認知症の父と元気な母。今からできる相続対策は?
両親と実家で暮らしています。認知症の父が施設に入ることになったのですが、父の名義となっている実家を私名義に変更できますか?母は健康で元気ですが80歳近いので、私に相続するようにと言っています。
不動産の所有者が認知症などでご自身で判断ができない場合、原則、名義変更はできません。成年後見人がついていた場合でも、財産の処分には家庭裁判所の許可が必要です。
「判断能力がない」と判断されたら?
生前の不動産の名義変更は、不動産の贈与や売却の契約によっておこなわれますが、不動産の所有者に意思能力(この場合は生前贈与や財産処分などの判断能力)がない場合、その法律行為は無効となります。
第二節 意思能力
第3条の2 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
もちろん、認知症だからといって、すべての人が判断能力がないというわけではありません。症状の程度によっては、意思能力があると判断される場合もあります。
ただし、意思能力の有無の判断は難しいため、医師に相談、確認することをおすすめします。
不動産の所有者が認知症で、本人に判断能力がないと判断された場合は、司法書士などの専門家は手続きをしてくれません。もし手続きを行った時すでに認知症だったことが後から判明した場合、手続き自体が無効になります。
なお、成年後見制度を利用していても、財産の処分は本人のためにしかできません。 不動産の生前贈与などは「被後見人本人のための行為ではない」と判断される可能性があり、実現は難しいでしょう。
名義変更ができなくなったら、相続が発生するまで待つか、空き家の状態で放置するなどの対処しかできなくなってしまいます。
成年後見制度とは
成年後見制度とは、認知症などで「事理を弁識する能力(判断能力)」が衰えたときに、本人(被後見人)の意思を尊重しながら財産や生活を守るための制度です。そのため、制度の利用にあたっては、「成年後見開始の申立て」の費用だけでなく、生涯にわたって後見人への報酬など、さまざまな費用がかかります。
後見人を解任する制度はありますが、明らかな不正や怠慢がなければ認められませんし、解任しても次の後見人が選任されます。つまり、制度を利用し始めてから、思ったより費用がかかってしまった、使い勝手が悪かった、と思っても、やめることはできません
「報酬付与の申立て」を後見人がおこなうと家庭裁判所は、報酬額を決定します。管理する財産(預貯金および有価証券などの流動資産)の合計額によって基本報酬が変わります。毎月報酬が発生するので、制度の利用にあたってよく注意して検討してください。
▶成年後見制度とは?成年後見人への報酬や申立ての費用までわかりやすく解説
相続対策は早めにするのが鉄則
判断能力がある時であれば、各家庭の状況に応じて生前贈与や家族信託など、さまざまな方法も考えられますが、認知症となり判断能力がないと判断されてしまってからでは、相続税の対策や相続問題を回避するための対策は限られてしまいます。
相続対策を考えるのであれば、なるべく早く、ご家族が元気なうちから始めておくことが鉄則です。
今からでも遅くない相続対策は?
例えば、今回のご相談の場合、将来相続が発生したときの対策を考えておくことはできます。
あらかじめ相続財産調査だけでも進めておいたり、ご自宅を配偶者控除を使ってお母さまが相続した場合と、二次相続も考えて相談者が相続した場合と、最終的にはどちらが税額が少ないかを検討しておいたり。相続税の配偶者控除とは、被相続人の配偶者が相続した財産が、法定相続分もしくは1億6,000万円のうちのいずれか多いほうの金額以下である場合には相続税がかからない制度です。
また、相談者以外にもきょうだいがいる場合には、お母さまが元気なうちに遺言書を用意していれば、お父様にもしものことがあった時にトラブルを避けることができるでしょう。
家族信託や任意後見制度の利用も考えられます。お母さまが認知症になる前から対策をしておくと、今後相続が発生した際にスムーズに手続きができるでしょう。
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