印鑑証明書が必要な相続手続きと届出先別の有効期限一覧表【行政書士監修】
印鑑証明書とは、その印鑑が、届け出られている印鑑であることを証明するものですが、法人の場合は登記所が、個人の場合は市区町村長が証明します。
個人が届け出た印鑑は一般には実印(じついん)とも呼ばれ、相続だけでなく、日常生活でも家の購入のような重要な契約などで使用します。
この記事では、主に個人が使用する印鑑の印鑑証明書について、印鑑証明書が必要な相続の手続き、印鑑証明書の請求の仕方、印鑑登録の仕方と実印に適した印鑑について詳しくご説明します。
- 遺産分割、不動産登記、口座の解約など印鑑証明書を使うケースは多い
- 印鑑証明書の有効期限は、提出先によって違う
- 印鑑証明書を発行するための印鑑の登録方法、印鑑はフルネームがおすすめ
この記事の監修者
宅地建物取引士・特定行政書士。大学卒業後、会計事務所にて相続対策に従事。依頼者に喜んでもらうことを目標に日々仕事に取り組む。
目次
印鑑証明書とは
日常生活で押印するときには、「認め印」と呼ばれる印鑑をよく使います。これに対し、相続の手続きのいくつかでは、「実印」と呼ばれるものが必要です。
認め印と実印の違いについては、印鑑という「物」として比較したときには、特別な違いはありません(実印に適した印鑑というのはありますので、それについては後述します)。
2つの違いは、その印鑑を市区町村に届け出ているかの違いです。市区町村の役所で「印鑑登録」をした印鑑のことを実印と呼びます。この印鑑が印鑑登録されていることを証明するのが「印鑑証明書(または印鑑登録証明証)」です。
実印は、印鑑登録されているということが証明できてはじめて意味をなすため、実印の押印と印鑑証明書をセットにすることで効力を発揮します。
印鑑証明書を求められて実印を押印しなければならないときというのは、重要な契約であることが多いと思います。例えば、不動産の売買契約、金融機関のローン契約など、他人のなりすましではなく本人が本人の意思で契約したことを、印鑑証明書を提出することで担保しているのです。住所の記載してある印鑑証明書で本人に間違いないことを、またその印鑑を押印する行為で明確な意思表示を推定することになります。
逆に言うと、実印が押印されて印鑑証明書がついていると、本人が本人の意思で契約したと見えてしまいます。この記事ではのちにトラブルにならないための注意点も解説しますので、ご参考にしてください。
印鑑証明書が必要な相続手続き
1.遺産分割協議
「遺産分割協議」とは、複数の相続人がいるときに、被相続人(亡くなった人)の財産を誰がどのように相続するかを話し合うものです。すべての相続人が話し合いの結果に同意をしたら、その内容を「遺産分割協議書」にまとめます。
遺産分割協議書を有効にするには、すべての相続人が署名・押印と印鑑証明書の添付が必要です。
遺産分割協議は相続人が複数いてもすべての財産について遺言書で「遺贈」される人が決まっているときや相続人がひとりのときにはおこないません。
遺言書によって財産を誰かに譲ることを遺贈といいます。財産を受け取る人の名称は、相続人ではなく、「受遺者」です。さらに〇〇のマンションを譲るというような譲るものを指定して遺贈することを「特定遺贈」、財産の〇割というように割合で指定することを「包括遺贈」といいます。包括遺贈はプラスの財産だけでなく、マイナスの財産も引き継ぐ義務があったり、相続したくないときには「遺贈の放棄」を申立てたり、相続に似た制度です。
2.相続登記
相続する財産に不動産が含まれているときには、相続登記(所有権の移転の登記)をおこないます。この手続きには、原則として、不動産を相続する人だけでなく、すべての相続人の印鑑証明が必要になります。
ただし、遺言によって遺贈されるとき、遺産分割の「調停調書」、または「審判書」があるときには、印鑑証明書は必要ありません。
相続の登記では、印鑑証明や戸籍謄本など必要書類の原本還付(原本とコピーを提出して原本を返却してもらうこと)してもらうことができます。
相続人同士の遺産分割協議がうまくいかなかったときには、家庭裁判所に「遺産分割協議の申立」をします。これが「遺産分割調停」です。遺産分割調停では、家庭裁判所が立ち会って、相続人同士が話し合いをします。それでもまとまらないときおこなうのが「遺産分割の審判」です。遺産分割の審判では、裁判所が遺産をどのように分けるかについて決定します。決定を受け入れられないときには不服申し立てができますが、同じことを繰り返すだけになってしまうので、最終的にはなんらかの形で全員が同意するようにしなければなりません。
3.銀行口座の名義変更
銀行や証券会社などの金融機関の口座の名義変更(払い戻し)にも印鑑証明書が必要です。
以下のケースでは、その口座を相続する人の印鑑証明書を提出します。
- 遺言による遺贈
- 相続人がひとり
- 遺産分割の調停調書がある
- 遺産分割の審判書がある
*遺産分割協議による相続では、相続人全員の印鑑証明書が必要です。
預貯金についての遺産分割協議をするときには、金融機関に「残高証明書」を請求して正確な残高や相続人が知らない口座や借り入れがないかの確認をします。また、残高証明書は相続税の申告でも必要です。この残高証明の請求にも実印と印鑑証明書は必要になります。
3.相続税の申告
相続税の申告はする人、しない人と別れますが、申告をする人のうち、さらに印鑑証明書を提出する場合、しない場合と別れます。
印鑑証明が必要とされる場合は、被相続人の財産が、基礎控除の金額より多いときには、相続税の申告をするのですが、遺産分割協議による相続では、相続人全員の印鑑証明が必要となります。遺言書による遺贈と相続人がひとりのときには、印鑑証明は不要になります。
なお、相続税の申告で税務署に提出する印鑑証明書は、原本還付してもらえません。すべての相続人を明らかにする戸籍や法定相続情報一覧図、遺産分割協議書などはコピーの提出で問題ありません。
なお、令和1年10月から相続税の申告も電子申告が可能になりました。この電子申告を利用する場合には印鑑証明書もPDFデータで提出できるようになっています。
印鑑証明書の有効期限は提出先によって異なる
印鑑証明書の有効期限は、提出先によって異なります。
主な提出先別の有効期限
提出先 | 有効期限 |
---|---|
法務局(相続登記) | 特になし |
税務署(相続税の申告) | 特になし |
金融機関 | 6ヵ月または3ヵ月(金融機関により異なる) |
金融機関に関しては、金融機関で異なるだけでなく、被相続人の契約内容でも異なることがあります。
大手銀行が指定している相続手続きに使う印鑑証明書の有効期限は以下の通りです。
銀行別の有効期限
金融機関名 | 有効期限 |
---|---|
みずほ銀行 | 6ヵ月。ただし、被相続人に融資取引があるときには3ヵ月 |
三井住友銀行 | 特になし |
三菱UFJ銀行 | 6ヵ月。ただし、被相続人に借り入れがあるときには3ヵ月 |
りそな銀行 | 6ヵ月 |
ゆうちょ銀行 | 6ヵ月 |
また、上記の5つの銀行に関しては、残高証明書を請求するときの印鑑証明の有効期限は6カ月です。
有効期限以外にも、被相続人が亡くなった後に発行されたもの、を指定されることがあります。そのため、印鑑証明書は、被相続人が亡くなってから請求するようにしましょう。
金融機関が、被相続人が亡くなられた後に発行された印鑑証明書を求めるには理由があります。
それは、民法の意思表示とのかかわりです。遺産分割協議書は、常に被相続人が亡くなった後に作られます。亡くなる前に発行された印鑑証明書は、遺産分割協議書につける予定で発行されたとは考えられず、別の目的で取得したものを流用していると感じられます。遺産分割協議書に限らず、実印を押印する文書に印鑑証明書を添付する際には、直近に発行されたものが望ましいといえます。
印鑑証明書の請求の方法
印鑑証明証の請求は簡単な手続きでおこなえます。
市区町村の役所の窓口で請求するときには
- 手数料 200円~400円ほど
- 印鑑登録証
が必要です。
平日の早い時間に役所に行けないという人は、夜間・土日も窓口対応をしていないか、自動交付機が設置されていないかを確認しましょう。
また、印鑑証明書の場合は、戸籍謄本や住民票とは異なり、印鑑登録証の提示だけすれば本人以外が請求することも可能です。
市区町村によっては、コンビニエンスストアでの交付に対応しているところもあります。そのような市区町村では、マイナンバーカードがあれば、コンビニで請求することが可能です。
相続人が未成年のとき
印鑑登録は15歳になれば可能です。しかし、未成年の場合は、相続の手続きが必要になっても法定代理人(親など)がおこないますので、印鑑証明書も法定代理人のものを使用します。
相続人と法定相続人の利害が相反するときには、家庭裁判所による特別代理人の選任が必要です。そのときには特別代理人の印鑑証明証を使用することになります。
相続人が海外に住んでいるとき
相続人が海外に定住しているようなケースでも、遺産分割協議書には署名・押印と印鑑証明が必要になります。そのようなときには、居住している国の在外公館で印鑑登録と印鑑証明証の発行をしてもらうのがひとつの方法です。
ほかには「署名証明(書)」を印鑑証明の代わりに利用する方法もあります。署名証明書とは、日本から遺産分割協議書を郵送し、相続人が領事の前で署名と拇印を押すと、「確かに領事の前で署名された」ということを証明してくれるものです。
現地大使館所定の用紙にサインをして、それを「確かに領事の前で署名した」証明をしてもらうのが「サイン証明」です。一方、遺産分割協議書に「確かに領事の前で署名した」という文書も合綴してもらうものが「奥書による認証」です。どちらの方式でも有効性にかわりはありませんが、後の名義変更や解約手続きの際に奥書による認証を求められるケースがありますので、あらかじめ確認しておくと良いでしょう。
▼何をすればいいか迷っているなら、今すぐ調べましょう▼印鑑の登録方法
成人した人が相続の手続きをするためには、手続きのために印鑑証明書が必要なので印鑑登録をしなければなりません。
印鑑登録をするときに主に注意するべきことは、手続きよりも登録する印鑑です。登録する印鑑は、今後、長期にわたって使用することになります。また、重要な書類に押印するものですから、偽造されにくい印影(文字のデザイン)を選びましょう。
印鑑を作る
印鑑(実印)を作るときに気を付けたいことは以下の3つでしょう。
- フルネームで作る
- 複雑な書体を選ぶ
- 硬い素材を選ぶ
女性の場合、結婚して苗字が変わることから、名だけで作る人もいるようですが、偽造防止という視点で考えると、フルネームの方がいいでしょう。
特に、よくある苗字の人は同じ苗字の人と同じような印影になることを避けるためにもフルネームが好ましいといえます。
さらに書体を複雑なものにすることで、偽造がしにくくなります。例えば「吉相体(または印相体)」や、吉相体の基となった「篆書体」、篆書体の線を細くした「細篆書体」などが、複雑で、かつ縁起がいいと言われています。
印鑑の素材は、昔から実印に使われている黒水牛や柘植、琥珀のほか、最近はチタンが人気です。
長く使っている間に削れてしまったり、変形してしまったりしない素材にしましょう。プラスティックなど軟らかい素材は登録できないとされている市区町村もあります。
また、印鑑のサイズが決まっている市区町村もあるので注意が必要です。例えば、新宿区や千代田区では、印影が一辺8㎜の正方形より大きく25㎜の正方形に収まること、としています。
実印を作るのに、一般的なハンコ屋さんで注文するときには、少なくとも3、4日かかると考えましょう。
インターネットでは即日納品してくれるハンコ屋さんをみつけることも可能です。しかし、機械彫りより手彫りの方が偽造は防げます。完全手彫りだと2週間ほどかかりますが、あまり時間がないときでも手彫り仕上げといって、最後に手彫りでほかの印鑑と違いが出るように処理してくれるものを選ぶ方が安心です。
印鑑を役所に届け出る
印鑑ができたら、お住いの市区町村の役所で手続きをします。
登録に必要なものは、次の2点です。
- 登録したい印鑑
- 本人確認書類
印鑑登録をおこなう手数料は50円~数百円と幅があるので、お住いの市区町村のホームページなどに確認してください。
本人確認書類が、運転免許証やパスポート、マイナンバーカードなど写真付きのものであれば、即日登録ができ、印鑑証明書も即日発行可能です。
健康保険証などの場合には、「照会書」が送付されますので、後日、照会書と登録したい印鑑を持参して登録をします。
なお、登録完了時に発行される印鑑登録証(印鑑登録カード)を紛失すると、再発行はされません。改めて印鑑登録をしなければならなくなりますので、注意してください。
▼今すぐ診断してみましょう▼専門家に相談した方がいいケース
印鑑登録や印鑑証明書の請求は簡単な手続きですので、ご自身でできるのではないでしょうか。
印鑑証明を使用する手続きで以下のような心配や問題があるときには、専門家への相談を検討してください。
- 時間がなく、書類を集めたり、金融機関にいったりできない
- 遺産分割協議の立ち合いを専門家にして欲しい
- 相続登記を依頼したい
- 相続税の申告をして欲しい
- 遺産分割協議の結果、相続放棄をしたい
依頼は、税金に関することは税理士、登記や書類作成の代行は司法書士または行政書士、手続きやほかの相続人との調整は弁護士にするといいでしょう。
▼めんどうな相続手続きは専門家に依頼しましょう▼印鑑証明書でトラブルにならないための注意点
最初に述べた通り、印鑑証明書は、実印、または押印されている書類とセットになってはじめて効力があります。
トラブルを避けるためにも、セットにして預けない、預からないことを心がけましょう。
理由があって、ほかの人に印鑑証明書を提出してもらうときには、使用目的をはっきりと伝えて預けるようにしてください。
悪質なケースでは、印影(押印してあるもの)から、印鑑を作成するという手口があります。利用目的がわからないときや信用できない相手には、印鑑証明単独でも渡さない方がいいでしょう。
▼まず、どんな相続手続きが必要か診断してみましょう。▼相続手続きで必要な印鑑証明に関する疑問
相続手続きで必要な印鑑証明に関する疑問と答えをご紹介します。
Q:実印とはなんですか?どこで買えますか?
印鑑登録している印鑑のことを実印です。印鑑自体は特別なものでなくてもいいので、一般のはんこ屋さんで購入してください。しかし、偽造防止・同姓同名の人との差別化の観点から、複雑な字体やフルネームのものを使用するといいでしょう。
Q:仕事が忙しく役所が空いている時間に帰れません。どうやって印鑑証明書を請求すればいいですか?
印鑑登録証(印鑑登録カード)があれば、ご家族などに代わりに請求してもらう事ができます。また、マイナンバーカードを使って、コンビニで請求することも可能です。役所が時間外に対応していないかも確認しましょう。
Q:相続の手続きに印鑑証明書は何枚必要ですか?
相続税申告用1枚、不動産登記用1枚、金融機関用1枚の3枚あると同時並行で手続きができるのでスムーズでしょう。
Q:ほかの相続人から、印鑑証明書を送って欲しいといわれました。使用目的がよくわからないのですが、大丈夫でしょうか?
印鑑証明書は、単体では効力がありませんが、トラブルを避けるため、使用目的は確認してください。また、悪質な例として、印鑑証明書から印鑑を復元した例もあるので、信用できる相手でなければやめた方がいいでしょう。
Q:ほかの相続人から、遠方に住んでいるため、印鑑と印鑑証明書を預けて欲しいといわれました。親戚だから大丈夫ですよね?
実印と印鑑証明書が揃っているということは、どのような公的書類も偽造できてしまう可能性があります。トラブルを避けるため、預けることはやめましょう。
Q:父の相続の手続きをしますが、亡くなる前に請求した印鑑証明は使えますか?
金融機関は、発行から3ヵ月、または6ヵ月以内の期限を設けています。それ以内であれば使える可能性がありますが、被相続人が亡くなった後に発行された印鑑証明書を求められるケースもあるので、確認が必要です。
Q:印鑑登録をしていないのですが、どうすればいいですか?
印鑑登録をしてください。実印として登録するのに適した手彫りなどの印鑑は即日購入はできませんので、取り急ぎ準備をはじめましょう。
Q:17歳です。両親はすでになく、祖父がなくなったので代襲相続します。印鑑登録できますか?
そもそも未成年の方の相続の手続きは代理人の方がおこないます。ご両親が亡くなっているケースでは、家庭裁判所で特別代理人を選任してもらってください。手続きにはその方の実印と印鑑証明書を使用します。
Q:海外に住んでいます。印鑑証明書は取れますか?
海外在住の方は、在外公館(日本国大使館など)が発行する印鑑証明書、あるいは印鑑証明書の代わりに「署名証明(書)」を利用してください。
▼依頼するか迷っているなら、まずはどんな手続きが必要か診断してみましょう▼まとめ
相続の手続きで印鑑証明が必要なものは、
- 遺産分割協議
- 不動産の登記
- 口座の名義変更
- 相続税の申告
です。
また、印鑑証明書の有効期限は提出先で異なりますが
- 税務署:特になし
- 法務局:特になし
- 金融機関:3ヵ月、または6ヵ月
になります。
印鑑登録は写真付き証明証があれば即日できますが、実印に適した手彫りのものは作成に2週間ほどかかりますので、この機会に作成しておいてはいかがでしょうか。
遺産分割協議や不動産の登記など印鑑証明書が必要な手続きで問題があるときには、専門家への依頼も検討してください。
いい相続ではお近くの専門家との無料相談をご案内することが可能ですので、印鑑証明書が必要な相続の手続きでお困りの方はお気軽にご相談ください。
▼実際に「いい相続」を利用して、行政書士に相続手続きを依頼した方のインタビューはこちら
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