【事例】家族構成が複雑で誰が相続人なのか、どのような割合で相続するかわからない(29歳男性 遺産2,900万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、複雑な家族構成での相続について、29歳男性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、行政書士事務所さっぽろエールの行政書士、青木 義孝さんです。
この記事を書いた人
〈特定行政書士、ファイナンシャルプランナー(AFP)〉
36年間の公務員経験があります。任意後見人やお寺の会計監査委員(檀家代表)の活動で、人の終末や死後のお金の使い方を見ています。相続手続を通じて、十人十色の生き方から、勇気と感動をもらっています。
▶行政書士事務所さっぽろエール
誰が相続人で、どのような割合になるのかわからない
相談内容
先月、父方の祖父が亡くなったのですが、家族構成が複雑で困っています。父は3人兄弟で既に亡くなっています。
父には妹と弟が1人います。叔母は亡くなっていますが叔母の2人の子どもは健在です。叔父は健在ですが、長年親戚付き合いがなく、連絡したところ「相続放棄をしたい」と言われました。また、祖母は既に他界しています。父には私の外に長女がおります。
誰が相続人で、どのような割合で相続するのでしょうか?なお、祖父のマンションは売却すると思います。
- プロフィール:29歳男性
- お住まい:岩手県
- 相続人:叔母の子ども2名、叔父、相談者本人、相談者の妹の5名
- 被相続人:祖父
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅マンション(50㎡) | 1,200万円 |
預貯金 | 1,200万円 | |
有価証券 | 300万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:祖父 受取人:叔父 |
200万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
はじめに
「相続人の範囲」「遺産分割の割合」に影響するので、次の2つを前提とします。
- 遺言書はなかった
- 祖父の死は、祖母、長男、長女の死よりも後である
アドバイス1 民法のルールによる一般的処理
(1)相続人の範囲(確定)
今回のケースは家族関係が複雑ですから、相続人を確定させるために事実を整理しましょう。
- 被相続人の配偶者、すなわち祖母はすでに他界
- 被相続人の子は3人で既に長男、長女は他界しているが、その子ども、すなわち孫は代襲相続人として当該相続人の地位を承継します。相続分は、当該相続人毎に代襲相続人間で均等
- 次男は「相続放棄したい」との考えだが、相続人の地位から離脱する民法上の「相続放棄」なのか、相続人の地位のままで分割割合を「0」としたい意思なのかは不明
相続放棄の手続き
民法上の相続放棄をするためには、相続開始(祖父の死)を知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述が必要です。その手続きを概説します。
まずは、相続放棄したい当人が「相続放棄申述申立書」に必要事項(氏名、理由、相続財産の概要等)と署名押印して、家庭裁判所の窓口に提出します。家庭裁判所の審査は、記載内容の形式審査のみです。
要は、相続放棄の申述が、本人の「真意」に基づくものであることの確認だけで、その動機や理由は問われません。さらに家庭裁判所から本人に照会書・回答書が送付されます。
照会書・回答書を返送すると真意の確認であるとされれば、2~3週間後に「相続放棄申述受理通知書」が郵送されます。これで法的には相続放棄が認められ、相続人ではなくなります。「相続放棄」の証明は相続手続きに使用しますので、「相続放棄申述受理証明書」を4~5枚(1枚150円)発行してもらっておくと便利です。
(2)相続財産の確定
次に、相続財産がいくらになるのかを確定させましょう。
今回の事案では不動産(自宅マンション)、預貯金、有価証券、生命保険があります。
問題となるのは「生命保険を相続財産に含めてよいか」ですが、答えとしては生命保険金は原則相続財産に含まれません。
生命保険金は保険契約で指定した保険受取人に対し、保険金が支払われるものです。ただし、例外的に生命保険金の金額、遺産総額との比率、同居の有無、介護、生活実態などから他の共同相続人との間の不公平が著しい場合は、特別受益として相続財産への持ち戻しの対象とするとの裁判例もあります。
今回の事例では遺産総額2,900万円のうち、生命保険金200万円は相続財産に含まれないと考えます。
(3)遺産分割(あてはめ)
叔父が相続放棄をした場合、叔父の取り分0円、相談者は675万円(2,700万円÷2÷2)です。その他、相談者の妹、叔母の子ども2人も同様に675万円ずつとなります。
アドバイス2 相続専門家による「いい相続」の提案
今回、叔父が「相続放棄をしたい」と言っているので、その通り遺産分割しても問題ありませんでしたが、今後の親戚関係を踏まえて、より良い相続のご提案をさせていただきました。
(1)相続専門家の慧眼
被相続人は既に亡くなっているので推測にはなりますが、相続専門家の私は以下のように考えました。
- 「叔父」は被相続人(祖父)の唯一の生存する子
- 祖父は、自分の子に自らの葬式をあげてもらいたいとの思いで叔父を受取人とする生命保険を契約したのではないか
- そうならば、祖父と血縁が近い叔父も相続手続きに参加してもらうべきではないか
(2)相続専門家による遺産分割協議案の提案
- 叔父も、相続放棄せず相続人として相続手続きを行い、法定相続分で遺産分割する。遺産分割額は叔父は900万円、相談者は450万円となる
- 叔父に祖父の葬儀執行者になってもらう
(3)「いい相続」の提案
長年親戚付き合いをしていなかった場合でも、被相続人の葬儀や法要は、相続人をはじめ親戚が一堂に会して、お互いの情況を確認できる大変よい機会です。
特に、相続人間の今後のお付き合いにもプラスになるとよいですね。遺言書がなくても「親類同士は仲良くしてほしい」という被相続人の黙示の想いは、実現できるのではないでしょうか。
私たち相続専門家は、多くの経験と豊富な知識をもとに、お客様毎のニーズを踏まえ遺産分割協議案を提案します。将来、必ず「あのときいい相続ができた」と実感いただけると確信しています。相続専門家に安心しておまかせください。
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専門オペレーターが丁寧にお話を伺いサポートしますので、お困りの方は、お気軽にご相談ください。
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〈特定行政書士、ファイナンシャルプランナー(AFP)〉
36年間の公務員経験があります。任意後見人やお寺の会計監査委員(檀家代表)の活動で、人の終末や死後のお金の使い方を見ています。相続手続を通じて、十人十色の生き方から、勇気と感動をもらっています。
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