【事例】長男の相続分をゼロにした遺言書は作れるか?(75歳女性 資産7,200万円)【FP執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、遺言書の作成を検討している、75歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
「いい相続」の運営会社(株)鎌倉新書在籍のファイナンシャルプランナーminorinが解説します。
この記事を書いた人
【所有資格】 行政書士試験 平成23年度合格/ 宅地建物取引士 平成26年度合格/ 3級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP)
【専門・得意分野】 企業法務全般、不動産関連法務、経営助言
遺言で連れ子の長男の相続分をゼロにしたい
相談内容
夫は3年前に急死。そのときの相続では、不動産は私がすべて相続し、預金の半分は私、残り半分は子どもたち3人で分けました。
3人の子どものうち、長男は私の連れ子です。
小学校から大学までエスカレーター式の私立に入れ、結婚して独立したときにはマンションを買う頭金を援助しました。
下の子2人は夫と私との間にできた子ですが、あまりお金をかけてあげられなかったので、私が死んだら遺産はその2人で分けて欲しいと思うのです。
兄弟仲は良いので、きっと長男も私の意向をわかってくれると思うのですが長男の相続分だけをゼロにする遺言を残すことは可能なのでしょうか。
- プロフィール:75歳女性
- お住まい:さいたま市
- 相続人:長男(連れ子)、長女、次男
- 被相続人:相談者本人(健在)
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅戸建て(土地・家屋) 土地50㎡ |
2,000万円 |
不動産 | 駐車場(駐車場収入有り) 土地100㎡ |
2,000万円 |
預貯金 | – | 3,000万円 |
株式 | 上場株式 | 200万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
アドバイス 遺言書による方法は確実ではない
特定の相続人に対して相続財産を相続させない、すなわち相続分をゼロとにする遺言書を作成することはできます。
遺言書は被相続人が生前に、死後の自分の財産をどのように分配し処分するかを決めて、それを特定の「方式」に従って記述した書面(民法960条参照)です。
(遺言の方式)出典:民法 第九百六十条
第九百六十条 遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
正しい方式で作成された遺言書の効力は法定相続分よりも優先されます。
しかし、相続分をゼロとされた法定相続人は自分が有している遺留分(民法1042条参照)を請求する権利を持ちます。この請求権を「遺留分侵害額請求権」といいます(民法1046条参照。)。
(遺留分の帰属及びその割合)出典:民法 第千四十二条
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
(遺留分侵害額の請求)出典:民法 第千四十六条
第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
遺留分侵害額請求
遺留分(侵害請求権)は、通常被相続人(相続される人のことを言います)が相続財産の全てを特定の相続人に全て相続させると、その他の相続人の生活維持が困難となる事態も起こり得るので、その他の相続人に不利益な事態の不測な発生を防ぐことを目的として、最低限これだけは相続することができるとする相続財産に対する相続人の権利(請求権)です。
そのため、遺言書上で相続分をゼロにしても、相談内容の事情では、長男の遺留分をゼロにすることはできないので、長男が遺留分を「金銭」で請求する可能性は十分にあります(民法1046条第1項参照)。
ここで相談内容の長男の遺留分を計算すると、
1,200万円を侵害請求権としてこの金額を自分以外の相続人に請求することができます。
そこで、長男から遺留分侵害額請求がされないように、遺言書の付言事項として、遺留分侵害額請求権の不行使を長男側に求める記載をするということが考えられます。
遺言書の付言事項
付言事項には法的な効力はありませんが、遺言の内容の趣旨を同事項により説明することで、相続財産の分配の趣旨を明確にし、遺留分侵害額請求権の行使を思いとどまらせることが法的効果がないながらも、期待ができます。
まとめ
以上より、「長男の相続分だけをゼロにする遺言を残すことは可能」ですが、遺言では遺留分侵害額請求権の行使を防止する法的効果を発生させることはできません(繰り返しますが遺言書の付言事項には法的効果はありません。)。
もし、確実に「遺産はその2人で分けて欲しい」とお考えならば、遺産の金銭的価値(総額7,200万円)から考えて、遺言とは別の方法(例えば家族信託など)も考えてみてはいかがでしょうか。
家族信託とは
生前にご自身の財産を信頼できる家族に信託する契約です。生前の財産管理を元気なうちから子供に任せたり、死亡後の遺産の活用方法や遺産の取得者などを柔軟に決めることができたりするなど、遺言では実現できない柔軟な設計ができる、正しく利用すると役に立つ制度です。
例えばご自身を委託者、お子さんを受託者として、ご自身の所有する賃貸不動産の所有権をお子さんに移し、その管理を任せ、ご自身を受益者として賃料収入を確保するなどの契約ができます。
ただし、家族信託はしっかり考えて設計しないと、使い勝手が悪い財産管理方法となってしまうおそれがありますので、専門家と一緒にメリット、デメリットなど踏まえながら検討しましょう。
いい相続では、相続手続きを得意とした専門家をご紹介しています。ぜひ、お気軽にお問い合わせください。
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