孫に遺産相続させたい!祖父・祖母の相続対策、生前贈与や遺言書などの活用方法【行政書士監修】
「孫は目に入れても痛くない」とは、昔からよく言われる言葉です。ご自身の子育てを終え、精神的にも経済的にも余裕のある中で見守るお孫さんの成長は思わず目を細めてしまいますよね。
少子高齢化が進んだことで、孫と祖父母との関係は、昔に比べより深いものになっているでしょうし、また、共働き世帯が増えていく中で、孫の面倒を見る機会も増え、子育てならぬ孫育てで忙しい方も。
そんなかわいい孫のために遺産を残したいと希望する方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、大切な財産をできるだけ多く孫へ残す方法をご説明します。
- 子がいる場合は孫に相続権がない
- 孫に遺産を相続させるには遺言書や養子縁組が有効
- 生前贈与を活用して孫に財産を残す方法
この記事の監修者
平成30年行政書士事務所を開業。約30年にわたり裁判所書記官として、民事事件、家事事件(遺産分割・相続放棄・後見・離婚)、刑事・少年・行政事件など、あらゆる紛争事案に携わる。豊富な経験をもとに、依頼者に的確なサポートを提供中。
▶ 行政書士濵田実事務所
目次
財産を孫に残す方法は大きく分けて2つ
孫へ自分(祖父母)の財産を残す方法としては、大きく2つに分けて考えられます。
- 「相続」で自分が死んでからの遺産を残す
- 「生前贈与」で生きているうちに財産を贈与する
「相続」は人が亡くなったときに発生するものです。通常、被相続人の子の存命中は、遺言書を用意するなどあらかじめ準備をしていない限り子が相続人となるため、被相続人の孫に相続財産が承継されることはありません。
被相続人の子がすでに亡くなっている場合は、代襲相続といって子(相続人)の子(被相続人の孫)が相続人となります。
「生前贈与」は、自分が生きているうちに財産をあげることです。贈与する側の自発的な思いがあっておこなうもので、相続税対策の一環として生前贈与を活用する場合もあります。
▼忘れている相続手続きはありませんか?▼孫は「法定相続人」ではない
人が亡くなると、遺言書がない場合、亡くなった人の財産は法律で定められた相続人である法定相続人に引き継がれます。遺言がある場合は、法定相続人以外の指定された人にも財産を受け取る権利が発生します。
法定相続人とは、配偶者と一定範囲内の血族です。血族には、血のつながった祖父母・親・子などの自然血族だけでなく養親・養子といった法定血族も含まれています。
被相続人の妻や夫である配偶者は必ず相続人になります。しかし、血族には優先順位が定められていて、優先順位が高い人が一人でもいれば、後の順位の人は相続人にはなれません。
先述のとおり、孫の親である、被相続人の子が存命の場合は、孫は法定相続人にはなりません。
法定相続人
- 被相続人の配偶者
被相続人の配偶者は常に相続人 - 第1順位
被相続人の子
子が被相続人より先に亡くなっている場合等は、直系卑属(孫など) - 第2順位
被相続人に直系卑属(子・孫など)がない場合等は、直系尊属(父母・祖父母など) - 第3順位
被相続人直系卑属(子・孫など)がなく、直系尊属(父母・祖父母など)も死亡している場合等は、兄弟姉妹
兄弟姉妹が被相続人より先に亡くなっている場合等は、その子(甥・姪)
図で表すと以下のようになります。
被相続人の子がいない場合は孫が第1順位となり、孫に相続権が発生しますが、子がいる場合は孫に相続権はありません。
法定相続分
また、被相続人の残した相続財産を相続するにあたって、それぞれの相続人の間で相続の割合が法律で定められています。これを法定相続分といいます。
法定相続人と相続の割合
法定相続人の組み合わせ | 法定相続分 | |
---|---|---|
配偶者のみ | 配偶者:全部 | |
子のみ | 子:全部 | |
親のみ | 親:全部 | |
兄弟姉妹のみ | 兄弟姉妹:全部 | |
配偶者+子 | 配偶者:1/2 | 子:1/2 |
配偶者+親 | 配偶者:2/3 | 親:1/3 |
配偶者+兄弟姉妹 | 配偶者:3/4 | 兄弟姉妹:1/4 |
相続で孫に遺産を残す方法
孫に遺産を相続させる方法には、次の3つのケースがあります。
このうち、代襲相続を除いた「遺言書による遺贈」と「養子縁組」の2つが、被相続人が自分の意志で孫へ遺産を残す方法です。
遺言書による孫への遺贈
遺言書は亡くなった人の意思であり、遺言書に記載された内容は法定相続分より優先されます。
遺言書を残すことで、財産のうち「何を」「誰に」「どれだけ」相続させるのかなど、自分の希望に合わせて相続財産の配分を伝えることができます。相続権のない孫に対しても、財産の一部を特定させて残すことや「〇分の〇」いった割合を指定することが可能になります。
遺言書で孫に相続財産を残す場合、孫には相続権がないので、遺言書への記入は「孫〇〇に、△△を遺贈する」といった表現が使われます。
なお、遺言書は法律上の要件を満たしていない場合には、無効となってしまう可能性があるので注意が必要です。遺言書の作成方法は、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類があります。確実に孫に遺産を相続させたい場合は、公正証書遺言を作っておくのが安心です。
孫の養子縁組
特定の孫と養子縁組をすれば、その孫にだけ遺産を相続させることが可能です。
養子は、養子縁組をした日から実の子と同じ身分になります。つまり、養子縁組をすれば孫も実子と同等の第1順位の相続人になれるのです。
ただし、民法上は養子の数に制限はありませんが、税法上は法定相続人の数に含むことのできる養子の数には制限があります。実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までしか税務上の養子にすることはできません。ですので、1人または2人の孫への遺産相続を希望されている場合に限って、養子縁組は有効な手段であると言えます。
また、養子縁組は、相続税対策の一環としても有効ですが、節税のためだけにおこなわれた養子縁組であると税務署に判断された場合、その養子縁組は否認されてしまうこともありますので注意してください。
養子縁組は、相続税対策の一環としても有効です。
相続税の基礎控除額は
です。
養子縁組により法定相続人が増えると一人当たり600万円の基礎控除額アップになるので、節税効果も期待できます。ただし、養子にした孫が遺産を相続する際は2割加算という制度の対象になりますので、最終的に節税になるかどうかは個別に判断が必要です。
孫への相続を希望されていて、相続税も発生しそうな方はぜひ参考にしてください。
養子縁組の手続き
養子縁組をする際は、届出人の本籍地または所在地の市町村役場に届出をします。
届出場所 | 届出人の本籍地または所在地の市町村役場 |
---|---|
必要書類 |
|
届出期間 | 期限なし(届出日から効力発生) |
届出人 | 養親または養子(15歳未満は法定代理人) |
提出者 | 誰でもよい。委任状不要 |
手数料 | 無料 |
届出書類の様式や、必要書類、受付時間などは各市町村によって異なる場合がありますので、届出する役所に事前に確認しておくことをおすすめします。
代襲相続
「遺言書による遺贈」と「養子縁組」は、被相続人の意思で孫へ遺産を残す方法ですが、それ以外に孫が相続権を得る場合があります。
被相続人の子が、被相続人よりも先に亡くなっている場合や相続欠格・排除の対象となり相続権を失っている場合は、その子の直系卑属(つまり被相続人の孫やひ孫)が代わりに相続権を引き継ぎます。これを代襲相続と言います。
代襲相続では、該当する子が受け取れた相続割合をそのまま引き継ぎます。孫が複数いるときは、その相続割合を等分したものがそれぞれの孫が受け取れる割合となります。
▼まず、どんな相続手続きが必要か診断してみましょう。▼
生前贈与で孫に財産を残す方法
遺産相続以外に孫へ財産を残す方法として、生前におこなう方法は大きく分けて「生前贈与」と「生命保険の受取人」を考えることができます。
1.生前贈与
生前贈与とは、生きているうちに他人に財産を贈与することです。贈与税と相続税では税率は異なり、生前贈与をおこなうと最高55%の贈与税がかかる場合もあります。
しかし、以下のように贈与税が減税または免税される特例もありますので、これらを活用すれば税負担を抑え、孫に財産を譲ることが可能です。
- 1-1.暦年課税制度
- 1-2.相続時精算課税制度
- 1-3.住宅取得資金として贈与する
- 1-4.教育資金や結婚・子育て資金として贈与する
以下、特例ごとに説明していきます。
1-1.暦年課税制度
贈与税の課税方法には暦年課税と相続時精算課税があり、受贈者は申告の際にどちらか選択することになります。
暦年課税を選択する場合には、年間110万円の基礎控除があります。つまり、1年間で110万円以下の贈与に抑えれば、孫は贈与税を支払うことなく財産を受け取れるのです。
例えば、1人の孫に500万円の財産を残したいと考えた場合、毎年100万円ずつ5年かけて贈与をおこなえば贈与税はかかりません。
ただし「100万円ずつ5年間贈与する」といった契約(約束)をした場合は、定期金給付契約に基づく定期金に関する権利(5年間にわたって100万円ずつの給付を受ける契約に係る権利)の贈与があったものとして、契約(約束)をした年に贈与税がかかってしまうので注意が必要です。
贈与するかどうかやその金額については、それぞれの年ごとに検討するようにしましょう。
贈与税の基礎控除は、上手に使えば孫へ財産を残すことも可能になり、相続税の節税もできます。
ただし、前倒しで贈与をおこなうということは、ご自身の老後資金が減少するというデメリットもあります。資金使途も指定することはできないので、孫が無駄遣いをする心配もあるかもしれません。
ご自身の老後の生活やご家族の状況に合わせて、生前贈与をおこなうかどうか、タイミング・金額などをご検討ください。
暦年課税の持ち戻しの対象期間の変更
令和5年度税制改正により、暦年課税における相続税の持ち戻し期間が3年から7年に変更になりました。これは令和6年1月1日以降の贈与から適用されます。
相続税の持ち戻しとは、被相続人の相続財産のほかに、贈与されていた財産を相続財産として相続税の計算に含めることを言います。令和6年1月1日以前は被相続人の亡くなる前3年間に贈与した財産について相続財産に持ち戻すことになっていましたが、これが7年間に延長されたということです。
ただし、ただ対象期間が延長されたわけではなく、4~7年以上前のものはその期間に贈与された額から100万円控除した額が持ち戻しの対象となります。
1-2.相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、生前贈与した財産についての課税を贈与時にはおこなわず、贈与者が亡くなった際、その生前贈与した財産を相続財産へ加えて相続税の計算をおこなうとする制度です。
適用対象者は、以下のとおりです。
- 贈与者:贈与が発生する年の1月1日時点で60歳以上の祖父母・親
- 受贈者:贈与が発生する年の1月1日時点で18歳以上の子供・孫(令和4年3月31日以前の贈与については「20歳」)
贈与者ごと、受贈者ごとに選択でき、受贈財産2,500万円までの部分がそれぞれ対象となります。2,500万円を超えた部分には贈与税20%が加算されます。
この制度の特徴は、
- 課税の先送り(相続の前倒し)である
- 暦年課税制度との2択で選択後は一生涯適用される
ということです。
受贈時に贈与税は払いませんが、最終的には相続財産に加算されて課税対象となります。
もし受贈分を加えた相続財産が基礎控除額の範囲内におさまるのであれば、贈与税を払わなくて済む分だけ節税になります。基礎控除額以上の相続財産があり相続税が発生する方にとっては、節税効果はそれほど期待できません。
また、一度相続時精算課税制度を選択すると、その贈与者と受贈者の間に発生するそれ以降の贈与については相続時精算課税制度が適用となり、取消しや変更はできません。暦年贈与の年間110万円の基礎控除が使えなくなるため、注意が必要です。
相続まで待たせずにまとまった額を孫へ贈与したい方や、将来、相続財産が基礎控除額の範囲内におさまりそうな方は検討されてもよいでしょう。
令和6年1月より新しい相続時精算課税制度が適用
令和5年度の税制改正において、相続時精算課税制度に年間110万円の基礎控除が創設されます。年間110万円以下の贈与であれば贈与税はかからず、さらに、累計2,500万円までの特別控除に含める必要はありません。
1-3.住宅取得資金として贈与する
孫へマイホームの購入やリフォームの資金として贈与をおこなう場合は、一定の要件を満たせば非課税限度額までは贈与税がかからない、といった制度があります。
もしも、お孫さんが住宅資金が必要となるタイミングで贈与を検討されているのでしたら、こちらの非課税制度を利用されることをおすすめします。
受贈者の主な要件
- 贈与を受けたときに、贈与者の直系卑属(子や孫)であること
- 贈与を受けた年の1月1日において18歳以上であること(令和4年4月1日以前の贈与については「20歳」)
- 贈与を受けた年の合計所得が2,000万円以下であること
- 過去の一定期間内に住宅取得等資金の非課税の適用を受けたことがないこと
また、そのほか建築要件、居住要件などがあります。
非課税限度額は、対象となる住宅の種類や契約締結日によって以下のように異なります。
住宅用の家屋の新築等に係る対価等の額に含まれる消費税等の税率が10%である場合
住宅用家屋の新築等に係る契約の締結日 | 省エネ等住宅 | 左記以外の住宅 |
---|---|---|
平成31年4月1日~令和2年3月31日 | 3,000万円 | 2,500万円 |
令和2年4月1日~令和3年3月31日 | 1,500万円 | 1,000万円 |
令和3年4月1日~令和3年12月31日 | 1,500万円 | 1,000万円 |
令和4年1月1日~令和5年12月31日 | 1,000万円 | 500万円 |
上記以外の場合
住宅用家屋の新築等に係る契約の締結日 | 省エネ等住宅 | 左記以外の住宅 |
---|---|---|
~平成27年12月31日 | 1,500万円 | 1,000万円 |
平成28年1月1日~令和2年3月31日 | 1,200万円 | 700万円 |
令和2年4月1日~令和3年3月31日 | 1,000万円 | 500万円 |
令和3年4月1日~令和3年12月31日 | 1,000万円(*1) | 500万円(*1) |
令和4年1月1日~令和5年12月31日 | 1,000万円 | 500万円 |
詳しくは、国税庁ホームページの「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」を参考にしてください。
1-4.教育資金や結婚・子育て資金として贈与する
住宅資金としての贈与はタイミングが限られますが、将来発生する教育資金や結婚・子育て資金として、金融機関への信託という方法で一括贈与をおこなうと、その贈与は非課税となります。
教育資金として贈与する場合
30歳未満の子や孫の教育資金としての金銭を、祖父母や親などの直系尊属が一括贈与をした場合、受贈者ごとに1,500万円(学校以外の教育資金は500万円)まで贈与税が非課税となります。
信託銀行などの金融機関に、子・孫名義の教育資金口座を開設してそこへ金銭を信託することで、受贈者は教育資金が必要なときに必要な額を非課税で受け取ることが可能です。
結婚・子育て資金として贈与する場合
18歳※以上50歳未満の子や孫の結婚・子育て資金としての金銭を、親や祖父母などの直系尊属が一括贈与をした場合、受贈者ごとに1,000万円まで贈与税が非課税になります。※令和4年4月1日以前の信託受益権または金銭等の取得については「20歳」
信託銀行などの金融機関に、子・孫名義の口座を開設してそこへ金銭を信託することで、受贈者は結婚や出産などの資金を非課税で受け取ることが可能です。
教育資金や結婚・子育て資金として贈与する場合の非課税措置については、国税庁発行のパンフレット「教育資金の一括贈与の非課税制度」や「結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度」を参考にしてみてください。
2.生命保険の受取人に指定する
その他、相続や生前贈与以外に生命保険の受取人を孫にする方法もあります。ただし、生命保険金の非課税枠は法定相続人のみに適応される点に注意してください。したがって、孫を生命保険の受取人にしても、非課税とならずすべて相続税の課税対象となります。
受取人が法定相続人の場合、生命保険には下記の通り死亡保険金の非課税枠があります。
▶生命保険金と生前贈与の関係について詳しく知りたい方へおすすめの記事
▼相続対策にはどんなことがある?まずは調べることから始めましょう!▼孫に遺産相続させるメリットとデメリット
孫に財産を残す方法として、これまで遺産相続と生前贈与について述べてきました。
生前贈与には、節税や課税の先送りといったメリットがある一方で、ご自身の使えるお金の減少や、資金使途が限定されたり逆に使途が指定できず無駄遣いにつながる可能性があるといったデメリットがありました。
それでは、孫に遺産相続をさせる場合のメリット・デメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。
メリット
- 節税できる可能性がある
- 生前に支払う必要がない
デメリット
- 他の相続人とトラブルになる可能性がある
- 相続税がより多くなる可能性がある
- 遺産分割協議への参加義務が発生する
メリット1.節税効果
通常の相続の場合、被相続人から子、子から孫と2段階の相続が発生します。
相続税がかかる場合、孫の手元に渡る財産は2回課税対象となっていると言えます。
仮に孫へ直接相続させると、相続は被相続人から孫の1段階だけになります。孫の手元に渡る財産への課税も1回で済みます。
孫への相続は、通常よりも2割多く相続税を支払わなくてはいけません(後述)。相続を2段階から1段階に減らすことで、それ以上の節税効果が期待される場合もあります。
メリット2.生前に支払う必要がない
孫へ財産を渡したくても、生きているうちに贈与することに躊躇する方もいるでしょう。お孫さんが無駄遣いをしないかという心配もありますし、ご自身がいつまで生きるか、病気になって高額の医療費が必要とならないか、など先が読めない中で老後資金が減少する不安もあるかと思います。
遺贈や養子縁組による孫への相続は、被相続人ご自身が亡くなった後に発生しますので、資金を生前に支払う必要がありません。不確定な支出に備えて、財産をおいておくことができるので安心です。
デメリット1.他の相続人とのトラブル
本来相続人ではない孫へ遺贈したり、養子縁組によって第1順位の実子と同じ立場にする場合、他の相続人とのトラブルが生じる危険があります。
法定相続人だけで遺産相続がおこなわれる場合は、法定相続割合に基づいて相続財産は分配されます。ここに、相続人でない孫への遺贈が発生すると、他の相続人は法定相続割合で分配されるよりも少ない財産を相続することになります。
相続財産が少なくなることによってトラブルに発展する可能性もあります。
養子縁組の場合も、例えば、相続人が被相続人の長男と次男の2人で、長男の子が養子縁組で養子となったとします。
法定相続人は長男・次男・養子の3人になります。長男・次男にとっては、本来1/2の相続分が養子縁組により1/3の相続分に変わってしまうことになります。また、遺産分割協議の際も3人での話し合いとなるので、長男&養子(長男の子)と次男という対立になってしまう可能性もあります。
このようなトラブルや対立を回避するためには、本来の相続人たちへの配慮が大切です。他の相続人の遺留分を侵害しない範囲で遺贈や生前贈与をおこなったり、事前に相談して了承を得ておいたりするとよいでしょう。
デメリット2.相続税の2割加算に注意
被相続人の配偶者と一親等の血族以外の人が相続する場合、相続税額は本来支払うべき税額の2割に相当する金額が加算されます。ここでいう一親等の血族とは、親・子(孫養子を除く)・代襲相続人である孫です。つまり、孫が相続する場合は、被相続人の子が死亡等で相続権を失い代襲相続が発生した場合を除いて、相続税額は2割加算となるのです。
相続税が少額であればそれほどの負担増加にはなりませんが、相続財産が多く相続税が多額になる場合は、生前贈与などの他の方法も検討してみてください。
デメリット3.遺産分割協議への参加義務の発生
養子縁組をおこなうと、孫は実子と同等の相続人となります。当然遺産分割協議に参加する義務も発生します。
養子となった孫が未成年の場合、契約や遺産相続などの法律行為ができないので代理人を立てる必要があります。未成年の契約手続き等は通常親権者がおこないますが、親も相続人である場合は、利益相反行為にあたるため代理人になれません。
こうした場合、家庭裁判所への申立てをおこなって特別代理人を選任します。特別代理人の申立てや遺産分割協議への参加など、時間や手間がかかることがデメリットと言えるでしょう。
遺産分割協議書の書き方を詳しく知りたい方は「遺産分割協議書を全解説|作成の目的から書き方、必要書類まで【行政書士監修】」を参照してください。
令和4年の4月から成人年齢は18歳に引き下げられました。今までは遺産分割協議など法律行為は20歳に達するまでは代理人が必要でしたが、この改正により、18歳からは成人として遺産分割協議に参加し自分で意思表示をおこない、18歳未満の未成年について代理人が必要となります。
孫への遺産相続でよくある質問
孫に全財産を遺贈することは可能ですか?
亡くなった人の意思が書かれた遺言書の内容は、法定相続分よりも優先されます。しかし、被相続人の配偶者・子・親といった一定の法定相続人は、最低限相続できる財産が法律で保障されています。この一定の法定相続人が相続財産を一定割合取得できる権利を「遺留分侵害額請求権」(以前は遺留分減殺請求権)と言います。
例えば「全財産を孫に譲る」と遺言書に書いた場合、法定相続人たちが納得していれば問題なく遺贈できます。しかし、法定相続人が納得せず、遺留分侵害額請求権を行使した場合は、定められた割合の遺産を法定相続人に渡さなくてはいけません。
なお、一定の法定相続人とは、配偶者・子・親です。兄弟姉妹には遺留分は認められていません。
Q:被相続人の子が相続放棄した場合、代襲相続はできますか?
被相続人の子が相続放棄をした場合、相続権は被相続人の両親や祖父母、さらに兄弟姉妹など、次の相続順位の相続人に移ります。被相続人の子には相続権がないため、被相続人の孫が代襲相続をすることはありません。
ただし、被相続人の子が以下の理由で相続権を失っている場合は、被相続人の孫に代襲相続が発生します。
- 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡している場合
- 民法891条(相続人の欠格事由)の相続欠格事由に当てはまる場合
- 民法892条、893条(推定相続人の廃除、遺言による推定相続人の廃除)の事由で相続人から排除された場合
つまり、被相続人の子に相続権があり相続人に該当した時点で、孫が代襲相続することはなくなります。仮に相続放棄を選んだとしても、孫は代襲相続できません。
▼何をすればいいか迷っているなら、今すぐ調べましょう▼この記事のポイントとまとめ
孫に遺産を相続させる方法についてご説明しました。最後にこの記事のポイントをまとめます。
- 相続方法: 孫の遺産相続できるケースは、遺言書による遺贈、養子縁組、代襲相続の3つのケースがあります。遺言書では孫への遺贈を具体的に定め、養子縁組では孫を実子と同等にし、代襲相続では孫が直系卑属として相続権を引き継ぎます。
- 生前贈与: 節税や課税の先送りといったメリットがある一方で注意も必要です。特例の活用で税負担を抑え、孫への教育資金や結婚・子育て資金として贈与することが可能です。
- 生命保険の活用: 相続や生前贈与以外に生命保険の受取人を孫にする方法もあります。孫への財産移転の手段として考えられますが、相続税が高くなる可能性もあるため注意が必要です。
孫へ財産を渡したい場合には、いくつかの選択肢があります。選択肢によっては、節税が可能になったり逆に支払う税金が増えてしまうこともあります。また、いつ、どのように、どれくらい渡したいかというご希望の内容によっても、選択肢は変わってきます。
税金について詳しく知りたい場合や、選択肢や手続きに迷われている場合は、専門家へご相談することをおすすめします。いい相続では、お近くの専門家との無料相談をご案内することが可能ですので、お気軽にご相談ください。
▼実際に「いい相続」を利用して、行政書士に相続手続きを依頼した方のインタビューはこちら
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