死亡した人の銀行口座はそのままだとどうなる?罰則は?少額なら放置してもいい?【行政書士監修】
被相続人(亡くなった人)の預金は、なにもしないでおいたとき罰則はないのでしょうか?そのままにしておくとどうなるのでしょうか?
相続手続きは想像以上にたくさんのすることがあるので、被相続人の銀行口座の残高が少額であったら、手続きを後回しにしたくなることもあるでしょう。できればそのまま放置してしまいたいと思う人もいるかもしれません。
では、相続手続をしなくても預金を引き出すことはできないのでしょうか?効率よく相続手続を行う方法はないのでしょうか?
この記事では、故人の銀行口座についてよくある気になることをご説明していきます。
- 故人の口座をそのままにしておいても、罰則等はないがリスクが高い
- 相続手続をしないで口座から引き出す際には、必ず共同相続人の同意と使い道の証明を
- 凍結口座からどうしても引き出したいときは仮払い制度を利用
この記事の監修者
〈行政書士〉
愛知県東三河エリアで遺産相続に特化した法務事務所「ホワット相続センター」を運営。「親切、丁寧、迅速」を心がけながら年間100件以上の相談業務に従事している。
▶行政書士瀧原事務所/ホワット相続センター
死亡した人の銀行口座がそのままだと罰則がある?
銀行口座を死亡後そのままにしておいても、罰則等があるわけでありません。
しかし、銀行口座を死亡後そのままにしておくと、いざ、払戻しを受けたいときに、その手続きが煩雑になってしまうことがあります。
放置されている預金口座に関しては一定の期間が経つと通常の口座とは違う取扱いになるからです。
この一定の期間とは、最終異動日が2009年以降で、最終異動日から10年間経過したものです。該当の預金は休眠口座預金として預金保険機構の管理下に移されます。
通帳残高が1万円以上あれば預け先の住所宛に金融機関から通知状が届き、休眠口座にはなりません。通知状が届けば休眠口座になりませんが、転居先不明などで通知が届かない場合、休眠口座となります。
相続から10年間ではありませんので、相続が発生したときには休眠口座だったということもありえますし、例えば最終異動日が相続開始の9年前の場合は、相続開始後1年が経過すると休眠口座預金となります。
最終異動日とは?
異動には、引出し、預入れ、振込入金、口座振替等が含まれます。金融機関による利子支払いは該当しません。定期預金の場合は、満期日に異動があったものとみなされます。
また、りそな銀行や三菱UFJ銀行等の一部の銀行では、一定期間(2年間と決めている銀行が多い)利用されていない銀行口座に対して、未利用口座として未利用口座管理手数料(りそな銀行や三菱UFJ銀行の場合は年間1,320円※令和5年8月現在)を徴収しています。もし、口座残高に未利用口座管理手数料分の預金がない場合は、残高から未利用口座管理手数料の一部を引き落とした上で解約されます。詳細については知りたい銀行のホームページなどでご確認ください。
休眠口座は払い戻しできる?
休眠口座預金であっても払戻しを受けることはできますが、その手続きは通常の払戻手続よりも煩雑になってしまいます。
休眠口座対象金融機関
なお、休眠口座の対象となる金融機関は、普通銀行、信用金庫、信用協同組合(信用組合)、労働金庫、 商工組合中央金庫、農業協同組合、漁業協同組合、水産加工業協同組合、商工組合中央金庫、農林中央金庫です。対象とならない金融機関は、外国銀行や長期信用銀行です。
休眠口座の対象預金の種類
休眠口座の対象となるものは、普通預金・通常貯金、定期(性)預金、当座預金、別段預金、貯蓄預金、定期積金、相互掛金、元本補填契約付金銭信託、保護預り金融債です。対象とならない物は、外貨預金、2007年9月30日までに預け入れられた定額郵便貯金、マル優口座、譲渡性預金、保護預りなし金融債、財形貯蓄、仕組預金です。
なお、最終異動日が2008年以前の口座は、預金保険機構の管理下に移されることはありませんが、時効が完成して払戻請求権が消滅してしまう可能性があります。
最後に口座を利用してから時効完成までの期間は、個人の口座の場合、銀行口座が5年、信用金庫等の口座の場合が10年です。
時効が完成し、債務者(この場合は金融機関)が時効を援用(時効の利益を受けることを債権者等に伝えること)すると債権は消滅してしまいます。
実際は、金融機関が預金払戻債務の時効を援用することはなく、基本的には払戻しに応じてもらえます。
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死亡した人の口座から預金を引き出す方法
相続手続をしなくても預金を引き出す方法には、次の3つがあります。
- 生前に引き出す
- 相続開始後、口座凍結前に引き出す
- 口座凍結後に仮払いを受ける
以下、それぞれについて説明します。
1.生前に引き出す
口座の所有者が亡くなる前なら、自由に預金を引き出すことができます。
生前に預金の全額を引き出しておけば、相続開始後、金融機関でも相続手続は不要になるので、預金が少額であれば、生前に引き出しておいてもよいでしょう。
口座の所有者自身が引出しに行けない場合は、本人から委任を受けた人が、代わりに引き出すこともできます。
ATMで引き出す場合、委任状は不要ですが、1日当たりの引き出し限度額が設定されています。
引き出し限度額は金融機関によって異なりますが、ゆうちょ銀行の場合、初期設定は50万円になっています。
引き出し限度額は変更することが可能です(ゆうちょ銀行の場合は最高で1000万円まで引き上げることができます)。
窓口で引き出す場合は、限度額はありませんが、本人以外の人が引き出す場合は委任状が必要です。
委任状の用紙は金融機関でもらえます(ウェブサイトからダウンロードできる金融機関もあります)。
本人が認知症等で委任状を書くことができない場合は、保佐や後見の制度の利用を検討してもよいでしょう。
保佐については「保佐人、被保佐人とは?被保佐人と成年被後見人や被補助人との違い」を、後見については「成年後見制度でできること!長所と短所、必要な費用から申立ての仕方まで全解説」をご参照ください。
2.相続開始後、口座凍結前に引き出す
被相続人が口座を開設していた金融機関が、相続の開始を把握すると、被相続人名義の口座は凍結され、以降は自由に引き出すことはできなくなりますが、金融機関は、口座名義人の死亡を即座に把握できるわけではないので、キャッシュカードの暗証番号を知っていれば、相続開始後でもATMで預金を引き出すことができます。
しかし、これには次の2つの問題があります。
- 他の共同相続人との間でトラブルになることがある
- 相続を単純承認したことになる
以下、それぞれについて説明します。
他の共同相続人との間でトラブルになることがある
相続人の預金口座は、遺産分割協議の対象ですから、勝手に引き出して使うことは本来許されません。
引き出す前に必ず他の共同相続人の同意を取り付けましょう。
また、引き出したお金を葬儀費用といった遺産から支出しても構わないものの支払いに充てた場合は、必ず領収書を取っておいて、自分のために使ったものではないことを証明できるようにしておきましょう。
相続を単純承認したことになる
葬儀費用だけのために引き出すのであればよいのですが、引き出したお金を自分のために使ってしまうと、相続を単純承認したことになります。
(単純承認については「単純相続とは?法定単純承認になるケースを事例でわかりやすく説明【行政書士執筆】」参照)。
相続放棄を検討する必要がまったくなければそれで問題ないのですが、後日、プラスの財産よりも負債の方が大きかったことが発覚した場合に、相続放棄をしようと思っても、一度単純承認してしまうと、相続放棄ができません
(相続放棄については「誰でもできる相続放棄手続きの簡単なやり方をわかりやすく説明」参照)。
3.口座凍結後に仮払いを受ける
口座凍結後でも仮払いを受けることができます。
仮払いは、遺産分割協議が成立する前に、被相続人の預金を引き出すことができる手続きです。
遺産分割協議が成立している場合は、仮払いではなく、本来の相続手続によるべきですが、遺産分割前に現金が必要となる場合には、遺産分割協議書等が不要な仮払い手続を利用することも考えられます。
仮払いを受けるためには、相続人全員の同意書が必要でしたが、相続法の改正によって、2019年7月1日からは、他の相続人の同意がなくても仮払いを受けられるようになりました(ただし、被相続人のすべての戸籍及び相続人全員の戸籍の提出を求められるので、取得をしておきましょう)。
施行日以前に相続が開始されていても、施行日以降であれば、仮払いを受けることができます。
仮払いを受けるための方法には、次の2つがあります。
- 金融機関の窓口で直接仮払いを求める
- 家庭裁判所に仮払いを申し立てる
以下、それぞれについて説明します。
金融機関の窓口で直接仮払いを受ける
銀行等の金融機関の窓口で直接仮払いを求める方法のメリットには、次の2つがあります。
- 裁判所での手続きが不要(手間も日数も費用もかからない)
- 仮払いが必要な理由を求められない
- 他の相続人の印鑑が不要
ただし、生活費や葬儀費用の支払,相続債務の弁済などの資金需要に対応できるよう,遺産分割前にも払戻しが受けられる制度として創設されたので、払戻し可能額に一定の上限額が設けられています。
上限額は、基本的には次の式で計算します。
相続開始時の預貯金債権の額(預貯金残高)× 1/3 × 仮払いを求める相続人の法定相続分 |
※法定相続分について「相続と法定相続人|相続人の範囲と相続順位、法定相続分について【行政書士監修】」参照
例:A銀行に600万円、B銀行に1200万円の預金。仮払いを求める法定相続人が2人の場合
例えば、A銀行に600万円、B銀行に1200万円の預金があって、仮払いを求める相続人の法定相続分が2分の1の場合は、以下の式に代入すると
A銀行:600万円×1/3×1/2=100万円
B銀行:1200万円×1/3×1/2=200万円
しかし、一つの金融機関から仮払いを受けられる金額には、法務省令によっても上限が設けられます。先述の計算式の上限額が法務省令の上限額を超える場合には、法務省令で定められた上限額である150万円の範囲内で仮払いを受けることができます。
そのため設例のケースでは、A銀行からは100万円、B銀行からは150万円の仮払いを受けられるという結果になります。
なお、仮払いを受けた分は、遺産分割の際に相続分から差し引かれますので、必ず引き出した金額の使い道を明確にしておきましょう。
家庭裁判所に仮払いを申し立てる
それほど緊急ではないが、遺産分割協議が長引きそうなので、遺産分割前に仮払いを受ける必要がある場合は、家庭裁判所に仮払いを申し立てることによって、預貯金債権の法定相続分の一部又は全額の仮払いを受けることも可能です。
この方法は、上限金額の縛りがないというメリットがある反面、次のようなデメリットがあります。
- 家庭裁判所に遺産分割調停(または審判)を申し立てたうえで、さらに仮払いを申し立てなければならない(手間と日数と費用がかかる)
※遺産分割調停については「遺産分割調停前に知っておくべき調停を有利に進める方法と調停の流れ」参照 - 仮払いを受ける理由が求められる
▼忘れている相続手続きはありませんか?▼
死亡した人の銀行口座に対しての必要な手続き
相続手続は自分でもできますが、専門家に依頼した方が、面倒がないでしょう。
相続手続を依頼する場合、費用はかかりますが、面倒な手続きを自分で行う必要はありません。行政書士など相続の専門家に相談してみるのも一つの方法です。
また、相続税申告を税理士に依頼する場合などは、相続手続についても税理士が引き受けてくれる場合も多いので(追加費用は必要です)、併せて税理士に依頼すると効率がよいでしょう。
銀行での相続手続きを自分で行う場合は、「銀行預金の相続手続きの期限は?引き出し方法は?|手続きの流れや必要書類まで詳しく解説」をご参照ください。
少額の口座残高ならそのまま放置してもいい?
口座の残高が数十円しかないなど、少額の場合はつい手続きを放置したくなる人もいるでしょう。
手続きにかかる労力や戸籍の収集にかかる費用の方が大きい場合、敢えてそのままにしておくという選択肢もあり得るでしょう。
ただ、そのような口座が増えてしまった場合、金融機関でも管理コストの関係から何か対策がされるかもしれません。取引のない銀行口座について金融機関から発表される情報については念のためチェックするようにしておきましょう。
▼依頼するか迷っているなら、まずはどんな手続きが必要か診断してみましょう▼
この記事のポイントとまとめ
以上、「銀行口座を死亡後そのままにしておくとどうなるか」について説明しました。この記事のポイントをまとめます。
- 死亡届は戸籍を抹消するための届出書であり、届出義務者は死亡の事実を知った日から7日以内に提出しなければならず、死亡届が提出されるまで、相続手続きは開始できない。
- 口座名義人が亡くなっても金融機関が把握しない場合は口座は凍結されず、キャッシュカードの暗証番号を知っていればATMで預金を引き出せるが、預金は遺産分割協議の対象なので、勝手に引き出して使うことは本来許されない。
- 遺産分割協議成立前に仮払いを受ける方法があり、全額引き出すには相続人全員の同意書等が必要である。
銀行口座は死亡後そのままにしておいても罰則などはありませんが、困ったことがあるときには、専門家に相談してみることをおすすめします。
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