死後認知の請求方法 時効は?DNA鑑定は?認知後の遺産分割などの相続手続きも解説
婚姻していない男女の間に生まれた子どもが、父親に認知をしてもらいたいと思ったとき、既にその父親が亡くなっていたら認知は請求できないのでしょうか。
実は、認知は父親が亡くなった後でも請求でき、これを「死後認知請求」といいます。
この記事では、死後認知請求の手続方法や、請求できる期間、かかる費用や認知後の相続手続きについて説明しています。
目次
死後認知とは?
婚姻していない男女の間に生まれた子どもが、父親に正式に子供として認めてもらう手続きが認知です。その父親が亡くなった後にされた認知を「死後認知」といいます。
死後認知を受けるメリット
死後認知を受ける最大のメリットは、戸籍上の親子関係となり父親の相続権をもつようになることです。
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父親が亡くなってしまっているため、死後認知のためには、家庭裁判所に認知請求訴訟を提起しなくてはなりません。
認容判決(死後認知訴訟の勝訴判決)を得て、父親との法律上の親子関係が認められることになります。
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死後認知については、死後3年以内でなければ訴訟提起をすることができません。ただ、過去の判例では父の死亡が客観的に明らかになつた時から起算すべきであるとされた事例はあります。
引用:裁判所「最高裁判所判例集」最高裁昭和57年3月19日判決
父の死亡の日から三年一か月を経過したのちに右死亡の事実が子の法定代理人らに判明したが、子又はその法定代理人において父の死亡の日から三年以内に認知の訴えを提起しなかつたことがやむをえないものであり、また、右認知の訴えを提起したとしてもその目的を達することができなかつたことに帰すると認められる判示の事実関係のもとにおいては、他に特段の事情がない限り、民法七八七条但書所定の認知の訴えの出訴期間は、父の死亡が客観的に明らかになつた時から起算すべきである。
以下からは死後認知の手続きについて具体的に説明していきます。
▶遺産相続弁護士ガイドはこちら ▼めんどうな相続手続きは専門家に依頼しましょう▼死後認知の流れ
死後認知の手続きは、家庭裁判所に認知請求訴訟を提起し、認容判決を得て、これが確定すると、役所に認知届を提出するという流れになります。 なお、請求が棄却され判決に不服がある場合は高等裁判所に控訴することができ、高等裁判所でも棄却され不服がある場合は最高裁判所に上告することができます。最高裁判所の判決に対して不服を申し立てることはできません。
また、反対に第一審(この場合、家庭裁判所における審理)や控訴審(高等裁判所における審理)の認容判決に対して、訴訟の補助参加人(父の他の子であることが多い)が上訴(控訴又は上告)することもできます。
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死後認知請求訴訟を提訴できる人は通常は非嫡出子本人
死後認知請求訴訟を提訴できる人は、通常、認知を求める子ども(非嫡出子)が成年者の場合は非嫡出子本人、未成年者の場合は法定代理人(通常は母)ですが、未成年者であっても意思能力が認められる場合には非嫡出子自身で提訴することもできます。
この他、非嫡出子の直系卑属(子、孫など)や、その法定代理人も提訴することができますが、非嫡出子が死亡している場合に限られると考えられています。
死後認知請求訴訟を提訴するのは管轄の家庭裁判所
提訴する家庭裁判所は、原告(提訴した人)の住所地又は父の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です(管轄裁判所を調べたい方は裁判所のホームページでご確認ください。)。
死後認知請求訴訟の必要書類
必要書類や訴状の書き方については、管轄の家庭裁判所にお尋ねください。 また、親子関係を証明するためのDNA鑑定は必要になる場合とならない場合があります。
請求が認められる可能性を高めるためにも、事前に弁護士に相談した方がよいでしょう。
▶遺産相続弁護士ガイドはこちら ▼まず、どんな相続手続きが必要か診断してみましょう。▼死後認知の費用
死後認知の費用は、概ね下の表のようになります。
収入印紙 | 13,000円 |
---|---|
郵便切手 | 数千円 ※裁判所によって異なる |
鑑定費用 | 約10万円 ※原則原告が全額負担。鑑定を実施しない場合は不要 |
弁護士報酬 | 事務所によって異なる。インターネット上で検索すると、着手金30万円+成功報酬40万円程度とする例も見られる |
認容判決が確定したら10日以内に認知届を提出
請求認容判決が確定したら、死後認知請求訴訟を提訴した人(原告)は、10日以内に認知届を役所に提出しなければなりません。
認知届の提出先
提出先の役所は、次の中か選べます。
- 父の本籍地
- 子の本籍地
- 届出人の住所地
なお、本籍地に提出すると、戸籍謄本の提出が不要になるというメリットがあります
認知届の必要書類
認知届の必要書類は、以下のとおりです。
- 認知届書(用紙は役所にあります)
- 届出人の印鑑(シャチハタ不可。なお、行政改革によっていずれは不要になる可能性があります)
- 届出人の本人確認書類(顔写真が無いものは2点必要)
- 判決謄本及び確定証明書(判決を宣告した裁判所に申請することによって交付を受けられます)
- 父の戸籍謄本又は除籍謄本(父の本籍地に届出る場合は不要)
- 子の戸籍謄本(子の本籍地に届出る場合は不要)
死後認知された後の遺産分割方法
死後認知が認められると、父の遺産についての相続権を有することになります。
民法では、認知された子は他の共同相続人に対し、相続分に相当する金銭を請求できるものとされています。
遺産分割前
遺産分割前であれば遺産分割協議に参加し分割を請求することができます。
遺産分割後
既に遺産分割済みの場合は、死後認知される前におこなわれた遺産分割協議は有効のままなので、他の相続人に対して法定相続分に相当する分の価額の支払いのみ請求することができます。
また、価額の支払いを請求した日の翌日以降の遅延損害金を請求することも可能です。
2020年4月1日以降の遅延損害金の法定利率は年3%です(それ以前は年5%)。なお、遅延損害金の法定利率は3年ごとに見直されることになったので、2023年4月1日以降は利率が変わる可能性があります。
▼依頼するか迷っているなら、まずはどんな手続きが必要か診断してみましょう▼
死後認知でよくある疑問
提訴前に遺族に連絡した方がよい?
遺族には必ずしも連絡する必要はありませんが、DNA鑑定が必要な場合に協力が得られた方が話がスムーズに進みます。
ただ、不用意に連絡すると遺族の感情を逆撫ですることになるおそれがあるため、弁護士を介して接触した方が良い場合もあります。
DNA鑑定を拒否された場合の対処法は?
遺族は遺留品の提供やDNAの採取に応じる義務はないため、遺族の協力が得られないケースも少なくありません。
そのような場合に取りうる対処法には、次の2つがあります。
- 他の証拠によって立証を試みる
- 遺族と交渉する
1.他の証拠によって立証を試みる
DNA鑑定以外では、例えば、次のようなことを証明する証拠が有用です。
- 子の血液型が父母から生まれうる種類のものであること、父子の容姿に類似性があること
- 生前に父が父子関係を認めていたこと、父が母に養育費を渡していたこと
- 受胎時に父母が男女関係にあったこと
証拠の収集・保全の方法については、弁護士に相談するとよいでしょう。
2.遺族と交渉する
初めはDNA鑑定に応じなくても、交渉によってDNA鑑定に応じてくれることもあります。
交渉材料としては、例えば相続分の一部譲渡が考えられるでしょう。
遺族がDNA鑑定に協力した場合は、その相続分の一部を譲渡することを約束することで、遺族がDNA鑑定に協力するメリットが生じるため、協力を得られる可能性があります。
しかし、交渉にはかなり高度な判断やスキルが必要になるため、プロである弁護士に任せた方が良い結果につながりやすいでしょう。
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父の妻から母に不貞慰謝料を請求される可能性がある
例えば、当時、父親は婚姻して妻がいたものの、愛人としての関係(不貞行為)により生まれた子であり死後認知された場合は、父親のから妻から認知された子の母に対して不貞による慰謝料を請求される可能性があります。
なお、不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅します。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
まだ時効が成立していなければ、死後認知請求をすることによって、不貞があったことを相手方に知られ、又は、元々知られていた場合でも認知請求をしたことによって相手方の感情を刺激し、慰謝料を請求されるおそれがあるのです。
不貞の慰謝料について裁判で争った場合、事案によりますが50万〜300万円くらいで決着することが多いです。
このような関係性の死後認知を請求する場合は、事前に弁護士に相談することをお勧めします。
まとめ
死後認知に関しては、DNA鑑定を巡る遺族との交渉や、認知後の相続についての交渉、慰謝料請求のリスク等、様々な法的な問題が絡んでくるので、弁護士に相談して、周到に準備することをお勧めします。
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