【事例】身寄りがおらず、近所の友人に遺産を渡したいです。必要な手続きなどを教えてください(66歳男性 資産1,900万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、身寄りがいない方の遺産相続について、66歳男性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、行政書士ときた事務所の行政書士、鴇田 誠治さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、CFP®、不動産コンサルティングマスター〉
相続・相続対策の専門家として、相続手続きの総合的なご支援はもちろん、遺言書の作成などの相続対策もお客様と共に考え、アドバイスをさせていただきます。また、後見や財産管理、民事(家族)信託などもお気軽にご相談ください。
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身寄りがいない人の終活
相談内容
長年病気を患っており、先々のことも考えなければなりません。自分には身内が誰もおらず、財産は近所の友人に渡したいと考えています。
できるだけ彼の手間をかけずに準備しておきたいのですが、どうすれば良いでしょうか?事務処理なども早めに済ませたいです。
- プロフィール:66歳男性
- お住まい:福井県
- 家族構成:相談者本人のみ
- 被相続人:相談者本人
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅マンション(50㎡) | 1,200万円 |
預貯金 | 600万円 | |
有価証券 | 100万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
アドバイス1 法定相続人以外の人に財産を渡すには遺言書が必要
ご友人など法定相続人以外の方に財産を残されたいとのご希望ですが、その場合は、遺言書を作成して財産を無償で譲る「遺贈」(いぞう)によりご自身の財産を受け取ってもらうことができます。
遺贈は、財産を譲る相手(「受遺者」(じゅいしゃ)といいます。)には特に制限はありませんから、最期まで面倒を見てくれたご友人など相続人以外の第三者に渡すことも可能です。
また遺言書は、ご友人の承諾や協力を得なくても作成できますので、ご友人にお手間をかけさせることなく準備を進めることができます。
ちなみに遺言書には、「自筆証書遺言書」「公正証書遺言書」「秘密証書遺言書」の3種類ありますが、自筆証書遺言書は手軽に書ける半面、不備があると無効となるデメリットがあります。
そのため公証人が作成し、形式不備などで無効になるおそれがない公正証書遺言書の作成をおすすめいたします。
アドバイス2 どのような遺言を書けば良いか
遺贈には、「特定遺贈」と「包括遺贈」という2つの方式があります。
特定遺贈は「〇〇銀行の預貯金全部をご友人の○○さんに遺贈する」といった形で、財産を渡す相手と、どんな財産か渡すのかを具体的に指定して遺言書を作成する方法です。仮に、不動産と有価証券をご友人に、預貯金は「社会貢献のためにNPO法人や慈善団体などへ寄付(遺贈寄付といいます)をしたい」などの場合に利用します。
包括遺贈は、「すべての財産をご友人の○○さんに遺贈する」といった形で、財産の全部(または一部)を包括的に渡す方法です。遺言書を作成した後に生前に不動産を売却したなどにより財産構成が変化したときでも、新たに遺言書を書き直すことなく、スムーズに対応できるメリットがあります。
ただし包括遺贈では、受遺者が相続人と同じように権利だけでなく義務(マイナスの財産である借金や債務の負担)も負うことになりますので、相談者様にローンなどの借金が残っているときには注意が必要です。
アドバイス3 遺贈も相続税の対象になる?
遺贈は、遺言書を書いた人が死亡することで財産を移転させるものなので、「贈与税」ではなく「相続税」の対象となります。受遺者が取得した財産の合計額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えると、税務署に相続税の申告をする必要が生じます。
法定相続人となるお身内が一人もおらず、ご友人のみが財産をすべて遺贈で受取る場合の基礎控除額は3,000万円となりますが、相談者様の場合、現在の財産総額が1,900万円とのことですので、現状では相続税の心配はありません。
アドバイス4 死因贈与や民事信託などを利用する方法も
ご友人に財産を渡す方法として、遺贈のほかにもう一つ、「死因贈与」という方法があります。
死因贈与
死因贈与とは、あげる人(贈与者)ともらう人(受贈者)の合意(契約)に基づく贈与の一種で、贈与者が死亡したときに贈与の効力が生じる法律行為です(民法第554条)。
死因贈与では財産を渡す側ともらう側の双方の合意(死因贈与契約)が必要になりますから、ご友人との間で契約書を取り交わすなど、ご友人にお手間をかけさせることになります。なお、死因贈与では一般的に、公正証書で「死因贈与契約書」を作成します。
民事信託
また、最近は「民事信託」を検討される方も多いです。
民事信託とは、財産をお持ちの方(「委託者」(いたくしゃ)といいます)が、信頼できるご家族など(「受託者」(じゅたくしゃ)といいます)に対して、財産の管理や処分を行う権限などを託す、財産管理の仕組みです。
委託者である「相談者様」と信頼できる受託者である「ご友人」との間で信託契約を結び、「受益者」(「じゅえきしゃ」といいます)である相談者様のために、相談者様の不動産、金銭等の財産を、信託する目的(病気で身体が動けなくなってしまった時の財産管理や生活支援するなど)にしたがって管理してもらうものです。
ご友人は相談者様のために信託財産を管理または処分などの行為をすることができますので、施設に入居するために自宅を売却する必要が生じた場合にも、自身が面倒な手続きをすることなく、受託者であるご友人に売却の手続きを行ってもらうことで、相談者様は負担なく売却代金を受け取って、施設入居の費用にあてることができるようになります。
そして、相談者様が亡くなったときに備えて、受託者であるご友人を、残った財産の帰属権利者(「きぞくけんりしゃ」といいます。)にしておけば、亡くなったあとには、ご友人に財産を渡すことも可能です。
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