【事例】妻と離婚する気はないが、愛人に生前贈与をしたい(59歳男性 資産1億5,500万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、妻と子どもにバレずに愛人に財産を渡したいという、59歳男性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、特定行政書士森田法務事務所の特定行政書士・森田 哲也さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士、宅建士、外国人雇用管理士、申請取次行政書士、特定行政書士、2級FP技能士〉
当職は、行政書士業務は勿論のこと、事件の複雑さに応じて、弁護士、税理士、司法書士、土地家屋調査士、宅建士、遺品整理業者等と連携して、当職を窓口とするワンストップサービスを展開し、お客様のご依頼に応じて最適な法務サービスを提供しております。まずはご相談ください。
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妻子にバレずに生前贈与はできる?
相談内容
そろそろいい年なので、相続対策を検討しています。預金については、長年付き合いのある愛人にも渡したいです。しかし妻と子どもには愛人の存在をバレたくなくて、どうすれば良いでしょうか。
- プロフィール:59歳男性
- お住まい:神奈川県
- 相続人:妻、長男、長女の3名
- 被相続人:相談者本人
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅戸建て(土地・家屋) 土地100㎡ |
4,500万円 |
預貯金 | 8,000万円 | |
有価証券 | 2,000万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:相談者本人 受取人:妻 |
1,000万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
ご質問の件につきまして以下返答致します。
まず前提として、いわゆる「愛人」(以下A とします)の方に、相談者の預金等の推定遺産を「相続対策」として残したい、というのは、ご質問の内容をそのまま受け取りますと、不倫関係の方に遺産を残す、ということかと思いますが、不倫関係を継続していることの是非(公序良俗違反となりうる)には触れません。
それを前提に考えますと、例えば「愛人」ではなくて、「親族以外の第三者」に対して何らかの遺産を譲渡する、ということであればそれ自体は問題がないものと考えます。
(遺留分侵害額請求または精神的苦痛による慰謝料請求、不法行為に対する損害賠償請求などの論点は除く)
つまり、意思能力のある人が受遺能力のある人に遺産を残す、あるいは、資産を譲渡する、という手続き自体は、相手方が親族であろうと、親族以外の第三者であろうと特段問題ではないのですが、問題は「妻子にバレずに残す」という点です。こちらを中心に考えます。
アドバイス① 遺す手段としての「遺言書」はどうか?
遺言書については、例えば公正証書遺言にしても自筆証書遺言にしても、受遺者が明確である必要がありますが、遺言書上、受遺者の肩書として「愛人」と載せるはずもありませんので、その点は大丈夫です。
しかし仮に公正証書遺言を遺した、としますと、遺言者(つまり相談者)が死亡後、相続権のある親族または利害関係人は、公証役場に対し、遺言者死亡後、遺言の有無や遺言がある場合はその内容について問い合わせができるため(一定の関係を証明する必要はありますが)相続人等が、「この遺言書に書いてあるAとは誰か?」ということは明確にわかるでしょう。
ですから、遺言者とAとの関係は文書上ではわからないものの、判明後、相続人などが興信所等に依頼し、その調査結果により関係が明かになることはあり得ます。
また、自筆証書遺言書がある場合、いわゆる完全に自筆で書いた遺言書を、遺言者の死後、その遺言書をもって、例えば預貯金の解約であったり、相続登記等しようと思っても、遺言書の保管者は、遺言者の死亡後遅滞なく、家庭裁判所に「検認」申立をしなければ過料の制裁がありますし、また、銀行や法務局でも、検認済みの遺言書が無ければ、預金解約はできない、相続登記もできない、ということになり、結局、検認申立ては必ずしなければ実効性がありません。
検認の際は、家庭裁判所の調査により、相続人及び利害関係人に対し、検認期日を通知します(出頭は自由です、出頭しない場合は後日、検認がされた旨通知がされます。この場合内容通知はされません)ので、その期日において例え「封」をしてあっても、開封した結果、家庭裁判所が状態をチェックし、検認証明を添付した上で保管者に返しますので、結局、遺言の中の「このAって誰?」ということになります。
さらに、保管者が仮にAであれば、開封期日に必ず原本を持参する必要が有り、Aと、遺言者の相続人が鉢合わせ、ということになり、Aの存在がバレてしまう、という可能性もあります(家庭裁判所では時間をずらして出頭期日を設定するよ うですが)。
また、法務局による自筆証書遺言書保管制度を利用したとしても、同様に、「遺言者死亡後」は、相続人または利害関係人は、保管した遺言書の内容の確認は出来てしまいます(例えば、Aに全部遺す、という遺言書であっても、相続人であれば、その内容の確認は可能です)。
よって、「遺言者死亡後は」バレる可能性は高いと思います。
また、遺言書の効力は「遺言者死亡後」初めて生ずることに留意が必要です。
アドバイス② 遺す手段としての「生命保険金受取人」指定はどうか?
生命保険契約は、生命保険金の被保険者が死亡した場合、相続の対象ではなく、指定受取人に直ちに保険金が支払われることとなります(契約形態によっては、贈与税がかかる可能性は別途あり)。
よって、受取人をAとして「契約できたとして」、その保険契約締結の事実を生前に家族にも知らせずに死亡した場合、Aは、被保険者死亡後、保険会社に請求をすることにより、家族に知られずに保険金を受け取ることは可能と考えます。
しかし、「契約締結時」にハードルがあります。「親族以外の第三者」を受取人と指定する契約は非常に難しく、生命保険会社が承認しない限り契約そのものも締結できません。いわゆる「事実婚」とか、「内縁」という関係であっても、保険会社が承認しない限り締結は出来ない、というケースがほとんどです。
また、保険会社によっては、「生命保険信託」という商品を扱っている会社もあるようですが、契約が複雑であり、また、費用も掛かるようです。さらに取扱会社そのものがそんなに無いようなので、このケースでは、バレるか否か、というよりも、そもそもその前提として、Aに遺す手段がほぼ無い、ということかと思います。
アドバイス③ では、相談者の「生前」に、何らかの方法で資産を譲渡することは出来るか?
この点に関しては、相談者の生前に、「親族以外の第三者」に対し、「相談者名義」資産を、相談者の意思で譲渡することは、法律上、特段の問題はありません。
また、仮に贈与税等の申告義務が生ずるとしても、申告義務があるのは「受贈者」であり、例えば、贈与税の非課税枠を利用した暦年贈与であれば、申告義務もないので、家族も含む親族に対し通知等はなされないのでその点ではバレないかもしれません。
ただし、別件で、相談者が、贈与税のかかるような金額の贈与をAに対して実行して、贈与税申告を適法にしたとしても、税務調査等が別途相談者に対して行われたときに、調査官により贈与の内容につき調べられ、結局、家族の知るところになる、という可能性はあります。
アドバイス④ では、生前贈与を行ったとして、何かしておく必要はあるか?
贈与に関しては、贈与税課税の対象か、あるいは非課税贈与であるか否かにかかわらず「贈与契約書」は残しておくべきと考えます。
③で述べたように、贈与税(あるいは相続税)の調査等が行われたときに、不自然に預金等資産が動いたことは、税務署では少なくとも10年程度は過去にさかのぼって調査が可能です。さらに、それらは相続人等の許可も不要なため、「贈与税等の調査として」行われた結果、内容が、家族などに知るところになってしまう可能性があります。
ただし、「愛人」に対して「贈与した」などということは通常、調査の主眼ではなく、贈与税の申告義務のある贈与なのか否か、という点が主眼と思われるので、余計な調査範囲を提供しない為にも、きちんと「贈与契約書」を作っておく方が良いと考えます。
仮に、相談者死亡後、生前贈与でAに贈与したことが「贈与契約書」の存在により家族に判明したとしても、あくまでも「相談者」と「A」間の意思能力のある人間が自由に財産を譲渡すること自体は違法ではありません。
その「自由な意思により行った」ということを証するため、例えば「公証役場」にて、公証人立会いの下で正規の公正証書による贈与契約書を作成しておけば、紛失等は考えにくいです。また、公証役場も、双方の生前は、保管した贈与契約書の存否につい て、当事者以外は、例え親族であっても答えることはありません。
相談者死亡後、相続人として、過去の贈与契約等の状況の調査により相続税申告等に必要な場合等正当な理由がある調査を行わない限り、Aの存在がバレる、という可能性は少ないと思います。
したがいまして、以上の結果、相談者が死亡し、その「相続対策」としてAの存在をバレずに残す、という手段は限られており、実現も難しいと考えます。
一方の「生前贈与」、しかも現行認められている非課税枠贈与で、なおかつ、相談者、A間の本人の意思表示を明確にすべく、「贈与契約書」を作成したものであれば「バレる」可能性は少ないものと考えます。
仮にバレたとしても法律上、贈与税申告納税の有無についての違法性等は問われたとしても、それは追徴課税等の問題であり、別途不倫関係により親族、相続人等から訴訟等起こされる可能性は少ないでしょう。また、その書類からだけでは不倫関係等の立証も難しいのではと考えます。
ですから、相談者としては、「相続対策」としてではなく、「生前対策」として、相談者、Aの双方の意思能力があるうちに、法律的に正規な方法で実行されることをお勧め致します。
(くどいですが、公序良俗違反により別途、訴訟等起こされたとしても関知致しません)
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