【事例】40年前に生き別れた父が危篤で入院、死亡。どんな財産があるのか、他に相続人がいるか調査してほしい(55歳女性)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、生き別れた父の相続における相続人調査について、55歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、行政書士事務所さっぽろエールの行政書士、AFP・青木 義孝さんです。
この記事を書いた人
〈特定行政書士、ファイナンシャルプランナー(AFP)〉
36年間の公務員経験があります。任意後見人やお寺の会計監査委員(檀家代表)の活動で、人の終末や死後のお金の使い方を見ています。相続手続を通じて、十人十色の生き方から、勇気と感動をもらっています。
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昔に生き別れた父が、亡くなりました
相談内容
父の兄弟から連絡が来て、40年前に生き別れた父が危篤で入院したと知りました。3日後に父は死亡。葬儀はたまたま父と同じ町に住んでいた私が施主として行いました。遺産や借金などは全く把握していません。他に相続人がいるのかもわかりません。
父の兄弟からは「生前に交流があったので自分宛の遺言書があるはずだ。形見分けとして亡父自慢の外車が欲しい」など言いたい放題。
兄も葬儀を終了すると仕事の多忙を理由に、東京に帰ってしまいました。
実父の突然の出現と死、死後の遺産分割や相続手続きで心身ともにパニック状態です。どうすればよいのでしょうか?
- プロフィール:55歳女性
- お住まい:兵庫県
- 相続人:長男、長女(相談者本人)の2名
- 被相続人:父
相関図
はじめに
遺産分割とは、被相続人が死亡時に残した財産(遺産)について、個々の遺産の権利者(承継者)を確定する手続きです。
今回のケースについて、誰が(アドバイス1 相続人の範囲)、何を(アドバイス2 遺産の範囲)、どのような割合で(アドバイス3 具体的相続分)、最終的にどのように分けるか(アドバイス4 分割方法)という遺産分割の原則の手順にしたがって説明します。
アドバイス1 相続人の範囲
① 相続人の範囲は、民法(第5編第2章)により定められています。
② 被相続人の出生から死亡までの期間を間断なく丹念に戸籍収集します。
- 配偶者はいるか?今回のケースではいない。
- 血族相続人はいるか?今回のケースでは第1血族相続人の長男と長女がいます。40年前に父母が離婚していたとしても、親子の関係は切断されません。
- 他に子どもはいないのか?という不安もこの戸籍調査で判明します。事実上の子どもがいるかではなく、認知などがある子どもがいるかどうかの問題です(女性の場合は分娩の事実があれば認知は不要です)。
③ 今回のケースは、被相続人と40年間、生き別れとなっていましたが、長男と相談者(長女)の2人のみが相続人となります。
アドバイス2 遺産の範囲
相談者の不安に応じて検討します。
- 持ち家が残されていますが、まだそんなに古くはありません。ローンが完済されているかが心配です。一般的に住宅ローンを組む場合は、銀行等の団信特約制度に加入していることと思います。これにより万一のこと(死亡など)があった場合、住宅ローンが全額弁済されます。
住宅ローン(抵当権設定)の有無については、法務局で不動産(土地、建物、マンション)の全部事項証明書を取得し、乙区に抵当権設定があるか否かで判明します。
特に被相続人が高齢の場合、すでにローンを完済していて銀行から抵当権抹消関連の書類をお渡ししますとの連絡があっても、取りに行っておらずそのままとなっている場合があります。
抵当権の抹消手続きは銀行から委任状をもらい登記名義人が行うのが通例です。もし、抵当権が抹消されていなければ、住宅ローンを借りた銀行に問い合せて抹消手続きが必要です。 - 取引している銀行はどこか、また預金はどのくらいあるのか?
とりあえず預金通帳があるか家中を探しましょう。それでも手がかりがない場合は、ゆうちょ銀行や主要銀行に、全店調査(口座の有無や取引履歴の調査)をかけます。銀行にもよりますが、1店舗・1口座あたり1年分で5,000円程度の調査料が必要です。その際、被相続人との関係がわかる資料の提出も求められます。 - 実印や家の権利証が発見されていないので、銀行の貸金庫を使用していたのか不安です。銀行の貸金庫を使用していれば、使用料は当該銀行の口座から年に1回~2回引き落とされているはずです。地道に通帳の取引履歴を調べるのみです。
- 生命保険に加入していないのか?これも上記3と同様。地道に通帳の取引履歴に保険料掛け金の引落記録などその痕跡を調べます。ちなみに生命保険金は、指定受取人の固有財産であり、分割対象の遺産には含まれません。
- 株や投資信託などを行っていたのか?これも上記3と同様に地道に通帳の取引履歴にその痕跡を調べるほか、証券保管振替機構(通称「ほふり」)に開示請求をすれば、どこの証券会社に口座があるのか否かを調べることができます。1件あたり6,040円かかります。ただし具体的な保有状況は、当該証券会社に別途調査が必要です。
アドバイス3 具体的相続分
① 今回の相続人は長男と長女ですので、法定相続分は均等割(民法900条4号本文)で2分の1ずつとなりますが、遺言書があれば、被相続人の意思で遺留分に反しない範囲で相続分を変更し、相続人以外の第三者に遺贈することもできます(民法902条)。
公正証書遺言があるか否かは、公証役場の「遺言検索システム」で無料で調べることができます。これは、昭和64年1月1日以後の公正証書をデータベース化したもので全国どこの公証役場からでも調べることが可能です。ただし、データベース化するまでに1か月程度を要するため、実務的には調査時からほぼ1か月前までの存否しか分かりません。
また、調査結果の通知書には調査期間(平成元年から令和〇〇月まで)を明示することも明示させないことも可能です。思いもよらぬ遺産が手に入ることを期待するいわゆる「笑う相続人」対策として、期間を明示しない方がさらに遺言書が別にあるはすだとの主張を阻止できるかもしれません。
② さらに、民法は相続人間の個別事情を取り込んだ配分方法として「特別受益」と「寄与分」という特別ルールを認めています。
まず、「特別受益」(民法903条1項)とは、すでに被相続人から特定の相続人のみ特別に事前に受益(例えば結婚費用、開業資金、新築資金など)を受けている場合に、相続人間の公平の観点から具体的相続分の精算時にその分を減らすという特別ルールです。
次に「寄与分」(民法904条の2)とは、共同相続人中に、①被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付や、②被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について「特別の寄与」をした者があるときは、その分を寄与分として加味してもよいとする特別ルールです。
今回のケースでは、被相続人(父)と相続人(長男、長女)は40年間も生き別れており、特別ルールの適用はなさそうです。
③ 問題は、相続人ではない被相続人の父の兄弟には寄与分という特別ルールの恩恵があるかです。民法上は「共同相続人」にのみ認められたルールですので、父の兄弟は法律的に特別ルールの適用を請求することはできません。今回のケースのように、たとえ入院に際し被相続人が世話になったとしても、生前の交流は「親族間の扶け合い」(民法730条)の範囲内でしょう。
アドバイス4 分割方法
① 遺産分割について共同相続人間の分割方法は、遺産分割協議書といういわば契約書の方式で具体化されます。各相続人は実印を押印して内容を確認します。
遺産分割協議書は、①将来のトラブルを防止でき、②相続人間の意思を正確に保存し、③不動産の名義変更や預貯金の払戻手続きなどにも活用できます。
さらに、私は被相続人の死亡による遺産手続きを通じて、④相続人間の「扶け合い・思い合いの絆」を強固にする役割もあると考えています。
② 今回のケースでは、長男は東京に住んでいます。一方、長女は亡き父と同じ町に住んでおり、墓守や法要を執り行うことになりそうです。
これら祭祀法要には金銭的な負担のみならず親戚とのお付き合いなど精神的な負担も大きいものです。機械的に均等分割するのではなく、長男から長女に対して、将来の祭祀法要を今後執り行うことへの感謝があれば、この遺産分割協議は残された兄弟間にとって亡父からの大きなギフトとなるでしょう。
③ 私たち相続手続き専門家は、遺産手続きの集大成である遺産分割協議書を作成するために、初回の相談面談時から相続人の皆さんの御意見や家族関係状況を慎重に見守っております。
その成果は最後の遺産分割協議書原案として相続人の皆さまの将来の幸せにつながるよう作成しており、すべてのケースで内容は異なります。
不動産の名義変更だからといって定型の遺産協議書のみで終わらせるのは、残された相続人の皆さまにとって本当にもったいないです。どうか私たち専門家の知識と経験を信頼して、是非とも遺産分割協議書の作成を安心して依頼してください。
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専門オペレーターが丁寧にお話を伺いサポートしますので、お困りの方は、お気軽にご相談ください。
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