公正証書遺言が無効となるケースは?遺留分や時効、認知症などについて解説
公正証書遺言の効力は、自筆証書遺言とは違うのでしょうか?
この記事では、公正証書遺言の効力に関する知識について、わかりやすく解説します。是非、参考にしてください。
公正証書遺言は無効となりにくい
遺言の主な方式には公正証書遺言と自筆証書遺言があります。自筆証書遺言は次のような場合に無効となります。
- 自書でない箇所がある
- 日付がない
- 署名がない
- 押印がない
この点、公正証書遺言は公証人が作成するため、遺言者が自書する必要はありませんし、形式不備によって無効となることもほぼありません。
公正証書遺言でも無効になる場合
しかし、公正証書遺言であっても以下のような場合には無効となります。
遺言作成時に遺言者に遺言能力がなかった
遺言能力とは、有効な遺言をするための能力、言い換えると、遺言内容を理解し判断する能力のことです。次のような場合、遺言能力はないものとされます。
- 15歳未満の場合
- 認知症等で意思能力がない場合
15歳未満の場合
遺言ができるのは15歳以上です。
15歳未満の人がした遺言は、親権者等の法定代理人が同意の有無にかかわらず無効です。15歳以上であれば、未成年であっても法定代理人の同意なく遺言をすることができます。
公正証書遺言の手続時に公証人が遺言者の本人確認書類によって遺言者の年齢を確認するため、15歳未満の人が公正証書遺言をして、無効になるということは少ないでしょう。
認知症等で意思能力がない場合
可能性としてあり得るのは、遺言者が遺言時に認知症等で意思能力がなかったケースです。
意思能力とは、自己の行為の結果を判断することのできる能力であり、一般的には7〜10歳程度の知力があれば足りるとされますが、あくまで当該行為者について個別具体的に判断されます。
公証人は遺言者の遺言能力に疑いがあるときは、本人の判断能力が十分に備わっているかを確認するために質疑応答などを行ったりしますが、必ずしも遺言書の作成を拒否するわけではありません。よって、公正証書遺言であっても、後に遺言能力が否定されることがあるのです。
認知症の人がした遺言が有効かどうかは、主に次の要素から判断されます。
- 遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度
- 遺言内容それ自体の複雑性
- 遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯
遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度
遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度は、精神医学的視点、行動観察的視点から考察されます。
認知症患者の遺言能力の有無を精神医学的観点から判断する指標として、長谷川式スケールの点数が重視されています。
次に、行動観察的観点についてですが、行動観察観点からは、医療記録、看護記録、介護記録や、それらの作成者等の供述等から知ることができる遺言者の当時の行動等によって遺言能力の有無が判断されます。
遺言内容それ自体の複雑性
障害の程度が大きくても遺言内容が単純であれば遺言能力が認められやすくなります。反対に、障害の程度が小さくても遺言内容が複雑であれば遺言能力は認められにくくなります。
遺言の動機・理由、遺言者と相続人または受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯
例えば、親族や同居人がいるのに、深い付き合いもない人に全財産を遺贈しているようなケースでは、このような遺言をする動機がありません。また、遺言に至る経緯も不自然であるので、遺言能力があったことに疑問が生じるでしょう。
証人が要件を満たしていない
公正証書遺言では証人が2人必要です。次のいずれかに該当する人は、証人となることができません。- 未成年者
- 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
- 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
未成年者
未成年者とは、18歳未満の人のことです。
推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
推定相続人とは、その時点で相続が開始された場合に、相続人になると推定される人のことです。
なお、遺言書作成時に推定相続人でなければ、遺言書の作成後に、結果的に推定相続人になったとしても問題ないとされます。
また、受遺者とは、遺言によって財産を受け取る人です。配偶者とは妻や夫のことです。
直系血族とは親子関係でつながる人で、祖父母、父母、子、孫などが、これに当たります。
公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
3の公証人とは、事実の存否や、契約や法律行為の適法性等について、証明したり認証したりする公務員のことです。
公証人は公正証書遺言の存在や内容を証明する手続きを行いますが、同じく公正証書遺言の存在や内容を証明する証人が、公証人と関係があることが許されるのであれば、公証人とは別に証人を求める意義が乏しくなってしまいます。
したがって、証人は、公証人と関係のある人(配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人)ではいけません。
このような、証人となることができない人が証人となっていた場合、遺言は無効になります。
詐欺や脅迫等によって遺言者の真意に基づかない遺言内容となった
詐欺や脅迫等によってさせた遺言は無効となります。また、詐欺や脅迫によって、遺言の撤回・取消・変更が妨げられた場合も無効となります。
ただし、遺言者の死後に詐欺や脅迫があったことを証明することは、明白な証拠が残されていない限り難しいでしょう。
遺留分を侵害する内容の遺言でも効力がある
遺留分とは、一定の相続人に被相続人(亡くなった人)の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分のことで、被相続人の生前の贈与または遺贈によっても奪われないものです。
つまり、遺言の形式は関係なく、遺言の形式が自筆証書遺言であっても公正証書遺言であっても、遺贈によって遺留分を侵害された場合は、遺留分権利者はその侵害額を受遺者(遺贈によって財産をもらい受けた人)等に請求することができます。
遺留分が遺言よりも優先されるとはいえ、遺留分を侵害する遺言が無効になるわけではありません。
遺留分を侵害された人は、贈与や遺贈を受けた人に対し、遺留分侵害額請求することができます。
なお、遺留分は権利なので、遺留分侵害額を請求しなければならないわけではありません。請求するかしないかは、遺留分権利者の自由です。
合意があれば遺言内容に従わなくてもよい
遺言によって、すべての相続財産の処分(受取先)が指定されている場合は、遺産分割の必要はありませんが、その場合でも、相続人と受遺者全員の同意がある場合は、遺言の指定と異なる遺産分割を行うことが可能です。
遺言書の効力に期限はない
「遺言書に効力がある期間はいつまでですか」と質問を受けることがありますが、遺言書の効力に期限はありません。大昔に作成した遺言書でも効力があります。
なお、新しい遺言書が見つかった場合でも、古い遺言書の内容を取り消したり変更したり、古い遺言書と矛盾する内容の記載がなければ、古い遺言書も効力があります。
また、遺産分割後に遺言書が見つかった場合でも、遺言書は効力を有します。
よって、相続人の誰かが遺産分割の無効を主張すれば、基本的には、遺産分割は無効となり、遺言に沿って遺産分割をやり直すことになります。ただし、遺産分割から長い年月が経った後に遺言書が見つかった場合は、既に財産が相続人の元に残っていなかったりして、再分配が難しくなることもあります。
また、遺言書の存在を元から知っていた人や、遺言書が見つからなかったことについて重大な過失がある人による遺産分割の無効を主張は認められない可能性があります。
この記事のポイントとまとめ
以上、公正証書遺言の無効について解説しました。最後にこの記事のポイントをまとめます。
- 公正証書遺言は無効になりにくいものの、遺言者に判断能力がない場合などは無効になることも
- 相続人全員の同意があれば遺言と異なる遺産分割をしてもよい
- 遺言書が古くても効力は続く
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