【事例】子どもがいない夫婦です。後の相続トラブルを防ぐために対策をしておきたい(52歳男性 資産6,000万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、子どもがいない夫婦の相続対策について、52歳男性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、プラス行政書士事務所の行政書士・植野 正大さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士〉
開業以来、相続・遺言の業務を多く扱う。相続人が数十人に及ぶ調査も経験し、これまでに読み込んだ戸籍は1000通を超える。相続や遺言等の研修講師や講演の実績も多数。
▶プラス行政書士事務所
先祖代々の土地は、母か弟に渡しておきたい
相談内容
自分に病気が発覚したことで、終活について考えるようになりました。うちには子どもがいないので財産の大部分は妻に行くと思いますが、母が文句を言いそうです。特に土地は先祖代々のものですから、母か弟に渡しておきたいです。どのように対策すれば良いですか?
- プロフィール:52歳男性
- お住まい:秋田県
- 家族構成:母、妻、次男(弟)の3名
- 被相続人:相談者本人(健在)
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅戸建て(土地・家屋) 土地200㎡ 相談者本人、妻、母で居住 |
4,000万円 |
預貯金 | 1,000万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:相談者本人 受取人:妻 |
1,000万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
アドバイス1 遺言書を作成しなかった場合の遺産分割
まず相談者様には子どもがおられないということですので、現時点での推定相続人は奥様とお母様になります。
仮に、今亡くなられた場合は、このお2人が相続していくことになり、その法定相続分は奥様が3分の2、お母様が3分の1となります。お母様が文句を言いそうだとの懸念があるのは、この部分に関してかと思います。
遺言書を作成しなかった場合は、このお2人で遺産分割協議を行う必要があります。遺産分割協議の結果、法定相続分にとらわれず遺産を分けることはできますが、お母様としては「先祖代々の土地を守りたい」というお気持ちもあるでしょうし、奥様としては相談者様と一緒に築いてきた財産でもありますから、「すべてお母様に相続しても良い」という気持ちにはなりにくいかもしれません。
なお、お母様が先に亡くなった場合、推定相続人は弟様になります。弟様は自宅には同居されていませんので、不動産の遺産分割について奥様とは異なる意見となってもおかしくはないでしょう。
アドバイス2 相続トラブルを防ぐためには遺言書が必要
相続人それぞれの立場の違いによるトラブルを防ぎ、相続手続きをスムーズにするためには遺言書の作成が欠かせません。また先祖代々の土地はお母様か弟様に渡しておきたい」という相談者様のご意向を実現させるためには、遺言書が必須となってきます。
しかし、例えば「自宅の土地と建物をお母様に相続させる」という内容の遺言をした場合、奥様がそのまま今の家に住み続けることができるのか、その立場が少し心配になられると思います。
そこで遺言書で、奥様に対して「配偶者居住権」という権利を遺贈する(遺言書によって渡すこと)ことをおすすめします。「配偶者居住権」とは、被相続人と配偶者が同じ家に同居していた場合に、その家に無償で住み続けることができるようにする一代限りの権利です。
これを遺贈すれば、奥様は経済的な負担なく、今の家に住み続けることができるでしょう。それでいて、不動産の名義はお母様に移るため、仮に奥様が亡くなった後でも、奥様のご兄弟などへ相続されることはありません。
ちなみに、奥様が居住する権利を守るために、建物の名義は奥様に相続させるという内容にするのはおすすめできません。これでは奥様が将来亡くなった場合、建物の権利が奥様のご両親やご兄弟へ相続されてしまうことになります。
それを防ぐためには、相談者様が亡くなった後に奥様ご自身に遺言書を作成していただく必要があり、余計な手間がかかります。
アドバイス3 遺言書を作成するときのポイント・注意
遺言書の作成に関してですが、基本的には公正証書での作成がおすすめです。なぜなら公正証書の遺言書は、原本が公証役場で保管してもらえるため、紛失などの危険がありません。
また、遺言書にはその開封や実行の前に家庭裁判所で「検認」という手続きを経る必要がありますが、公正証書の遺言書の場合は、この「検認」の作業が不要であるため、相続人の負担が減り、手続きをスムーズに始めることができます。
また、例えばお母様に自宅の土地と建物を相続させるという内容にした場合、お母様が先に亡くなった場合の手当をしておく必要があるでしょう。これには、「お母様が先に亡くなった場合は弟様に相続してもらう」という内容を追加しておくと一層安心できるかと思います。
なお、相談者様のケースでは、相続財産の評価額から考えて相続税がかかる可能性があります。そのため、土地と建物を相続してもらうお母様(あるいは弟様)に対して、納税資金を用意していただく必要があります。
奥様には生命保険金の受け取りがあって当面の生活費は心配ないかと思いますので、預貯金1,000万円をお母様に相続していただくとバランスが良いかもしれません。このあたりは相続税の試算を税理士にしてもらい、奥様とお母様でどのような割合で相続させると良いかをご検討いただくとよろしいかと思います。
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この記事を書いた人
〈行政書士〉
開業以来、相続・遺言の業務を多く扱う。相続人が数十人に及ぶ調査も経験し、これまでに読み込んだ戸籍は1000通を超える。相続や遺言等の研修講師や講演の実績も多数。
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