成年後見制度とは?成年後見人への報酬や申立ての費用までわかりやすく解説
成年後見制度を利用するには、申立て費用をはじめさまざまな費用がかかります。具体的には、申立てとその添付書類にかかる費用、成年後見人への報酬、成年後見監督人への報酬、登記にかかる費用などです。
特に成年後見人と成年後見監督人への報酬は、制度を利用している限り発生する費用です。多くのケースで被後見人が亡くなるまで発生するものですから、しっかりと理解しておく必要があります。
この記事では、成年後見制度を利用するにあたって必要な、申立ての費用、後見人への月々の報酬と追加の報酬、登記などの費用などについてご説明します。
目次
成年後見制度とは
成年後見制度とは、認知症などで「事理を弁識する能力(判断能力)」が衰えたときに、本人(被後見人)の意思を尊重しながら財産や生活を守るための制度です。そのため、制度の利用にあたっては、「成年後見開始の申立て」の費用だけでなく、生涯にわたって後見人への報酬など、さまざまな費用がかかります。
法定後見制度では、後見開始の申立て後、審判前であっても申立ての取り下げをするには家庭裁判所の許可が必要になります。
また、後見人を解任する制度はありますが、明らかな不正や怠慢がなければ認められませんし、解任しても次の後見人が選任されます。つまり、制度を利用し始めてから、思ったより費用がかかってしまった、使い勝手が悪かった、と思っても、やめることはできません(事故や病気による一時的な意識不明など、判断力が回復したケース等は除く)。
成年後見制度の利用の前には、そのメリットだけに目を向けるのではなく、被後見人の方が、この先10年、20年と暮らしていく中で、どの程度の費用がかかるのかについても理解をしたうえで利用を決める必要があります。また、決定する前には、成年後見制度以外の制度との比較検討も必要です。
法定後見制度と任意後見制度
法定後見制度は、認知症などで判断力の程度によって後見・保佐・補助の3つが利用できます。
将来に備えて信頼している人に後見人を依頼したいときに利用できるのが、任意後見制度です。それぞれの違いは以下のようになっています。
成年後見人 | 保佐人 | 補助人 | 任意後見人 | |
---|---|---|---|---|
被後見人の判断力 | 全くない | 著しく欠如 | 不十分 | 問題なし(契約時) |
被後見人ができる契約行為 | 全くできない | 重要な判断は要援助 | 可能(援助を推奨) | 可能 |
後見人の同意権 | あり | 要付与手続き | 要付与手続き | なし |
後見人の代理権 | あり | 要付与手続き | 要付与手続き | 契約に基づく |
補助人に同意権と代理権を与えるときには、「開始の手続き」をするときに「追加付与の申立て」をおこないます。
同意権とは、これから本人が契約するときに同意を与えたり、勝手にしてしまった契約を取り消せる権利です。以下の民法13条1項に規定されている範囲の行為とされています。
- 預貯金の払い戻し
- 第三者との金銭の貸し借り
- 第三者の借金の保証人になる
- 不動産の購入・売却
- 相続に関する手続き
代理権とは、本人に代わって法律行為をおこなうことができる権利です。
任意後見人には同意権がありません。つまり、被後見人は、自由に契約などの法律行為がおこなえますが、判断力の衰えによって誤った契約をしてしまっても、取り消すことができないのです。
後見人になれない人
後見人になるのに資格などは必要ありませんが、欠格事由に該当する人は後見人にはなれません。
- 家庭裁判所で成年後見人、保佐人、補助人等を解任されたことがある人
- 破産者
- 本人との間で訴訟をしている人、その配偶者、その直系血族
後見人ができないこと
後見人は、次のようなことはできません。
- 日用品の購入の取り消し
- 住居を定める
- 遺言の代理作成
- 事実行為
- 保証人になること(入院の保証人など)
- 医療行為の同意
日用品の購入や住居を定めること、遺言の作成は本人の意思によって行われるべきという考えから後見人はおこなえません。
事実行為は、食事の世話や介護などを実際におこなうことです。
保証人や医療行為の同意は後見人はできませんが、親族がおこなうことができます。
成年後見制度のメリットとデメリット
成年後見制度には、以下のようなメリットがあります。
- 不要な契約を取り消せる
- 施設への入居手続きなどをしてもらえる
- 遺産分割や調停が必要なときに代行してもらえる
- 経済的破綻の予防ができる
しかし、成年後見制度には、以下のようなデメリットもあります。
- 費用がかかる
- (親族がなるときには)日々の出費などの事務の負担が大きい
- 一度利用を開始するとやめることはできない
- 支出の目的が大きく制限される
- 本人が資産運用や相続税対策、生前贈与ができなくなる
成年後見制度を利用するときはメリット・デメリット、そのほかの制度などを十分に検討してからにしましょう。
▼相続手続きは一人で悩まず専門家に相談しましょう▼法定後見開始の申立てに必要な費用
法定後見制度を利用したいときは、家庭裁判所に「成年後見開始の申立て」をおこないます。このときに支払う手数料や費用がかかる添付書類は以下の通りです。
必要書類
- 収入印紙(手数料)
- 被後見人の戸籍謄本
- 被後見人の住民票の写しまたは戸籍附票
- 後見人候補の住民票の写しまたは戸籍附票
- 登記されていないことの証明書
- 送達・送付費用(連絡用の郵便切手)
- 診断書(成年後見制度用)
- 鑑定費用
収入印紙の費用
申立てのときに必要になる収入印紙は、後見・保佐・補助とその申立て内容で異なります。
- 開始の申立て:800円
- 同意権付与の申立て/代理権付与の申立て:各800円
開始の申立てはどれも800円ですが、保佐と補助で同意権や代理権の付与を申立てる場合は、追加の申立てをしなければなりません。
戸籍謄本や住民票の写しの取得にかかる費用
住民票は世帯主全員の本籍・続柄が記載されているものが必要です。
住民票の写しの請求にかかる手数料は、自治体によって異なります。本人と後見人候補が同一世帯のときには戸籍謄本と住民票は合わせて1通です。
- 戸籍謄本:450円
- 戸籍附票:300円
- 住民票の写し:200~400円
「登記されていないことの証明書」は、本人が、すでに被後見人や被保佐人として登記されていないということを証明するものです。
- 登記されていないことの証明書:300円
送達・送付費用
「送達・送付費用」は、連絡用の郵便切手のことで、現金ではなく切手で、指定された種類・枚数を提出します。金額は手続きをする家庭裁判所で異なるのでホームページなどで確認してください。金額はおおむね3,000円~5,000円です。
東京家庭裁判所のケースでは、
- 後見申立て:3,270円分
- 保佐・補助申立て:4,210円分
切手の種類と枚数は、500円が何枚、100円が何枚などと指定されています。(2020年12月時点)
診断書(成年後見制度用)について
「診断書(成年後見制度用)」は、認知症などの専門医に書いてもらう必要はありません。科についても指定はないため、かかりつけ医に書いてもらうのがいいのではないでしょうか。このとき、診断書の作成費用は医療機関によって異なりますが、おおむね3,000円~1万円です。
鑑定費用
「鑑定」とは、本人にどの程度の判断能力があるのかを医学的に判断する手続きです。調査官と本人との面談の結果、家庭裁判所が必要と判断したときだけおこなわれます。しかし、鑑定が必要とされるケースはそれほど多くないようです。
鑑定をする医師は家庭裁判所が決定し、依頼します。鑑定を行う場合は、10万~20万円程度の費用を納める必要があります。ただし,審判で本人負担とされた場合は、本人財産から精算できます。
この費用については、鑑定が必要とされた後に被後見人の財産から支払うことができるため、申立てのときにあらかじめ用意する必要はありません。
▼めんどうな相続手続きは専門家に依頼しましょう▼申立てを専門家に依頼した場合の費用
後見開始の申立てをするときには、財産目録など作成しなければならない書類があるため、自分で作成するのが難しいときには専門家に依頼するのがいいでしょう。
また、家族が後見人になることを希望していたのに選任されなかったケースの中には、書類に不備などがあって、後見人としての事務能力が十分でないと家庭裁判所が判断した例もあります。
専門家に書類の作成を依頼したり、提出前の確認を依頼したりすれば、このような問題は回避可能です。
書類の作成代行を依頼したいときには司法書士に依頼します。料金の相場は10万円ほどです。手続きなども含めて依頼したいときには弁護士に依頼します。料金の相場は20万円ほどです。
▼相続対策は一人で悩まず専門家に相談しましょう▼成年後見人への報酬について
「報酬付与の申立て」を後見人がおこなうと家庭裁判所は、報酬額を決定します。法定後見人/保佐人/補助人の報酬はすべて同じ基準です。管理する財産(預貯金および有価証券などの流動資産)の合計額によって基本報酬が変わります。
管理する財産の合計 | 基本報酬/月 |
---|---|
1,000万円以下 | 2万円 |
1,000万円超、5,000万円以下 | 3万円~4万円 |
5,000万円超 | 5万円~6万円 |
付加報酬が加算されるとき
また、月額の基本報酬とは別に、付加報酬が加算されることもあります。
付加されるケースは次の2つです。
- 身上監護等に特別困難な事情があったとき
- 特別の行為をおこなったとき
「身上監護などに特別な事情があったとき」とは、「親族間に対立があってその調整を後見人がしなければならない」、「不正によって解任された後見人の後任でその後の対処もおこなう」など、通常の後見業務の範囲を超えているときを指します。
このようなときに付加される報酬は基本報酬の50%以内です。
「特別な行為をおこなったとき」とは、遺産分割や不動産の任意売却、調停などを指します。
このとき報酬の基準になるのは、その行為によって得られた利益です。利益に応じて付加報酬を支払います。
親族が後見人になるケースで、報酬を受け取らないときには、報酬付与の申立てをおこなう必要はありません。
後見人への報酬は、被後見人の財産から支払われます。
後見人の活動費について
成年後見人は選任されると、被後見人の財産の調査などをおこないます。その際に、財産に不動産があると
- 固定資産評価証明書
- 登記事項証明書
上記のような書類が必要です。
書類の取り寄せには手数料や切手代、窓口に行くのであれば交通費などかかりますので、これらの費用は実費で被後見人が負担します。
任意後見契約公正証書作成に必要な費用
任意後見制度では、本人の判断力が衰える前に、信頼できる人と「任意後見契約」をおこなうことで、将来に備えます。任意後見契約の書類は、公証役場の公証人に作成してもらわなければなりません。
公証役場に支払う手数料などは以下の通りです。
- 手数料:1万1,000円/契約
- 登記手数料:2,600円
- 登記嘱託料:1,400円
- 正本謄本作成手数料: 250円/枚
この費用は任意後見受任者の人数によってかわります。
また、公証役場に支払う手数料に加え、下記の必要書類の請求手数料も必要です。
- 任意後見委任者の印鑑登録証明書:300円
- 任意後見委任者の戸籍謄本:450円
- 任意後見委任者の住民票:200~400円
- 任意後見受任者の印鑑登録証明書:300円
- 任意後見受任者の住民票:200~400円
契約を締結しただけでは、後見は開始されないため、この段階では、本人を「任意後見委任者」、任意後見人を「任意後見受任者」といいます。
任意後見人への報酬
任意後見人への報酬は、当事者同士で話し合って決めます。
親族が後見人となるケースでは無償のこともあります。相場としては0~3万円です。
任意後見制度では、自分が信頼できると思う専門家を選んで依頼することもできます。司法書士や弁護士に依頼したときの相場は、3万円~5万円です。相場は事務所ごとの料金はさまざまなので、具体的には直接確認してください。
後見開始後の報酬以外にも、任意後見契約から後見開始までの間に判断力の衰えを確認する見守り契約などで10万円~20万円必要になることもあります。
また、任意後見人も法定後見人と同様に、不動産売買などをおこなったときには、付加報酬が必要です。
▼相続対策にはどんなことがある?まずは調べることから始めましょう!▼成年後見監督人への報酬
成年後見監督人は、成年後見人が適切に事務をおこなうよう監督する役割です。法定後見人では、家庭裁判所が必要と判断したときに選任され、専門家が選任されるケースが増えています。任意後見人には必ず任意後見監督人が必要です。
成年後見監督人・保佐監督人・補助監督人・任意後見監督人、すべて同じ基準で算定されます。
管理する財産の合計 | 基本報酬/月 |
---|---|
5,000万円以下 | 1万円~2万円 |
5,000万円超 | 2.5万円~3万円 |
登記手数料について
成年後見制度を利用するときは「成年後見登記制度」に登記をします。登記のタイミングは、法定後見制度は後見が開始されたとき、任意後見制度は、任意後見契約をしたときです。
任意後見契約で公証人に代理で登記してもらうときには、登記手数料のほか「登記嘱託料」も必要になります。
- 登記手数料:2,600円
- 登記嘱託料:1,400円
登記手数料は、後見が開始されて以降も「変更の登記」、「終了の登記」をする際に必要です。「変更の登記」は住所の変更などがあったとき、「終了の登記」は被後見人が死亡したときなど後見を終了するときにおこないます。
後見制度支援信託を利用するとき
「後見制度支援信託」は、日常的な支払いをするのに必要十分な金銭を預貯金等として後見人が管理し、通常使用しない金銭を信託財産として「信託銀行」等が管理するというものです。必ず利用する制度ではありませんが、預貯金などの流動資産が多いときには利用を検討します。目安としては、500万円以上です。
親族が後見人をしているケースで、流動資産が多いときには、家庭裁判所が利用をすすめることもあります。
専門職後見人への報酬について
後見制度支援信託を利用するときには、預ける金額や預け先を原則として、弁護士や司法書士の専門職後見人が決定します。専門職後見人への報酬は、10万円~30万円です。信託銀行等によっては信託報酬等の費用がかかる場合もあります。
専門職後見人は、信託銀行との契約が締結できると辞任します。そのため、報酬は1回だけです。
後見制度支援信託の利用をすすめられるケースでは、利用しないことを選択すると、代わりに成年後見監督人が財産管理のチェックのために選任されます。すでに別の理由で選任されているときには事情が異なりますが、後見制度支援信託と成年後見監督人のどちらかを選択するということになると
- 後見制度支援信託:専門職後見人への報酬10万円~30万円/回
- 成年後見監督人:報酬1万円~3万円/月を被後見人が亡くなるまで
となりますので、最初にまとまった費用を支払うことになりますが、最終的に成年後見支援信託の方が費用を抑えられる可能性があります。
▼依頼するか迷っているなら、まずはどんな手続きが必要か診断してみましょう▼成年後見人の費用に関するよくある疑問
成年後見人の費用に関するよくある疑問と答えを紹介します。
Q:叔父の成年後見人になりました。報酬はもらえますか?
報酬付与の申立てをしてください。申立てをすれば親族であっても通常認められます。
Q:父の成年後見人になりました。報酬はいらないのですが、認められますか?
報酬付与の申立てをしなければ、結果として無償で成年後見人を務めることになります。特に手続きは必要ありません。
Q:父の成年後見人に第三者が選任されましたが財産に比べて報酬が高い気がします。減額できませんか?
報酬は、財産の額を基に算定されていますが、申立てをすると事案によっては減額されます。
Q:父に成年後見の手続きをしたいのですが、被後見人の財産も少なく、支払いが難しいです。どうすればいいですか?
自治体によっては補助金の制度があります。確認してみてください。
Q:被後見人の財産がなくなったら、後見人への報酬はどうやって支払うのですか?
法定後見人の場合は、市区町村の扶助の制度や、支援事業で支払われることがあります。自治体に問い合わせてください。
まとめ
成年後見制度は、認知症のような回復の見込みがない症状では、被後見人の方が亡くなるまで続きます。被後見人の方の年齢や健康状態によって利用する年数は変わってきますが、制度の利点だけでなく、生涯でかかる費用についても十分に検討してください。
自身や家族の状況に成年後見制度の利用が適しているのか、そのほかの制度はないのか、など判断ができないときには専門家に相談してみましょう。
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