銀行預金・郵便貯金などの金融資産の相続財産調査や手続き方法
相続が起きたら相続財産を調査しなければなりません。
これは相続人に対してどのような資産や負債が残されていて、遺言書が残されていない場合には遺産分割協議の際にその対象となるものを把握する必要があるからです。
この記事ではそのような相続財産の中でも金融資産(預貯金)に関する調査について解説をしたいと思います。
相続財産調査の基礎知識
金融資産の財産調査について解説をする前に、相続財産の調査についての基礎知識を確認しておきましょう。
相続財産の種類
相続財産にはプラスの財産とマイナスの財産が存在します。
プラスの財産
プラスの財産とは被相続人が残したいわゆる資産です。
プラスの財産には「土地・建物のような不動産」「預貯金や株式などの金融資産」「宝石・骨董品などの動産」「ゴルフの会員権や著作権、特許権のような権利」などが存在します。
マイナスの財産
マイナスの財産とは「銀行や人からの借入金」「未払いの医療費などの債務」「クレジットカードのキャッシング」などの借金や未払いのお金のことを指します。
マイナスの財産もプラスの財産と同様に、遺言書の内容や遺産分割協議の結果によって相続人に配分されます。これは相続人が被相続人の代わりに債務を負うということを意味します。
すなわち、相続人は非相続人が残した資産(プラスの財産)と負債(マイナスの財産)の両方を相続するということです。
みなし相続財産
なお、被相続人の死亡により発生した財産で、本来の相続財産にはあたらないけれど、相続財産と同等の価値があるもののことを指すみなし相続財産については、相続財産として遺産分割協議の対象にはなりませんが相続税の対象となることに注意は必要です。
みなし相続財産には生命保険金や死亡退職金が含まれます。
相続放棄
相続財産の調査をすることでプラスの財産が見つかることもあればマイナスの財産が見つかることもあります。
プラスの財産がたくさん見つかり、相続人で分け合うことができれば良いですが、マイナスの財産ばかりが見つかった場合に相続人が借金を負うことになるのは避けたいと思います。このように相続人がマイナスの財産を負わないためなどに存在する制度が「相続放棄」です。
相続放棄は熟慮期間というものが設定されています。
熟慮期間とは、相続人が自己が相続する財産に何が含まれるかということを調査し、相続放棄をするべきかを考える期間です。熟慮期間は「自己が相続人であることを知った日から3ヵ月」と法律で定められています。この期間内に相続人は相続財産の調査を行い、自己が相続する可能性のあるプラスの財産とマイナスの財産を明らかにして、相続放棄をするかどうかを選択します。
すなわち、相続財産の調査は3ヵ月以内に行わなければなりません。
金融資産の財産調査
ここからは金融資産の中でも預貯金の金融資産についての財産調査について解説していきたいと思います。
大まかな流れとしては、「遺品の中から通帳等を見つける」「銀行に連絡をする」「残高証明書を発行して金額を確認する」「他の口座が存在するか銀行に探してもらう」となります。
通帳を見つける
最近は各金融機関でも電子通帳を推奨しているとはいえ、現状はまだまだ紙の通帳をお持ちの方も多いかと思います。
私の経験上、お亡くなりになられた方は銀行数で4~5行、口座数で6~8口座ほどお持ちであるのが平均値かなと感じています。
遺品の中から通帳を見つけることが財産調査をする上で重要になってきます。通帳の他にも銀行からのお知らせや郵便物がある場合には、口座を保有している可能性があるので問い合わせてみましょう。また、銀行口座の通帳や証券口座の通帳、公共料金やクレジットカードなどの各種支払いの記録を見ることで被相続人のお金の流れを把握することができるので、他の通帳の存在を確認することもできます。
金融機関への連絡
通帳を発見したら財産調査の前提として、名義変更や解約の手続きが必要になります。先ずは取り引き先の金融機関に死亡の連絡を入れ、口座を凍結するところから始まります。
お手元に通帳やカードとお亡くなりになられた方の戸籍などを用意してから連絡を入れましょう。店頭に直接訪問し伝えることもできますが、金融機関により多少進め方も変わってくるので、先ずはお電話で一報を入れた方がスムーズかもしれません。
金融機関への連絡前に注意をすること
できる限りスムーズに金融機関に本人死亡の連絡を入れることは、先々の遺産分割において争いごとの可能性を低くするためにはとても重要なことです。
しかし、ここではその前に少しだけ注意してくださいねということを挙げておきます。
- 対象口座から電気・ガス・水道などの公共料金や税金関係の引き落としがある。
- 自営業者などで経費、債務の毎月の引き落とし(支払い)がある など
金融機関へ死亡の連絡を入れると、その場で口座が凍結されてしまいます。
故人の通帳内容を確認し、上記のような確認がとれれば、早めに口座変更などの手続きを進めるようにしましょう。
もう一つ、金融機関への連絡前にしておいた方が良いことがあります。
それは「記帳」です
口座が凍結されると、当然ながらATMでの記帳もできません。記帳=お金の流れを知ることは相続手続きを行う上でとても重要です。
仮に相続税が発生する資産をお持ちの方がお亡くなりになると、一般的には税理士さんに依頼をする方が多いと思います。そうなると税理士さんは、最低過去5年分のお金の動きを全て調べることになります。その際に記帳がされていなかったり、あるいは未記帳の件数が多く、金額だけの「合計記帳」でお金の動きの詳細が分からないとなると「取引明細書」を金融機関から発行してもらう必要が出てきます。この費用も金融機関によって様々ですが数万円かかるケースも多く、出費がかさんでしまいます。
故人様のお金の動きや今後の手続きをスムーズに進めるためにも、普段から「記帳」を意識しましょう。記帳を行うことで相続財産がどれくらいあるのかを確認することができます。
余談ですが、繰り越し済み通帳はみなさんどうされていますでしょうか?
上記にご説明した通り、相続税が発生するケースでは過去5年~7年のお金の動きを調べる必要があります。1冊の通帳で5年分の記帳があればよいのですが、そうでない場合は最低でも5年分の記載がある繰り越し済み通帳は保管しておいた方が良いでしょう。
残高証明書の発行
通帳が見つかり、銀行に連絡をすることができたら相続手続きが始まります。被相続人の相続財産である預貯金の正確な額を把握するためにも残高証明書を発行しましょう。
残高証明書の発行依頼
金融機関へ本人死亡の連絡を入れ、口座が凍結されたあとの最初の手続きとなるのが「残高証明書」の発行依頼です。
相続人がお一人で、おおよその預貯金額もご存じで、相続財産も相続税が発生しない程度であればあえて取得する必要はありません。
しかしながら、相続人が複数いる場合は財産額の証明になりますし、相続税が発生する遺産額であれば取得は必須となります。
「残高証明書」とは、故人の死亡日現在、対象となる口座に預貯金がいくらあったのかを証明するものです。残高証明書は相続財産がどれくらいあるかを把握するだけでなく、財産目録を作成する際や遺産分割協議の際に他の相続人に対して証明するために用いることができます。
※ あくまでも死亡日現在の残高が証明されるため、葬儀費用などを想定し事前に口座よりお金をおろした場合などは個人様の資産額が変わってきます。通帳記帳と併せて確認をする必要があります。
残高証明書発行依頼には下記のものが必要になります。
- 故人様の通帳
- 故人様の死亡が分かるもの(戸籍関係書類)
- 故人様と申請者の関係性が分かるもの(全部事項証明書(戸籍)など)
- 第三者が依頼する場合は相続人様からの委任状
- 手続きをする方の実印
- 印鑑証明書(発行から6ヵ月以内) 金融機関により3ヵ月以内のものなど違いがあります。
- 発行手数料
また、残高証明書発行依頼の際にも注意点があるので記載しておきます。
- 他に口座がないか
これは手続きをする際、窓口の方や電話先の方に念のため当行で他に口座がないかの確認をお願いすればその場で全店検索をかけて確認をしてもらえます。この作業を行ってもらうことで、相続財産の漏れがなくなります(ただし、ゆうちょ銀行については照会の方法が他行と異なります)。 - 定期預金がある場合
定期預金の類がある場合、当然利息が発生します。この場合は「経過利息付」で残高証明書を発行してもらわないと利息が記載されず、再度取得が必要になるなど二度手間になってしまうので注意が必要です。
※「経過利息」とは、定期などの利息が発生する預金で、死亡日現在で解約した場合の利息計算が記載されているものです。
メガバンクなどは、「相続センター」や「相続オフィス」などの名称で専門の部署を置いているところがほとんどです。そのためこの部署から手続きをした方宛に後日郵送される流れとなります。
残高証明書についてはどの金融機関もおおむね約1週間から10日前後で指定の住所に担当部署から郵送されてきます。
また、メガバンクと違い、地銀や信金については専門の部署が置かれていることが少なく、担当支店からの発行となります。そして金融機関によっては申請依頼から30分~1時間ほどで窓口で発行して頂けるケースもありますので、訪問時には受け取り方法を確認し、状況にあった受け取りを選びましょう。
ゆうちょ銀行の残高証明書について
みなさまご存知の通り、ゆうちょ銀行に関しては現在は民間会社ではありますが、その成り立ちから他の金融機関と手続きが異なることが多くあります。
分かりやすいのが窓口が開いている時間ではないでしょうか。
通常、金融機関の窓口は15時までと認識されている方は多いと思いますが、ゆうちょ銀行の窓口は16時まで開いています。1時間でも長く開いているというのはとてもありがたいですね。
他の金融機関との違いとしては残高証明書の発行に関してもその一つで、これは「貯金等照会書」というものを窓口に提出することで約1週間から10日ほどで取得が可能です。
ここで注意点が一つ。
一般的な金融機関では、故人様の口座の特定はお名前・生年月日などから検索が可能ですが、ゆうちょ銀行の場合は、口座を作成した際の住所と紐づいているのため、申請用紙には口座開設当時住んでいた住所を記入する必要があります。
故人様が引っ越しを複数回されていた方であれば、できる限り過去の住所を確認してから書類を作成するようにしましょう。
余談ですが、メガバンクに比べ残高証明書の発行手数料は低く設定されています。
▼自分で手続きしていたけれど、やっぱり専門家に頼みたい、そんな方もお気軽にご相談ください。相続財産調査の後にすべきこと
冒頭でもご紹介しましたが、不動産や金融資産、その他の権利の財産調査は、相続人が相続をすることができる財産を明らかにするための作業です。ここからは財産調査が終わったらするべきことについてご紹介します。
財産目録の作成
財産調査を行った後はそれをまとめた財産目録を作成しましょう。
財産目録とは、相続財産を整理してまとめた表のことをいいます。これを作成することによって相続財産やその評価額などが明らかになり、遺産分割の際に相続人間でのトラブルを防止することができます。また、相続税を申告する際には財産目録の提出が必要になるので、財産調査が終了したらそれをもとに必ず作成しましょう。
財産目録を作成する際には、不動産や金融資産、その他の権利などのプラスの財産と負債などのマイナスの財産の調査結果を反映させて評価額を算出します。財産調査の際に取得した固定資産評価証明書や残高証明書などを証拠として添付して、くれぐれも記載漏れがないようにしておきましょう。
財産目録には決まった様式はありませんので作成者が自由な形式で作成することができます。しかし、財産の評価額の算出やその後の相続税の計算など、専門的な知識が必要になることが多いです。誤った評価をしてしまうとその後の遺産分割の際にトラブルに発展してしまうことがありますので、専門家に頼ることもおすすめです。
▼ゴルフの会員権や著作権、特許権などの相続財産に関する調査についておすすめの記事
遺産分割協議
相続の際に遺産分割協議を行わないと遺産分割協議書を作成することができません。遺言書が残されていない場合などには基本的に遺産分割協議を開催して、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書は相続手続きを行う際に利用します。
例えば、銀行で預金相続の手続きをする場合、法務局で不動産の相続登記をする場合、証券会社で有価証券や株式の相続手続きをする場合、相続税の申告をする場合などがあります。
また、遺産分割協議書を作成するメリットの1つとして、相続人間でのトラブルを回避ができることがあります。遺産分割協議書はその名称のとおり、相続人間で遺産を分割するために協議した内容を記した書類であり、相続人間での合意によって作成されます。なので、相続手続きが終わった後に遺産分割についてトラブルになることを防ぐためにもその内容を書類で残しておくことが重要になります。
相続財産の調査をもとに作成した財産目録を適宜参照しながら、遺産分割協議を行うことになりますので、遺産分割協議を開催して、相続手続きに必要不可欠な遺産分割協議書を作成するためには財産調査を十分に行うことが重要になるのです。また、相続に関する正確な法律知識を有しており、中立的な立場に立てる者が遺産分割協議にいない場合、可能なはずの権利主張などが出来ずにトラブルに繋がるということはよく起きてしまいます。
これらの場合には「行政書士」や「司法書士」といった専門家に依頼することで、スムーズで正確な遺産分割協議書の作成・相続手続きを行うことが出来ます。遺産分割協議についてはこちらの記事で詳しく解説しております。
まとめ
預貯金の財産調査は通帳さえ見つかれば不動産などと比べて評価額が明らかですし、比較的スムーズに行うことができると思います。もし、通帳が見つからない場合には銀行からの郵送物などがあるか確認してみてください。
また、都市銀行やゆうちょ銀行、信用金庫など様々な銀行が存在しており、それぞれの銀行で手続きの方法が異なる場合もあります。そのような理由から財産調査に時間がかかってしまうこともありますので、なるべく早めに始めることをおすすめします。
▼実際に「いい相続」を利用して、行政書士に相続手続きを依頼した方のインタビューはこちら
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