【事例】生活保護を受給していた父が亡くなりました。相続手続きはどうする?(60歳女性 遺産90万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、生活保護を受給者が亡くなった場合について、60歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、行政書士FPしゅくわ事務所の行政書士、宿輪 德幸さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士・CFP〉
相続専門の事務所として2015年に開業。2017年からは、長崎県ではあまり知られていなかった民事信託の取り扱いを開始。既存の制度では対策困難な状況のご家族にも、民事信託の活用で解決策を提案しています。
▶ 行政書士 FP しゅくわ事務所
故人が生活保護を受給していた場合は?
相談内容
先日父が亡くなったのですが、父は生活保護を受給していたそうです。借金はしていないと言ってましたが、よくわかりません。
生活保護を受給していた人が亡くなった時に必要な手続きがあれば教えてください。
- プロフィール:60歳女性
- お住まい:兵庫県
- 相続人:長女(相談者本人)、長男の2名
- 被相続人:父
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
預貯金 | 40万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:父 受取人:長女 |
50万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
アドバイス1 相続しても生活保護受給権は引き継がれない
相続人は、被相続人の権利義務を引き継ぎます。例えば、他人にお金を貸していた場合には返してもらう権利が相続人に引き継がれますし、賃貸住宅を借りていた場合には賃借権が相続人に引き継がれます。
しかし、公営住宅の賃借権は相続の対象外です。公営住宅は、所得の少ない人に安い家賃を提供する目的で存在しています。したがって一身専属の権利と考えられているのです。生活保護受給権も一身専属権ですので、相続の対象ではありません。そのため生活保護受給権者が死亡したときに、権利は消滅します。万が一、手続きの不備で死亡後の保護費が支給された場合には返還の義務が発生します。
アドバイス2 生活保護費は返還しなければならない?
生活保護は、資産や収入等のすべてを使っても生活に困窮する人のための救済措置です。ですから、収入があるのにこれを隠して生活保護費を過剰に受け取っていたような場合には「不正受給」となり、返還しなければなりません。さらに一定額以上の貯金があると、保護費の支給が一時停止されることもあります。
ただし、生活保護費の貯金がすべて否定されるわけではありません。たとえば、家電品など壊れてしまったときに、まったく貯えが無ければ買い替えることができず、生活に支障が出てしまいます。また子どもの入学準備金などとして貯金をする人も多いようです。
許容される貯金の上限についてはケースワーカーが判断するケースが多く、明確な決まりがありませんが、100万円を超えることは認められないようです。
また、生活保護受給者は医療費が無料となりますので、原則生命保険の加入はできません。しかし、以下の要件を満たす場合には加入が認められています。
- 掛け捨て型の保険
- 保険料が低額
- 解約返戻金が30万円以下
相談者様のお父様の貯金と生命保険については、上記の許容の範囲に収まっていると思われますが、担当のケースワーカーに確認してはいかがでしょうか。
アドバイス3 相続放棄の検討
相続人は、被相続人の借金も相続します。プラスの財産は、遺産分割協議で分け方を決めることができますが、借金は法定相続分で相続することになっています。子2人が相続人であれば、借金を半分ずつ相続することになります。
借金を相続したくないのであれば、相続放棄を検討してもよいでしょう。相続放棄をすると相続人でなかったことになり、借金も相続しません。そのうえ、保険金は相続財産ではありませんので、相続放棄した場合でも受け取れます。
相談者様は、お父様の借金がご心配のようです。疎遠となり、どのような生活をしていたのかわからないのですから当然です。しかし、生活保護受給者が借金をすることは困難ですし、過去の借金については、自己破産などで免責となっていることもあります。もし借金があれば、生前にお父様への請求があったはずですので、生活を見守っていたケースワーカーに確認してください。
相談者様の場合、保険金は相談者様個人の財産として受け取り、借金がないようであれば、貯金もご兄弟で話し合って分けても問題ないのではないでしょうか。今後、お父様の荷物の整理などで費用が発生するかもしれません。しばらくは、備えとして手元に残しておくことをおすすめします。
関連事例
【事例】前妻の子から遺産を要求されている。公正証書遺言があるので、渡さなくても良い?(50歳女性 遺産5,500万円)【行政書士執筆】
【事例】不仲だった自分の子どもにはできるだけ財産を渡さず、孫に多くしたい(72歳男性 資産5,000万円)【行政書士執筆】
相続についてのご相談は「いい相続」へ
いい相続では、全国各地の相続の専門家と提携しており、相続手続きや相続税申告、生前の相続相談に対応できる行政書士や税理士などの専門家をご紹介することができます。
専門オペレーターが丁寧にお話を伺いサポートしますので、お困りの方は、お気軽にご相談ください。
この記事を書いた人
〈行政書士・CFP〉
相続専門の事務所として2015年に開業。2017年からは、長崎県ではあまり知られていなかった民事信託の取り扱いを開始。既存の制度では対策困難な状況のご家族にも、民事信託の活用で解決策を提案しています。
▶ 行政書士 FP しゅくわ事務所
ご希望の地域の専門家を探す
ご相談される方のお住いの地域、遠く離れたご実家の近くなど、ご希望に応じてお選びください。