亡くなった人が滞納していた家賃は、相続人が払わなきゃいけないの?
兄が亡くなり、アパート代を数ヵ月分払っていなかったと大家さんから言われました。一旦、自分が立替ておこうと思うのですが、その分をあとから遺産からもらってもいいでしょうか?3人兄妹で、私の下に妹がいます。妹はそれでもいいと言ってくれています。親は他界しており、兄に子どもはいません。
特に故人の遺産から払ってしまうとその危険性が高くなるので、故人の債務については慎重に対応が必要です。
未納の家賃があったときの注意点
家賃を滞納していたのであれば、他にも未払いのものがあるかもしれません。
まずは光熱費や電話代、社会保険料などの支払いが済んでいるか確認してみましょう、さらに、これらを支払うために借金などをしていないか念のため調べてみましょう。
財産目録を有効利用
金額の大小にかかわらず、故人の債務を立て替えた場合は、領収書等は必ず受け取り保管しておきます。
財産の中から他の相続人よりも優先して受け取ることができるうえ、それらの費用は、遺産総額から差し引くことができる(債務控除)ので、節税効果も期待できます。
故人の遺産と故人に関わる収支の状況を明確にしておくために、財産目録に記載しておくのも良い方法です。
▶財産目録について詳しく知りたい方へおすすめの記事はこちらアパートの解約(賃貸借契約の解除)にもリスクがある!
故人が家賃を払っていなかったことが分かると、遺族の心情としては、これ以上支払額が増えないよう、すぐにでも解約したいと思うでしょう。
しかし、家賃の支払いの他にもアパートを借りる権利の「賃借権」も相続財産となります。アパートを解約をすると、相続財産の処分行為(解約することで敷金を受け取る行為)とみなされ、相続放棄を希望しても却下されるおそれがあります。
とはいえ、ゴミの放置などで退去手続きを急ぐ必要がある場合などは、相続財産の保存行為(相続財産の価値を維持するための行為)と該当する可能性もあります。これらの判断は難しいため、専門家への相談が必要です。
法定単純承認に該当する3つの行為
法定単純承認に該当する行為は法律で決められています。民法921条では以下の3つが規定されています。
1.相続財産の処分をした場合(921条1号)
相続財産の処分をした場合は、単純承認したものとみなされてしまいます。
「処分」とは、所有者が行うことができる行為をいいます。
具体的には、不動産など財産の売却や譲渡、財産の損壊や破棄が処分に該当します。
相続手続きが終わるまでは、相続財産を使う権利は相続人にはありません。勝手に相続財産に手をつけた以上、プラスの財産もマイナスの財産も全て相続するという意思表示とみなされます。ある意味当然の規定かしれません。
ただし、相続財産の価値を損なわないようにするための保存行為は相続財産の処分に該当しないので単純承認とみなされません。
例えば、家屋の修繕や腐敗のおそれのある物の売却です。
これらの行為は、相続財産を侵害するどころか、相続財産の価値を維持する行為だからです。
2.限定承認や相続放棄をしなかった場合(921条2号)
冒頭のほうで説明しましたが、どの方法で相続するかを決める「熟慮期間」という期間が原則3ヵ月と決まっています。その期間に限定承認も相続放棄もしなかった場合には、単純承認をしたものとみなされます。
つまり、何もしなかった場合は、単純承認したことになってしまうということです。
このように条文で規定されていますので単純承認の場合には特別な手続きが不要になります。
3.相続財産の全部若しくは一部を隠匿、消費・悪意で相続財産の目録中に記載しなかったとき(921条3号)
相続財産の全部はもちろん、一部でも隠したり、使ってしまうと単純承認したとみなされます。
「悪意で相続財産の目録中に記載しなかったとき」とありますが、この財産目録とは、財産の一覧表です。預金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含めて一覧になっていて相続税の申告や遺産分割協議で使われます。
この財産目録に相続財産をあえて記載しなかったときは、単純承認とみなされます。
なお、わざとではなく偶然書き忘れてしまった場合などは、この「悪意」に該当しないので法定単純承認には該当しません。
できれば相続人全員の同意を取っておく
今回の場合は相続人が質問者とその妹だけでしたので、妹の同意が取れれば遺産からの立替えは問題ないでしょう。
しかし相続人が複数いた場合、できれば相続人全員の同意を取ってから行うことが望ましいです。後の相続トラブルを避けることにつながります。
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