【事例】相続放棄を希望していますが、アパートの解約や遺品整理をしても大丈夫?(56歳男性 遺産▲28万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、相続放棄を検討している場合のアパートの解約や遺品整理について、56歳男性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、堀江行政書士事務所の行政書士・堀江 寛寿さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士〉
平成11年より東京都大田区で開業しています。わかりやすく丁寧な説明がモットーです。相続業務をはじめとして任意後見契約、金銭消費貸借契約などの契約書の作成や建設業許可、産業廃棄物収集運搬業許可などの許可申請業務を行っております。
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アパートの解約や遺品整理をしたら、相続したことになる?
相談内容
先日疎遠だった父が亡くなったと役所から連絡が入りました。父には借金があるようなので、私も弟も相続放棄をするつもりです。父が住んでいたアパートの解約や遺品整理などをしても大丈夫ですか?
- プロフィール:56歳男性
- お住まい:長崎県
- 相続人:長男(相談者本人)、次男の2名
- 被相続人:父
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
預貯金 | 62万円 | |
借金 | 推定90万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
アドバイス1 相続放棄とは
相続放棄とは、亡くなった人(被相続人と呼びます)の財産すべてを相続しないことを言います。すなわち、相続放棄をすると、被相続人の所有していた不動産や預貯金といった財産すべてに関する権利を失うこととなるのです。
ただし、被相続人の財産には借金も含まれます。そのため、借金のほうが被相続人の有する財産よりも大きな場合には、相続放棄を選択することが多いようです。
相続財産に借金が含まれており、相続財産だけでは返済できないときは、その差額分は相続人が負担しなければなりません。その金額が大きな場合には、相続をしたことでかえって経済的に困窮してしまう可能性もあるのです。しかし、相続放棄をすれば、負担しなければならなかった借金の返済をしなくて済むこととなります。
また、被相続人が他人の借金の連帯保証人となっていたときは、相続した人が連帯保証人の地位も引き継ぐこととなります。結果として、背負う必要のない他人の借金で苦しむこととなるかもしれません。しかし、相続放棄をしてしまえば、その責任から逃れることができます。
相続放棄を行うメリットは、これら被相続人の負っていた債務から逃れることができる点にあるのです。
注意しなければならないのは、相続放棄ができる期限が決まっていることです。相続人は被相続人の死亡によって相続が開始されたことを知ってから3ヵ月以内に、被相続人の住所を管轄する家庭裁判所で相続放棄の手続きをしなければなりません。この期間を過ぎてしまうと相続放棄をすることはできなくなります。
アドバイス2 相続人全員が相続放棄をする場合、相続財産管理人を選任する必要がある
相続人の全員が相続放棄をした場合には、相続財産管理人の選任が必要となります。
通常、相続財産は相続人によって管理されます。病院や介護施設への支払い、さらに借金などの返済といった業務を行うのは相続人です。しかし、相続人全員が相続放棄をした場合には、このような財産管理業務を行う人がいなくなってしまいます。
そこで、相続人の代わりに相続財産を管理する人が必要となります。その業務を行うのが相続財産管理人なのです。
相続財産管理人の主な業務は次のとおりです。
- 相続人の捜索
- 債権者への債務の支払い(病院、介護施設、銀行等)
- 特別縁故者(相続人以外で被相続人と特別な関係にあった者。たとえば、内縁の配偶者等)への財産分与
- 相続財産の国庫帰属
相続財産管理人は家庭裁判所によって選任されます。家庭裁判所の選任の申立てをすることができるのは、被相続人の債権者(金銭を貸している人)や特定遺贈の受遺者(相続財産のなかから特定の財産を贈られた人)といった利害関係人と検察官です。
アドバイス3 相続財産を処分すると、相続を承認したとみなされる可能性も
相続財産を処分した場合、相続放棄ができなくなる恐れがあります。相続財産を処分する行為は単純承認と呼ばれ、被相続人の財産を相続したものとみなされます。単純承認したとみなされた場合、相続放棄はできなくなってしまうからです。
単純承認とみなされる主な行為は、次のとおりです。
- 債務の支払(入院費用や介護施設の利用費用、さらには被相続人の借金の返済等)
- 賃貸物件の解約(被相続人が借りて住んでいたアパート契約の解約)
- 被相続人の所有していた遺品、家財道具などの処分
これらの行為をした場合、相続人は相続することを承認したとみなされます。ご相談のように被相続人に借金があった場合には、その返済義務を負うこととなるのです。
ご相談のケースの場合、まずは被相続人の財産調査が必要です。そのうえで、相続放棄をするか否かについて検討することをおすすめします。
病院から入院費用などを支払うよう連絡がきますが、相続放棄を検討していることを説明して待ってもらうことも可能です。それが難しいのであれば、相続人(ご相談者)の資産から支払うようにしましょう。相続人の資産から支払う限りでは単純承認とみなされることはありません。
また電気代、ガス代などの公共料金は、相続放棄するのであれば支払う必要はありません。公共料金は日常家事債務と呼ばれ、これに該当する債務は相続放棄をしても支払う必要があるとされています。
しかし、この義務があるのは夫婦間だけです。ご相談の事案のように親子間で疎遠、さらに今後、父親が住んでいたアパートに住む予定がないのであれば、支払う必要はありません。もしも支払う場合には相続人の資産から払うようにしましょう。
なお、葬儀費用は過大な金額でない限り、単純承認とはみなされません。こちらは被相続人の資産から支払っても差し支えありません。
問題となるのは、被相続人の借りていたアパートの賃貸借契約や遺品の取り扱いとなります。先述のようにアパートの解約、遺品や家財道具などの処分をすることは単純承認とみなされ、相続放棄ができなくなるからです。
結論から申し上げれば、相続放棄を選択するのであれば、アパートの解約手続きはせず、遺品は相続人が保管しておく、というのが答えになります。
先述したとおり、相続放棄によって相続人がいなくなった場合、被相続人の財産は相続財産管理人によって管理されます。ご相談のケースでは、アパートの解約、遺品の処分などは相続財産管理人が行うこととなります。
ただし、相続放棄を行った相続人には、相続財産管理人が選任されるまで、被相続人の遺品を自分の財産と同じように注意して管理することが法律(民法940条)で義務付けられています。
そのため、アパートの解約手続きをする必要はありませんが、相続財産管理人が選任されるまで、遺品の管理をしなければならないのです。
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