生前贈与を受けても相続放棄はできる?贈与が取消されることがある
生前贈与を受けた後に相続放棄はできるのでしょうか?その場合、相続税はかかるのでしょうか?
また、贈与によって弁済(返金)を受けられなくなった債権者から、贈与の取消を請求されることはあるのでしょうか?
この記事では、生前贈与と相続放棄の疑問について説明します。
生前贈与を受けても相続放棄はできるが、債権者に詐害行為取消権を行使される可能性も
結論として、生前贈与を受けた後でも相続放棄はできます。しかし贈与者と受贈者(贈与を受けた人)が、債権者を害すること(贈与者が弁済できなくなるなど)を知りながら贈与したような場合は、債権者は贈与の取消しを裁判所に請求することができます(詐害行為取消権の行使)。
贈与が取り消されると受贈者は贈与者に財産を返還しなければなりませんが、受贈者が亡くなっている場合はその財産は相続財産となります。
被相続人の債権者は、亡くなった受贈者の相続人に被相続人の債務の弁済を求めることができます。
いったん贈与された財産は、贈与の取消によって受贈者のものではなく相続財産となっています。したがって受贈者が相続放棄をしていても他に相続人がいる場合は相続人から弁済を受けることができますし、相続人全員が相続を放棄しても、相続財産清算人によって弁済を受けることができます。
生前贈与を受けている場合、相続放棄をしても相続税がかかることがある
次のいずれかに該当する財産は、相続税の課税対象となります。
- 相続時精算課税適用財産
- 相続の開始前3年(7年)以内に被相続人からの贈与により取得した財産※令和6年1月1日の贈与より生前贈与加算が3年から7年に延長されます
相続放棄をしても、これらの財産が相続税の課税対象となることには変わりはありません。
したがってこれらの財産を加えた課税価格の合計額が基礎控除額を超える場合は、通常、相続税がかかることになります。
なお、これらの財産の取得者が相続放棄をした場合において被相続人(亡くなった人)の債務を弁済しても、相続税の課税価格の計算時に、弁済した金額を控除することはできない(債務控除)ので注意してください。ただし、葬式費用については控除することができます。
相続時精算課税を選択して相続放棄した場合と、相続の開始前3年(7年)以内に贈与を受けて相続放棄した場合について、相続税の計算方法を設例を基にそれぞれ説明します。
相続時精算課税を選択して相続放棄した場合の相続税の計算方法
Aさんは長男、二男、三男にそれぞれ2500万円ずつ贈与をし、長男、二男、三男のいずれもAさんからの贈与について相続時精算課税制度を選択したとします。
Aさんが亡くなった時、法定相続人は長男、二男、三男の3人で、Aさんは債務超過の状態であったため、3人はいずれも相続放棄をしました。
このケースの場合、課税価格の合計額は「2500万円×3=7500万円」となります。
なお、Aさんは債務超過の状態ですが、相続人全員が相続放棄して債務を負担していないので、課税価格の合計額を計算する際に、債務の金額を控除する(差し引く)ことはできません。
相続税の基礎控除額は「3000万円+600万円×3=4800万円」なので、課税遺産総額は「7500万円−4800万円=2700万円」となります。
法定相続分は3分の1ずつなので、法定相続分に応ずる取得金額は、「2700万円×1/3=900万円」ずつとなります。
法定相続分に応ずる取得金額が1000万円以下の場合の相続税の税率は10%なので、相続税の総額の基となる税額は「900万円×0.1=90万円」ずつとなり、相続税の総額は「90万円×3=270万円」となります。
あん分割合(各人の課税価格/課税価格の合計額)は、3人とも「2500万円÷7500万円=1/3」なので、各人の相続税額は、それぞれ「270万円×1/3=90万円」となります。
相続の開始前3年(7年)以内に贈与を受けて相続放棄した場合の相続税の計算方法
Bさんは、三人の子供たちそれぞれに毎年110万円の贈与をしていました。
子供たちは、Bさんからの贈与について相続税精算課税は選択しませんでしたが、Bさんは亡くなる年まで、この贈与を続けていました。
Bさんは友人の連帯保証人になっており、純資産価額よりも連帯保証債務の金額の方が大きかったため、三人は相続を放棄することにしました。
相続開始前3年以内の贈与によって取得した財産は、相続税の課税対象となりますから、「110万円×3人×3年=990万円」が、相続税の課税価格の計算時に加算されます。
三人は相続を放棄しているため、課税価格の合計額は、この990万円のみということになります。
基礎控除額は4800万円で、課税価格の合計額が基礎控除額以下なので、このケースでは相続税はかかりません。
この記事のポイントとまとめ
以上、生前贈与と相続放棄の関係について解説しました。最後にこの記事のポイントをまとめます。
- 生前贈与を受けていても相続放棄は可能だが、債権者に詐害行為取消権を行使される可能性がある
- 生前贈与の財産に相続税がかかることがある
- 令和6年1月1日の贈与から生前贈与加算は3年から7年に延長
生前贈与を受けていても相続放棄はできますが、贈与税や相続税などに注意が必要です。
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