【事例】事故で夫が亡くなりました。慰謝料や死亡退職金には相続税がかかりますか?(37歳女性 遺産9,800万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、交通事故で亡くなった夫の遺産分割について、37歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、守田行政書士事務所の行政書士・守田 稔さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士、CFP、1級FP技能士、宅地建物取引士、終活ガイド〉
常にご相談者様と同じ目線でお話をお聞きし、お一人お一人の大切な「想い」を真摯に受け止めること。そして、時宜を得た相続手続き・遺言書作成等が如何に大切であるかをしっかりとお伝えして、ご理解いただけるよう心掛けております。どうぞ、お気軽にご相談ください。
▶守田行政書士事務所
慰謝料や死亡退職金には、相続税がかかりますか?
相談内容
先日、夫が居眠り運転のトラックにはねられて亡くなりました。トラックの運転手に慰謝料を請求したところ、5,000万円もらえることになりました。その他に死亡退職金と死亡保険金があります。これらは相続税がかかるのでしょうか。子ども2人もまだ小さいので、これからの生活が心配です。
- プロフィール:37歳女性
- お住まい:京都府
- 相続人:妻(相談者本人)、長男(10歳)、長女(7歳)の3名
- 被相続人:夫
総額9,800万円
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
預貯金 | 800万円 | |
慰謝料 | 5,000万円 | |
死亡退職金 | 1,000万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:夫 受取人:妻 |
3,000万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
アドバイス1 はじめに、相続人や財産状況を確認する
必要な相続手続きを説明する前に「相続が発生したら、確認する事項」について、申し述べさせていただきます。
それは「ご相談内容」から相続人と財産状況がわかりますが、最初にこれらを確認・確定する作業です。
戸籍の収集
その手続きとしましては、相続人が奥様・ご長男・ご長女の3人であることを証明するために、戸籍等を収集します。
- 被相続人(夫)の出生から死亡までの戸籍及び住民票の除票
- 相続人の戸籍謄本及び住民票
以上を収集することで、相続人であることを確認できます。
財産状況の確認
次に財産状況ですが、被相続人が所有する、一身上に専属するものを除いたすべての財産を確認することが必要です (「財産状況」に載っていないものがないかをお聞きすることです) 。
財産の種類により、以下の機関で行います。
- 不動産 ~ 法務局
- 預貯金 ~ 金融機関
- 有価証券(上場株式等)~ 証券会社
財産状況の確認には、それぞれ機関ごとに必要な書類があります。
(「ご相談内容」では不動産はないとのことですが)不動産については、固定資産納税通知書に記載のある土地・建物の登記事項証明書を取得します。また預貯金については、銀行口座の残高証明書等を取得し、これらに基づいた財産目録を作成することになります。
法定相続情報一覧図の交付
手続きをスムーズに進めるためには、戸籍類を収集した後法務局に提出して、法定相続人の証明書である「法定相続情報一覧図」を交付してもらうことをおすすめします。この制度を利用することで、各種相続手続きで戸籍謄本の束を何度も出し直すことがなくなります。
ここまで述べたことをまとめると、
「戸籍類の収集 → 法定相続情報一覧図の交付 → 必要書類の確認 → それぞれ手続きの実行」という手順で進めていくと思われます。手続きの窓口は平日しか対応していませんので、仕事等で時間が取れない方は、行政書士や司法書士等の専門家に依頼するのが確実です。
遺言書の有無を確認
遺言書の有無を確認することも必要です。
遺言書とは、被相続人が自分の死後に財産をどう分けるかの意思を表したものです。法律で、「遺言によって指定された相続方法は法定相続に優先する」となっていますので、遺言書がある場合は、それに沿った遺産分割手続きを進めて行くことになります。
アドバイス2 交通事故の慰謝料は、原則非課税
慰謝料とは、数ある損害賠償の種類のひとつです。
損害賠償とは、治療費や修理費、慰謝料など、加害者に対して請求できる賠償金のすべてを指します。
交通事故の加害者から遺族が損害賠償金を受けたときの税金の取扱い
心身に加えられた損害につき支払いを受ける損害賠償金は、非課税とされています(所得税法9条1項)。
このため、遺族の方が交通事故などの加害者から被害者の死亡に対する損害賠償金を受け取った場合には、所得税はかかりません。また、被害者が死亡したことに対して支払われる損害賠償金は相続税の対象とはなりません。この損害賠償金は遺族の所得になりますが、所得税法上非課税規定がありますので、原則として税金はかかりません。(相続税法2条、所得税法9条)
損害賠償を分類すると、「財産的損害」と「精神的損害」の2種類となります。精神的損害とは、事故被害によって負わされた精神的苦痛に対して請求できる損害賠償、いわゆる「慰謝料」です。
心身に加えられた損害について支払いを受ける慰謝料は非課税の対象です。人身事故であれば、「死亡慰謝料」として請求が認められますが、死亡慰謝料は、亡くなった「本人への慰謝料」と「遺族への慰謝料」に分かれます。
「遺族への慰謝料」については、配偶者、子、被害者の父母・養父母を対象としており、誰でも認められるわけではありません。なお、「子」には養子・認知した子・胎児まで含まれます。
アドバイス3 死亡保険金、死亡退職金は相続税の対象になるか?
相続開始時点で被相続人が所有していた財産ではないが、被相続人の死亡を原因として相続人が受け取った財産を「みなし相続財産」といいます。「みなし相続財産」には、生命保険金、死亡退職金、生命保険契約に関する権利等があります。
死亡保険金
死亡保険金を受け取った場合、これは亡くなられたことがキッカケでもらえる財産ですから「みなし相続財産」として扱われ、相続税の対象となります。
ただし、「亡くなられた方」と「死亡保険金の保険料を支払っていた方」、「受取人」の3つの組合せにより、相続税の対象にならない場合があります。 死亡保険金には相続人1人につき500万円の非課税枠があり、死亡保険金の非課税枠は 、「500万円×法定相続人の数」で計算します。
非課税枠の計算式
※相続人の中で相続放棄をした方がいる場合、法定相続人の数に含めて計算します。
※また養子がいる場合には、「実子がいるときは1人まで」「実子がいないときは2人まで」法定相続人の数に含めて計算します。
ご相談者様の場合
契約者・被保険者:被相続人(夫)
受取人:妻(相談者)
生命保険金:3,000万円
このケースは「相続税の課税」のパターンになりますが、「生命保険の非課税枠」の利用ができます。
法定相続人は、奥様(相談者)・ご長男・ご長女の3人ですので、
よって非課税枠の範囲を超えますので、超過分には課税されます。
死亡退職金
被相続人の死亡によって支給される退職金で被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものは相続財産とみなされて相続税が課税されます。しかし、死亡退職金にも相続税の非課税枠があり、全額が課税対象にはなりません。
死亡退職金の受取人が誰になるのか、法定相続人が何人いるのかによってこの非課税枠の金額が変動します。
非課税枠の計算式
※相続人の中で相続放棄をした方がいる場合、法定相続人の数に含めて計算します。
※また、養子がいる場合には、「実子がいるときは1人まで」「実子がいないときは2人まで」法定相続人の数に含めて計算します。
ご相談者様の場合
非課税枠:500万円×3人=1,500万円
死亡退職金:1,000万円
よって非課税枠を下回りますので、死亡退職金には課税されません。
死亡保険金と死亡退職金の非課税枠は併用できる
2つの非課税制度は別個のものであり、死亡保険金と死亡退職金の両方がある場合には、個別に非課税限度額を計算することになります。
相続税がかかるかどうかは、死亡保険金や死亡退職金が相続税の対象となるかだけで判断はされません。相続財産の課税価額が遺産に係る基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるとき相続税がかかります。
相続税の計算には、「税金の種類」「受取人」「非課税枠」等々、判断が難しいポイントが多々ありますので、専門家に相談されることをおすすめします。
アドバイス4 法定相続分の算定
相続人の範囲が確定すると、民法の規定(900条・901条・902条)に基づいて、各相続人の客観的な相続分が一定の割合(率)で画一的に定まります。この相続分は、①被相続人が指定していればそれにより(指定相続分)、②指定がなければ民法900条・901条の規定により確定するものです(法定相続分)。
(「アドバイス1 はじめに、相続人や財産状況を確認するー遺言書の有無を確認」の箇所で述べたように)「遺言による相続分の指定」(民法902条)がないことを確認できたとすれば、「法定相続人による法定相続分」での相続分算定を行います。
ご相談者様の場合
相続人:奥様(相談者)・ご長男・ご長女の3人
ですから、次のパターンにあたります。
配偶者と子の場合の法定相続分
※子が数人いる場合は、子の人数で等分します。したがって、
妻(相談者) : 2分の1
ご長男・ご長女 : それぞれ 4分の1(1/2× 1/2)
となります。これが法定相続分です。
アドバイス5 このケースの遺産分割は?
遺産分割について
相続の開始によって相続財産は共同相続人の共有となる(「遺産共有」という)。遺産共有の場合には、原則として共有物分割請求はできない。この共有となった相続財産を各相続人の相続分に応じて具体的に財産を分配することを「遺産分割」といいます。
・ 遺産分割の対象となるのはどの範囲か?
遺産分割の対象となる財産は「遺産分割時に現存する相続財産」です。
・相続財産であるが遺産分割の対象となる財産とならない財産がある
相続財産であっても遺産分割の対象とならないものとは、可分債権です。可分債権は相続が開始すると、初めから各共同相続人に各々の相続分に応じた金額ごとに振り分けられるので、遺産分割の必要がないということです。最も代表的なものは、金銭債権ですが、ただし、預貯金は扱いが別です。
預貯金は相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることなく、他の可分債権と異なり、遺産分割の対象となると解されています。(最大判平28.12.19)したがって、預貯金は、遺産分割の対象となります。
生命保険金は、保険金の受取人固有の財産であるとされています。
生命保険金は相続開始時に被相続人に帰属していた財産ではないので、相続の対象とはならず、保険契約の効力発生と同時に受取人自身の固有財産となります。
ご相談者様の場合、受取人を奥様に指定されていますので、遺産分割の対象とはならず、相続財産の総額から生命保険金を控除した遺産が「遺産分割の対象」となります。
死亡退職金も、受取人固有の財産であるとされています。
前記の生命保険金と同様、死亡退職金も受取人固有の財産であるとされています。受取人が指定されている場合にはその受取人固有の財産となり、相続財産に含まれません。
また社内規程に受取人の定めがない場合は、可分債権として共同相続人が各相続分に応じて請求権を取得します。よって、遺産分割の対象にはなりません。しかし、非常な高額となる場合、その相続人とそれ以外の相続人との間で著しい不公平が生じる可能性があり、その場合は、遺産分割の対象とする考え方もあります。
損害賠償請求権は金銭債権(民法417条)であり、金銭債権は可分債権です。
可分債権については遺産分割の必要がなく、共同相続人が各相続分に応じて直接請求することができるとされています。これは慰謝料であっても変わりません。
「損害賠償請求権は、被害者の死亡によってその権利が相続人に承継され、給付が可分である以上、相続開始時に当然分割されて、共同相続人が各相続分に応じて直接請求することができるため、遺産分割の対象にならないと考えられる。」とする判例があります。(最判昭29.4.8)しかし、損害賠償請求権については、実務上は、相続人全員で遺産分割の対象とする旨合意したときは遺産分割の対象とする見解が取られることが多くあるようです。
遺産分割は、まずは相続人間の話し合いで行われます。(民法907条1項)話し合いで分割方法が決まった場合は、その内容を明確にしておくため遺産分割協議書を作成します。
アドバイス6 最後に
死亡慰謝料の他にも、葬儀費用や逸失利益についても請求可能かもしれません。各種交通事故相談機関等もあります。詳しくは専門家に相談されることをおすすめします。
・ 相続税の計算方法について
相続税は、「各人の課税価格の計算 → 相続税の総額の計算 → 各人ごとの相続税額の計算 → 各人の納付税額の計算」の順序で計算されます。
各相続人等の税額が決まった後、各人が該当する税額控除額を差し引いた、残りの額が各人の納付税額になります。
「税額控除」としましては、未成年者控除・障害者控除等がありますが、各人の納付税額がどうなるかによって、それぞれの税額控除が適用されることになります。また、配偶者には、「配偶者の税額軽減」規定もあります。詳しくは、専門家に相談されることをおすすめします。
・ 遺産分割協議を要する場合
相談者様の場合、相続人であるご長男・ご長女が未成年者ですので、親権者である母親は利益相反者でその代理行為はできません。別途「特別代理人の選任」を家庭裁判所に申し立てなければなりません。遺産分割協議の要否状況がわかりませんので、具体的手続きについては専門家に相談されることをおすすめします。
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この記事を書いた人
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