【事例】将来値上がりの見込める土地の贈与の方法は?(68歳男性)【税理士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、土地の生前贈与について、68歳男性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、日本経営ウィル税理士法人の税理士・小林 幸生さんです。
目次
この記事を書いた人
〈税理士、行政書士、宅地建物取引士、CFP®、1級ファイナンシャル・プランナー技能士、日本証券アナリスト検定会員補〉
希望を持てる明るい社会を築くため、税に対する相談や対策はもちろんのこと、ライフプランの作成や資産や事業の円満な承継、寄附文化の定着などに取り組んでいます。
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将来値上がりが見込まれる土地を早めに贈与したい
相談内容
自分の終活を少しずつ進めたく、所有する土地を長男に贈与したいと考えています。この土地は将来値上がりも見込めますし、早めに贈与しておいた方が良いと思うんですが、どのように贈与すれば良いでしょうか。
- プロフィール:68歳男性
- お住まい:千葉県
- 相続人:相談者本人、妻、長男、二男の4名
- 被相続人:相談者本人
贈与したい土地 300㎡ 3,000万円
相関図
はじめに
相談者様は、終活を進めながら、所有する土地を長男様に贈与したいと考えておられるようです。
仮に、その土地が将来値上がりすると見込まれる場合や、その土地から相当な賃料収入(利益)が得られるような場合には、相続時精算課税制度を利用して生前贈与を行うこともご検討ください。
アドバイス1 相続時精算課税制度の概要
「相続時精算課税制度」とは、子や孫が一定の要件を充たすことで、2,500万円(特別控除)まで贈与税を納めずに贈与を受けることができるという制度です。
また、贈与者が亡くなった場合には、贈与した財産を贈与時の価額でもって相続財産に加算し、相続税額を計算したうえで税を精算するという制度とされています。
なお、2024年1月以降、年間110万円の基礎控除が別途設けられました。
この基礎控除は2,500万円の特別控除とは別ものであり、相続発生時において相続財産に加算する必要はないとされています。
〇 精算課税贈与における税額計算
贈与税を算出する計算式は、以下の通りとなります。
相談者様のケースであれば、対象の土地を贈与することで、
の贈与税負担となります。
アドバイス2 相続税対策として相続時精算課税制度は有効か?
相続税対策として生前贈与を検討される方は、多いのではないでしょうか。
生前に財産を贈与した場合には贈与税の課税対象となりますが、その贈与税の生前贈与には、暦年課税と相続時精算課税制度があります。
相続時精算課税制度とは、前述のように、贈与した財産を相続開始時に相続財産に加算して相続税の計算を行う制度ですので、相続税対策としてはあまり効果がないように考えられがちですが、次のようなケースでは有効と考えられます。
《所有している不動産の価額が将来上昇すると見込まれる場合》
相続時精算課税制度を適用して贈与された財産は、相続開始のときに、贈与時の価額で相続財産に加算して相続税額の計算をすることとされています。
仮に、不動産の価額が将来上昇すると見込まれる場合にその不動産をあなたが相続開始時まで継続して保有していたとすれば、上昇した価額で相続税の課税価格に加算されますので、不動産価額の上昇分、相続税額が増加することとなりそうです。
そのため、例えば、再開発が計画されている場合など不動産の価額が上昇すると見込まれるケースでは、相続時精算課税制度を利用して贈与を行うことで、相続時まで継続保有するよりも将来の相続税額を軽減することができそうです。
《所有している土地から相当な利益が得られると見込まれる場合》
また、不動産価額の上昇が余り見込めないケースであっても、その不動産から安定した賃料収入(相当な利益が生じている場合に限ります。以下、同じです)が得られるのであれば、相続時精算課税制度の適用は選択肢となります。
仮に、不動産価額が一定であったとしてもその不動産をあなたが相続開始時まで継続保有するケースでは、その間に得られる賃料収入に対する利益が累積されますので、相続財産が増加することとなります。
他方、その不動産を相続時精算課税制度を適用して早期に贈与しておけば、贈与以降に得られる賃料収入が長男様のものとなります。結果として、相続税額を軽減できるのではないでしょうか。
アドバイス3 相続時精算課税制度のデメリット
以上のように、相続税対策として相続時精算課税制度は選択肢となり得ますが、相続時精算課税制度には次のようなデメリットもありますので注意してください。
《相続時精算課税制度選択後、暦年課税が選択不可》
相続時精算課税を選択した贈与者については、それ以後の贈与について暦年課税を選択することはでません。
そのため、相続時精算課税制度の基礎控除を超える額の贈与を行う場合には、必ず相続税の課税財産に加算されますので留意が必要です。
《贈与時における財産額で固定》
相続時精算課税制度を適用して贈与された不動産の価額は、前述したとおり、相続税の計算において贈与時の価額を用います。
そのため、相続開始時において、その不動産の価額が贈与時よりも低下している場合には、結果として相続税額が過大となる可能性もあります。
《小規模宅地等の特例の不適用》
相続税の申告では、亡くなった方の自宅や事業の用に供していた宅地等のうち一定の要件を充たすものは、「小規模宅地等の特例」を適用できることとされています。
ですが、相続時精算課税制度により贈与を受けた財産は、この特例の適用を受けることはできません。
したがって、将来、小規模宅地等の特例を適用する予定の土地については、相続時精算課税贈与の対象から除くことも検討ください。
いずれにいたしましても、相続時精算課税制度を適用して贈与を行う場合は、税理士などの専門家と一緒に、将来の税負担の試算や各資産の承継方法、他の特例の適用関係などを十分協議したうえで、実施するようにしてください。
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