内縁の妻(夫)に相続権はない?パートナーに遺産を残す方法や問題点
自分にもしものことがあった時、長年連れ添ってきた内縁のパートナーに、財産を譲りたいという方もいるでしょう。
この時、内縁関係のパートナーは相続人になるのでしょうか? この記事では、内縁の妻(夫)は相続人になれるのか?といった疑問や、内縁のパートナーに財産を残す方法をご紹介します。
この記事はこんな方におすすめ:
内縁のパートナーに遺産を残したい方、内縁のパートナーの遺産を相続をしたい方
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- 内縁の妻(夫)は法定相続人ではない
- 遺言書により内縁の妻(夫)に相続財産を遺贈することができる
- 内縁の妻(夫)へ遺贈する場合、相続税の控除や特例は使えない
目次
内縁とは
内縁とは、婚姻届を市区町村の役所に提出してはいないものの、それ以外は法律上の婚姻関係にある夫婦と変わらない暮らしをしている関係です。
単なる同棲、同居と異なり、当人同士に婚姻の意思があり、生活を共にしていることが前提となります。
内縁と事実婚の違いは?
「事実婚」という言葉もありますが、実態としては事実婚も内縁も違いはありません。
事実上婚姻関係にある内縁は、婚姻に準ずる関係として、社会保障制度上、法律婚(婚姻届けを提出し、法的手続きをおこなっている婚姻)の夫婦と同様に扱われます。
▼忘れている相続手続きはありませんか?▼内縁関係のパートナーとの相続
法律上の婚姻関係にある夫婦と変わらない暮らしをしている内縁関係。相続ではどのような扱いになるのでしょうか。
内縁の妻(夫)は法定相続人にはならない
事実上、法律婚と同様の内縁関係ですが、相続に関しては違いがあります。
民法によって被相続人の配偶者は常に相続人となると定められていますが、内縁関係にあったパートナーは、法律上の相続人には含まれていません。
民法上の配偶者とは婚姻届を提出したパートナーをいいます。
内縁の妻(夫)は、長年連れ添ったパートナーであっても、法律上の配偶者としては認められず、法定相続人にはなりません。そのため、財産を相続する権利はありません。
内縁の妻(夫)は寄与分や特別寄与料が認められない
寄与分とは、相続人の中に、被相続人の事業を手伝ったり、被相続人の療養看護に努めるなど被相続人の財産の維持または増加に貢献した人がいる場合に、相続分を修正して、貢献した相続人が取得する財産の額を増やして、相続人間の公平を図る制度です。(民法904条の2)
近年では、親の介護のために仕事を辞めざるを得なかったなど、介護をした人が寄与分を主張するケースも増えています。
しかし、寄与分が主張できるのは法定相続人に限られており、相続人ではない内縁の妻(夫)は寄与分を相続することはできません。
また、2019年7月1日より相続法が改正され、特別寄与料という制度が新設されました。
この制度は、寄与分の制度で報われない人(例えば長男の嫁が義理の父親を介護したなど)を救済するための制度です。
被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。(民法1050条)
特別寄与料は、寄与を主張できる人の範囲が拡大されたものの、その対象は被相続人の親族までなので、親族でない内縁の妻(夫)は受け取ることはできません。
どんなに長年連れ添っていても、事業を支え、介護などの労務を無償で提供をしていたとしても、内縁の妻(夫)は寄与分や特別寄与料を受け取ることはできないということになります。
日常生活においては、親族とは親戚や親類と同じように、身内や家族と血縁関係のある人のことを総称する言葉として使われています。しかし、法律上は親族の範囲は次のように規定されています(民法725条)。
- 六親等内の血族
- 配偶者
- 三親等内の姻族
内縁関係のパートナーと子どもの相続権
子どもを認知していれば相続権がある
内縁のパートナーとの間に子どもがいた場合、その子どもが認知されていれば相続権が認められます。
法律上の婚姻関係ではない男女の間に生まれた子ども(非嫡出子)の出生届は、母親が届出ることが定められており、この場合、子どもは母親の戸籍に入ります。
非嫡出子を父親が認知することで、相続権が発生します(民法779条)。なお、認知の手続きをとった場合は、子どもの戸籍の父母欄に父の氏名が記載されますが、戸籍の異動はありません。
また、父親は子どもがまだ胎児の場合も、母親の承諾を得られれば認知は可能です。また、遺言によって認知をすることも認められています。
死後認知すれば相続権が発生する
内縁の夫が突然亡くなった場合や、さまざまな事情により認知せずに亡くなる場合も考えられます。
この場合、父または母の死亡から3年以内であれば、子どもや、さらにその子ども(直系卑属)など、またその代理人は、認知の訴えを提起できます。
この訴えが認められれば、親の死亡後であっても、子どもは認知されます。この死後認知が認められると、子どもには相続権が発生しますので、遺産を相続することができます。
相続発生後に生まれた内縁の妻の子どもは死後認知が認められれば相続権が発生する
相続発生後に内縁の妻から子どもが生まれた場合、死後3年の間に死後認知請求を行い、認められれば法定相続人となれます。
また、遺言書で認知する、出産前でも母親の承諾を得て認知するという方法もあります。相続権がみとめられれば嫡出子と同等の相続権が発生します。
養子縁組をしていれば相続権がある
内縁のパートナーに連れ子がいる場合も、養子縁組をすることで法律上の親子関係になるので、養親の財産を相続することが可能です。
内縁関係のパートナーとの子どもの相続割合
以前は内縁関係のパートナーとの子どもである非嫡出子の相続分は嫡出子の半分でしたが、2013年の9月5日以後に生じた相続については、非嫡出子の相続分は、嫡出子の相続分と同等になりました。
2013年9月5日以後に生じた相続から非嫡出子の遺産分割の割合が嫡出子と同等に
以前は、嫡出子と非嫡出子の遺産分割の割合は嫡出子のほうが多く、非嫡出子は嫡出子の2分の1と定められていました。このような区別があるのは憲法14条第1項の平等原則に反しているという理由から、2013年9月4日の最高裁判決で違憲判決が下されました。これを受けて2013年12月5日に民法の一部が改正され、非嫡出子の相続分は、嫡出子と同等になりました。法改正の施行は2013年12月5日ですが、適用となるのは2013年9月5日以後に生じた相続についてです。
なお、嫡出子とは、婚姻関係にある夫婦の間に生まれた子のことで、非嫡出子とは、内縁の夫婦の間の子や愛人の子のように、婚姻関係で結ばれていない男女の間に生まれた子のことです。結婚していない男女の子どもを「婚外子」と呼ぶこともあります。
▼めんどうな相続手続きは専門家に依頼しましょう▼内縁の妻(夫)に財産を残す方法
先述のように、内縁関係のパートナーが亡くなった場合、パートナーには相続権はありません。しかし、法定相続人にはなれない内縁関係の場合も、相手に財産を残す方法はあります。
遺言書による遺贈
内縁のパートナーに財産を残すには、遺言書を作成して遺贈するという方法があります。
遺贈とは?
遺贈とは、遺言によって財産を譲ることをいいます。遺産を受け取る人=受遺者を内縁の妻(夫)にすることで、財産を取得できます。 遺言書があれば被相続人(故人)の意思が尊重されますので、内縁の妻(夫)に財産を承継させることができ、亡き後の生活を保障することができます。
遺贈を行う場合には注意点があります。
被相続人の子どもなど、兄弟姉妹以外の法定相続人には残されるべき遺産の割合が法律で定められています。この割合のことを遺留分といいます。遺言書によって遺留分が侵害された場合、相続人から遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)を行使され、相続争いに発展してしまう恐れがあります。遺贈する際は、遺留分を除いた財産を内縁の妻(夫)に引き継ぐ内容にすることをお勧めします。
生命保険の受取人にする
生命保険の受取人を内縁の妻(夫)にして、保険金として財産を贈る方法もあります。
しかし法律上の親族ではない内縁の妻(夫)は、多くの場合、死亡保険金の受取人になることができません。
なぜなら、死亡保険金の受取人は原則として、被保険者の戸籍上の配偶者または二親等以内の血族などに限られているからです。ただし、近年では、親族以外でも受取人になれるよう受取人の範囲も拡大して取り扱われており、一定の条件を満たすことで内縁のパートナーを受取人に指定できます。
死亡保険金を受け取った場合、保険金は受取人固有の財産なので、相続人と分け合う必要はありません。しかし、死亡保険金はみなし相続財産として扱われ、内縁の妻(夫)が受け取った保険金には、死亡保険金の非課税限度額は適用されないため、受け取った保険金全額が相続税の課税対象になります。また、相続税の2割加算の対象になります。
相続税の2割加算とは
内縁の妻(夫)が財産を取得した場合、相続税が2割加算されます。これは、内縁の妻(夫)だけではなく、戸籍上の配偶者と一親等の血族(子どもと親)以外の人が財産を相続した場合、相続税額が2割増となります。
この理由は、相続税の負担のを調整を図るためとされており、例えば孫が財産を取得した場合は世代を飛び越しての相続になり、相続税の課税を1回免れることになるため相続税逃れになりかねないことや、相続人以外が多額の遺産を受け取ることは偶然性が高いということで、2割多く課税されています。
また、死亡保険金を受け取った場合なども、同じく2割加算の対象になります。
特別縁故者として財産分与を受ける
相続人がいない場合、特別の縁故のあった人(特別縁故書)が家庭裁判所に請求することで、相続財産の一部、または全部を受け取れる場合もあります。
特別縁故者として申立てができるのは、
- 被相続人と生計を同じくしていた者
- 被相続人の療養看護に努めた者
- その他被相続人と特別の縁故があった者
の3つの条件のいずれかに当てはまる人です。
特別縁故者が財産を取得するためには、所定の期間内(相続人不在が確定後3ヵ月以内)に家庭裁判所に申立てをして認められる必要があります。
この手続きの流れは次の通りです。
- 相続財産管理人選任の申立てを行う
- 相続財産管理人が指定される
- 債権者・受遺者を確認する
- 相続人の捜索をする
- 相続人の不在が確定する
- 特別縁故者に対する相続財産分与の申立てができるようになる
- 特別縁故者に認定される
ただし、財産分与を受けられたとしても財産のすべてを取得できるとは限りません。
また、特別縁故者が引き継いだ遺産は、相続税の課税対象となります。相続人が受けられるような税の軽減制度は受けられません。 また、相続税の2割加算の対象になります。
生前贈与を行う
生前贈与とは、生きているうちに財産を譲る、贈与することです。
生前贈与であれば、贈与する相手を自由に選ぶことができるので、内縁の妻(夫)に財産を譲ることができます。
贈与税には、暦年課税と相続時精算課税の2つの方法があります。暦年課税を選択した場合、贈与を受けた財産は贈与税が課されますが、1年間の贈与額が基礎控除額である110万円以下なら贈与税はかかりません。
また、婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産またはそれを取得するための金銭の贈与では、基礎控除額の110万円のほかに、2,000万円まで非課税となるのが贈与税の配偶者控除という特例です。
大きなメリットのある制度なのですが、上記のとおり婚姻期間が20年以上の夫婦であることが条件になっており、法律上の婚姻関係ではない内縁の夫婦間には適用されません。
課税価額が同じ場合、相続税よりも税率が高く設定されている贈与税は、不利というイメージがありますが、例えば暦年贈与の基礎控除額を越えない額を生前贈与し、財産を減らしておくことで結果的に節税になるというケースもあります。
一方、相続開始の前1年以内の生前贈与や、当事者双方が遺留分を侵害することを知ったうえでの贈与は、法定相続人から遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)をされる可能性があります。
遺産分割で揉めることがないよう、法定相続人の最低限の遺産の相続分=遺留分を考慮に入れて内縁の妻(夫)に贈与するようにしましょう。
生前贈与は、パートナーの生活を守るためだけではなく、上手に活用すれば相続税対策にもなりますので、余裕があるうちに専門家に相談をすることをおすすめします。
▼まずはお電話で相続の相談をしてみませんか?▼内縁の妻(夫)が相続する際の問題点
内縁の妻(夫)は、相続権がありませんが、遺産を受け取った場合は相続税を納めなければなりません。法律上の妻とは違い、相続税の優遇措置を受けることができず、内縁の妻(夫)は、非課税枠などの特例が受けられない点に注意する必要があります。
基礎控除の額が増えない
相続税の基礎控除額は、3,000万円に600万円×法定相続人の数を足した額になります。
法定相続人ではない内縁の妻(夫)は、基礎控除額を計算する際の法定相続人に含まれません。
仮に、他に相続人が誰もいない状態で内縁の妻が遺贈を受けた時の基礎控除の額は3,000万円のみとなり、3,000万円を超える遺産を受け取った場合は、相続税がかかることになります。
配偶者額控除が使えない
配偶者には、相続する財産が1億6,000万円または法定相続分相当額のどちらか多い金額までは相続税がかからない「配偶者控除」という特例があります。
ここでいう配偶者は、戸籍上の配偶者に限られており、内縁の妻(夫)は民法上の配偶者でないため、この特例の適用が受けられません。受け取った財産はすべて相続税の課税対象です。
障害者控除が受けられない
相続人が85歳未満の障害者のときは、85歳に達するまでの年数1年につき10万円(特別障害者のときは20万円)が障害者控除として、相続税額から差し引かれます。
しかし、障害者控除が受けられるのは相続や遺贈で財産を取得した人が法定相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人)であるという条件があるため、内縁の妻(夫)の場合、障害者であっても障害者控除を受けることはできません。
小規模宅地等の特例が使えない
小規模宅地等の特例とは、被相続人(亡くなった人)が住居として使用していた土地や事業をしていた土地、貸していた土地を相続した場合、最大80%まで評価額を減額できるという特例です。
配偶者は特に優遇されており、この特例が適用できれば相続税が大幅に減額できる可能性があるのですが、適用できるのは親族に限られており、内縁の妻は親族に該当しないため、小規模宅地等の特例を使えません。
▼まず、どんな相続手続きが必要か診断してみましょう。▼内縁の妻(夫)の相続に関するQ&A
相続に関しては、事実上の夫婦と変わらない暮らしをしていたとしても、婚姻届を提出しているかどうかで大きな違いがあり、婚姻届を提出していない内縁の夫婦において、遺産にまつわる問題が発生してしまうことも少なくありません。
最後に、内縁の妻(夫)の相続に関してよくある疑問と解答をご紹介します。
家の所有者が亡くなったとき内縁の妻(夫)が住み続けることはできる?
遺言書がない場合、相続権のない内縁関係の妻(夫)には、原則として建物などの所有権は認められません。裁判では、明渡請求が権利の濫用にあたるとして明渡しを認めない判例があり、居住する権利については一定の保護があります。内縁の妻(夫)は、今まで暮らしていた住居に住み続けることができる可能性は高いといえます。
被相続人名義の借家だった場合も、賃借権を援用して住み続けられるケースがあるように、内縁の妻(夫)の居住権は保護される傾向にあるようです。
遺族年金の受給できる?
生計を維持していた被保険者が亡くなった場合、残された遺族が受けることができる公的年金のことを遺族年金といいます。
なお、亡くなったパートナーが既婚者の場合は、原則として婚姻関係が優先されるため、遺族基礎年金、遺族厚生年金ともに受給の可能性はかなり低いでしょう。 ▼相続手続きは一人で悩まず専門家に相談しましょう▼この記事のポイントとまとめ
ここまで、内縁の妻(夫)に財産を残す方法についてご紹介してきました。最後にこの記事のポイントをまとめます。
- 内縁と事実婚: 内縁と事実婚との違いはありません。婚姻届を市区町村の役所に提出してはいないものの、それ以外は法律上の婚姻関係にある夫婦と変わらない暮らしをしている関係をいいます。
- 内縁関係の相続問題: 内縁関係にある夫婦は、法定相続人にならず、特別寄与料や寄与分を受け取ることはできません。しかし、内縁関係の子供がいて認知をしていれば相続権があります。遺言書、生命保険契約、生前贈与などで内縁のパートナーに財産を残す方法も存在します。
- 内縁の妻(夫)が相続する際の問題: 内縁の妻(夫)は、相続税の基礎控除の人数に入れることができず、さまざまな特例が受けられない点で注意が必要です。
内縁の夫婦は、実態は夫婦と変わらなくても、婚姻届を提出しているかどうかで大きな違いがあります。
内縁の妻(夫)に財産を残すには、遺言や生前贈与、生命保険といった事前の準備が必要になります。法定相続人がいる場合には相続問題に発展する可能性も十分考えられますので、遺産相続に強い弁護士に相談しましょう。
「一度専門家に無料相談をしてみてから、自分で手続きをおこなうか、専門家に依頼するか検討する」という方法もおすすめです。
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