【事例】ギャンブルや不貞行為をしてきた夫に財産を渡したくない。何か対策はありますか?(68歳女性 資産830万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、夫に財産を渡したくない場合の対策について、68歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、行政書士FPしゅくわ事務所の行政書士、CFP®・宿輪 德幸さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士・CFP〉
相続専門の事務所として2015年に開業。2017年からは、長崎県ではあまり知られていなかった民事信託の取り扱いを開始。既存の制度では対策困難な状況のご家族にも、民事信託の活用で解決策を提案しています。
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夫にどうしても相続財産を渡したくない
相談内容
夫のギャンブルや不倫に長年悩まされてきました。私は持病があり、夫より先に亡くなりそうですが、どうしても財産を渡したくありません。遺言でそのように書けば良いですか?
- プロフィール:68歳女性
- お住まい:埼玉県
- 相続人:夫、長男、長女の3名
- 被相続人:相談者本人(生前)
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
預貯金 | 420万円 | |
有価証券 | 210万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:相談者本人 受取人:長男 |
200万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
はじめに
相談者様は長年つらい思いをしてきたので、せめて自分の財産を取得させたくないとの意向です。
お気持ちは察しますが、遺言に書くだけでは確実ではなく、ある程度の財産が渡るリスクが残ります。確実な方法としては、離婚がありますが・・・
アドバイス1 遺言で意思表示をする場合
遺言は、被相続人の意思として尊重されます。
遺言があれば、相続人による遺産分割協議などすることなく、遺言のとおりに財産が分けられます。「財産は、長男と長女に2分の1ずつ相続させる」と遺言すれば夫は相続しないことになります。
しかし、被相続人の配偶者には、法定相続分の2分の1の遺留分が認められます。
相続財産=830万円-200万円(生命保険)=630万円
遺留分 =630万円×1/2(法定相続分)×1/2=157万5,000円
相談者様の相続発生後、遺言を確認した夫が1年以内に遺留分を長男と長女に請求すると、長男・長女は現金で支払わなければなりません。
また、夫が遺言を確認していない場合、相続発生から10年間は請求できます。遺留分は請求して初めて発生する権利ですから、夫が1年間(または10年間)請求をしなければ遺留分の請求はできなくなります。
アドバイス2 「推定相続人の廃除」はできる?
推定相続人の廃除という制度があります。相続人から廃除して、最初から相続人でなかったものとするのです。ただし、これは被相続人の意思だけでできるものではなく、裁判所が決定します。
相続人の廃除のポイント
相続人の廃除ができるのは、以下の条件にあてはまる場合になります。
- 被相続人に対し、虐待や重大な侮辱その他の著しい非行があったとき
- 家庭裁判所に推定相続人の廃除を請求できる
- 遺言で廃除の意思表示をした場合、遺言執行者が家庭裁判所に請求する
また、遺言で相続人の排除をする場合には、遺言執行者が必要です。長男がなることもできますが、裁判所の手続きが必要で、廃除の申述などもありますから弁護士等の専門職に依頼するのが確実です。
さらに、廃除が認められるには、虐待や重大な侮辱その他の著しい非行があったことを裁判所が認めなければなりません。これが相当に高いハードルになります。
相続人の廃除については、大阪高等裁判所で令和2年2月27日に以下の決定がされています。
被相続人の遺言執行者が、被相続人の夫に推定相続人の廃除を申立てました。妻はその理由として、①離婚請求②不当提訴の提起③刑事告訴④取締役の不当解任⑤婚姻費用の不払い⑥被相続人の放置を挙げました。
しかし、大阪高裁は「夫婦関係にある推定相続人の場合には、離婚原因である『婚姻を継続し難い重大な理由』と同程度の非行が必要である」として、廃除理由に該当しないとされました。
ただし、これについて原審の奈良家裁葛城支部では、廃除の審判がされていました。
これを参考にすると、相談者様の相続人廃除の請求が認められるかは不確定と言えるのではないでしょうか。
アドバイス3 可能な限り夫の相続財産取得を減らすには
では、相談者様はどうすれば夫の取り分を減らせるのでしょうか。
1 遺言で意思表示
遺言をすれば、夫の取得分は遺留分を請求されたとしても、夫に渡る遺産は全体の1/4に抑えることができます。夫が遺留分のことを知らなければ、請求してこない可能性もあります。
2 相続財産を減らす
生命保険の死亡保険金は、相続財産ではありません。一時払い終身保険などに加入できれば、保険料の分相続財産が減り遺留分の請求額も減少します。ただし、保険金が多くなりすぎると相続財産に算入される可能性もありますので、注意してください。
3 離婚する
推定相続人の廃除理由になるような「婚姻を継続し難い重大な理由」があるとすれば、離婚するのが自然かもしれません。離婚をすれば、相続人ではなくなりますので、夫に相続財産は渡りません。
離婚により、慰謝料や財産分与など夫から財産を取得できる可能性もあります。夫のハンコが必要にはなりますが、推定相続人の廃除を目指すよりハードルが低いですし、子に負担がかかりません。
相続は、本人が死亡した後のことですから、制度を理解し起こりうる事態を想定して、適切な対策が必要です。その対策に不備があった場合、やり直しはできません。
さらに、相続人の負担も検討してください。父子で争いになれば、子はつらい状況になるのが予想できます。推定相続人の廃除をしたいのであれば、遺言ではなく生前に自分ですべきではないかと思います。専門家に相談して、悔いのない対策を実行してください。
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