【事例】父の遺産分割協議の最中に母が亡くなりました。遺産分割はどのようになりますか?(67歳女性 遺産4,900万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、父の遺産分割協議の途中で母が亡くなったという、67歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、行政書士瀬崎昌彦事務所の行政書士・瀬崎 昌彦さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士、経営革新等支援機関〉
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▶行政書士瀬崎昌彦事務所
遺産分割協議の途中で、母が亡くなりました
相談内容
父が亡くなり遺産分割協議をしている最中に、母が体調を崩して急死してしまいました。どのように遺産分割をすれば良いでしょうか?兄は3年前に亡くなっています。
- プロフィール:67歳女性
- お住まい:神奈川県
- 相続人:長男(兄)の子・長女(相談者本人)・次女の3名
- 被相続人:父、母
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅戸建て(土地・家屋) 土地120㎡ |
3,000万円 |
預貯金(父) | 900万円 | |
預貯金(母) | 300万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:父 受取人:母 |
500万円 |
生命保険 | 契約者・被保険者:父 受取人:長女 |
200万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
アドバイス1 遺産分割協議中に相続人が死亡した場合、死亡した相続人の相続も開始されます
お父様の死亡後、遺産分割協議などの相続手続きを終えないうちにお母様が亡くなられた場合、お母様に関する相続も開始します(民法882条)。
この場合、手続きがなされる前に、相続される方が死亡してしまったというだけの状態ですので、先の相続関係に影響はありません。既に最初の相続は被相続人の死亡により開始しているため、遺産分割協議中に死亡されたとしても、先の相続で相続人としての地位を得ています。このような場合、遺産分割協議中に死亡した相続人としての地位を、お母様の相続人が引き継ぐことになります(民法896条)。
相続開始の原因(民法882条)
相続は、死亡によって開始する。
相続の一般的効力(民法896条)
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
数次相続とは
お父様の相続の遺産分割協議をしている最中に、お母様が急死されました。このような場合、お父様の相続を1次相続、お母様の相続を2次相続といいます。
また、先の相続(1次相続)の遺産分割や相続登記の最中に、相続人の一人がお亡くなりになられて2次相続や3次相続が発生するなど、相続が続けて起こるケースを数次相続といいます。
残された相続人は1次相続だけでなく、2次相続についても遺産分割協議を行う必要があります。
では、お母様に与えられるはずだった相続財産はどうなるのでしょうか。
相続人が承継する被相続人の財産に属した一切の権利義務には、法律上の地位も含まれています。先の相続開始後に死亡したお母様の相続人は、先の相続の相続人たるお母様の地位(遺産分割協議を行う地位)を相続により承継することになります。
相続開始後に亡くなられたお母様にお子様がいる場合には、亡くなられたお母様が1次相続の被相続人から承継した相続分を、各相続分に従ってお子様が取得することになります。
相談者様の場合
お父様の相続(遺産分割協議中)―1次相続
お父様が亡くなられて相続が発生した時の法定相続人は上図の4名となります。
(お母様、長男の子、長女(相談者本人)、次女)
*長男の子は便宜上男にしています。
お母様の相続 ―2次相続
お母様が亡くなられて相続が発生した時の法定相続人は図の3名となります。(長男の子、長女、次女)
アドバイス2 遺産分割協議中に相続人が死亡した場合の遺産分割割合について
お父様の相続(遺産分割協議中)
お父様の財産については、法定相続人である お母様が配偶者として2分の1を相続し、長男の子、長女、次女の3名がそれぞれお父様の子どもとして、6分の1ずつを相続します。
お父様の財産は 不動産 3,000万円と預貯金(父)900万円 の合計3,900万円になりますので、こちらを法定相続通りに分けた場合
- 母 1/2 1,950万円
- 長男の子 1/6 650万円
- 長女 1/6 650万円
- 次女 1/6 650万円
となります。
生命保険について
生命保険にて受け取る死亡保険金は、保険契約に基づいて受取人自身が受け取る固有の財産となります。そのため、法律上は原則として遺産分割協議の対象として扱われません。
* 保険金額が高額になる場合は、特別受益とみなされる場合があります。
お母様の相続
お母様の財産については、法定相続人である 長男の子、長女、次女の3名がそれぞれお母様の子どもとして、3分の1ずつを相続します。
お母様の財産は お父様の相続による相続財産1,950万円+預貯金(母)300万円+生命保険500万円 の合計2,750万円になりますので、こちらを法定相続通りに分けた場合
- 長男の子 1/3 約916万円
- 長女 1/3 約916万円
- 次女 1/3 約916万円
となります。
法定相続通りであれば、上記のような遺産分割割合になります。
数次相続にて遺産分割を行う場合は、1次相続、2次相続のすべての法定相続人を含めて遺産分割の手続きをしないといけないこととなっています。
今回のケースは、1次相続と2次相続が同じ相続人ですが、2次相続で異なる相続人が存在する場合は、その方を含めて遺産分割の手続きを行います。
アドバイス3 数次相続の遺産分割協議書の書き方
数次相続の場合、各相続について遺産分割をして、それぞれの相続について遺産分割協議書を作成することが望ましいと思いますが、それぞれの相続について相続人が重なる場合は、遺産分割協議書を1通にまとめることができます。
1通にまとめる場合、遺産分割協議は相続人全員で行う必要があります。相続人が1人でも遺産分割協議に参加していないと、作成した遺産分割協議書は無効となってしまいます。数次相続のすべての法定相続人を含めて遺産分割の手続きをする必要があります。
被相続人について
1次相続の被相続人は、通常の遺産分割協議書と同様に「被相続人」と記載します。
2次相続以降の被相続人は、「相続人兼被相続人」と記載します。
どちらの被相続人も必要な情報は通常の遺産分割協議書と変わりません(氏名、生年月日、死亡年月日、本籍地、最後の住所地)。
相続人について
今回のケースでは1次相続と2次相続の相続人が重なっていますので、
「相続人兼〇〇〇〇の相続人 △△△△(続柄)」のように記載します (〇〇〇〇は2次相続の被相続人のお名前、△△△△は相続人のお名前です)。
遺産分割協議書 記入例1
遺産分割協議書 記入例2
2次相続の相続人がお母様の地位も含めて下記のように、記載する書き方もございます。(お母様の財産については、別途記述が必要になります)
その他
- 死亡した中間者の相続登記を省略できる「中間省略登記」という手続きがあります。今回のケースでは、中間の相続人つまり1次相続の相続人が複数いるため「中間省略登記」はできませんでした。「中間省略登記」の条件は複数ありますので、専門家へご相談ください。
- 相続が10年以内に2回以上起こった方は「相次相続控除」の対象となる可能性があります。「相次相続控除」についても条件が複数ありますので、専門家へご相談ください。
- 遺産分割協議中ではなく、熟慮期間中に相続するか相続放棄するかを決める前にお亡くなりになられた場合は「再転相続」となります。
- 被相続人より後に死亡した場合は数次相続となり、前に死亡している場合は「代襲相続」となります。
まとめ
- 遺産分割協議などの相続手続きを終える前に相続人の1人が死亡して、相続が続けて起こることを「数次相続」といいます。
- 「数次相続」が起きたとしても、1次相続で本来相続される相続割合に変更はありません。2次相続は、被相続人が1次相続で本来受け取ることができた相続財産を2次相続の相続人で遺産分割します。
- 数次相続が発生した場合、遺産分割協議を成立させるには、新たに死亡した人の相続人を含めて相続人全員の合意が必要です。
- 数次相続が発生した場合、遺産分割協議書の書き方が少し変わります。
被相続人の遺産分割協議には期限がありません。実務上は遺産分割が進まない場合や登記を放置するなど2次相続が起こる場合も多くありますが、数次相続は遺産分割が複雑になるため、できるかぎり早めに遺産分割を行うことが望ましいです(2024年4月1日以降は相続登記が義務化されるため、不動産取得から3年以内の登記が必要となります)。
数次相続の遺産分割を行う場合、内容が複雑になることが多いです。わからないことやお困りごとがあれば専門家にお気軽にご相談ください。
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