【事例】相続人の中に成年後見人がいる場合、どうすればよいですか?(50歳女性 遺産2,520万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、相続人の中に成年後見人がいる場合について、50歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、安部行政書士事務所の行政書士・安部 亮輔さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士〉
平成23年行政書士登録。10年以上のキャリアがあり、多くの相続案件をご依頼いただきました。相続人が多数いる複雑な案件にも自信があります。
「身内の死という、人生において最も悲しい時期を迎えられているお客様の手助けをしたい」という理念のもと、業務に励んでおります。
▶安部行政書士事務所
母の成年後見人だと、父の遺産分割協議ができない?
相談内容
父が亡くなりこれから遺産分割協議を行うのですが、母が認知症で、私は母の成年後見人なんです。成年後見人が相続人だとダメと聞いた気がしますが、どうすれば良いでしょうか?
- プロフィール:50歳女性
- お住まい:島根県
- 相続人:長女(相談者本人)、次女、長男の3名
- 被相続人:父
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅マンション(60㎡) | 1,200万円 |
預貯金 | 500万円 | |
有価証券 | 520万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:父 受取人:長男 |
300万円 |
財産総額 | 2,520万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
アドバイス1 相続人に成年後見人がいると利益相反の問題が生じる
通常の相続手続きの場合、法定相続分にしたがって分割を行うか、相続人の間で協議し遺産分割することがほとんどでしょう。
しかし、今回のように成年被後見人と成年後見人が共同相続人である場合、相続人の間で協議をしようとすると成年後見制度と抵触が生じます。
成年後見人は、本人(成年被後見人)の意思を尊重するとともに、本人(成年被後見人)の利益となるような行動をしなければなりません。
つまり、成年後見人は本人(成年被後見人)の相続分が多くなるように行動しなければなりません。しかし、成年後見人も相続人である以上、自己の相続分が多くなる行動したいはずです。
このような場合を法律上「利益相反」と呼びます。
今回のケースでも、長女(成年後見人)は母(成年被後見人)の相続分が多くなるように行動することが求められますので、相続人間での自由な協議が制限されてしまいます。
アドバイス2 特別代理人の選任が必要
では、利益相反が生じている場合にどうすればよいか。
いくつかの方法がありますが、今回は特別代理人の選任という方法について検討してみます。
特別代理人とは、家庭裁判所によって特別に選ばれる代理人のことをいいます。
特別代理人は、裁判所によって定められた業務以外の代理をすることはできず、その業務が終了した際には代理人の役目を終え委任は終了します。
利益相反が生じる相続の場合、相続手続きに関してのみ特別代理人の選任を行い、特別代理人を交えて遺産分割協議を行うことで相続手続きを行うことが可能となります。そして、相続手続きが完了した際には特別代理人の役目は終わります。
なお、特別代理人は相続の当事者以外であれば誰でもよいです。
財産に関することですから、全くの他人よりも親族の中から選ぶか行政書士等の専門家から選ぶのがよいと思われます。
しかし、特別代理人としてふさわしくない人物であると裁判所が判断することもありますので、そこはご注意ください。
アドバイス3 特別代理人選任の手続き・流れ
特別代理人選任の手続きは以下の流れで行われます。
- 家庭裁判所への申し立て
- 裁判所による書面の審査、審理
- 参与員の聴き取り
- 審問
- 審判
- 結果通知
上記1について
成年被後見人である相続人の住所を管轄する家庭裁判所に申し立てを行いますが、詳しくは家庭裁判所のホームページにも掲載されていますので、参照してみてください。
上記2~6
これらは、裁判所が行い、裁判所からの問いに対して回答していく流れとなりますので、ここでは割愛させていただきます。
特別代理人選任の手続きに必要となる書類は以下のとおりです。
- 特別代理人選任申立書(収入印紙800円分が必要です。収入印紙は郵便局やコンビニで購入できます)
申立書は裁判所のホームページにあります。 - 成年被後見人の戸籍謄本
- 成年後見人の戸籍謄本
- 特別代理人となる者の住民票(戸籍の附票でも可)
- 遺産分割協議書の案
※その他、裁判所から指定された追加書類が発生することもあります。
以上となります。
今回のケースでは、特別代理人を選任し遺産分割協議を行うという流れがよいと思います。特別代理人の選任手続きについては、司法書士さんへ相談されてみるのもよいでしょう。
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この記事を書いた人
〈行政書士〉
平成23年行政書士登録。10年以上のキャリアがあり、多くの相続案件をご依頼いただきました。相続人が多数いる複雑な案件にも自信があります。
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