【事例】不仲だった自分の子どもにはできるだけ財産を渡さず、孫に多くしたい(72歳男性 資産5,000万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、自分の財産を孫に渡したいという、72歳男性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、行政書士FPしゅくわ事務所の行政書士・宿輪 德幸さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士・CFP〉
相続専門の事務所として2015年に開業。2017年からは、長崎県ではあまり知られていなかった民事信託の取り扱いを開始。既存の制度では対策困難な状況のご家族にも、民事信託の活用で解決策を提案しています。
▶ 行政書士 FP しゅくわ事務所
娘と孫に多く財産を残し、不仲な息子たちにはあげたくない
相談内容
ずいぶん前に妻が亡くなり、自分の命ももうすぐ尽きると感じております。今のうちに財産を贈与したいです。できれば、長女と、その子どもの孫2人に多く与えたいと考えています。長男と次男にはできる限り渡したくありません。最も良い方法を教えてください。
- プロフィール:72歳男性
- お住まい:高知県
- 相続人:長男、次男、長女の3名
- 被相続人:相談者本人
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
預貯金 | 4,000万円 | |
有価証券 | 500万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:相談者本人 受取人:長女 |
500万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
はじめに
相談者様のご希望は、「長男・次男には相続財産をなるべく渡したくない。法定相続人ではない孫(長女の子)に財産を取得させたい」とのことです。
これは遺言や贈与などにより、ある程度希望を叶えることはできます。しかし、長女や孫に精神的な負担がかからないように考えることも大切です。
アドバイス1 長男と次男は、遺留分の権利をもつ
それでは、実際に長男と次男に財産を渡さずに済むのか考えてみましょう。
相続財産
相談者様の財産は、合計で5,000万円です。このうち、生命保険金は相続財産にはなりませんので、このまま相続が発生した場合の相続財産は4,500万円となります。
法定相続人は3人なので、相続税の基礎控除は4,800万円です。
(基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の人数)
今後、相談者の財産が増えないとすれば、相続税を考える必要はありません。
長男と次男の法定相続人としての権利
相談者様は、遺言により長男と次男に財産を渡したくないとお考えです。
全財産を長女に相続させるという遺言は有効ですから、相談者様の希望は達成できます。
しかし、長男・次男には法定相続人として「遺留分」という権利があります。被相続人の子の場合、法定相続分の半分が遺留分ですから、各人相続財産の1/6が遺留分となります。
※長男・次男の遺留分=4500万円×1/6=750万円
長男と次男は、相続財産を取得した長女に「遺留分侵害額請求」をすると、長女から現金で支払いを受けることができます。また、長男・次男に750万円ずつ相続させ、長女に3,000万円を相続させる遺言とすれば、長男・次男はそれ以上の財産の取得を請求することはできません。
遺留分侵害額請求には、その事実を知ったときから1年または相続発生から10年という期限がありますので、期限内に請求が無ければ、以後は請求できなくなります。事実を知った時というのは、相続発生後、遺言の内容を確認したときです。
アドバイス2 相続財産を減らすことで、長男と次男の遺留分を少なくできる
相続財産が減ると遺留分も減ります。したがって相続財産を減らすために、以下の手段が考えられます。
1 生命保険
死亡保険金は保険金受取人固有の財産ですので、生命保険を増やせばその分相続財産は少なくなります。例えば、500万円で一時払い終身保険に加入できれば、相続財産は4,000万円になります。
※長男・次男の遺留分=4,000万円×1/6=667万円
生命保険金は相続財産ではないのですが、あまり金額が大きくなると「特別受益」とみなされる判例もあり、その場合は相続財産に加算されることになります。相続財産の3割以下にするのが無難です。
2 生前贈与
あらかじめ生前に贈与しておけば、その分相続財産は少なくなります。生前の財産は所有者がどのような処分をするのも自由ですから、相続人でない孫に贈与することもできます。
ただし、法定相続人に対する相続開始前10年及び法定相続人以外に対する相続開始前1年の贈与は遺留分の対象となります。また、孫への贈与としながらも、本質的にはその親である自分の子へ贈与をしていると認められれば、特別受益として遺留分の対象となります。
贈与には、原則として相続税より高額の贈与税が発生しますが、非課税となる贈与の制度がありますのでそれを活用します。
① 暦年贈与贈与をしたとき、1年間(1月1日~12月31日)に110万円までは贈与税がかかりません。これを暦年贈与と言います。この110万円は受贈者一人あたりの額ですので、孫にそれぞれ110万円合計220万円の贈与をしても贈与税は0円です。暦年贈与は毎年使えますが、状況によっては「定期贈与(定期金の贈与)」として贈与税の対象となることもありますので、贈与契約書をその都度作成するなどの注意が必要です。
② 生前贈与の非課税制度を利用して孫に贈与教育、結婚・子育て、住宅取得のための生前贈与には、以下の限度額まで非課税になる制度があります。
- 教育資金一括贈与 限度額1,500万円
- 結婚、子育て資金の一括贈与 限度額1,000万円
- 住宅取得等資金贈与 限度額1,000万円
教育資金と結婚子育ての贈与は、その資金を金融機関に信託する制度で、受贈者はその目的内の支払いを証明する書類(領収書等)を提出しなければなりません。また、終了時の残額に対して贈与税が課税されたり、贈与者が亡くなったときの残高に相続税が課税されることがあります。 住宅所得資金は、贈与された資金全額を使って住宅の新築等をします。
教育資金 | 結婚子育て | 住宅資金 | |
---|---|---|---|
適用期間 | ~2023年3月 | ~2023年3月 | ~2023年12月 |
受贈者の年齢 | 30歳未満 | 18歳以上50歳未満 | 18歳以上 |
贈与者 | 受贈者の直系尊属 | ||
終了事由 |
・受贈者が30歳になった(学校等に在籍中を除く) |
・受贈者が50歳になった |
|
終了時課税 | 残額に贈与税 | ||
贈与者死亡時 | 残額が相続税の課税対象 |
③ 孫の教育費をその都度援助する
祖父母が孫の教育費をその援助(贈与)することは贈与税の対象ではありません。大学の入学金や留学費用など、その都度必要額を援助するのであれば110万円を超えても贈与税の対象とはなりません。扶養の範囲内の援助となりますので、遺留分の対象にもなりません。
④ 相続時精算課税制度2,500万円までの贈与が贈与税0円となる制度です。相続発生時に、相続財産に贈与額を加算して相続税の計算をします。贈与の年の1月1日に受贈者が18歳以上、贈与者が60歳以上の場合に使える制度です。
アドバイス3 相続後の状況を考慮した対策が重要
これまで述べたように、以下の対策をすれば長男・次男の取得する財産を減らすことは可能です。
- 生命保険加入や孫への教育資金の援助や贈与などで相続財産を減らす。
- 長女に全て相続させる遺言を作成する。
- 遺留分侵害額請求をされたら長女が取得した財産(遺産及び生命保険)で支払う。
※遺留分侵害額請求が期限内にされなければ、長男・次男は遺産を取得しないことが確定する。
生前贈与は多額になると「特別受益」について争いの元になることもありますし、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、遺留分の対象となることが民法に規定されています。長男・次男の遺留分を減らすことを目的とした贈与はおすすめできません。
相続財産の分割が終わった後も長男・次男・長女は兄弟としての関係が続きます。長男・次男が、これまでの親子関係から相続分が無くても仕方ないと考える状況であれば良いのですが、遺留分を主張してくる可能性が高い場合には、遺留分を満たすくらいの財産は相続させる遺言としておくのが良いと思います。遺留分侵害額請求はそれ自体が相続トラブルです。
遺言は単独行為ですので、遺言者が自由に作成してかまいませんが、その結果は相続人が受け取ります。遺言をするときは、遺言の内容を知った相続人がどのような行動に出るかを考えてください。長女や孫がつらい立場になるのは本意ではないはずです。
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