶者と子どもの合計10人が登記に関わる必要が出てきます。
相続人のA、B、Cが存命のときは口約束で誰が相続するか話し合いで決まっていても、代を重ねるうちに当初の取り決めが曖昧になりがちです。これにより、相続人がそれぞれに相続権を主張し、遺産分割協議がまとまりにくくなることがあります。
相続登記しないまま死亡した場合
相続人の数が増えると全員が一度に集まることは難しくなり、親戚といっても会ったこともない人が相続人になることもあります。また、疎遠となって連絡のつかない相続人がいる場合には、探し出すところから始める必要があり相続登記をするまでに多くの時間がかかってしまうおそれがあります。
2.必要書類を集めるのが大変になる
相続登記には、相続人の生まれてから亡くなるまでの一連の戸籍(除籍)謄本が必要となります。相続登記をまとめて行う場合には、最初の被相続人と次の被相続人の一連の戸籍謄本等が必要です。さらには関係するすべての相続人の戸籍謄本(抄本)が必要で、遺産分割協議書にはそれぞれの印鑑証明も必要です。
このように、相続関係が複雑になったり人数が増えると、提出する戸籍謄本や印鑑証明が増え、手続きも煩雑になります。
3.土地の一部が売却されてしまうリスク
不動産は誰が相続するか決定した後も、相続登記を行うまでは相続人全員が法定相続分に従って共有している状態となります。
通常、相続登記には遺産分割協議書や遺言書などの誰が相続するかを示す書類が必要ですが、法定相続分に関してはそのような書類がなくても登記できてしまいます。このため相続登記をしないでいると、一部の相続人がその法定相続分について登記を行い、売却してしまう可能性があります。
また、一部の相続人が税金を滞納すると、国や県が法定相続分に対して登記を行い、差し押えられてしまうこともあります。
4.相続人の高齢化
相続登記を先送りにしていると、相続人が高齢化して認知症などになるおそれもあります。
認知症等で判断能力が低下した場合は、成年後見人が代わりに手続きを行います。しかし、成年被後見人と成年後見人が同時に相続人となる場合は、利益相反となるため代理で手続きすることができません。どういうことかというと、例えば、父親が亡くなって母親と子どもが相続人となり、その後母親が認知症となったとします。この場合子どもが成年後見人になったとしても、代わりに遺産分割協議書に押印することはできません。
このような場合には家庭裁判所に特別代理人選任の申立てをし、特別代理人に署名捺印をしてもらうという手続きを取る必要があります。
このため、高齢の配偶者が相続人となる場合などは、早めに相続登記を終わらせておくことをおすすめします。
5.すぐに売却したり、担保に入れたりできない
不動産を売却したり担保に入れて融資を受けるには、相続登記が完了している必要があります。このため、相続登記せずに放置していると、すぐに資金が必要なときに慌てて手続きを行うことにもなりかねません。
相続登記は申請から完了までだけでも10日程度かかります。さらに戸籍関連資料などの収集から始めるとかなりの時間を要すため、売り時を逃してしまうことも考えられます。
6.抵当権が抹消できない
抵当権は、融資を行う際に返済できなくなった場合に備えて土地や建物を返済の担保とする権利のことで、登記の対象となります。
例えば、被相続人が銀行から住宅ローンを借りて自宅を購入した場合には、銀行に抵当権があります。団体信用保険等により住宅ローンが完済された場合には抵当権はなくなります。しかし、抵当権の抹消登記を行うまでは登記簿上の記載がなくならないため、抵当権が消滅したという証明ができません。
被相続人の名義のままでは抵当権の抹消登記を行うことができません。このため、まずは相続人が相続登記を完了した上で、抵当権の抹消登記を行う必要があります。
7.不動産賠償を受けられなくなる
不動産賠償金は不動産の所有者に支払われます。
福島原子力発電所で事故が発生した際は、平成23年3月11日時点の警戒区域内の不動産の所有者に対して東京電力から賠償金が支払われました。
このとき、相続登記が終わっていない不動産が多いことが問題となり、登記が行われていない場合でも一定の条件をクリアすれば賠償金を受け取れることになりましたが、決定までにはかなりの時間を要しました。
このようなケースに該当することはめったにありませんが、いざというときのために相続登記は早く行うに越したことはありません。
8.義務化により罰則も
相続登記の義務化が決定されたことにより、一定の期間内に手続きをしなかった場合などは過料が科されます。
相続等により所有権を取得したことを知った日から3年以内に、正当な理由がないのに申請を怠ったとき、10万円以下の過料の対象となります。
期限のある相続手続き
相続登記は義務化され期限が3年となりますが、相続手続きの中には他にも期限があるものがあります。どのような手続きに期限があるのか確認しておきましょう。
死亡届の提出
死亡届の提出期限は、亡くなった事実を知った日から7日以内です。
医師に死亡診断書等を交付してもらい、以下のいずれかの市区町村役場で手続きを行います。
- 亡くなった人の死亡地
- 亡くなった人の本籍地
- 届け出する人の所在地
世帯主変更届の提出
世帯主が亡くなり残る世帯員が2人以上の場合は、世帯主に変更が生じた日から14日以内に住民票のある市区町村役場に世帯主変更届を提出し、住民票の世帯主を変更します。
残された世帯員が亡くなった世帯主の配偶者のみの場合や、配偶者と幼児など新たな世帯主が明確な場合は、届け出の必要はありません。
相続放棄や限定承認
相続放棄や限定承認を行うことができる期限は、相続を知ったときから3ヵ月以内です。
遺産相続で相続するのは、預貯金や不動産などのプラスの財産だけではありません。借金やローン、連帯保証債務などの負債についても相続の対象となります。被相続人が残した財産より負債が多い場合などは、相続放棄や限定承認を検討するとよいでしょう。
相続放棄や限定承認をするには、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に申述書などの書類を提出します。
なお、3ヵ月以内に相続放棄や限定承認を行わない場合は、負債を含めたすべての遺産を相続する「単純承認」をしたものとみなされます。これにより相続放棄や限定承認ができなくなるため注意が必要です。
準確定申告
準確定申告は、被相続人の所得の確定と納税の手続きを相続人が代わりに行う手続きで、申告期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヵ月です。
準確定申告の対象となるのは1月1日から亡くなった日までの被相続人の所得ですが、前年分も申告前であれば合わせて手続きを行います。
準確定申告が必要なのは確定申告が必要な被相続人が亡くなったときのため、被相続人が給与所得者や一般的な受給額の年金受給者の場合には申告は不要です。
ただし、確定申告の必要のないケースでも、1月1日から死亡日までに寄付を行ったり、支払った医療費が10万円(または総所得金額等の5%)を越える場合は、準確定申告により支払った税金が戻ることがあります。
相続税申告
相続税の申告は、相続があったことを知った日の翌日から10ヵ月以内に行う必要があります。
相続税は、相続財産の合計が「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」以内であれば申告不要です。しかし、配偶者の税額控除や小規模宅地等の特例を使った結果相続税がゼロになる場合には、申告する必要があります。
必要な申告を行わないと、期限を1日過ぎただけでも延滞料が発生します。このため申告期限に間に合うよう、相続人や財産の調査や遺産分割協議を行っておく必要があります。
なお、相続税の納付期限も申告と同様、相続があったことを知った日の翌日から10ヵ月以内です。
小規模宅地等の特例や配偶者の税額控除は、遺産分割の決定後でないと使うことができません。このため、申告期限までに遺産分割協議がまとまらない場合には「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出し、法定相続分に従って一旦相続税申告を行います。3年以内に遺産分割を行った上で分割した日の翌日から4ヵ月以内に更正の請求を行えば、遡って特例が適用され、納めすぎた税額分の還付が受けられます。
遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)
遺留分侵害額請求の期限は、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知ったときから1年間」または「相続開始から10年間」となります。
遺留分とは、遺言の内容等に関わらず最低限相続できる割合で、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分が認められています。
例えば相続人が長男と次男の場合、それぞれ最低1/4ずつ遺産を相続できる権利を持っています。遺言で「長男に全財産を相続させる」とあった場合、次男の遺留分は侵害されることになります。次男が納得すればいいですが、不満がある場合は長男に対して遺留分侵害額請求を行い、遺留分の金額の支払いを請求することができます。
相続登記の期限に関するQ&A
相続登記には期限がありません。それだけにいつ行えばいいのかと悩む方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここからは、そのような疑問にお答えしていきます。
Q:遺産分割協議の前でも相続登記はできる?
遺産分割協議がなかなかまとまらないと、自分の持分だけでも登記をしたいと考える方もいらっしゃいます。
所有者が亡くなった不動産は、相続登記が終わるまでは法定相続分に従って共有している状態になります。このため、遺産分割協議を行わなくても法定相続分については相続登記が可能です。
しかし、相続人のうちの1人だけが相続登記を行うと、トラブルの原因となります。また、遺産分割協議で分割方法が決まった後に登記をやり直す必要があり、手間も費用もかかります。このため相続登記は遺産分割協議がまとまった上で行うのが望ましいです。
Q:相続登記を放置してしまいどこから手を付けていいかわからない
相続登記を行わずそのまま放置すると、孫やひ孫の代には相続人の数が十数人にまでふくらんでしまうケースもあります。こうなると相続人を確定するのに必要な書類を集めるだけでもかなりの手間となる上、中には連絡先が分からなかったり、海外で生活している相続人がいる場合もあります。
このような際は、司法書士に相談するのがおすすめです。司法書士に依頼すれば、戸籍謄本の収集から音信不通の相続人への連絡、相続登記手続きまで行ってもらうことが可能です。売却などのために相続登記を急ぐ場合には、特に専門家の力を借りることが必要です。
まとめ
相続登記は放置していると次のようなデメリットが生じる可能性があります。
- 相続関係が複雑になり、相続登記の手続きが煩雑になる
- 土地の一部が売却されてしまう恐れがある
- 相続人の判断力が認知症等で低下すると特別代理人が必要になる
- 売却したくてもすぐに売れない
- 罰金を払うことになる
これらの理由から、相続登記は遺産分割が決まり次第なるべく早めに行うのが良いでしょう。また、相続登記以外の相続手続きには期限があるものもあり、相続が発生したらそれらの期限から逆算し、早い段階で相続人や相続財産の調査を行う必要があります。
このため、相続財産が把握できないときや、相続人を確認したいときは専門家に相談することをおすすめします。
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