自筆証書遺言保管制度のメリット・デメリットは?公正証書遺言との比較も解説
せっかく遺言書を作成しても、遺言書を自分で保管すると紛失や見つけてもらえないリスクが伴うため、不安に感じている方が少なくありません。しかし、そのリスクを解消する、自筆証書遺言の保管制度があります。
この記事では、自筆証書遺言保管制度の概要や、メリット・デメリットについて解説します。
遺言書の保管方法
遺言には自筆証書遺言、公正証書遺言及び秘密証書遺言の3つの方式があります。
このうち公正証書遺言については、遺言書の原本は公証役場で保管され、正本及び謄本を遺言者又は遺言者から委任された人が保管します。
自筆証書遺言及び秘密証書遺言については、遺言書の原本を遺言者または遺言者から委任された人が保管します。
しかし、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(遺言書保管法)という新しい法律が成立し、令和2年7月10日からは、自筆証書遺言は法務局で保管してもらうことができるようになりました。
法務局における遺言書の保管制度
法務局における遺言書の保管制度では、自筆証書遺言とその画像データを法務局で保管してもらうことができます。
出典:法務省ホームページ遺言書の様式
保管の申請の対象となるのは、自筆証書遺言のみです。
また、この遺言書の様式は以下のような条件に従って作成されたものでなければなりません。詳細は法務省ホームページを参考にしてください。
- A4サイズの片面のみに記載する
- 余白(上部5mm、下部10mm、左右5mm)が必要
- 各ページにページ番号を記載する
- 複数ページでもホッチキスなどで綴じ合わせない
申請できる法務局
遺言書の保管の申請は、遺言者の住所地もしくは本籍地または遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所に、遺言者がして行わなければなりません。なお、申請には事前にネットや電話で予約が必要です。
必要書類
申請当日までに自筆証書遺言や申請書など、以下の必要書類を準備します。
- 自筆証書遺言書
- 申請書
- 本人確認書類(官公庁から発行された顔写真付きの身分証明書)
- 本籍と戸籍の筆頭者の記載のある住民票の写し等
- 遺言書が外国語により記載されているときは日本語による翻訳文
- 3900円分の収入印紙(遺言書保管手数料)
申請書の様式や記載例は、前述の法務省のホームページに掲載されています。
遺言書の閲覧、保管の撤回
遺言者は、保管されている遺言書について、その閲覧を請求することができ、また、遺言書の保管申請を撤回することができます。
保管の申請が撤回されると、遺言書を返還され遺言書に係る情報も消去されます。
遺言書の保管の有無の照会及び相続人等による証明書の請求等
自筆証書遺言保管制度では、死亡している特定の者について、請求者が相続人、受遺者等となっている遺言書(関係遺言書)が遺言書保管所に保管されているかどうかを証明した書面(遺言書保管事実証明書)の交付を請求することができます。
遺言者の相続人、受遺者等は、遺言者の死亡後に遺言書の画像情報等を用いた証明書(遺言書情報証明書)の交付請求及び遺言書原本の閲覧請求をすることができます。
遺言書保管官は、遺言書情報証明書を交付し相続人等に遺言書の閲覧をさせたときは、速やかに、当該遺言書を保管している旨を遺言者の相続人、受遺者及び遺言執行者に通知します。
遺言書の検認は不要
保管制度を利用すると、日付や署名、押印などの要件を確認してもらえるため、検認は不要です。しかし法務局でチェックしてもらえるのはあくまで形式のみのため、遺言の内容についてアドバイスはもらえません。
法務局における遺言書保管制度のメリットとデメリット
法務局における遺言書の保管制度を利用する主なメリットとしては、次の点が挙げられます。
メリット
- 遺言者が遺言書を紛失したり、受遺者や相続人が遺言書を発見できないといった事態を避けられる
- 遺言書が生前に発見され、遺言内容が相続人等に知られてしまったり、遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿といったリスクを避けられる
- 申請時に遺言保管官が、遺言書が法務省令に定める様式に則っているかどうかを確認するので、様式不備によって遺言が形式的に無効となることを避けられる
- 法務局が遺言者の死亡を確認すると、申請時に指定した相続人等に遺言の存在が通知される
デメリット
反対にデメリットとしては、主に次の点が挙げられます。
- 申請の手間が生じる
- 3900円の手数料がかかる
- 遺言書の様式が決まっている
法務局における遺言書の保管制度と公正証書遺言との比較
遺言書の保管制度を利用しなくても、公正証書遺言は公証役場で保管されます。
それでは、法務局における遺言書の保管制度と公正証書遺言とでは、どのような違いがあるのでしょうか?
メリット
公正証書遺言と比べた場合の法務局における遺言書の保管制度の主なメリットとしては、次の点が挙げられます。
- 通常、公正証書遺言よりも訪問回数が少なくて済む
- 証人が不要
- 手数料が安い
以下、それぞれについて説明します。
通常、公正証書遺言よりも訪問回数が少なくて済む
法務局における遺言書の保管制度の場合は、不備がなければ、一度の訪問で手続きを完了させることができますが、公正証書遺言の場合は、最低でも二度の訪問が必要です。
ただし、公正証書遺言の手続きを行政書士等の専門家に依頼した場合は、二度目の訪問は必ずしも本人が同行しなくてもよいでしょう。
証人が不要
公正証書遺言の場合は、2人以上の証人の立会いが必要ですが、法務局における遺言書の保管制度の場合は証人の立会いは不要です。
手数料が安い
公正証書遺言の場合は、公証人に支払う手数料が数万円かかるほか、公証人に出張してもらう場合は交通費や日当も発生します。
デメリット
これに対して、公正証書遺言と比較した場合の遺言書保管制度の主なデメリットとしては、次の点が挙げられます。
- 遺言者が遺言書を作成しなければならない
- 遺言保管所に必ず行かなければならない
以下、それぞれについて説明します。
遺言者が遺言書を作成しなければならない
公正証書遺言を作成する場合は、公証役場において、公証人に遺言の内容を口頭で伝え、公証人がそれを文書にします。
他方、法務局における遺言書の保管制度の場合は、自分で遺言書を作成しなければなりません。
したがって、自書できない人は、法務局における遺言書の保管制度を利用することができません。また、知識のない人が作成した遺言書は、意図した通りの効果が生じないことや無効となってしまうことがあります。
遺言保管所に必ず行かなければならない
遺言者は、遺言書の保管の申請にあたって、法務局に自ら出頭しなければいけません。
この記事のポイントとまとめ
以上、自筆証書遺言の保管制度について解説しました。最後にこの記事のポイントをまとめます。
- 法務局で自筆証書遺言を保管することで、遺言書の紛失や改ざんを防げる
- 形式のチェックは法務局でしてもらえるが、内容のアドバイスは受けられない
- 遺言の内容については、行政書士などの専門家に相談するとよい
意図したとおりの効果を生じさせることのできる遺言書を確実に作成するためには、行政書士等の専門家に遺言文案の作成を依頼したうえで、本制度を利用すべきでしょう。
いい相続ではお近くの専門家との無料相談をご案内することが可能ですので、遺言書の作成でお困りの方はお気軽にご相談ください。
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