遺産分割協議書の使い方【行政書士執筆】
被相続人が残した相続財産を誰がどのように相続するのかということを決める遺産分割協議の内容をまとめた遺産分割協議書ですが、それを作成した後は相続手続きに利用します。
例えば、銀行で預金相続の手続きをする場合、法務局で不動産の相続登記をする場合、証券会社で有価証券や株式の相続手続きをする場合、相続税の申告をする場合などがあります。
この記事では、不動産、金融資産、その他の財産について、具体的にどのような記載をしなければならないのか、どのような手続きが必要なのかについて解説していきたいと思います。また、遺産分割についての基礎知識や遺産分割協議書の作成方法についてはこちらの記事をご覧ください。
不動産の手続きで使う場合
被相続人が建物や土地などの不動産を所有していた場合にそれらが相続財産に該当することが考えられます。
これらの不動産は不動産登記上、被相続人の所有物となっているので、不動産の所有権を相続人に移すために相続登記をする必要があります。
そしてこの手続きを法務局で行うためには、法務局に対して被相続人が死亡したことや自己が相続人であることなどを証明しなければなりません。
この「自己が相続人であることの証明」に遺産分割協議書を用いることができます。
もちろん遺産分割協議書には該当する不動産が遺産分割によって自己に所有権が移ることが記載されている必要があります。このように相続財産の中に不動産があり、相続登記が必要な場合には遺産分割協議書が必要になります。
遺産分割協議書の書き方
遺産分割協議書に不動産を記載する場合には、どの不動産か認識できるように不動産登記に記載されている通りの表示をする点を注意する必要があります。
不動産の遺産分割方法としては、1つの不動産を複数人で分割するような「現物分割」、不動産を1人が相続し他の相続人に現金などを支払う「代償分割」、不動産を売却して現金を分割する「換価分割」、不動産を複数人で相続する「共有」があります。
相続手続きをする際に相続財産を第三者に(例えば金融機関に不動産の情報など)知られたくないという場合には不動産についてのみ記載した遺産分割協議書を各種手続き用に別途作成することも可能です。
手続き方法
遺産分割協議書が作成できたら、そこに記載されている通りに財産を相続させます。不動産が記載されている場合にはその記載通りの相続人に所有権を移転させましょう。登記の申請には遺産分割協議書のほかにも登記申請書や印鑑証明書などの書類が必要になります。
登記の申請は、「不動産の所在地を管轄する法務局」に対して行います。登記申請人等の住所地ではないので注意してください。
また、申請をする法務局を間違えると、却下や取下げの対象になってしまうので気を付けましょう。法務局の業務取扱時間は、原則、平日8時30分から17時15分までとなります。登記申請はこの時間内にしなければなりません。
郵送申請をする場合には、申請書一式を入れた封筒の表面に、「不動産登記申請書在中」と赤字で記載して書留郵便で送付をします(簡易書留やレターパックでも可能です)。郵送申請の場合には、法務局で事前にチェックをしてもらうことができませんので、書類にミスがないように念入りに確認をしておきましょう。
また、登記完了後の書類を返送してもらうために、返送用の封筒と切手を多めに同封しましょう。本人限定郵便で返送され、余った切手も返送してもらえます。郵送申請の場合の登記完了予定日は、各法務局のホームページから確認することができます。
郵送申請は、登記申請書が法務局に届いてから受付されるため、窓口での書面申請よりは登記完了予定日が多少遅くなります。そして郵送申請の場合には、窓口に申請書を提出する場合と異なり、登記相談を直接受けることができないため不備があると非常に厄介です。
郵送申請をする場合には、間違いが許されないものと自覚して一発で登記を受理させるくらいの意気込みがないといけません。
自信がないのであれば、遠方の法務局であったとしても直接その法務局で相談をしながら進めるか、専門家である司法書士へ依頼をすることをおすすめします。また、オンラインで申請をする方法もありますが、電子証明書などを用意する必要があるため司法書士でさえあまり利用していないという現状がありますので、現実的ではないかもしれません。
金融資産で使う場合
被相続人が資産や株式、有価証券などの資産を金融機関に預けていた場合にそれらが相続財産に該当することが考えられます。
これらの資産を相続人が金融機関から引き出す際には遺産分割協議書などの書類が必要になります。
なぜなら、これらの資産は被相続人名義の口座などに預けられているため、相続人といえどもそのことを証明しない限りは金融機関から引き出すことはできないからです。相続人間で遺産分割を行った場合には遺産分割協議書を作成して金融機関での相続手続きを行いましょう。
遺産分割協議書の書き方
遺産分割協議書に預金について記載する場合には、誰がどの銀行口座からいくら相続するのかを記載する必要があります。また、遺産分割協議書には銀行名・支店名・口座番号・口座名義人・残高などを記載する必要があります。したがって預金残高を正確に把握するために「残高証明書」を用意しておくと良いでしょう。また、一つの預金口座から複数人が相続する場合などは相続手続きなどの際にそれがわかるように記載をする必要があります。
遺産分割協議書に有価証券・株式について記載する場合には、預金と同様に証券口座と誰がどの株式などを相続するのかを明らかにする必要があります。
その際に証券会社が発行する「残高証明書」を用意すると正確に記載することができます。また現在はあまり発行されていませんが、被相続人が「株券」を所有している場合がありますので、本棚や金庫などを調査すると良いでしょう。
手続き方法
遺産分割協議がまとまったあと、各金融機関の相続届(金融機関により名称に違いがあります)を記入し窓口に提出(もしくは専門部署へ郵送)をします。この際に必要な書類は下記の通りです。
- 相続届(金融機関指定書式)
- 被相続人(故人様の)出生から死亡までの戸籍(又は法定相続情報証明書)
- 遺産分割協議書(遺言書がない場合)
- 遺言書があれば遺言書原本(自筆証書遺言については家庭裁判所の検認手続きが必要となります)
- 相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書押印前6カ月以内に発行されたもの)
- 委任状
- 実印
郵送もしくは支店窓口に相続人全員で訪問できれば良いのですが、手続きを行う代表者の方が1名で訪問する際には、他の相続人様からの委任状を準備していった方が良いでしょう。
また、各金融機関と相続案件の内容により提出書類が多少異なりますので、詳しくは該当する金融機関にご確認ください。銀行の種類(都市銀行やゆうちょ銀行、信用金庫など)によっても手続きに必要な書類や流れなどが大きく異なりますので銀行に確認することをおすすめします。また、以下の記事ではメガバンク、ゆうちょ銀行、信用金庫での相続手続きについて解説しております。
その他のケース
相続税申告が必要な場合
相続が生じて資産が相続人に移ると相続税が課されます。相続税の計算をする際に、どの相続人がいくらの資産を相続して、いくらの相続税を申告する必要があるのかを確認するために遺産分割協議書が必要になります。
相続税の申告期限は被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヵ月以内となっており、期限を過ぎると納税額が増える場合がありますので、遺産分割協議書は早めに作成するほうが良いでしょう。
車を相続する場合
相続財産に車が含まれていて、それを相続する場合には、運輸局にてその移転手続きを行う必要があり、その際に遺産分割協議書が求められることがあります。
遺産分割協議書には車の登録番号や車台番号などを記載する必要があります。したがってそれらを正確に記載するために「自動車検査証(車検証)」を用意しておくと良いでしょう。また、車の評価額などを事前に調査したい場合には遺産分割協議の前に査定を済ませて査定書などを用意しましょう。
遺産分割協議書の注意事項
相続手続きをする際に遺産分割協議書に形式的な誤りが見つかったために、遺産分割協議書が無効となり、再度作成しなければならないという事態が起こることがあります。ここからはそのような事態が起こらないように気をつけるべき点をご紹介していきます。
遺産分割協議書への押印
遺産分割協議書を作成できたら最後に相続人全員の押印を行います。この場合の印鑑は自治体に登録している実印です。すなわち、遺産分割協議に参加する方は前もって印鑑登録を行い、実印を作成しなければなりません。
相続手続きでは実印を用いる機会も多いので早めに印鑑登録を行いましょう。そして遺産分割協議書には印鑑証明書を添付する必要があります。
自治体に印鑑登録をした実印には、自治体が発行する印鑑証明書とセットで用いることによって本人確認機能が認められています。金融機関や法務局での相続手続きの際にはこの方法で本人確認が行われるので、認印で押印をしてしまわないように注意が必要です。
また、遺産分割協議書が複数ページにわたる場合にはそのページのつなぎ目に相続人全員の押印が必要になります。これを「契印」といいます。契印は遺産分割協議書に押印した印鑑と同じものを用いる必要があるので実印で押印することになります。遺産分割協議書が3ページ以上ある場合などはその全てのつなぎ目に契印をする必要があります。この場合に製本テープなどで一冊にまとめておくと、表紙と裏表紙にある製本テープと紙の境目に押印をすることで契印となります。
この他にも複数の遺産分割協議書を作成した場合には「割印」をすることになります。割印は複数の遺産分割協議書を重ね合わせ、そこに押印することでそれらがセットであることを証明します。契印と同様に割印も実印を用いて相続人全員の押印が必要になります。
相続人の参加
遺産分割協議を開催してその内容を遺産分割協議書にまとめた場合には、遺産分割協議書を用いて相続手続きを進めます。
しかし、相続人全員の参加や全員の同意がない場合や各相続人の意思に反した同意が行われた場合には、その遺産分割協議で決定したことは無効となってしまう恐れがあります。相続人全員の参加についてよくあるケースが代理人の選任です。未成年者や成年被後見人(認知症の方)である相続人は遺産分割協議に参加することができません。
この場合には代理人を選任する必要があるのです。このことを見落としていて、未成年者がいるにもかかわらず、裁判所の選任する特別代理人が選任されていなかったということがあり得ます。この場合にはその遺産分割協議の内容は無効となってしまいます。
また、遺産分割協議の中で民法上の詐欺や脅迫が行われた場合には、その遺産分割協議の内容も無効となります。
遺産分割協議の中で詐欺や脅迫が行われたことに法務局や銀行の担当者が気付くことはあまりないと思いますが、未成年者がいることは銀行口座の情報や戸籍謄本の情報などですぐにわかります。相続人が多数いる場合や年配者が多い場合には、遺産分割協議を行うために集めることも難しいかと思いますので、無効な協議とならないように気をつけましょう。
まとめ
ここまで、遺産分割協議書を用いる相続手続きの方法やその記載方法、その注意点について解説をしてきました。ここで紹介した不動産や金融資産の事例以外にも遺産分割協議書が必要な手続きはたくさんあります。相続手続きには様々な書類が必要になりますが、相続人が自ら作成する書類はほとんどありません。
そういった意味で遺産分割協議書の作成が適切に行われているかという点は重要になります。遺産分割協議書の作成で特に気をつけるべき点は、本稿でも紹介した未成年者や認知症の方が相続人にいる場合だけでなく、相続人と連絡が取れない場合や相続人間で意見が対立してしまった場合など、多くの要因が考えられます。これらの事態に適切な対応をするため、「行政書士」や「司法書士」などの専門家に依頼するという選択もありだと思います。
▼実際に「いい相続」を利用して、専門家に相続手続きを依頼した方のインタビューはこちら
ご希望の地域の専門家を探す
ご相談される方のお住いの地域、遠く離れたご実家の近くなど、ご希望に応じてお選びください。