【事例】亡くなった父が借金の連帯保証人になっていた(49歳男性 遺産2,000万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、故人が連帯保証人となっていた場合について、49歳男性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、北摂パートナーズ行政書士事務所の行政書士、税理士・松尾 武将さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、宅地建物取引士〉
前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に大阪府茨木市にて開業。相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、行政書士の指導にも尽力している。
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亡くなった父の債務は相続される?
相談内容
父が亡くなって相続手続きをするのですが、父がおじ(父の弟)の事業の連帯保証人となっていることが発覚しました。連帯保証の金額は200万円だそうです。
この連帯保証人は相続されるのでしょうか。相続放棄したほうが良いですかね?
- プロフィール:49歳男性
- お住まい:山口県
- 相続人:母、長男(相談者本人)、長女の3名
- 被相続人:父
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
預貯金 | 1,200万円 | |
有価証券 | 500万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:父 受取人:母 | 300万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
結論 連帯保証債務も相続人に継承される
被相続人が他の者の債務を連帯保証していた場合、その連帯保証債務も相続人に承継されます。また、連帯保証債務は相続開始と同時に各相続人の相続分に応じて当然に承継されることとなります。
相続放棄をすると、この被相続人についてその者は最初から相続人ではなかったこととされ、負債から逃れられる一方で、財産の相続も出来なくなります。
相続放棄するかどうかは、被相続人の資産と負債を比べてみて、負債が大きい場合または大きいと推測される場合に限定承認とともに検討されるべきと考えます。
なお、民法上の考え方は一般的に上記に述べた通りですが、特に事業資金については金融庁の監督指針により事業参画者以外の第三者保証は原則禁じられています。
実務上は取引金融機関と保証免除等の協議を行い方向性を決めていくこととなります。
【相続小噺】連帯保証人が亡くなったらどうなる?
少々落ち着きにかけるNとバクダンが落ちても動じないともっぱら評判のWが会話をしています。
N:「人の保証人には死んでもなってはならぬ」とは今はなきオヤジがよくいっていた言葉です。
W:そうですか、亡くなったお父さんが。
N:亡くなってません。今この場にいないだけです。でも、なんでですか?
W:保証契約、特に連帯保証契約は、主たる債務者が借金などを返さない場合、連帯保証人に直接返済を請求することができます。主たる債務の契約内容によっては、全額の返済を請求することもできます。
N:借金主にまずは請求してくれ、というのがスジでしょう。
W:いえ。連帯保証契約ではそれはできません。連帯保証契約は言いかえると、自分が借金したのと同じ責任を負うことになります。
N:そうなんですか。でもまあ連帯保証人が死んでしまったらパアでしょう?
W:パアではありません。
N:ではグー。
W:グーでもありません。
N:ではチョキ。
W:パアでもグーでもチョキでもありません。
N:では、無敵の型。
W:一身専属権にあたらない連帯保証債務は、連帯保証人が亡くなると、その法定相続人全員に引き継がれることになります。だから、パアではありません。
N:連帯保証は自分が借金したのと同じことだとすると、法定相続人の全員がおんなじ借金したということですか。
W:違います。法定相続人が法定相続割合に応じて当然に承継することとなります。
N:「当然」という言葉はやめてもらえますか。今はなきカノジョから「当然でしょ?」とよく言われてたもんで。
W:カノジョさんは亡くなられたんですか。
N:ふられただけです。どうして忘れかけた傷をえぐるようなことを言うんですか。というか、そんなことだったら相続放棄ですよ。相続放棄をしたら借金がチャラになるんでしょ?
W:相続放棄をすると、その被相続人について最初から相続人ではなかったことになりますので、負債を相続することはありません。
N:では相続放棄で。
W:財産も受け取れませんよ。
N:いや、それは欲しい。
W:どちらなんですか。
N:財産はいるけど、負債はいらない。
W:財産を調べてみたら良いんじゃないですか。負債が多そうだったら相続放棄をすれば良いし、負債が少なければ負債を支払う必要はあるけれども相続すれば財産を受け取ることができますよ。
N:あ。今はなき母親が諭すような話し方。
W:亡くなったんですか。
N:亡くなりました。
2人でしんみりと母親の思い出話を語り合う。
【相続小噺】事業とは関係ない相続人でも連帯保証しないといけない?
N:でもおかしな話ですよね。そのおじさんの事業の連帯保証を、事業とは関係がない相続人が引き継ぐなんてねえ。
W:そういう批判は以前からありました。このため、平成23年に金融庁が、事業資金に関し事業とは関係ないものによる個人第三者保証は原則禁止という指針を出しました。
N:やってるね、金融庁。
W:また、事業資金に対する保証については民法では、公正証書による保証意思の表明が行われない場合、その効力を生じないとする改正が行われました。
N:やってるね、国会。
W:こういう事情から、相続が発生した事業資金にかかわる連帯保証債務については、誰が引続き保証人となるのか、ならないのかという協議を金融機関側と行うのが実務上の取り扱いです。
N:わかったか、コノヤロー。
W:私がですか。
N:自分に言ってんの。安心して連帯保証人になれるってこと。火星で金を掘りあてるっていきまいている友だちに頼まれてるんです。「借金の連帯保証人になってくれ」って。
W:・・・では、最初からお話を繰り返します。
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〈行政書士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、宅地建物取引士〉
前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に大阪府茨木市にて開業。相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、行政書士の指導にも尽力している。
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