【事例】親の遺産から葬儀費用を払うことはできる?(58歳男性 遺産250万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、葬儀費用を親の遺産から払いたいという、58歳男性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、安部行政書士事務所の行政書士・安部 亮輔さんです。
この記事を書いた人
〈行政書士〉
平成23年行政書士登録。10年以上のキャリアがあり、多くの相続案件をご依頼いただきました。相続人が多数いる複雑な案件にも自信があります。
「身内の死という、人生において最も悲しい時期を迎えられているお客様の手助けをしたい」という理念のもと、業務に励んでおります。
▶安部行政書士事務所
葬儀費用を親のお金から出しても良い?
相談内容
母が急に亡くなってしまい、私も弟も葬儀費用を用意できそうにありません。母の銀行口座に150万円あるようで、そこから支払うことはできますか?口座は凍結されているのですが、手続きの方法など教えてください。
- プロフィール:58歳男性
- お住まい:熊本県
- 相続人:長男(相談者本人)、次男の2名
- 被相続人:母
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
預貯金 | 150万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:母 受取人:長男 |
100万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
はじめに
相談者様のように、「相続開始後に急遽お金が必要となり、とても困っている」という声は以前から多くありました。
被相続人の葬儀費用などは、「被相続人の口座から使っても良いのでは?」とお考えになる方も多いと思います。
平成28年12月19日の最高裁大法廷決定以降、相続開始時から遺産分割が終了するまでの間、相続人単独による預貯金の払い戻しはできないという運用がされていました。
これは「相続された預貯金は遺産分割の対象財産に含まれる」という理由からでしたが、葬儀費用の支払や、万が一借金等があり早期に支払いを済ませたいといった場合に全く対応できず、国民にとって大変な不便を強いるものでした。
そのため、被相続人が亡くなって以降、銀行口座は凍結されてしまいます(相続人が金融機関に連絡することで凍結されます)ので、被相続人が亡くなる前に口座のお金を引き出しておくという方法を取られていた方が多かったです。
しかし、この手法では、被相続人が急遽お亡くなりになった場合に対応することができませんでした。
そこで、令和元年7月1日から、預貯金が遺産分割の対象となる場合に、各相続人は、遺産分割が終わる前でも、一定の範囲で預貯金の払い戻しを受けることができるようになりました。これを「仮払い制度」と呼びます。
今回は、この「仮払い制度」を解説したいと思います。
アドバイス1 仮払い制度とは
仮払い制度とは、相続人間における遺産分割が終了する前であっても、相続人が単独で当面の生活費や被相続人の葬儀費用の支払いなどのためにお金が必要になった場合、相続預金の払戻しが受けられるよう、平成30年7月1日の民法等の改正により設けられたものです。
まだまだ、ご存じない方も多くいらっしゃると思います。
この仮払い制度は、大きく2種類あります。
1 家庭裁判所の判断により相続口座から払戻しができる場合
- 家庭裁判所に遺産分割の審判や調停が申し立てられている場合、各相続人は、家庭 裁判所へ申し立ててその審判を得ることで、預金の全部または一部を仮に取得し、各金融機関から単独で払戻しを受けること ができます。
- ただし、生活費の支弁等の事情により相続預金の仮払いの必要性が認められ、かつ、 他の共同相続人の利益を害しない場合に限定されます。
2 家庭裁判所の判断を経ないで払戻しができる場合
- 各相続人は、相続預金のうち、口座ごと(定期預金の場合は明細ごと)に以下の計算式で求められる額については、家庭裁判所の判断を経ずに、金融機関から単独で払戻しを受けることができます。
- ただし、同一の金融機関(同一の金融機関の複数の支店に相続預金がある場合はその全支店)からの払戻しは 150万円が上限となっています。
(例)相続人が子供2名で、相続開始時の預金額が 1口座の普通預金600万円であった場合 相続人1人が単独で払戻しできる額=600万円×1/3×1/2=100万円
アドバイス2 仮払いの手続き
上述した 2つの仮払い払戻し制度を利用するにあたって、必要となる書類がいくつかあります。
制度利用に必要な書類
まず必ず求められる書類が、本人確認書類(運転免許証等)です。
また、概ね以下の書類が必要です。ただし、取引のある金融機関により、必要となる書類が異なる場合があります。詳細は専門家あるいは取引金融機関にお問い合わせすると良いでしょう。
家庭裁判所の手続きを経る場合
- 家庭裁判所の審判書謄本 (審判書上確定表示がない場合は、 さらに審判確定証明書も必要)
- 預金の払戻しを希望される方の印鑑証明書
家庭裁判所の手続きを経ない場合
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍一式
- 相続人全員の戸籍謄本
- 預金の払戻しを希望される方の印鑑証明書
アドバイス3 仮払い制度の注意点
ここまで仮払い制度についてお話してきましたが、仮払い制度には注意点がいくつかあります。
他の相続人とのトラブル
まず、1つ目は「他の相続人とのトラブル」です。
相続人の中には、仮払い制度を利用して受け取ったお金を何に使ったのかと追求する方もいます。不要なトラブルを避けるためにも、何にお金を使ったのか立証できるよう領収書等は保管しておくことをおすすめします。
相続放棄ができなくなる可能性がある
2つ目は「相続放棄ができなくなる可能性がある」ことです。
仮払い制度を利用すると「相続放棄」ができなくなることがあります。これは仮払いを受けることが、民法に定められている単純承認に該当するからです。
単純承認とはプラスの財産もマイナスである負債もすべて相続する行為で、相続財産を使用すると相続放棄は認められなくなります。
もちろん、仮払い制度を利用して、被相続人の葬儀代や被相続人の債務へ充当した場合には単純承認に該当しませんが、相続人の生活費などのために使ったとしたら単純承認に該当するといえます。
仮払い制度は大変便利な制度といえますが、その利用には注意も必要です。
他の相続人とのトラブル回避や、相続放棄を検討している場面においては安易な利用は避ける必要があります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は、仮払い制度について解説致しました。
仮払い制度を利用するには、書類準備や金融機関による内容の確認等のため一定の時間を要します。
相続は突然やってくるものではありますが、いつか必ず訪れるので相続にあらかじめ備えておくと方が良いでしょう。
仮払い制度にご興味のある方は、ぜひお近くの専門家へ相談してみてくださいね。
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