【事例】前妻の子から遺産を要求されている。公正証書遺言があるので、渡さなくても良い?(50歳女性 遺産5,500万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、前妻の子との遺産相続について、50歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、行政書士FPしゅくわ事務所の行政書士、宿輪 德幸さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士・CFP〉
相続専門の事務所として2015年に開業。2017年からは、長崎県ではあまり知られていなかった民事信託の取り扱いを開始。既存の制度では対策困難な状況のご家族にも、民事信託の活用で解決策を提案しています。
▶ 行政書士 FP しゅくわ事務所
前妻の子から遺産を要求されています
相談内容
亡くなった夫は前妻との間に2人の子を設け、その後離婚し、私と結婚しました。前妻は既に亡くなっているのですが、夫が亡くなったことを知った前妻との子どもたちから遺産を要求されています。こちらには公正証書遺言があり、財産はすべて私と長男に渡すよう書かれています。
- プロフィール:50歳女性
- お住まい:埼玉県
- 相続人:妻(相談者本人)長男、前妻との子(長男、次男)の計4名
- 被相続人:夫
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅戸建て(土地・家屋) 土地120㎡ |
3,200万円 |
預貯金 | 1,200万円 | |
有価証券 | 600万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:夫 受取人:妻(相談者本人) |
500万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
アドバイス1 公正証書遺言に書かれていれば、前妻との子に財産を渡さなくても良い
遺言書が無い場合には、法定相続人全員で相続財産の分け方を決めなくてはなりません。遺言書があれば、それにより財産の分割ができますので、遺産分割協議は必要ありません。特に公正証書遺言であれば、家庭裁判所の検認なども不要で、相続登記や口座解約などもスムーズにできます。
遺言は元の所有者の最後の意思ですので、最大限尊重されます。例えば、相続人でない人に全財産を取得させることも可能です。
しかし、相続人によっては、遺産がもらえないと困る人もいるでしょう。
そこで相続財産の一定割合について、一定の相続人に確保するために設けられたのが遺留分という制度です。
アドバイス2 前妻の子には遺留分侵害額請求権がある
夫婦は離婚すれば赤の他人です。しかし、子は離婚しても子のままです。相手が親権を取ったとしても、親子の関係は無くなりません。前妻は、もしお元気であったとしても相続人ではありません。しかし、前妻の子は、後妻の子と全く同じ権利を持つ法定相続人です。
そして兄弟姉妹を除く法定相続人は、遺言によっても害することができない遺留分があります。
祖父(死亡日:令和1年10月10日)
遺 留 分 :相続人が直系尊属のみの場合、法定相続分の1/3
その他の場合、法定相続分の1/2
相談者様の場合、前妻の長男・次男の遺留分は以下のようになります。
⑴法定相続分:相談者=1/2 長男=1/6 前妻の長男=1/6 前妻の二男=1/6
⑵前妻の子の遺留分(法定相続分×1/2):前妻の長男=1/12 前妻の二男=1/12
⑶遺留分侵害額算定の基礎となる財産:5,000万円
(生命保険金は遺産ではなく、受取人の固有財産となるため遺留分の計算からは除外)
⑷前妻の子の遺留分侵害額:前妻の長男=416万6,666円 前妻の二男=416万6,666円
前妻の子には、それぞれ416万6,666円の遺留分侵害額を請求する権利があります。そして、請求すべき遺贈があったことを知ったときから1年、または相続開始から10年間請求をしなかったときには、請求権は消滅します。
「知ったとき」というのは、遺留分を侵害している遺言書の内容を知ったときになります。相談者様は、前妻の子に遺言書を開示していませんので、相続から10年以内であれば遺留分侵害額請求をされると、支払う義務が発生します。
遺留分侵害額を請求する相手は、遺言書で遺留分以上の財産を取得した人です。例えば、相談者様が不動産3,200万円、長男が預貯金と有価証券1,800万円を相続していた場合は、以下のようになります。
⑴相談者と長男の負担上限
相談者:3,200万円(取得財産)-1,250万円(遺留分)=1,950万円
長 男:1,800万円 -416万6,666円 =1,383万3,334円
⑵相談者と長男の負担割合
相談者:1,950万円(負担上限)/(1,950万円+1,383万3,334円)=58.5%
長 男:1,800万円 /(1,950万円+1,383万3,334円)=41.5%
⑶前妻の長男・次男2人から請求をされた場合の支払額
相談者:416万6,666円(遺留分)×2(人)×58.5%=487万5,000円
長 男:416万6,666円×2×41.5%=345万8,332円
遺留分侵害額請求をされた場合には、現金で払わなければなりません。相談者様の長男は相続した預貯金から、相談者様は生命保険金でなんとか支払うことができそうです。
アドバイス3 相続トラブルの対策は財産を残す者の役割
相談者様は、前妻の子とは関わりを持ちたくないようです。しかし、遺留分侵害額請求は、請求の意思表示で成立しますので、今後、話し合いなども必要となり、精神的にも大きな苦痛となってしまいます。遺言をする人は、自分の希望だけでなく、相続トラブルの回避まで考えるのが務めではないでしょうか。
相談者様のような家庭事情であれば、
⑴生命保険を増やして、遺留分の対象財産を減らす
⑵前妻の子にも遺留分の財産を相続させる
⑶遺留分を侵害する遺言をする場合、妻に遺留分のことを理解させる
・遺言書は早めに開示する(開示すれば請求期間は1年、開示しないと10年)
・請求されたらスムーズに払えるように準備する、遺産額の証明書類を揃える、支払用の現金を請求期間が終わるまで残すなど
⑷前妻の子と妻がやり取りをしないように、遺言執行者を指定する
などの対策が考えられます。
相続トラブルの対策は、法律を知らなければできません。また、対策の不備が発覚するのは相続発生後ですから、やり直しは不可能です。争族になる可能性があるのでしたら、相続専門の事務所に相談して、確実な対策をおすすめします。
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