【事例】自分が亡くなったときのために、遺言書でペットの世話を頼みたい(66歳女性 資産1,300万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、飼っている猫のお世話を頼む遺言書について、66歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、行政書士事務所さっぽろエールの行政書士・青木 義孝さんです。
目次
この記事を書いた人
〈特定行政書士、ファイナンシャルプランナー(AFP)〉
36年間の公務員経験があります。任意後見人やお寺の会計監査委員(檀家代表)の活動で、人の終末や死後のお金の使い方を見ています。相続手続を通じて、十人十色の生き方から、勇気と感動をもらっています。
▶行政書士事務所さっぽろエール
今のうちから遺言書でペットの世話をお願いしたい
相談内容
持病の悪化もあり、いざというときの遺言書を作成しようと考えています。気がかりなことは一緒に暮らしている猫のことです。私は独身で、姉の子どもである姪と甥しか頼ることができません。 姪が猫を引き取ってくれるというので、多少お金を渡したいと考えています。どうすれば良いでしょうか。
- プロフィール:66歳女性
- お住まい:栃木県
- 相続人:姪、甥の2名
- 被相続人:相談者本人(健在)
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
預貯金 | 800万円 | |
有価証券 | 200万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:本人 受取人:姪 |
300万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
アドバイス1 おひとりさまや高齢者とペット飼育
おひとりさまや高齢者の中には、ペットを世話することで生活に潤いを感じ、生きがいを見い出し、ベビーカーにペットを乗せて散歩したり、お気に入りの服を着せて愉しまれてる方がいます。またペットを通じて人間関係が広がり、仲間同士の会話も盛り上がったりもします。
他方、ペットの寿命は年々伸び、犬や猫は15年以上生きることも珍しくありません。
今回の相談者様のように、万一、自分が病気などになって、ペットの世話が将来できなくなったときはどうしたらよいか?と真剣に不安になる方もおります。
アドバイス2 主な対応策の比較
ペットは民法上「物」(民法85条)であることから、ペットの所有権を移転する法的ツールは「贈与」と「相続」です。なお、ペットの飼育費用という名目でお金を提供することは、事実上は金銭関係で相続人間に差異が生ずるので、姪と甥の人間関係にも大きく影響するので最後に検討します。
なお、飼育費用名目のお金を渡すにしても、単なるペットという「物」の「贈与(提供)」のみだけでなく、「世話をする」という負担をつけるのが必須でしょう。
本題の相談者の希望を叶える方策として、次の選択肢1から選択肢3の順に優先して対応するとよいでしょう。
選択肢1 負担付き生前贈与
相談者とペットの譲受人の合意が成立要件です。この合意は口頭でもよいですが、トラブル防止のために契約書を交わしておく方がよいです。
この方法は相談者様としては、ペットの飼育を直接、具体的にアドバイスでき、自分の眼でペットの生活を確認できるので相談者には一番安心かつ実効的な方法と考えます。
選択肢2 負担付き死因贈与
選択肢1と同様に贈与契約として相談者と譲受人の合意が成立要件ですが、効力の発生時期が相談者の死亡後となる点が違います。契約時に譲受人の合意で契約は成立していますが、果たして譲受人がペットを適切に飼育するか、さらにはできるかは不明なので相談者の希望の実効性の面では選択肢1よりも劣ると考えます。
選択肢3 遺言書
相談者の一方的な意思のみを遺言書という形で遺すことにより成立します。ペットの 飼育という点では、たとえ飼育経費としてお金を用意していたとしても、選択肢1や選択肢2と比較して実効性の面で不安です。遺言執行者を付けたとしても、遺言書で指定された譲受人が相続を放棄すればペット飼育という目的は達成できません。
なお、遺言書に付言として、ペットに対する愛情の深さや飼育上の留意事項を記しておくことは大変有益です。
アドバイス3 ペットの飼育の特殊事情
ペットを飼うにあたって忘れてはいけないことは、「動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない。」(改正動物愛護管理法第2条2項)ということです。
「終生飼養」(同法第7条4項)は、動物の所有者になるための最低のマナーです。ペットは成長し、生まれたときのままの可愛さだけの存在でありません。ペットという生き物の相続人は誰でもなれるものではありません。
ペットの相続人に必要な絶対条件(一つでも欠けると困難です)
- ペットが好きなこと(ペットとの信頼関係が良好なこと)
- ペットを飼える住居環境があること(ペット禁止マンション等ではないこと)
- ペットの飼育に毎日、時間の余裕があること(ペットの飼育に休日はありません)
ペット飼育に要する経費は、ペットフードの協会によると、年間平均で犬が約30万円、猫は約16万円となっています。
病気やケガの治療費の一部を保障する保険もありますので、活用するとよいです。
アドバイス4 ペット飼育のためのお金の付与と相続人間のトラブル防止
相談者様にとっては、自分のペットの飼育をお願いすることのみについ優先しがちです。しかし、飼育のためのお金という名目で推定相続人のどちらかに多く付与することが原因となり、相続人間のトラブルのタネになることも多々あるので細心の注意が必要です。
1 ペット飼育に要する経費と財源
ペットの飼育には、ペットの年齢にもよりますが300万円あれば十分でしょう。相談者は姪を受取人として生命保険に加入しています。生命保険は受取人を指定されているため、相続財産には含まれておりません。そのため、ペット飼育の財源としては、生命保険のみで十分でしょう。
なお、負担付き生前贈与を選択した場合は、相談者が生存中は相談者が必要費用を受け取ればよいでしょう。
2 ペット飼育よりも大事なこと
ペット飼育より大事なことは、残された甥と姪の関係が悪化しないことです。善意でペットの飼育を引き受けたがために、甥と姪にトラブルが発生するのでは本末転倒です。その恐れがある場合は、老猫ホームに預けた方が賢明でしょう。
たとえ姪にペットの飼育を託すとしても、甥にもペットの飼育の協力を依頼するとよいでしょう。その上で、相続財産は均等に分割するのがよいと考えます。相談者の死後にペット飼育が上手くいくためには、甥と姪の関係が良好であることが前提です。
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〈特定行政書士、ファイナンシャルプランナー(AFP)〉
36年間の公務員経験があります。任意後見人やお寺の会計監査委員(檀家代表)の活動で、人の終末や死後のお金の使い方を見ています。相続手続を通じて、十人十色の生き方から、勇気と感動をもらっています。
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