【事例】世話をしてくれる姪に遺産を渡したい。今後の財産管理なども頼みたいがどうすれば良い?(65歳女性 資産3,800万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、おひとりさまの将来を見据えた相続対策について、65歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、行政書士キズナ法務事務所の行政書士・小嶋秀和さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士、家族信託専門士、ファイナンシャルプランナー、相続診断士、宅地建物取引士、不動産コンサルティングマスター、賃貸不動産経営管理士、宅建業免許〉
相続・生前対策に特化した千葉市の法務事務所です。認知症による資産凍結対策に有効な家族信託に力を入れています。宅建業免許も取得しておりますので、空家でお困りのケース等、不動産までワンストップ対応が可能です。
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おひとりさまの相続対策はどうする?
相談内容
わたしは独身で夫も子供もいません。兄弟は兄1人、妹2人がいますが、兄は認知症です。
近所に姪(妹の子)が住んでおりわたしの世話をしてくれてるので、姪に自分の遺産を渡したいです。また、今後自分が認知症になったり、老人ホームに入る際の財産管理もお願いしたいと考えています。どのような手続きをすれば良いか教えてください。
- プロフィール:65歳女性
- お住まい:香川県
- 相続人:長男、長女(相談者本人)、二女、三女、姪(二女の子)
- 被相続人:相談者本人
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅マンション(50㎡) | 1,200万円 |
預貯金 | 2,600万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
アドバイス1 姪は相続人ではなく、さらに相続人に認知症の人がいるため相続手続きが大変
相談者様の「世話をしてくれている姪に財産を渡したい」との希望を叶えるためには、遺言等事前の対策を施しておく必要があります。
そもそも、現時点(二女=姪御様のお母様が存命中)で姪御様は法定相続人ではありません。また、相談者様には認知症のお兄様がいらっしゃるとのこと。このまま相談者様が何の対応もせず、万一お亡くなりになった場合、残された法定相続人間で遺産分割協議をすることとなります。しかし姪御様は法定相続人に該当せず、認知症の人がいると(お兄様が存命であれば法定相続人になります)相続手続きに大変な手間がかかる可能性があります。
そもそも認知症は医療・介護用語ですので、法律上は「意思判断能力の欠如」と言いますが、双方が極めて似た状態であるため、一般的に認知症になると資産凍結される、といわれています(したがって厳密には、認知症=資産凍結ではありません)。
では、認知症≒意思判断能力の欠如になるとどうなるのでしょうか。一言で言うと、法律行為ができない、こととなります。法律行為というと難しく聞こえますが、契約行為や人との約束ごとのことです。冷静に考えてみれば、判断できないのですから人との約束は常識的に考えてしてはいけませんね。したがって、遺産分割協議も当然できないこととなります。
ただ、全くできないということではなく、成年後見制度というセーフティネットが用意されています。成年後見人(成年後見人が利害関係者の場合は特別代理人)を家庭裁判所に選任してもらうことにより、最悪の事態を回避することは可能です。
アドバイス2 成年後見制度の問題点
本件においては、お兄様の問題だけでなく、相談者様が認知症になった後の財産管理の一手法としても成年後見制度は検討の余地があります。
しかし、一方で、成年後見制度ではさまざまな問題が指摘されています。
まず、家庭裁判所が後見人を選任しますので、被後見人(=判断能力のない本人)や親族は選択することはできません(申し立ての際、希望を述べることはできます)。したがって、職業後見人が選任される可能性があります。最高裁判所が発表している直近のデータでは8割がそれで、職業後見人ですから当然報酬が発生します。
さらに、成年後見制度は単なる財産管理の制度ではなく、被後見人の身上監護も目的としています。したがって、遺産分割協議が終わっても解任するわけにはいかず、被後見人の存命中はずっと務めてもらうこととなり、職業後見人の場合には報酬も発生することとなります。
- 職業後見人への報酬発生
の他にも、
- 家庭裁判所への申立・報告や許可等、後見人の手間や負担(特に一般人である親族が後見人となった場合)
- 職業後見人がついた場合の、被後見人や親族との相性
- 資産の運用が原則認められない(アパート等収益不動産やリスクを伴う金融資産)
- 被後見人の財産管理に第三者(職業後見人や家庭裁判所等)が介入することによる親族の心理的負担
等の問題が指摘されています。
もちろん家庭裁判所が関与しますので安心感がある等のメリットもありますが、このような問題を回避する手立てとして、近年「家族信託」が脚光を浴びています。
アドバイス3 家族信託で姪への財産の管理も受け渡しもお願いできる
結論から言うと、今回相談者様には「家族信託」をおすすめします。
家族信託とは、委託者(=相談者様)がまだお元気で判断能力があるうちに、自身の信用のおける人(=姪御様)との間で契約を結び、財産管理を任せることを言います。
民事信託とも呼ばれ、信託法に基づく財産管理の手法ですので、成年後見制度とは全く別のもので、家庭裁判所は関与せず親族だけで完結します。自身で財産管理を任せる人を選ぶことができますし、親族ですから無報酬とすることが多いです。契約書に明記しておく必要がありますが、アパート経営や投資信託等リスクを伴う金融資産による資産運用も可能です。
また、成年後見制度が財産管理をお願いする人(=被後見人)の生存中のためだけの制度なのに対し、家族信託はお亡くなりになった場合にその管理をお願いした財産を誰が引き継ぐか契約で定めておく必要があり、遺言の代替えとして活用することができます。
したがって、「自身が認知症になった後、姪御様に財産管理を任せ、最終的には相続させたい」との相談者様のご希望を一つの契約で叶えることが可能となるのです。
アドバイス4 家族信託のメリット・デメリット
家族信託は、理論上は成年後見制度の現状の問題点をほぼ解決できる、と言われており、近年マスコミ等でも多く取り上げられています。
ではデメリットはないのでしょうか。一言で言うと「作り手の問題」というものがあります。
法律である程度固められている成年後見制度と異なり、家族信託では財産管理でできること等全てを契約書で定める必要があり、その作成が難しい点があげられます。
一般の方の手にはなかなか負えないといえるかと思いますし、士業に依頼するにしても知識と経験を兼ね備えているか見極める必要があります。
私自身も含め家族信託に精通している者の最大の危惧は、一般のマスコミでも脚光を浴びてしまっている昨今、不備のある契約が氾濫することで規制が厳しくなり、家族信託のもつ柔軟性という良さが失われてしまうのではないか、という点があります。
依頼する士業が確かな知識を兼ね備えているかを見極めることは難しいと思いますが、家族信託の件数実績は確認されたらいかがかと思います。
いずれにしても、知識と経験の裏付けがある士業がつくれば、家族信託は非常に優れたものといえると思います。「相続」「生前対策」の専門家に相談することをお奨めします。
解決事例
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専門オペレーターが丁寧にお話を伺いサポートしますので、お困りの方は、お気軽にご相談ください。
この記事を書いた人
〈行政書士、家族信託専門士、ファイナンシャルプランナー、相続診断士、宅地建物取引士、不動産コンサルティングマスター、賃貸不動産経営管理士、宅建業免許〉
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