相続人がいない相続人不存在のときの相続財産の行方と空き家問題【行政書士監修】
遺産相続において、相続開始の時点で相続人がいない、またはいるかどうかがわからない状態を「相続人不存在」といいます。
相続人不存在となるのは、被相続人の遺産を相続する相続人がいない場合や、また相続人はいるものの、被相続人のマイナスの財産が多く、全員が相続放棄をした場合などが考えられます。
いずれの場合も、「相続人不存在」になると、残された財産は「国庫に帰属する」と民法で定められていますが、財産はどのような流れで国庫に納められるのでしょう?
また、相続放棄しても空き家問題が関係してくるとはどういうことでしょうか。
この記事では、相続人がいない、または居所がわからないなどの事情で相続人がいるかどうかが不明の相続財産は具体的にどのように扱われるのか、相続放棄後も残る不動産の管理リスクなどについてご説明します。
- 相続人が不存在のケースには2パターンある
- 相続人不存在になると財産の行方が決まるには家庭裁判所での手続きなどで1年以上の時間がかかる
- 遺産に不動産があるときは相続放棄しても不動産の管理義務からは免れない
この記事の監修者
弁護士事務所にパラリーガルとして勤務後、行政書士事務所を開業。「人生の最後まで手を抜かない」を信条として、遺言、任意後見、家族信託といった生前対策に力を入れている。
目次
法定相続人がいない、相続人不在とは
被相続人が亡くなるとその財産は相続人に承継されます。
被相続人と相続人の関係やその相続順位は民法で定められています。
配偶者がいる場合は配偶者が必ず相続人となりますし、被相続人と配偶者の間に子(直系卑属)がいた場合は、その子が第1順位の相続人となります。また、第2順位は被相続人の父母(直系卑属)、そして第3順位は被相続人の兄弟姉妹です。
相続人がいないというのは、こうした法定相続人などがいない場合です。主に下記の2つのケースが考えられます。
- 相続人がひとりもいない
- 被相続人(亡くなった人)が生涯独身で子もなく、兄弟姉妹もなく、両親や祖父母もすでに死亡している(ただし、法定相続人がいなくても、遺言で包括的に全財産を遺贈されている人がいる場合には、相続人がいない場合にはあたりません)
- 相続人全員が相続放棄
- プラスの財産よりマイナスの財産が多かったなどの理由により、相続人全員が相続放棄をしている
次に、それぞれのケースについて、詳しくご説明します。
▼まずはお電話で相続の相談をしてみませんか?▼相続人不存在のケース1 相続人がひとりもいない
相続人がひとりもいないというのは、法定相続人である配偶者、子、兄弟姉妹がもともといない場合だけでなく、先に死亡した場合も含めて相続人が誰もいないというケースです。
相続人が被相続人よりも先に亡くなっていても、被相続人に孫や甥、姪がいる場合は代襲相続といって、子や兄弟姉妹の相続権を引き継ぐことになります。しかし、代襲相続が発生する孫や甥、姪もいなければ相続人不存在が確定することになります。
社会保障・人口問題研究所によると、50歳まで一度も結婚したことのない人が総人口に占める割合(生涯未婚率)は2015年で男性が23.37%、女性が14.06%となっています。2040年には男性29.5%、女性18.7%に増えると推計されています。今後、こうした形の相続人不存在はもっと増える可能性があります。
事実婚、内縁の配偶者は相続人にはならない
事実婚や内縁の妻というように、事実上は婚姻関係にあるという配偶者であっても、法律上の婚姻関係にない場合は、相続権はありません。そのため、被相続人が遺言などを残していないと、相続財産を受け取ることはできません。
被相続人に法律上の相続人がいない場合、後述のようにその相続財産は最終的には国庫に帰属します。このとき、内縁の配偶者などは特別縁故者として家庭裁判所に財産分与を請求することが可能です。
離婚した場合、前妻と子は相続人になる?
なお、離婚した場合は、前妻など元配偶者には相続権はありません。しかし、元配偶者との間に子がいる場合は、子は離婚後であっても相続人となります。
また再婚している場合は、再婚した配偶者が相続人となりますし、再婚した配偶者との間に子が生まれた場合は、元配偶者と現在の配偶者のいずれの子も相続人となります(ただし、再婚した配偶者の連れ子は、養子縁組をしない限り本人の相続人にはなれません)。
▼忘れている相続手続きはありませんか?▼相続人不存在のケース2 相続放棄
相続人不存在のもうひとつは、相続人全員が相続放棄をして、相続人が誰もいなくなったケースです。
被相続人の遺産は、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産(負債)も含みます。従って、プラスとマイナスを差し引いて、マイナスの財産のほうが多い場合、相続放棄をすることができます。
配偶者及び第一順位の子が相続放棄をすると、相続権は、第二順位の父母、第三順位の兄弟姉妹へと移っていきますので、その順番で相続放棄をしていくことになります。
ちなみに、子が亡くなっている場合は孫、兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥、姪が代襲相続によって相続権を得ることになるので、放置せずに相続放棄をしなければなりません。
相続放棄は、相続権のあるすべての人が行うことが必須で、もし行わない場合はその人がマイナスの財産を相続することになります。
なお、相続放棄は自分が相続人であることを知ってから3ヵ月以内に家庭裁判所に申述しないと、すべての財産を相続せざるを得なくなってしまうため、早急に対処する必要があります。なお、相続放棄の時効ついて詳しく知りたい方は「相続に関わる時効|知らなかった!は許されない相続手続きの時効とその根拠【行政書士監修】」を参照してください。
代襲相続とは、相続が発生したときに相続人がすでに亡くなっている場合に、相続人の子が代わりに相続することです。代襲相続人もすでに亡くなっているときにはさらにその子が相続し、これを「再代襲相続」といいます。
なお、相続人が相続欠格や相続廃除によって相続権をはく奪されている場合は、代襲相続が発生します。ただし、相続放棄をした場合、代襲相続は発生しません。
相続人がいない、または相続人の有無が不明の財産は「相続財産管理人」が清算する
相続人がひとりもいない、またはいるのかいないのかわからない、もしくは相続人が全員相続放棄をしている、そのいずれの場合においても、相続人の不存在が確定し、債権者への支払いや特別縁故者への財産分与が済んでも、なお残った財産があれば被相続人(亡くなった人)の財産は国庫に帰属することになります(民法第959条)。
第九百五十九条 前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。(一部抜粋)
国庫に帰属するまでには、次のような手続きが取られます。
まず、被相続人の財産は法人とみなされます。相続人の有無が不明の場合に当然に法人として成立するので、登記などの特別な手続は必要ありません。法人と言っても遺産の清算を目的とした便宜的な受け皿のようなものです。
相続財産法人が成立し、申立てがあると、家庭裁判所はその財産を管理する「相続財産管理人」を選任します。相続財産管理人の選任は、債権者をはじめ、内縁の妻や、被相続人の面倒を家族同様に見た、といった特別縁故者などの「利害関係人」の申立てによって行われます。
どのような人が相続財産管理人に選ばれるかというと、直接的な利害関係になく、中立的な立場に立ち、なおかつ相続に関する法律に詳しい人という点で、弁護士などの専門家に依頼されることが多いです。
▼まずはお電話で相続の相談をしてみませんか?▼相続人のない財産の清算には最低でも13ヵ月かかる
相続財産管理人が選任されると、家庭裁判所はその選任の公告をします(1回目の公告)。
選任された相続財産管理人は、まず、相続人が本当にいないかの調査を行います。相続人(遺言で包括的に財産を遺贈されている人も含む)が現れた場合、その人に相続財産を引き継ぐことになるので、まずこれを最優先する必要があるからです。並行して被相続人の財産や債務がどれだけになるのか調査します。
この選任の官報公告から2ヵ月以内に相続人がいることが判明しなかった場合には、次の段階に進みます。
次の段階に入ると、相続財産管理人は、「相続債権者・受遺者への請求申出催告の公告」をします(2回目の公告)。
この手続きは、すべての相続債権者や受遺者に対して一定の期間内に、権利の主張を行うよう促すものです。この請求申出の期間は、2ヵ月以上と法律で定められています。
官報に記載された期限内に請求の申し出をせず、相続財産管理人にその存在を知られなかった相続債権者や受遺者は、後から相続財産からの弁済を受けることはできません。
ここまでの期間内に判明した相続債権者や受遺者に対しては、相続財産を競売等で換金するなどして、相続財産管理人は弁済の手続きをしていきます。
請求申出の催告期間が満了しても、なお相続人が現れない場合には、「相続人捜索の公告」が行われます(3回目の公告)。通常、官報公告から約6ヵ月後の日(法律上6ヵ月を下回ることができないと規定されています)を催告期間満了日として公告がされます。
この期間が満了するまでに名乗り出なかった相続人は、その権利を確定的に失います。つまり、この催告期間満了後に、相続権を有している相続人が名乗り出て、財産を承継する意思を示したとしても、もはやその相続人は遺産を承継することができなくなるのです。そしてこれを「相続人不存在の確定」と言います。
相続財産の換価と相続債権者・受遺者への弁済が終了してもなお相続財産に残余があり、かつ相続人が現れなかった場合に、特別縁故者に対する財産分与の余地が出てきます。特別縁故者の財産分与の申立ては、相続人捜索の公告期間満了から3ヵ月以内に行わなければならず、この期限を過ぎた後の申立ては不適法として却下されてしまいます。
財産分与の申立てをして、分与が相当である、と家庭裁判所に認められれば、特別縁故者に財産が分与されます。
債権者等に対する弁済または特別縁故者に対する財産分与をして管理する財産が無くなった場合は、そこで相続財産管理人の職務は終了です。弁済や財産分与をしてもなお残った財産があれば、その財産は国庫に納められます。
以上のように、すべての手続きを終え、残った財産が国庫に納められるまでには、最低でも13ヵ月かかるのです。
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ここで注意をしなければならないのは、相続放棄をしたケースにおいて、その遺産の中に不動産など、きちんと管理をしなければならないものが含まれるケースです。
「相続放棄をしたんだから、もう自分とは関係ない」と考える人が多いかもしれませんが、実はそう簡単なものではありません。
しかも、民法940条には、相続の放棄をしても、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまでは、その財産の管理を継続することが定められています。
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。(一部抜粋)
ここでいう「相続財産の管理を始めることができるまで」というのは、「相続財産管理人が選任されるまで」ということ。つまり、相続財産管理人が管理を開始するまでは、不動産の管理義務はずっと残り続けるのです。
中でも、民法239条第2項には所有者のない不動産は、国庫に帰属するとありますが、現状の法律では「不動産の所有権の放棄」を登記する方法がなく、事実上、不動産の所有権を放棄する方法がありません。
▼今すぐ診断してみましょう▼第二百三十九条 所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。
2 所有者のない不動産は、国庫に帰属する。
相続財産管理人の選任申立にかかる費用
すでに述べた通り、相続財産管理人は債権者をはじめ、内縁の妻や、被相続人の面倒を家族同様に見た、といった特別縁故者などの利害関係人が家庭裁判所に申し立てることによって、初めて選任されます。
原則として、検察官が選任を申し立てることもあるとされていますが、実際、そうしたことはほとんどなく、利害関係人が行っているのが現状です。
ところが、相続財産管理人の選任申立には少なくない費用がかかるため、残された財産が少ない場合、「申し立てる人が誰もいない」ということが起こりえます。
では、どのくらいの費用がかかるのでしょうか。
相続財産管理人選任申立にかかる費用
相続財産管理人の選任申立にかかる費用の内訳です。- 収入印紙/800円
- 連絡用の郵便切手/数百円
- 官報公告料/4,230円
- 予納金/20万~100万円
予納金とは、相続財産管理人が行う管理業務の経費や報酬を支払うための資金です。金額に5倍ほどの開きがあるのは、案件ごとに管理業務の量やそもそもの相続財産の多寡に開きがあるからです。
予納金は、財産が多い場合はかからないこともありますし、余ったときは返納されることもありますが、残された財産が少なければ、こうした費用を負担することはためらわれるでしょう。
▼あなたに必要な相続対策が一分で診断できます▼相続されずに放置された「空き家」が抱えるリスク
さて、相続財産管理人がいつまでも選任されずにいると、相続放棄をしたにもかかわらず、不動産管理義務はずっと残り続けます。
その結果として、「空き家」になったまま放置されている不動産は、次のような負のリスクをはらんでいます。
老朽化の進行と、不動産価値の低下
放置された不動産は、すでに老朽化が進んでいるものが多いと思いますが、誰も住まない状態をそのままにしておくと、建物は痛み、庭は雑草や庭木が生い茂って荒れてしまいます。庭木が隣家や道路にはみ出す、老朽化した建物に危険を感じる、などの理由で苦情が来てしまうこともしばしばあります。
倒壊、不審火などの災害リスク
地震や台風などの災害によって建物が倒壊したり、不審火による火災で近隣の建物を損傷・延焼させてしまった場合には、責任問題にも発展しかねません。
そうしたリスクを避けるためには、災害保険や火災保険に加入するという方法がありますが、「空き家」は住宅物件ではなく、一般物件扱いになるため保険料は高くつくことが予想されます。
行政代執行により取り壊し費用が請求されることも
2015年2月26日に施行された「空き家対策特別措置法」により、放置された空き家が近隣の環境に悪影響を及ぼすと判断された場合(「特定空家」に指定された場合)、行政代執行により強制撤去をすることが容易になりました。
行政代執行法第6条第1項には、代執行にかかった費用は「国税滞納処分の例により、これを徴収することができる」とあり、国税の滞納と同様の強制力をもって費用請求が行われる可能性が高いです。
▼めんどうな相続手続きは専門家に依頼しましょう▼第六条 代執行に要した費用は、国税滞納処分の例により、これを徴収することができる。(一部抜粋)
この記事のポイントとまとめ
相続人不存在によって宙に浮いた相続財産が具体的にどうなっていくのかという点について解説するとともに、財産の中に不動産が含まれていた際のリスクについても見てきました。最後にこの記事のポイントをまとめます。
相続人の不在のケースは「相続人がひとりもいない」「相続放棄によりいない」2つのケースが考えられます。相続人がいない、または相続人の有無が不明の財産は「相続財産管理人」が清算することになり、債権者への支払いや特別縁故者への財産分与が済ませたのちに、残った財産は国の所有になります。
しかし、その手続きは最低でも13ヵ月かかります。
もし、相続放棄をしたケースで相続人の不在となった場合には、相続放棄をしたとしても、国の所有になる手続きが完了するまでの間の遺産の管理を継続しなくてはなりません。遺産に不動産があればその管理義務は残り続けます。
相続人不存在になったからといって、残された財産が自動的に国庫に帰属するわけではなく、さまざまな手続きが必要です。
「自分には相続人がいない」ということがわかっているのであれば、遺言や死因贈与契約などで、遺産をあげる相手が誰かいないかなどを考えておくのも一つの手かと思います。
なお、いい相続ではお近くの専門家との無料相談をご案内することが可能です。相続人がいないという場合や、不動産の相続についてお困りの方はお気軽にご相談ください。
▼実際に「いい相続」を利用して、行政書士に相続手続きを依頼した方のインタビューはこちら
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