老老相続と数次相続、高齢者の相続人がいるときの問題と生前対策【2024 年末年始特集】
日本人の平均寿命は2022年7月の厚生労働省の発表によると男性は81.47歳、女性は87.57歳。
健康で自由に動き回れる、いわゆる健康寿命は平均寿命より約10年ほど短いようです。
長生きは喜ばしいことですが、高齢者の相続においては、相続人も高齢者であることが多いため特別に気を付けたい点があります。
この記事では被相続人と相続人が高齢者の場合の相続についての問題点や対策について説明しています。
是非ご家族でお読みいただき、相続対策にお役立てください。
この記事を書いた人
鎌倉新書にパートタイマーとして入社。2020年チャレンジ制度をクリアし正社員に。
目前に控えたシニアライフを楽しく過ごすため、情報集めに奔走するアラカン終活ライター
資格:日商簿記1級・証券外務員二種・3級FP技能士
老老相続とは?
相続させる側の高齢化が進むと相続の発生が遅れます。そして、相続をする側も高齢者という状況が生まれます。
このような高齢者から高齢者へおこなわれる相続を老老相続とよんでいます。
老老相続の問題点
老老相続の問題点の一つは相続が続くおそれがあることです。相続手続きは意外と労力がかかります。やっと相続手続きが終わったところに、またすぐに相続が発生したら心身と共に大きなストレスを感じることが心配されます。
なお、このように相続が立て続けに発生することを相次相続と言います。
老老相続により、相続のタイミングが遅くなることで、格差の固定化や若年世帯への資産移転がしにくいことも社会的な問題といわれています。
老老相続で相続タイミングが遅くなるとはどういうこと?
相続のタイミングが遅くなるとは具体的にどういうことでしょうか。
4人家族、両親が平均寿命で亡くなり一般的な相続という設定で考えてみたいと思います。
父82歳。母80歳。子ども2人(57歳と55歳)。
父が亡くなり、遺産は母と子どもが相続。法定相続割合は母が1/2。子どもは1/4ずつで相続。
母は80歳で出歩くのが不自由。そのため、相続した財産はあまり使う機会がない。
また、子どもも50代後半で定年退職を見据えている時期。
母も子も「いざというときのために」と父から相続した財産を貯金へ。
そして、母が平均寿命の87歳で亡くなり、子どもたちは60代で定年している。
母から相続した遺産も「老後の資金」として蓄える・・・。
以上は例え話ですが、このように相続のタイミングが遅くなることで金融資産が動かない状態が続いてしまうことについて社会的な問題とされているのです。
▶Q&A 親が高齢の場合、片方の親が亡くなったときの遺産分割の注意点は?高齢者はそんなに貯金をもっているの?
では、高齢者はどのくらいの貯蓄があるのでしょうか。
世帯主が65歳以上である二人以上の高齢者世帯の貯蓄現在高は、2017年は1世帯当たり2386万円(出典:総務省統計局)です。
近年続く物価高や、年金に対する不安で、若い人でも手元にあるお金を積極的に貯蓄に回す人も多いと思いますが、以下の年代別の⾦融資産保有残⾼では、この20年間で60歳代以上の保有割合は約1.5倍に増加しているのがわかります。
(出典:財務省「第1回 相続税・贈与税に関する専門家会合(2022年10月5日)資料一覧」)この表により高齢世帯の方が金融資産を持っている傾向がわかります。
ただし、一般的には、現役で働いている世帯は、お金を使ってしまっても稼ぐ機会があるため日々の暮らしが成り立っており、そのため貯蓄についての意識は高齢者より薄いと考えられます。一方、高齢者は収入を得るための機会が少ないので、相続や、退職金などまとまった金銭を得る機会があればそれらを貯蓄に回して日々の生活費として取り崩して使うためのものと位置づけていると考えられます。そのため自然と高齢世帯の金融資産の保有額が多くなるのかもしれません。
数次相続とは?
相続の手続き中に相続人が亡くなり相続が続けておこることを数次相続といいます。
たとえば、父親の相続の遺産分割協議をしている最中に、母親が急死してしまうケースです。
この場合、父親の相続を一次相続、母親の相続を二次相続といいます。
高齢者の相続は現役世帯より数次相続がおきる可能性が高いかもしれません。
数次相続の問題点
相続の遺産分割協議の最中に相続人が亡くなったら、亡くなった人の相続人が亡くなった人の代わりに遺産分割協議に参加しなくてはなりません。
父、母、長男、次男と次男の配偶者と子どもの6人家族構成で一般的な相続という設定で数次相続を考えてみます。
父親が亡くなった場合の相続人は母と長男、次男の3人です。
父親の相続(一次相続)で遺産分割の手続きが終わっていない中で次男が亡くなった場合、相続人は母と長男の2人だけになるわけではありません。
亡くなった次男の父親の相続人(一次相続の相続人)としての地位は、次男の相続人(二次相続の相続人)が引き継ぎます。
次男の相続人は配偶者と子どもですので、父親の相続(一次相続)の遺産分割協議に、次男の配偶者と子ども(二次相続の相続人)が参加することになります。
数次相続がおこると一次相続と二次相続の相続人をすべて確定してから手続きをすることになるため複雑化してしまいます。
このように、相続人に高齢者がいる場合には、老老相続や、相続が続く数次相続についても心配する必要があるのです。
高齢者の相続人がいるときの生前対策
人により相続財産の種類も金額も違うので一概には言えませんが、老老相続や数次相続に備えられることとしては生前贈与や遺言書の作成などがあげられます。
いずれにせよ、相続対策をするという意識を持ってもらうことが大切です。
生前贈与で対策する
相続対策といえば、真っ先に思い浮かぶのは生前贈与ではないでしょうか。特に老老相続では資産の移転の時期の遅さが問題に上げられていますからこの問題解決に貢献することもできます。
生前贈与の方法で、110万円まで贈与税が非課税になる暦年贈与はよく知られている方法ですが、この方法には注意したい点があります。それは「相続税の持ち戻し」です。
「相続税の持ち戻し」とは生前贈与を行っても、贈与者が亡くなる前の3年間に贈与したものは相続財産として相続税の計算に含めるというものです。令和5年の税制改正でこの持ち戻し年数が長くなりそうなのです。
「相続税の持ち戻し」が3年から7年へ
令和5年の税制改正では、相続税の持ち戻しの期間の3年が7年に延長されることが濃厚です。
相続税の持ち戻しをされる理由は、贈与されたタイミングが相続開始の直前であればそれは贈与でなく相続財産であると考えられてしまうためです。
今回、令和5年の税制改正により持ち戻しの期間が相続開始の7年前までさかのぼることになりそうなのです。
いままでは110万円を7年に渡って法定相続人に対して暦年贈与した場合3年分を持ち戻しすればよく、4年分は持ち戻しの対象外なので贈与されたままでOKでした。しかし改正後は、この4年分も相続財産に加算して相続税の課税の対象としなければならなくなります。そのうえ、贈与の持ち戻しは特別受益とみなされ、遺産分割の対象になります。
改正後に贈与をする際には、持ち戻したときに相続人の間で不公平感がおきないようにするため今まで以上に対策が必要となるでしょう。
なお、生前贈与では持ち戻しの対象外になる特例があるので、これらを賢く活用しましょう。
- 住宅取得のための資金贈与
- 教育資金の一括贈与
- 結婚や子育て資金の一括贈与
遺言書で相続対策をする
遺言書を残すことで自分の財産をどのように相続させたいのか最終的な意思を伝えられます。先述の生前贈与の特別受益に関して持ち戻し免除の意思表示ができます。
遺言書を通じて故人の遺志がわかることで相続人間で納得感が得られ、相続手続きがスムーズにすすめられることが期待できます。
また、遺言書は自分の財産の話を他の人に公表することに抵抗がある人には向いている方法です。
遺言書に法的効力を持たせるには、細かい決まりがありますので遺言書が無効にならないためにも専門家にサポートを頼みましょう。
相続対策をしてくれそうにないとき
相続する側は生前に対策したくても、相続させる側がなかなか財産を手放したくない、財産の全容を教えたくないというなら無理強いは禁物です。
でも、どこに何があるのか分からないのは万一のときにとても困ってしまいます。せっかく遺産分割が終わってから、また遺産が見つかった・・・ということも実際に起こりえます。また、親が高齢であれば2人とも入院してしまい、実家を空けることがあるかもしれません。
もし、子どもである自分自身も高齢者に近づいている年齢であれば、親と一緒にどこに何があるのかを伝えあうのはいかがでしょうか。エンディングノートを親子で書くのもよいでしょう。相続する側も一緒に相続対策をすることで相続させる側の立場になって考えることができます。
まとめ
いつまでも元気で長生きできればいいのですが、いつか人生に幕を閉じるときがやってきます。
自分の残した財産を後世に渡すためには、複雑な相続のルールを守る必要があります。
高齢者が相続人になるときには老老相続や数次相続のように近い将来を想像しながらおこなうことが大切です。是非、早めに対策を始めましょう。
「いい相続」では遺言書の作成のサポートができる相続の専門家をご紹介しています。上手な相続をするためには、税理士や行政書士など有資格者の中でも相続に強い専門家にご相談することをお勧めします。お気軽にお問い合わせください。
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