【事例】夫が残していた借金は相続しなければいけませんか?(52歳女性 遺産3,800万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、亡き夫が残した借金について、52歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、行政書士FPしゅくわ事務所の行政書士、宿輪 德幸さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士・CFP〉
相続専門の事務所として2015年に開業。2017年からは、長崎県ではあまり知られていなかった民事信託の取り扱いを開始。既存の制度では対策困難な状況のご家族にも、民事信託の活用で解決策を提案しています。
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夫の借金は妻子が相続する?
相談内容
夫が病気で急逝してしまいました。新しい事業を始めたばかりで、友人から200万円ほど借金をしていたそうです。この借金は私が返すべきなのでしょうか。借金は相続されますか?
- プロフィール:52歳女性
- お住まい:宮城県
- 相続人:妻(相談者本人)、長男の2名
- 被相続人:夫
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅マンション(90㎡) | 3,000万円 |
預貯金 | 500万円 | |
有価証券 | 100万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:夫 受取人:相談者本人 |
400万円 |
借金 | ▲200万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
はじめに
ご主人は若くして病気で急逝されたとのことで、相続に対する準備は何もされていないようです。そして、友人に対する借金(債務)があるとのことですが、これは相続財産(マイナスの財産)ですので、法定相続人が引き継ぐことになります。
アドバイス1 夫の借金は妻と子どもで引き継ぐ
相続人は、被相続人の債務を原則として法定相続分に応じて引き継ぎます。債務は、遺産分割協議の対象ではありません。
相談者様のご主人は、遺言をされていませんので、プラスの相続財産は法定相続人の遺産分割協議により分け方を決めます。
なぜなら支払い能力のない相続人に債務だけ引き継がせるような遺産分割協議が有効となると、債権者に不利益が発生してしまうからです。したがって、債務は相続人の意思で引き継ぐ人を決めることはできません。
アドバイス2 もし相続放棄してしまうとプラスの財産も相続できなくなる
借金を引き継ぎたくない場合は、相続放棄ができます。
相続が発生した場合、相続人は自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に相続するかしないかを決めなければなりません。このとき、選択肢は3つあります。
- 単純承認:債務も含めてすべての相続財産を承継する。
- 限定承認:相続財産を限度として債務を承継する。
- 相続放棄:相続財産について権利を放棄する。
3ヶ月以内に限定承認か相続放棄の手続きをしなかったり、相続財産を使った場合には単純承認したことになります。
相続放棄をすると、相続人としての権利義務がなくなり、債務だけではなくプラスの財産も取得することはできません。ただし、生命保険の死亡保険金は相続財産ではありませんので、相続放棄をしても受け取ることができます。
また、前順位の相続人が相続放棄したために次順位の者が相続人になった場合は、そのことを知ったときから3ヶ月以内になります。例えば、この事例で第一順位のご長男が相続放棄した場合、第二順位の直系尊属が、第二順位の者がいない場合第三順位の兄弟姉妹が相続人になります。
遺産の承継方法は上記3つです。プラスの財産を取得して、債務だけを逃れる方法はありません。
アドバイス3 未成年の相続人がいるとどうなる?
被相続人が若くして亡くなった場合は、未成年者が相続人となる場合があります。
しかし、遺産分割協議は重要な法律行為ですので、未成年者はすることができません。この事例のように、親と子が相続人となると、親権者であっても親が子を代理することもできません。
そのような場合は、子のために「特別代理人」を家庭裁判所で選任して、遺産分割協議をすることになります。また、子が18歳になるのを待って親子で遺産分割協議をすることも可能です。
この事例の場合、法定相続分は配偶者と子で2分の1ずつですので、相談者様とご長男がそれぞれ100万円の債務を引き継ぎます。ご主人にお金を貸したご友人は、支払期限がきたときに、相談者とご長男に100万円ずつ請求することができる債権を持つことになります。
ご長男は未成年ではないということですから、借金と生命保険金以外の財産について、相談者様とご長男で分割協議をして分け方を決めることができます。幸いなことに借金よりプラス財産の方が多いので、早めに債務を清算して遺産分割するのが良いのではないでしょうか。
生命保険金については、相談者様が保険受取人として保険会社に請求をしてください。
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〈行政書士・CFP〉
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