【事例】長年介護してきた義父が亡くなったが、自分は遺産はもらえませんか?(55歳女性 遺産7,700万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、長年介護してきた義父の遺産相続について、55歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、プラス行政書士事務所の行政書士、植野 正大さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士〉
開業以来、相続・遺言の業務を多く扱う。相続人が数十人に及ぶ調査も経験し、これまでに読み込んだ戸籍は1000通を超える。相続や遺言等の研修講師や講演の実績も多数。
▶プラス行政書士事務所
長年介護してきたけど、遺産はもらえない?
相談内容
私が5年間介護してきた義父が亡くなりました。義父の遺産は義母と夫、夫の弟で分けると話しています。
私は一銭ももらえないんでしょうか。懸命にお世話してきたのに悲しいです。義父の遺言書は残してないみたいです。
- プロフィール:55歳女性
- お住まい:岩手県
- 相続人:義母、夫、夫の弟、相談者本人の4名
- 被相続人:義父
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅戸建て(土地・家屋) | 5,000万円 |
預貯金 | 1,200万円 | |
有価証券 | 500万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:義父 受取人:義母 |
7,700万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
アドバイス1 アドバイス1 相続人でなくても遺産の一部を請求できる可能性がある
義父の介護を一生懸命してきたのに何ももらえない、というご相談は多いです。今回、義父の遺言書がないとのことですが、相談者様の場合、遺産の一部を請求できる可能性があります。
相続人ではない親族の方が、被相続人(亡くなった方)の介護や病気の看護などを無償で行った結果、被相続人の財産の維持や増加に貢献した場合は「特別寄与料」というお金を相続人に請求することができます(民法第1050条)。
この制度は令和元年(2019年)7月1日施行の改正民法で新しくできました。なお、この施行日以降に開始した相続にしか適用されないため、ご注意ください。
アドバイス2 特別寄与料を請求するための3つの要件
この「特別寄与料」を請求するためには、次の3つの要件を満たす必要があります。
- 被相続人の相続人ではないが親族(6親等内の血族、3親等内の姻族)である
- 被相続人に対して、無償で療養看護や労務の提供(事業を手伝った等)をしていた
- 上記②の結果、財産の維持または増加に貢献した
相談者様は夫の父を介護していたため、相続人にはあたらず1の要件は満たしています。また、義父の介護に対して、対価を請求することは一般的に少ないと思いますので、そのような事実がなければ2の要件も満たすと思います。
ただし、対価を請求しなくても、それに値するような金銭の贈与が被相続人からあった場合は、要件を満たさない可能性があります。
最後に難しいのが3の要件です。
これは、単に介護をしていただけでは足りず、「無償でした介護の結果、ほかの介護サービス等を受けずに済んだために財産の維持に貢献した」というような明確な因果関係を証明する必要があります。
アドバイス3 特別寄与料はどのくらいもらえる?
特別寄与料はまず相続人との話し合いで決めるため、当事者同士が納得すればどのような計算方法や金額でも問題はありません。
介護や看護については、介護報酬相当額を目安として、実際に介護等をした日数とかけ合わせ、親族であることを考慮して一定割合(裁量割合)を差し引く計算方法があります。
そのため、実際にいつ介護をしたという日記やレシート等の記録を用意できるとお互いに納得のいく話し合いがしやすいと思います。
なお、特別寄与料は、遺産の総額から遺贈の価額を差し引いた残額を超えることはできないとされています(民法第1050条第4項)。
つまり、今回、被相続人が何も遺贈していないと仮定すると、生命保険金以外の財産7,200万円を超えて請求することはできません。
アドバイス4 特別寄与料の合意ができたら書面に残しておく
相続人と特別寄与料の支払いで合意できた場合は、後日の紛争等を防ぐためにも合意書などの書面を作成しておくことをおすすめします。書面の作成については、専門家である行政書士にご相談ください。
相続人との話し合いで特別寄与料を認めるか否か、金額が納得しない等で結論が出ない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てることができます。
この調停の申し立ては相続の開始と相続人を知ったときから6か月以内または相続開始から1年以内が請求期限ですので、注意してください。
なお、相談者様が特別寄与料を受け取れた場合は、相続税申告を検討する必要があるでしょう。
また、被相続人の配偶者・父母・子以外の方にかかる相続税は税額が2割加算になります。詳しくは税理士へのご相談をおすすめします。
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この記事を書いた人
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