秘密証書遺言とは?作成方法や自筆証書遺言・公正証書遺言との違い
秘密証書遺言とはどのような遺言でしょうか?どのように作成するのでしょうか?
この記事では、秘密証書遺言の作成の流れについて説明し、秘密証書遺言を利用する場合の注意点について説明します。
秘密証書遺言とは?
秘密証書遺言とは、遺言の内容を誰にも明かさずに、かつ、遺言の存在だけが公証人によって証明される形式の遺言のことです。
秘密証書遺言の作成の流れ
秘密証書遺言の作成から検認までの流れは、次のとおりです。
- 遺言内容を証書に記し、署名・押印する
- 封印する
- 証人を依頼する
- 証人と一緒に公証役場に遺言書を持参する
- 公証人及び証人と共に署名、押印する
- 遺言書の保管
- 変更や撤回をする場合は、変更・撤回をする
- 相続が開始される
- 遺言の保管者等が遺言書の検認を家庭裁判所に申し立てる
遺言内容を証書に記す
まず、遺言内容を証書に記します。要するに遺言内容を紙に書くことですが、手書きでなくても、パソコンやワープロで作成しても構いません。また、手書きの場合は自筆でも、誰かに代筆してもらっても構いません。
なお、自筆の場合は秘密証書遺言としての要件を満たさない場合でも自筆証書遺言として認められる可能性があります。
例えば、資格のない人が証人になっていた場合等、秘密証書遺言として要件が満たさないことが後から発覚することがあるのです。
そのような場合に、秘密証書遺言とは認められませんが、自筆証書遺言の要件(全文手書きであること等)を満たしていれば遺言自体は無効とならず自筆証書遺言として取り扱われます。
手書きで作成する場合の筆記用具に指定はありませんが、鉛筆やシャープペンシル等の消えやすいものは避けましょう。
紙についても指定はなく、極端の話、メモ帳の切れ端やチラシの裏に書いても有効ですが、破損のリスクがあるので、ある程度の強度のある紙に記すべきでしょう。
遺言内容以外に遺言書に必要な項目は、署名と押印です。印は、実印でなくても構いません。認印でも、拇印や指印でもよいことになっています。
また、遺言書を作成した日付はあってもなくても構いませんが、日付を記入しておくことで万が一秘密証書遺言としての要件が満たされない場合でも、自筆証書遺言として認められる可能性があります。
なお、秘密証書遺言では、公証人は、遺言書の内容を確認することはありません。
したがって、いざ相続が開始され相続人らが遺言書の中身を見てみたら、誰にどの財産を取得させるのか不明瞭であるといったような不備が発見され、想定していた通りに財産が承継されないおそれがあります。
封印する
遺言書を封筒に入れて、遺言書に押印した印で封印します。
証人を依頼する
秘密証書遺言では、遺言者本人が自分の意思で遺言をしたことを証明するための証人が2人必要です。証人に遺言の内容を知られることはありません。
証人になれない人
なお、次のいずれかに該当する人は、証人となることができません。
- 未成年者
- 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
- 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
2の推定相続人とは、その時点で相続が開始された場合に、相続人になると推定される人のことです。
受遺者とは、遺言によって財産を受け取る人のことです。
配偶者とは、妻や夫のことです。直系血族とは、親子関係でつながる人のことで、祖父母、父母、子、孫などが、これに当たります。
3の公証人とは、事実の存否や、契約や法律行為の適法性等について、証明したり認証したりする公務員のことです。
公証人は秘密証書遺言の存在を証明する手続を行いますが、同じく秘密証書遺言の存在を証明する証人が、公証人と関係がある人であることが許されるのであれば、公証人とは別に証人を求める意義が乏しくなってしまいます。
したがって、証人は、公証人と関係のある人(配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人)ではいけません。
これらに該当しなければ、誰でも証人とすることができます。
少し遠い関係の身内や、友人に証人になってもらうことが比較的多いようですが、証人になってくれる人がいない場合や、身内や友人に遺言を作成したことを知られたくない場合は、行政書士、司法書士等の専門家に証人になってもらうことも可能です。
なお、遺言書の作成を専門家に依頼せず、かつ、証人になってくれそうな人がいない場合等は、公証役場で証人になってくれる人の紹介を受けられる場合があります。
その場合は、証人になってくれる人一人に対して1万円程度の謝礼が必要になることが多いようです。
証人と一緒に公証役場に遺言書を持参する
証人が決まったら、証人を伴って公証役場に封印した遺言書を持参します。予約が必要となる場合があるので、事前に公証役場に確認してください。
公証役場で、秘密証書遺言をしたい旨を伝えて手数料の1万1000円を納めます。そのほかに必要となる身分証や印鑑などの持参物については公証役場に確認してください。
証人と共に署名、押印する
遺言者は、証人の前で、公証人に遺言書を封印した封筒を提出し、自分の遺言書である旨と、氏名と住所を申述します。
そうすると、公証人が、遺言書が封印された封筒に、その日の日付、その遺言書が遺言者の遺言書であること、遺言者の氏名と住所を封筒に記述します。
そして、公証人、証人、遺言者が封筒に署名、押印します。
公証人は、その日の日付と、遺言者と公証人の氏名と住所を公証役場の記録に残し、遺言書を封印した封筒は、遺言者に戻されます。
遺言書の保管
秘密証書遺言の場合は、自分、または、誰かに預けて遺言書を保管しなければなりません。
遺言者の自宅に保管する場合は、ほかの人に簡単に見つかる場所に置いておくと、相続開始前に見つかって開封されたり、隠されたりするおそれがあります。
秘密証書遺言は、開封されると秘密証書遺言としては無効となる可能性があります。なお、自筆で書かれている等、自筆証書遺言としての要件を満たしている場合は、秘密証書遺言としては無効でも、自筆証書遺言として有効となります。
一方、見つかりにくいところに隠していた場合は、相続が開始しても遺言書が発見されず、遺言書がないものとして、法定相続分で相続されてしまう可能性があります。
そうならないように、遺言執行者を指定して、遺言執行者に遺言書を預けておくとよいでしょう。
変更や撤回をしたい場合
秘密証書遺言の内容を変更したい場合や、全部を撤回して遺言がない状態にしたい場合の方法について説明します。
秘密証書遺言の内容変更
秘密証書遺言を変更するためには、変更したい内容の遺言書を改めて作成します。秘密証書遺言は開封すると無効となってしまいます。
秘密証書遺言でなくても、他の形式(自筆証書遺言や公正証書遺言)で作成しても構いません。
遺言書が複数ある場合は、日付が新しいものが有効な遺言書となり、それ以前の遺言書は、新しい遺言書の内容と抵触する部分において無効となります(新しい遺言書が遺言の全部を変更するものである場合は、以前の遺言書の全ての部分が無効になります。)。
最新でない遺言書は念のため、破棄しておいた方がよいでしょう。
秘密証書遺言の全部を撤回して遺言がない状態にする方法
秘密証書遺言の全部を撤回して、遺言がない状態にしたい場合は遺言書を破り捨てます。
ただし、秘密証書遺言では遺言の記録が公証役場に残っているので、遺言執行者や相続人が、遺言書が破棄されたことを知らなければ、きっとどこかに遺言書があるはずだと、ありもしない遺言書を懸命に探す羽目になりかねません。
遺言書を破棄する場合は遺言執行者等にその旨を伝えておくという手もありますが、法定相続分通りに相続させる旨の遺言を新たにする方が確実でしょう。
相続が開始される
遺言者が亡くなる等すると、相続が開始されます。
遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者が相続人に遺言書があることが伝えます。
遺言執行者が指定されていない場合や、遺言執行者が先に亡くなっている場合は、相続人が遺言書を探します。
遺言執行者等が遺言書の検認を家庭裁判所に申し立てる
秘密証書遺言では、偽造や変造を防止するため、相続開始後、遺言書が見つかったら、開封せずに、遺言書の検認を行わなければなりません。
検認前に開封してしまった場合は、開封者が5万円以下の過料(行政罰)が科される可能性がありますが、遺言自体が無効となるわけではありません。
秘密証書遺言とほかの形式の遺言との違い
通常の遺言の形式には、秘密証書遺言のほかに自筆証書遺言や公正証書遺言があります。
自筆証書遺言とは
自筆証書遺言とは、自筆で書かれた遺言のことです。秘密証書遺言のように公証役場に行く必要はありません。
公正証書遺言とは
公正証書遺言とは、公証役場で公証人に遺言書を作成してもらってする遺言のことです。
秘密証書遺言では、遺言書は自分で(または、専門家等に依頼して)作成しなければなりませんが、公正証書遺言では、遺言の内容を口頭で伝えるだけで、遺言書を公証人が作成してくれます。
遺言形式の比較
秘密証書遺言と自筆証書遺言、公正証書遺言の違いをまとめると、下表のようになります。
自筆証書遺言 | 秘密証書遺言 | 公正証書遺言 | |
---|---|---|---|
作成者 | 自分(専門家に依頼することも可能) | 自分(専門家に依頼することも可能) | 公証人 |
作成方法 | 自筆のみ(専門家に文章を作ってもらっても書くのは自分) | 自筆・代筆・ワープロ(署名は自筆のみ) | 公証人が作成 |
公証役場に行く必要 | なし | あり | あり |
証明できること | なし | 遺言者の意思に基づいた遺言であること | 遺言者の意思に基づいた遺言であること、遺言内容 |
証人 | 不要 | 必要 | 必要 |
秘密性 | 作成したことすら誰にも知られずに可能 | 内容は誰にも知られないが、作成したことは公証人と証人には知られる | 内容も含めて公証人と証人には知られる |
費用 | 不要 | 1万1000円 | 1万6000円〜(相続財産額による従量課金) |
保管者 | 自分(誰かに委託してもよい) | 自分(誰かに委託してもよい) | 公証役場 |
内容の一部変更 | できる | できない | できない |
検認 | 必要 | 必要 | 不要 |
法務局における遺言書の保管制度 | 利用できる | 利用できない | 利用できない(利用する必要がない) |
この記事のポイントとまとめ
以上、秘密証書遺言について解説しました。最後にこの記事のポイントをまとめます。
- 秘密証書遺言は内容を誰にも知られずに遺言書を作成できるメリットがある
- パソコンや代筆による作成も可能
- 相続開始後、家庭裁判所での検認をするまでは開封してはいけない
秘密証書遺言は作成方法が誤っていたり、内容があいまいである等、遺言の要件の満たさない場合は、無効になるおそれがあります。また公正証書遺言と異なり自己管理なので、紛失や変造のおそれもあります。
秘密証書遺言を利用する場合は、専門家に遺言書の作成を依頼したうえで、遺言執行者を専門家や信託銀行等に依頼し、遺言執行者に遺言書を保管してもらうとよいでしょう。
もっとも、秘密証書遺言よりも公正証書遺言の方を利用した方が、より確実性が高いため、お勧めです。
▼実際に「いい相続」を利用して、行政書士に相続手続きや遺言書の作成を依頼した方のインタビューはこちら
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