【事例】相続人の一人が海外にいます。どのように相続手続きをすれば良いでしょうか?(61歳男性 遺産4,400万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、相続人の一人が海外にいる場合の相続手続きについて、61歳男性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、澤田行政書士事務所の行政書士・澤田 誠喜さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士、防災士、JGAP指導員〉
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相続人が海外にいるときの相続手続きは?
相談内容
父が亡くなり、遺産分割協議をするところです。しかし弟が海外におり、足が悪く協議に参加できないと言っています。実家は母が相続、残りを兄弟で平等に分けることで同意は取れていますが、相続手続きなどどうすれば良いでしょうか?なお、弟は日本国籍のままです。
- プロフィール:61歳男性
- お住まい:長崎県
- 相続人:母・長男(相談者本人)・次男・長女の4名
- 被相続人:父
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅マンション 90㎡ | 2,600万円 |
預貯金 | 1,200万円 | |
有価証券 | 300万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:父 受取人:母 |
300万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
はじめに
今回は、相続人に、海外に住み日本に帰国することも難しい方がおられます。ですが、既に遺産分割については合意に達しているので、その後の手続きについてのご相談と承りました。
そこで、遺産分割協議書の作成と財産の名義変更の手続きの中で、海外在住者に関わるポイントを4つお示しします。
アドバイス1 遺産分割協議書への正確な記述
遺産をどのように分割するか協議がまとまったなら、その内容を遺産分割協議書という書類にまとめます。
ここで大切なのが、不動産や預貯金、有価証券等の財産の記載方法です。どの財産を誰が取得するのかを、正確に記載しなければなりません。特に、不動産は登記簿に記載してある通りに書く必要があるのですが、慣れていないと戸惑うかもしれません。
相続人に海外在住者がいる場合は、遺産分割協議書を海外に送付し、それにサインをもらい返送してもらう必要があります(後述するサイン証明のついた遺産分割協議書を返送してもらう)。もし、サイン証明のついた書類に不備があると、場合によっては書類を作り直すことになります。
ですから、書類作成に不安がある場合は、行政書士に依頼した方が良いと思います。
アドバイス2 サイン証明(署名証明)の取得
一般的に、不動産や預貯金の相続手続きには、相続人の印鑑登録証明書が必要になります。しかし、海外在住者の場合には、印鑑登録証明書の代わりにサイン証明書を添付します。※外務省や在外公館のホームページには「署名証明」と書かれています。
サイン証明書は、居住する国にある日本国大使館または日本国領事館(以下、在外公館と記します)に行って取得します。以下に、その取得方法を簡単に記します。
(1)サイン証明は2種類ある
サイン証明には「形式1(貼付型)」と「形式2(単独型)」の2種類あります。
「形式2」の方は印鑑登録証明書のように、在外公館が1枚の紙で「本人のサインである」ことを証明したものです。
「形式1」の方法は、海外在住のご本人が在外公館に、まだサインをしていない遺産分割協議書を持って出向きます。そして在外公館の担当官の目の前で遺産分割協議書にサインをします。担当官はそれを見届けたうえで、サイン証明に押印し遺産分割協議書に貼りつける流れです。つまり、その遺産分割協議書限定の証明書ということです。
形式1と形式2のどちらのサイン証明が必要になるのかは、遺産分割協議書等の提出先によって変わります。不動産の相続登記に必要なのは「形式1(貼付型)」と言われますが、金融機関の場合は「形式2(単独型)」でも良いところもあります。
ですから、遺産分割協議書を海外に送付する前に、提出予定の機関に必要なものを確認しておくと良いでしょう。
(2)サイン証明に必要なもの
- 署名証明申請書(在外公館のホームページからダウンロード可能)
- 有効な日本のパスポート
- 滞在国が発行した滞在許可証(VISA、グリーンカード等)
- 形式1の場合は、遺産分割協議書
手数料は日本円で1,700円位ですが、現地通貨で支払わなければならないので、事前に在外公館に確認した方が良いでしょう。
なお、在外公館によっては印鑑登録と印鑑登録証明を行っている所もあるようですので、お住いの国の在外公館にお尋ねください。
アドバイス3 海外在住者の戸籍謄本の取得
不動産を遺言によらずに相続登記する場合には、その不動産を相続する人の住民票の他に、相続人全員の現在の戸籍謄本を取得する必要があります。この相続人全員の戸籍謄本は預金の相続手続きにも必要です。次男様は日本国籍のままですので、本籍地の市町村役場で次男様の戸籍謄本を取得することができます。
ちなみに海外在住者が戸籍謄本を取得するには、2つの方法があります。
1つは、海外から郵送で戸籍謄本を取得する方法。もう1つは、日本に住んでいるご家族が代理で取得する方法です。
次男様の場合には、日本にお母様や相談者様、長女様が住んでおられるので、ご家族による代理取得ができます。お母様が代理人として取得する場合には、お母様の名前で次男様の戸籍謄本を取得できますが、それ以外の方が代理取得する場合には、次男様の委任状が必要になります。
アドバイス4 原本還付の利用
通常、遺産分割協議書は相続人の数だけ作成し、そのすべてに全員が署名し実印を押印します。しかし、相続人全員が合意すれば、原本を1部だけ作成しそのコピーを各相続人が保管するということも可能です(海外在住者がいますので、この原本は日本在住者全員の署名と実印が押印され、海外在住者のサインとサイン証明が貼付されたものです)。
この場合、不動産登記や預金の相続手続きの際に、遺産分割協議書や戸籍謄本等の原本と共にそれらのコピーも提出し、原本は返してもらいます(このように原本を返してもらうことを原本還付と言います)。
この原本還付による書類の提出は、相続人に海外在住者がいる場合に便利です。
ただし、提出先によっては原本還付に応じてくれないところもあるようです。そうなると、遺産分割協議書や印鑑登録証明書、サイン証明は原本を提出しなければいけないので、準備する書類はその分だけ増えます。
ですから、事前に相続手続をする役所や金融機関などに、必要な書類と、原本を還付してもらえるか否かも確認したうえで、準備すると良いと思います。以上のように、相続人に海外在住者が含まれる場合には、海外在住者との書類のやりとりが加わるので、その分、手続きを進めるのに時間がかかります。
これは相続税申告・納税のように手続きの期限が決められている場合には、特に注意しなければならないところです。
したがって、相続手続きは早めに着手し、慎重に進めるようにしてください。もし不安があれば、行政書士などの専門家に依頼されることをおすすめします。
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